第492話『二輪』
【だ、誰だろ? 警察のヤマトナデシコ? でもイオリさんじゃない?】
「あ、あれは――」
柚希が変身した、人工種チーター科レイパーに苦戦していた雅とレーゼ。そんな二人の方へと走ってくる、一台の薄緑色のバイク。
黒いライダー服を着て運転する女性が、着けているヘルメットを脱ぎ捨てると、赤いミディアムウルフヘアが風になびいた。
さらにはハンドルから片手を離すと、腕の小手が肥大化し、円盤状へと変化。三本の銀色の爪が伸びる。
爪型アーツ『アングリウス』を装備した彼女は、そう――
「セリスティアっ?」
「わりぃな! 遅くなった!」
セリスティアはそう叫ぶと、バイクを唸らせ一気に加速。「うぉらぁぁぁぁあっ!」と声を張り上げながら、棒立ちになっていた人工レイパーへと突撃する。
バイクの加速を利用した爪の一撃。それが、人工レイパーに襲い掛かる。
だが、
「っ? あれはっ!」
人工レイパーの腕がグニャリと変形し、盾へと変化。それがセリスティアの攻撃を受け止め、鈍い音と激突音が混じった轟音が鳴り響く。だが吹っ飛ばされこそするが、胴体に風穴があくことだけは防いだ。
「くっ……やっぱりあの力、厄介ね……!」
【……『やっぱり』?】
「セ、セリスティアさん? それは……」
攻撃が防がれたことに舌打ちをするセリスティアに、雅はそう尋ねる。
薄緑色のバイク。見た目はほぼ、警察が乗る白バイだ。今までセリスティアはこんな乗り物を持っていなかった。恐らく警察が絡んでいるのは雅にも想像が着くが、どうしたのだろうと思ったのだ。
「はっはっは、俺様のパワーアップ第一弾ってとこだ。ユウカさん達に滅茶苦茶協力してもらって作ってもらったんだよ。名前は『ゲイルチェイサー』ってんだ」
エンジンをふかし、セリスティアはニヤリと笑みを浮かべる。だが、すぐに真面目な顔に戻ると、よろよろと立ち上がる人工レイパーを睨んで、「こりゃ一体、どういうことだ?」と聞いてくる。
「あの人工レイパー、変身しているのは柚希ちゃんです。見つけた時、何だか様子がおかしくて……!」
「子供が人工レイパーだぁ? ――って、おい! 待ちやがれ!」
援軍が来たことで、戦況不利だと思ったのだろう。人工種チーター科レイパーは逃げ出した。
「多分、このまま栗ノ木川を迂回して東区へ行くつもりです!」
「追うぞ! ミヤビ、後ろ乗れ!」
「えっ? いいんですかっ?」
「多分!」
「多分っ?」
「ミヤビ、行きなさい! ミズキさんは、私が病院まで連れていくから!」
レーゼにも後押しされてしまい、こうなれば止む無しと、ゲイルチェイサーの後ろに乗り込む雅。
セリスティアから雑にヘルメットをかぶらされ、それを整える暇もなく、「しっかり掴まってろよ!」とバイクが走り出し、雅の悲鳴が上がった。
紫竹山から、栗ノ木川沿いに北上していくセリスティア達。
「セリスティアさん! 運転乱暴じゃ――おわわっ!」
「おいミヤビ! 変なとこ触んなっての!」
仕方ないとは言え、素人目に見ても滅茶苦茶なスピードでバイクを走らせるセリスティア。
しかし、人工レイパーとの距離はほんの少しずつしか縮まらない。
「にゃろう! さっさと追いつきたいってのによぉ!」
「な、なら私が何とかします!」
新潟バイパスの下を通り過ぎ、大きくカーブした後、紫鳥線との交差点に差し掛かろうとしたところで、ようやく乱暴な運転に慣れてきた雅がそう叫ぶ。
剣銃両用アーツ『百花繚乱』の柄を曲げ、ライフルモードへと変更。
セリスティアの荒っぽい運転の中、狙いをつけるのに苦戦しながらも――人工レイパーが交差点に足を踏み入れた直後、雅は一発、桃色のエネルギー弾を放った。
狙いは、人工レイパーそのものではない。もっとその先。
人工レイパーの左側を通過し、前方へと着弾。
必然、交差点を右に曲がる人工レイパー。
それを追うセリスティア達。
ここはもう東区。
「こ、ここだ!」
再び新潟バイパスの下を通り過ぎたところで、雅はもう一発のエネルギー弾を放った。
狙いはまたしても、敵の前方。
そして、轟く雅の「弾けろ!」の声。道路に着弾した瞬間、それが小さなエネルギー弾となって大きく爆ぜた。
夏音のスキル『カレイドスコープ』を使ったのだ。エネルギー弾等が何かの障害物に当たった時、それを細かく分裂させてバウンドさせるという効果がある。
雅の狙いは、壁を作ること。
爆ぜたエネルギー弾の中に突っ込むことを嫌った人工レイパーが、道路から外れて右へと進む。
――そこは、竹尾揚水機場の裏手、旧栗ノ木排水機場。
つまりは、行き止まりだ。
「よし、これで逃げられない!」
「ナイスだぜミヤビ!」
人工レイパーの跡を追って排水機場へと突入する二人。
人工種チーター科レイパーの背中が見えたところで、セリスティアはバイクを横滑りさせて停車させた。
「さて……そろそろこいつの真骨頂を見せてやる!」
ヘルメットを脱ぎ捨てながらそう言ったセリスティアは、人工レイパーに対し、不敵にそう笑みを浮かべるのだった――
評価や感想、いいねやブックマーク等、よろしくお願い致します!




