第484話『不屈』
ミドル級人型種麒麟科レイパーに向かって突撃していく二人の雅。一人は『影絵』で創り出した分身だ。
分身雅の手には、メカメカしい見た目をした剣――剣銃両用アーツ『百花繚乱』が一本。
だが、本体の雅には、それが二本ある。これは『共感』で真衣華の『鏡映し』のスキルを使ったからだ。アーツをコピー出来るこのスキルで、今、本体の雅は二刀流になっていた。
(使えるスキルは、後僅か! イージスもまだ再使用出来ないから、ここで決めないと……!)
雅の『共感』は、仲間のスキルを、それぞれ一日一回だけ使えるというもの。ラージ級ランド種レイパー討伐戦が始まってから、今日はもう大半のスキルを使ってしまっていた。
残ったスキルの中には、雅が一人では使えないものや、雅が自分の意思で使えないものもある。実質的に、雅が現状で切れる手札は、四つか五つ。
素の身体能力でレイパーに大きく劣る以上、この手札を無計画に使い切ってしまったが最後、雅は殺されてしまう。
真正面から繰り出される、二人の雅による三連斬撃。
それを、レイパーは難なくメイスで受け流す。
二手に分かれ、左右から同時に突っ込む雅達。
それも、本体雅の二連撃は巧みな体捌きで躱し、分身の横一閃はメイスでガード。
怒りに燃えるレイパーだが、その動きに濁りはない。
【ミヤビ! 下がれ!】
(っ?)
地面から蔦が伸び、それを躱すために雅達は大きくバックステップ。その隙を逃さず、レイパーはメイスを地面に叩きつけると、地震を起こす。
本能的に体が竦むレベルの、大きな揺れ。闘技場の観客席が崩れかける程の威力で、立っていられなくなる二人の雅。
動けるのは、レイパーただ一体のみ。
本体の雅に一気に接近すると、その足がスッと消える。
刹那、雅の左手に握られていた百花繚乱が、遠くへと飛んでいった。
柄の底を蹴って吹っ飛ばされたのだと分かったのは、その直後のこと。
(し、しまった!)
消えていく、コピーされた百花繚乱。あまりにもあっという間の出来事で、雅の頬を冷や汗が流れる。
【右に跳べ!】
カレンの指示は、少し遅い。雅の脇腹に、レイパーの強烈な蹴りがめり込み、彼女を大きく吹っ飛ばす。
よろめきながらも立ち上がる雅だが、その時にはもう、レイパーは次の一手を打っていた。
向けられたメイスから放たれる、無数の火炎弾や水の弾丸、木の矢や鎌鼬。
(……っ、ヤバい! 避けられない……っ!)
攻撃は広範囲。左右どちらにも、逃げ場が無い。視力が霞んでいるのだから、尚更回避は不可能。
分身雅が何とかしようにも、地震の影響でまだ蹲っている始末。
ならば――
(一か八か……っ!)
雅は百花繚乱を指輪に収納し、その遠距離攻撃の嵐へと突っ込んでいく。
刹那、光を帯びる彼女の体。
縮んでいく背丈。
光が消えた時、そこにいたのは、齢五歳程の雅だ。
これは、体を若返らせる『春巡』。雅の祖母、麗のスキルである。
(っ、やっぱりみえない……けどっ!)
【私の指示通りに動いて!】
体は柔になるが、小さくなったことを利用して、カレンの指示を頼りに紙一重のとこで攻撃を躱していく雅。
さらにスキルを解除して元の年齢に戻ると同時に百花繚乱を呼び出し、火炎弾に剣を伸ばして『ウェポニカ・フレイム』のスキルを発動すると、刃に炎が纏わりつく。
そのまま一気にレイパーへと接近し、全力を込めた斜め一閃を放つ雅。
『ウェポニカ・フレイム』は、ただ武器に炎を纏わせるだけのスキルに非ず。その切れ味をもアップする。
それを、レイパーも肌で感じたのだろう。メイスで受けるようなことはせず、体を反らして躱すが、雅の攻撃はまだ終わらない。
横、縦の二連撃。それも躱されるが、斬撃の勢いで炎が舞い散り、金色の鬣を焦がしていく。
最後に大きく放った回転斬りを、レイパーは強めのバックステップで躱した瞬間、雅の眼がギラリと光った。
(今だ!)
ぼやけていても、レイパーの体が僅かに浮いたことくらい分かる。
慣れた手つきで百花繚乱の柄を曲げ、ライフルモードに。
狙うはレイパー……ではない。着地予定の地面。
銃口へと吸い込まれる、刃の炎。
放たれる、炎のエネルギー弾。
爆ぜる地面。
舞う土煙。
「ッ?」
視界を遮られたレイパーは、見る。
土煙を除けて接近してきた雅を。
その手には、ブレードモードに戻した百花繚乱。
そして感じる。背後から迫る、分身雅の気配を。
前と後ろ、真逆の場所から同時に放たれる斬撃。
分身の一撃はメイスで防げても、本体の雅の一撃までは避けられない。
緑の鱗に、渾身の一撃がヒットする。
大きなダメージはないが、効いていない訳ではない。
このまま押し切る勢いで、本体と分身、二人の雅は二撃目を叩き込もうとするが、レイパーは二人の攻撃をメイスで受け流してしまい、さらに続けて分身の足を払うと、
(――マズい!)
そちらにメイスの先端を向けて火炎弾を繰り出す。
バランスを崩した分身に、これを避ける術はない。
分身は貧弱だ。このレイパーの火炎弾一発であれば、簡単に消し飛んでしまう。
そして分身が消し飛べば、分身が受けたダメージが、本体の雅にフィードバックとなって返ってきてしまう。……数秒間は動けなくなる程の、大きなフィードバックが。
それを防ぐには――
(間に合えっ!)
選択肢はない。雅は咄嗟に、分身を自らの意思で消す。
例えそれが自分の首を絞めることになっても、そうするしかなかった。
だが雅は、ここで大きなミスをする。
分身雅のピンチにばかり意識を向け過ぎていた。
本来ならカレンがそれをカバーすべきだったのだろうが、カレンは別のことに気を取られてしまっていた。
だから気付くのが遅れた。――レイパーが、本体の雅へと振り返ったことに。
火炎弾は、いわばフェイク。流れるような動作でスイングした、このメイスの一撃こそが、レイパーの本当の狙い。
アッパーのように放たれるその一撃が、鈍い音と共に雅の体に抉り込む。
口から血を吐く雅。だが吹っ飛ばされることはない。それで衝撃が逃げないように、レイパーは雅の足を踏みつけていたから。確実に殺す一発を決めたのだ。
だが、
「……?」
手応えの僅かな違和感に、レイパーは顔を顰めた。
瞬間、雅の体がユラリと動く。
――雅はまだ、死んでいない。
スキル『衣服強化』。
体を頑丈にしてくれるこのスキルが、雅の命を守ったのだ。
(ま、まだ……だっ!)
悲鳴を上げる体を震わせながら、雅は百花繚乱を振るう。
大ダメージを受けたとは思えない一撃が、レイパーの体に直撃し、大きくよろめかせる。
(もう一発……っ)
半ば気合と根性だけで繰り出す二撃目。
しかし……それは届かない。
響く、高い金属音。
レイパーのメイスが、雅の渾身の攻撃を受け止めてしまっていた。
三倍近くもある体格差。
身体能力で劣る以上、鍔迫り合いで勝てる道理はない。
あっという間に、雅の方が力負けして、吹っ飛ばされてしまう。
倒れた雅は起き上がろうとするが、
(っ?)
地面から生えてきた蔦、さらには円錐状に抉れる地面が、それを許さない。
あっという間に下半身は埋まり、上半身は蔦に拘束され、身動きが取れなくなってしまう。
いくら体を捩ろうと、ビクともしない。
百花繚乱だけは辛うじて握っているが、腕を拘束されている以上、剣を振るうことはおろか、ライフルモードにして反撃する手段すら封じられていた。
そんな雅に、ミドル級人型種麒麟科レイパーは、一歩一歩、ゆっくりと近づいてきていた。
(だめ……に、にげ、られ……ないっ?)
打つ手がない。ファムの『リベレーション』が使えればまだ何とかなったのだろうが、ミドル級鷹種レイパーから逃れるために、もう使ってしまった。
残ったスキルで、これから逃れる術は無い。
レイパーからしてみれば、今の雅はまな板の鯉だ。メイスで頭を叩き割ってもいいし、火炎弾等で消し炭にしてもいい。口から垂れる涎は健在だから、それを操作出来なくとも、近くに涎の溜まり場を作って瘴気を発生させることは可能だ。それでジワジワと殺すという手すらある。
ぼやけた雅の眼でも、何となく分かる。ミドル級人型種麒麟科レイパーが、ニヤニヤとした笑みを浮かべていることに。あれは勝ちを確信した顔だ。
(――殺される)
雅の直感が、それを明確に伝えてきてしまう。
無理だ――雅は俯き、目を瞑った。
目も見えず、音も聞こえず、鼻も利かず、声も出ず、体に入っている力の感覚も分からない。
そんな中、
【ミヤビ、諦めるな】
カレンの声だけは、雅にもはっきりと届く。
だがそれは、あまりにも遠い。
(カレンさん……ごめんなさい……っ。もう、駄目です……っ)
心の中で首を横に振り、雅はそう告げる。
(音符の力も、イージスも無い。スキルはいくつか残っているけど、この状況じゃ……)
【ミヤビ、目を開けろ。まだ終わってない……っ】
(だけど――)
【目を開けろぉぉぉぉぉぉぉおっ!】
(っ?)
【目を開けるんだミヤビっ! 君にはまだ――】
(……ぁっ)
【君には……君にはまだ――】
(ぁあ)
カレンの言葉に促され、顔を上げ、目を開けた雅は――見る。
【仲間がっ! いるだろうっ!】
頭上を飛び越えていく、見知った者達の姿を。
雅を殺そうとするレイパーに立ち向かう、友の姿を。
こんな目でも、決して見間違えることのない、仲間の姿を――
「ミヤビさんには手を出させませんっ!」
銀髪フォローアイの少女、ライナ・システィア。
彼女が鎌の一撃で、レイパーを怯ませると、
「今引き上げますわ! ちぃ! 蔦が邪魔ですわね!」
ウェーブがかったゆるふわ茶髪ロング、桔梗院希羅々。
彼女が、雅の体を縛る蔦を、レイピアで斬り裂いていき、
「救出は私に任せて!」
白翼を羽ばたかせ空を舞う紫髪ウェーブの女の子、ファム・パトリオーラ。
彼女が雅を後ろから抱え、大地に埋まった彼女を引き上げ、
「雅ッ! もうひと踏ん張りダッ!」
そう声を掛けてきたのは、ツーサイドアップのツリ目の少女、権志愛。
彼女が棍による強烈な一撃を、レイパーのボディに叩き込み、
「立てよミヤビ! とっととこいつ、ぶちのめすぞ!」
赤髪ミディアムウルフヘアの女性、セリスティア・ファルト。
彼女が銀の爪を使った強烈なタックルをかまし、レイパーを大きく吹っ飛ばし、
「危なかったぁぁぁあっ! ギリギリセーフっ?」
なよっとした体つきをしたエアリーボブの少女、橘真衣華。
彼女が二挺の斧で追撃をし、
「よくも儂の友を……これはその礼じゃ!」
巨大な山吹色の西洋竜、シャロン・ガルディアル。
彼女が渾身のテールスマッシュをレイパーに叩きつけ、
「すまない束音! また遅刻した!」
長身の三つ編みの娘、篠田愛理。
彼女が片膝を付いたレイパーを、刀の斬撃で駄目押し、
「ファムちゃん! ミヤビちゃんをこっちに!」
鍔の広いエナン帽を被った金髪ロングの研究者、ミカエル・アストラム。
彼女が杖を振り上げると、レイパー目掛けて極太の炎のビームが放たれ、
「しっかりして! みーちゃん!」
黒髪サイドテールの幼馴染、相模原優。
彼女がスナイパーライフルでレイパーを狙撃しながら、そう叫び、
「ミヤビ! もう一人で戦う必要は無いわ! 私達がいるわよ!」
空色の鎧をガチャつかせた青髪ロングの少女、レーゼ・マーガロイス。
彼女が、西洋剣を構えてゆっくりとレイパーへと近づいていく。
目から熱い液体を僅かに零し、口を開いて、声が出せないはずの喉を震わせる雅。
絶望で覆われた暗い闇。
それは、彼女達が駆け付けてくれたというその事実だけで、嘘のように晴れていく。
(カレンさん……っ、私は……っ)
【ミヤビ……戦おう!】
(ええ……ええ!)
ミドル級人型種麒麟科レイパーは、あれだけの攻撃を受けてもなお、まだ健在。
だが不思議と、不安はない。力が湧いてくる。
「みーちゃん! ……あぁもう! やっぱり耳、聞こえていない!」
「私達と同じですわね……なら――」
『大丈夫です、カレンさんが通訳してくれますから。それより、ありがとう!』
雅がULフォンのメッセージ表示機能を起動させると、優と希羅々が安堵の表情を浮かべる。
「良かった……。なら、お願いがありますわ。『グラシューク・エクラ』をもう一回使いたいので、『マナ・イマージェンス』、お願い出来ますこと?」
そう言って差し出してくる手を、雅は固く握り返す。
『マナ・イマージェンス』。魔力を一気に増幅させるミカエルのスキルだが、雅が使った場合、効果が変わる。他の人の魔力を回復させたり、回数制限のあるスキルを再使用出来るようにすることが出来るのだ。一人では決して使う機会のないスキルである。
『さがみん、奴は強い。だから、賭けに出ようと思います。私とさがみん、それと――』
遠くでレイパーと戦うライナや愛理達を見ながら、雅は優に作戦を伝える。
それを見た優が、顔を強張らせた。それは確かに「賭け」だから。
下手をすれば、アーツが壊れる可能性も否定できない。
だが――優は少し躊躇うも、頷いた。
『よし、じゃあまずは、奴を弱らせます!』
そう言って、雅はレイパーの方へ駆け出す。
丁度、シャロンが雷のブレスを放ち、レイパーはそれを、蔦を壁にして防いでいるところだった。
ベストタイミングだ。
雅は横に流れるブレスにわざと当たりに行くと、カルアベルグ収容所の看守、リアロッテ・ライムベルツの『帯電気質』を発動させる。
逆立つ雅の桃色の髪。全身に電気が迸り、雅の身体能力が大幅にアップする。
地面を蹴って、一気にレイパーへと接近していく雅。
「ッ?」
志愛達の攻撃でよろめいたところに、雅が繰り出す雷の斬撃が、レイパーの体に直撃。
雅一人だったら、メイス等で簡単に防がれていただろう。だが今は当たる。
二撃目、三撃目の攻撃も当たる。
いくら火炎弾等で迎え撃ったり、地面を変化させたり地震を起こそうとも、誰かが誰かの動きをカバーし、少しずつレイパーを追い詰めていく。
そして――
(――見えたっ!)
普通に立っているように見える敵の重心が、大きく片足に偏ったのが分かる。ティップラウラのバスター、パフェ・ザレフシアの『重心看破』が発動したのだ。
足払いするように放たれた回転斬りがヒットし、よろめくレイパー。
「とりゃあぁぁぁぁっ!」
そこにさかさず、ファムの超高速の飛び蹴りが炸裂し、レイパーが大きく吹っ飛ばされる。
さらに、
「喰らいなさい!」
ミカエルの二発目の火炎ビームが、レイパーへと放たれる。
しかも大外からは、巨大火球のおまけつきだ。逃げ場はない。
――しかし、
「何っ?」
大地が大きく隆起して盾となり、ビームと火球を防ぎ、さらには地面から蔦を生やして、自身を安全に地面へと着地させてしまった。
「にゃろう! あれを躱したのかよ!」
「あわわっ! 来るよぉ!」
真衣華の慌てた声が発せられた刹那、レイパーが地面にメイスを怒り任せに叩きつけ、大きな地震を発生させる。
崩れゆく闘技場。揺れのせいで動けなくなる雅達。
ミドル級人型種麒麟科レイパーは吠えると、雅達の方へ突っ込んでくる。
すると、
「私を忘れてもらっちゃ困るわね!」
その突撃を、レーゼが真正面からブロックする。
鎧と『衣服強化』のスキルによる防御があるとは言え、巨体によるタックルは、レーゼの口から血を溢れさせる程のパワーがある。
それでも、レーゼは表情を変えることはない。鋭い眼で敵を射抜き、負けじと押し返そうと力を込め、膠着。
だが一瞬だけ、レーゼは雅の方をチラリと見た。
――優に伝えた作戦は、レーゼにも伝わっている。それまで自分がこいつを引き受けるつもりらしい。
『さがみん! シャロンさん! 今の内に!』
「みーちゃん、こっちは準備オッケーよ!」
「儂もやれるぞ! ……が、本当に出来るのかっ?」
『分かりませんけど、やるしかないです! 皆、離れて! レーゼさんが離れたら、勝負に出ます!』
そう言うが早いか、雅は優の方へ、百花繚乱を投げる。
瞬間、空中で縦に別れる剣。
向かう先は、優のアーツ『ガーデンズ・ガーディア』……その銃身に、上下からがっちりと嵌り込んだ。
これだけなら、いつもの合体アーツだ。
だが、今回は違う。
「よし、やるかのぉ!」
シャロンの足にあるアンクレットが光り、十二個もの雷球、『誘引迅雷』が出現。
それが、雅と優の合体アーツの周りを、まるでリボルバーのシリンダーのように回り出す。
――そう。これは、雅と優、シャロンによる、三つの合体アーツだ。
「ちょ、ちょっと! なんかアーツ、熱くなってきたんだけどっ?」
合体アーツを握る優が、悲鳴を上げるようにそう叫ぶ。
雅も慌てて支えるが、優の言う通り、合体アーツはギリギリ持っていられるレベルの熱を発しており、内部の部品が激しく振動している。
シャロンが人間態になって、同じように合体アーツを支えにくるが、「なんじゃこれはっ?」と叫ぶ始末。アーツを使い始めてまだ日が浅いシャロンですら、これは異常と分かるレベルの現象だ。
雅の百花繚乱の合体機能は、一つのアーツとだけ。二つのアーツと同時に合体することは推奨されていない。万が一そういう使い方をしても、すぐに壊れない強度を確保しているくらいだ。
だから、こうなるのも当然である……のだが、
【ミ、ミヤビ……っ、これ、いけるかなっ?】
(分かりません! 前に真衣華ちゃんに聞いた時は、「危ないけど、出来なくはないんじゃない?」って言われましたけどっ)
【えっと……つまり……?】
(真衣華ちゃんを全力で信じます!)
アーツの中で、力が膨れ上がっていくのは、はっきりと伝わってくる。
アーツの無茶な合体の影響は、そこだけにとどまらず。
次第にエネルギーを放出し出し、地面に抉り傷を付けていく。雅と優、シャロンの三人以外は、近づくことも出来ない。
「は、はやく撃つわよ!」
「ちぃっ! マーガロイスっ!」
これ以上は本当にヤバいと、優とシャロンが必死な声で叫んだ。
瞬間、それまでミドル級人型種麒麟科レイパーをブロックしていたレーゼが、その場から大きく跳び退く。
レイパーも、合体アーツがヤバそうだと察したのか、そこから逃げようとするが、
「逃がしませんわ!」
希羅々が『グラシューク・エクラ』で呼び出した巨大レイピアが、逃げ場を塞ぐ。
そのタイミングで、三人は放った。三機合体アーツによる、必殺の一撃を。
地面が爆ぜる程の轟音が響く。耳が聞こえない雅ですら、その振動で鼓膜が痛くなった程だ。
それと同時に、レイパーの体に、大きな衝撃が走った。
雷を纏った、白と桃色のマーブル模様をした、弾丸型のエネルギー弾……それが、地面に大きな亀裂を走らせながら、レイパーの腹部へと命中したのだ。
一瞬にして粉々になる、レイパーの緑の鱗。
噴き上げ、蒸発して消える緑の血液。
腹部に出来た、大きな風穴。
唖然とする、レイパー。
一瞬の間の後――
その手からメイスが落ちると共に、ミドル級人型種麒麟科レイパーは、ついに爆発四散するのだった。
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