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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第55章 新潟市中央区万代島~紫竹山
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第493話『装甲』

「ミヤビ、ちょっと離れてろ!」


 そう指示を出しながら、セリスティアはULフォンを起動させる。


 雅が言われるがままに、セリスティアから距離をとる中、セリスティアは出てきたウィンドウに表示された『MODE CHANGE』のボタンをタッチ。


 瞬間、今までセリスティアが運転していたゲイルチェイサーがひとりでに動き出した。


 それだけではない。


「な、ななな、何ですかっ?」

【え、ちょ、何か変形しだしたよっ?】


 ゲイルチェイサーの装甲が別れたり、ハンドルがたたまれたりしながら、セリスティアの体に纏われていく。


 肩や腹をがっちりとホールドし、車輪部がまるで翼のように、セリスティアの背中に取り付いた。




 両腕に装着された、巨大な円盤状の小手と、そこから伸びる爪――爪型アーツ『アングリウス』も相まって、さながら小型のロボットのような雰囲気がある。




「……っし、合体完了!」


 勝気にそう呟くセリスティアに、雅もカレンも、そして人工種チーター科レイパーも、唖然とするしかない。


 雅達の『変身』とはまた違った強化の形が、そこにあった。


「セ、セリスティアさんっ? それは一体……」

「ゲイルチェイサーは、ただのバイクじゃねーってことよ。まぁなんだ。一言あるとすりゃ……ミヤビ、俺はお前の世界の技術の力で、ワンランク強くなったってことだな。――来るぞ!」


 未知の力を身に着けたセリスティアに、人工レイパーは先手必勝と言わんばかりに動き出す。


 左、右と、攪乱するように動き回る敵。


 雅が敵の姿を目で追おうと必死な中、セリスティアは落ち着いていた。


 瞬間、背中から翼のように伸びた、元バイクの前輪と後輪部、そこのタイヤが回転する。


 土煙が巻き上がり、セリスティアは腰を落とす。


 足に力を込めた刹那、


「おせぇよ!」

「――ッ?」


 セリスティアの姿が、鈍い音と共に消えたと思ったら、人工種チーター科レイパーの目の前に現れた。


 今までセリスティアが立っていたところには、小さなクレーター。そこから今、彼女がいるところまでは、薄らだが移動の軌跡が残っている。


「は、速いっ?」

【あのタイヤ、加速のためのものなんだ!】


 セリスティアは、スキルで直線距離を高速で移動することに長けている。だが今のこれは、今までの移動とは少しばかり毛色が違っていた。


 セリスティアが腕を振るい、アングリウスの爪で攻撃するが、それをバックステップで躱す人工レイパー。


 お返しと言わんばかりに敵も腕を振るうと、その腕が鞭のように伸びて、セリスティアに襲い掛かる。その長さたるや、三メートルはあった。


「あ、あんな攻撃も出来るんですかっ?」

【……やっぱり、なんかおかしいよ! ちょっと今までの人工レイパーとは、雰囲気が違う!】


 これまでの戦いを振り返り、あんな攻撃をしてきた記憶がない。この人工種チーター科レイパーは、今までの人工レイパーとは似て非なるもののように思えた。


 子供の柚希が変身していることと、何か関係があるのか。


 しかしそんな疑問を覚えている雅とは裏腹に、セリスティアは人工レイパーの腕の攻撃を、爪で弾いたり防いだりしていなしていた。その顔に、雅と同じような色の驚愕は無い。


【ミヤビ、一旦集中だ!】

「え、ええ!」


 そうだ、と雅は自分に喝を入れる。まずは柚希を助け出すことが先決だ。


 丁度そのタイミングで、人工レイパーの大きく振るわれた腕の一撃を、セリスティアはスキル『跳躍強化』を使って大ジャンプし、躱す。


 重そうな装甲を纏っていても、ジャンプ力に衰えは見られない。よく見ればタイヤが回転して下に風を送っており、重くなった分をカバーしているのだ。


 人工レイパーがセリスティアを追おうと、顔を上にあげた瞬間、


「こっちです!」

「ッ?」


 雅が、ライフルモードの剣銃両用アーツ『百花繚乱』で、人工レイパーの足元にエネルギー弾を放つ。


 巻き上がる土煙。


 頭上から降ってくるセリスティア。


 アングリウスの爪は、敵の頭部を狙っている。


 だが人工種チーター科レイパーは、それを大きく跳び退いて回避する。


 瞬間、人工レイパーの腕が、まるで粘度のようにぐにゃりと歪み、変形。


 出来上がるは、全長五十センチの剣の刃。それが手首から生えていた。


 攻撃を外して着地したセリスティアに向かって走り出す敵。


 ガードの構えをとるセリスティア。


 だが――


「っ? 何っ?」


 人工レイパーは、セリスティアを攻撃することなく、通り過ぎてしまう。


 その先にいるのは――雅だ。


 二対一というこの状況。人工レイパーは、先に雅から始末する気でいた。セリスティアが厄介な以上、雅の援護を放置しておけば、命とりになる気がしたから。


 腕の刃は、太陽の光を受けても光を反射しない。


 それでも、確実に雅の首を斬り取る鋭さがある。


 振るわれる腕。


 百花繚乱をブレードモードにし、その一撃をアーツで受け止める雅。


 元が子供とは思えない程の腕力に、雅の顔が歪む。


 だが、敵の攻撃はまだ終わらない。


「っ!」

【スキルで守れっ!】


 雅の視界からするりと姿が消える人工レイパー。


 カレンの指示で咄嗟に『共感(シンパシー)』で、レーゼの『衣服強化』を使った刹那、背中に強い衝撃が走った。


 人工レイパーの蹴りが炸裂したのだと分かったのは、その直後。


 追撃の蹴りが続けてヒットし、雅はつんのめらないようにするのが精一杯だ。


 息もつかせぬ超速度で放たれる乱撃を、全て受ける雅の顔は険しい。


 スキルでガードしているとは言え、ダメージが無いわけではない。このままでは押し切られる……そんな予感がした。


(く、くっ……止むを得ません!)


 もう少し状況を見極めたい――そんなことを言っている余裕はもう無い。


 雅の体から飛び出る五線譜。それが、人工レイパーに突撃し、大きく仰け反らせる。


 雅がスキルを『衣服強化』を解除し、人工レイパーから大きく距離を取ると、五線譜が体に纏わりつき、彼女の姿が変わっていく。


 桃色の、まるで指揮者のような形状をした燕尾服姿。音符の力を操る、雅の変身だ。


「ここで決めます!」


 雅は自分を鼓舞するようにそう叫ぶと、左手の平を人工種チーター科レイパーへと向け、音符を放つ。


 明かに殺傷能力がなさそうな音符だが、これは敵の体に蓄積すると、雅の攻撃をトリガーにして、体内で炸裂する性質がある。一発打ち込むだけで、雅の攻撃の威力が跳ねあがるのだ。


 だが、野生の、いや子供の勘か。


 人工レイパーは、その音符を横っ跳びして躱してしまう。


 雅が「くっ」と呻きながらも、二発、三発と音符を撃つが、人工レイパーはしなやかに走り回ってそれを避けていく。


 しかし、


「こっちだ!」

「ッ!」


 雅ばかりに気を取られ、セリスティアの動きから目を離してしまっていた人工レイパー。いつの間にか回り込まれていたことにやっと気づくが、もう遅い。


 セリスティアの爪の一撃が、人工レイパーに襲い掛かる。人工レイパーは腕を円盤状の盾にし、それを防ぐのがやっとだ。


 が、その瞬間。


「はぁぁぁあっ!」


 雅の張り上げた声と共に、横から突然刃が迫ってくる。見れば、自分の腕と同じように、雅のブレードモード百花繚乱の刃も、長く伸びていた。


『ムーンスクレイパー』。天堂冬歌の使っていたスキルで、自分の得物を伸ばすことが出来るのだ。


 たわんでいるが、切れ味は健在。雅の不意の一撃に、人工レイパーは思わず、一歩大きく後ろに下がってしまう。


 だが、それが決定的なチャンス。この瞬間を逃す雅ではない。


 隙が出来たこのタイミングを狙って放たれた音符。それは、見事なまでに綺麗に人工レイパーの体に吸い込まれていく。


「セリスティアさんっ!」

「おうよ!」


 大きく踏み込むセリスティア。力一杯の一撃を喰らわせる――そんな気迫が溢れていた。


 無論、それを許す人工レイパーではない。


 腕がまた剣へと変化し、伸びる。その切っ先が向かう先は、セリスティアの胸元だ。


 しかし――


「わりぃな!」


 セリスティアの体が白い光に包まれ、ゴゥンという金属音と共に刃が弾かれる。


 防御用アーツ『命の(サーヴァルト・)守り手(イージス)』が発動した……だけではない。


 今、セリスティアが纏う装甲は、命の(サーヴァルト・)守り手(イージス)の守りの力を纏うと、さらに硬化する性質がある。それにより、レーゼや雅が『衣服強化』と併用した時程ではないが、かなりの防御力を誇る鎧となるのだ。


 直後――人工種チーター科レイパーは、ドとソの協和音と共に吹っ飛ばされる。


 腹部に走る鋭い痛み。……セリスティアのアングリウスの爪が伸びて直撃したのだと分かったのは、その直後。


 普段は滅多に使わないが、アングリウスの爪は伸ばせる。


 だが、今の一撃は、人工レイパーがまともに思考出来なくなる程には威力が高い。そして今の協和音……蓄積された音符が炸裂した証拠だ。


 一体何故?


 雅が音符の力を発現させた直後に放った、音符の一発。あれは、人工レイパーに躱された。


 だが実は、雅の狙いは、音符を敵に当てることでは無かったのだ。


 仲間のアーツや魔法に音符を蓄積させておくと、同じく音符を蓄積した敵に攻撃した際、威力が上がるという隠された効果。


 あの時、雅は人工レイパーに音符を当てるフリをしながら、実は敵の背後に回り込んでいたセリスティアのアングリウスを狙っていたのだ。


 大きく吹っ飛ばされ、地面に背中から激突する人工レイパー。


 立ち上がるものの、もうフラフラだ――。


「セリスティアさん、今です! 柚希ちゃんを!」

「おうよ! ――今、助けてやる!」


 セリスティアが体に力を入れると同時に、背中のタイヤが轟音を立てて回転。


 アングリウスを構えると同時に、セリスティアは地面を力一杯蹴る。


 己のスキル『跳躍強化』を使い、地面に対して水平に跳んだ。


 地面に巨大なクレーターを作り、普段の何倍もの速度で。


 ふらついた人工レイパーへと、一直線に。


 目の前に、障害物等何もない。


 思い出される記憶――


『タックルの威力って、シンプルに言えば重さと速さの掛け算だからね』……そう言ってくれた、優香の言葉。


 バイクと合体したことで重さが増し、タイヤが送る風のブースト、そしてセリスティアが本来持つ身体能力と、『跳躍強化』による脚力の爆発力。


 それら全てが掛け合わさって生まれたこの一撃は――


「――ッ」


 人工レイパーの柔な体を、容易に貫き、そして――




 人工種チーター科レイパーは、大爆発するのだった。

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