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第54章閑話

 午前零時五十分。


 ここは、とある山奥。


 そこで、二体のレイパーが跪いていた。


 和と洋、黒と白、二つの対照的なフォルムと色の鎧を着たこいつらは……侍種レイパーと、騎士種レイパーだ。


 騎士種は、サッカーボールくらいの大きさをした、深緑色の球体を頭上に掲げている。これはラージ級ランド種レイパーの体内で、愛理達の前に姿を現した時から持っていたもの。


 そしてこの二体の前にある大きな岩に鎮座するのは、小さな黒い生き物。まるで赤子のような姿をしたこいつは、『レイパーの胎児』だ。騎士種は球体を、この胎児に献上しているような格好である。


「ロトノホコボ、サヤナルタフボノテ、カザウモベ……ナッニコレエコヘノ」


 侍種の言葉に、胎児は気味の悪い笑みを浮かべる。


 この球体は、一体なんなのか……それを知るのは、この三体のみ。ただ一つ言えるのは、騎士種と侍種がランド種の体内にいたのは、これを回収するためであった。それを無事に達成し、胎児もご満悦というわけである。


 ――自分達が死んでも、輪廻転生させてくれる存在が消えたにも拘わらず、この三体はそれを憂いている様子はまるで無い。


 この三体にとって、ラージ級ランド種レイパーの存在など、そこまで重要では無かった。要は、自分達が万が一殺されるような事があっても、別のレイパーとして永遠に生まれ変われるという保険が無くなっただけ。言ってしまえば、女に殺されるようなヘマをしなければいいだけの話なのだ。


 ……静かな山が、ざわめきだす。


 それは、何か良くないことを察し、身震いしているかのようだった。




 ***




 午前一時。


「そうか。遂に、あの忌々しい奴を倒してくれたか」


 廃墟。その一室に、スーツ姿をした、白髪交じりの痩せた男性がいる。


 人工レイパーを生み出した張本人。――久世浩一郎だ。


 久世は、ULフォンで誰かと話しており、相手からラージ級ランド種レイパーが倒されたという報告を受けたところだった。


 普段は比較的ポーカーフェイスを心掛けている久世だが、この時ばかりは、邪悪な笑みを顔中に塗りたくっている。それ程までに、この報せは喜ばしいことだったのだ。


「作戦の中に、私の息が掛かった者も紛れさせていたが……どうやら上手く溶け込めたようだな。最悪、正体をばらしても致し方なしとも思っていたが、隠し通せたのなら文句無しだ」


 そう言うと、久世は低い笑い声を漏らし、すぐに「すまない。取り乱した」と真面目な顔を作る。


「こちらの作戦も、順調に進んだ。彼女達が奴に意識を集中させてくれたお蔭で、邪魔者もなくスムーズにいった。――後、もう少しだ」


 闇に光る、久世の眼。どこまでも黒く、どこまでも恐ろしく……久世は、再び口角を上げるのだった。

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