第483話『感覚』
さて、雅がミドル級人型種麒麟科レイパーと戦っている頃。
宮殿の最上階に、二人の女性が、総勢五十体近くのレイパーを引き受けている。
黒髪シニヨンの髪型の、天堂冬歌。そして、髪を一つ結びにしている長瀬夏音。二人とも、岩室駐在所で働く大和撫子だ。
雅と一緒に宮殿に突入し、ここまで来た二人。雅を先に送り、たった二人でこの数のレイパーを引き受けている。
――そして、意外(と言ってはアレだが)なことに、二人は満身創痍なものの、まだ生きていた。
「冬歌! 右に走って!」
頭から血を流しながらも、夏音がレイパー集団に向けて、両手で構えた小型エンブレム――射出機型アーツ『一気通貫』の発射口を敵に向ける。
そこから放たれたビームが地面に着弾し、夏音が「弾けて!」と叫ぶと、ビームが分裂し、数多のレイパーへと襲い掛かった。夏音のスキル『カレイドスコープ』だ。
分散したビームの一発一発は弱いが、敵を怯ませるくらいの威力はある。
「ナイス……っ!」
その隙に、夏音の前を走り出す冬歌。怪我をしたその手に握られているのは、白金色のハルバード、斧槍型アーツ『三日月之照』だ。それを振り回し、何体かのレイパーを突き飛ばし、一気に包囲網を脱出。
さらに振り返り、ハルバードを鞭のように伸ばして振るう。冬歌が自身のスキル『ムーンスクレイパー』を使ったのだ。
我武者羅に繰り出される連撃に、蹴散らされるレイパー達。
散り散りになって、協力して二人を殺そうというつもりはない。どいつもこいつも、我先にと二人を殺そうとしているせいで、それぞれがそれぞれの動きを邪魔しているのだ。
これが、二人がまだ生き永らえている理由。レイパーの数が多すぎて、敵側の連携が取れていない。恐らく、二、三体だけなら、とっくに二人は殺されていただろう。
雅を追うレイパーが皆無だったことも大きい。
奥に進んだ雅は、ミドル級人型種麒麟科レイパーの餌食になっている……レイパー達は、そう思っているから。このレイパー達に、人型種麒麟科レイパーの邪魔をするつもりはない。近くにいると、自分の命も危ないからだ。
そういうレイパー側の思考自体は冬歌も夏音も分からないが、そのお蔭で、今、二人は扉の方へ向ける意識を最小限で済ませられている。生き残るための行動に集中出来ていた。
――最も、それにしたって限界はある。
敵の数はもう増えないが、さりとて倒せたレイパーもいない。敵の数は相変わらず多いままで、冬歌と夏音はただ疲弊していくばかりだ。
「し、しまった! 囲まれた……っ」
「ごめん冬歌! ビーム、まだすぐには出せない……!」
故に来る。その時が。
段々と迫りくる包囲網、そして死の気配に、縮こまるように身を寄せ合う二人。
「と、冬歌……っ!」
「……くっ」
最早ここまでか。
手を重ね合わせる、冬歌と夏音。
崩れ落ちそうな心を支えるのは、互いの温もり。
決して離すまいと、二人は手に、ギュッと力を入れる。
その時だ。
奥の方で、轟音が轟いた――。
***
宮殿の外。
そこで轟く轟音。
黒髪ポニーテールの美魔女と、金髪ロングのお姫様……容姿が正反対の二人が、肩で大きく息をし、玉のような汗を浮かべている。
神喰皇奈と、スピネリア・カサブラス・オートザギアだ。
多少だが怪我もしており、満身創痍という程ではないが、相当に消耗しているのは誰の眼にも明らか。
二人の目の前には、白黒の騎士、侍。彼女達は、こいつらと戦っており、未だ決着が着いていなかった。
最初に交戦していた出入口エリアから、今は大きく反対側まで回り込んでいる。荒れ果ててはいるが、石垣に囲まれたここは、さながら裏庭とでも言うべきところか。
「カミジキ! 私の後ろに!」
スピネリアがそう叫ぶと、掌から夥しい量の電撃が放たれる。
騎士種レイパーも侍種レイパーも、それを避けようとはしない。真正面から直撃する――が、
「……呆れるくらい頑丈ね。困ったわ」
纏う鎧に僅かな焼け跡はあれど、まるで堪えた様子のない二体。それどころか、低く笑い声を上げる余裕すらある。騎士種レイパーなど、片腕に深緑色の球体を抱えながら戦う余裕があるレベルだ。それを見た皇奈が、心底困ったという風に肩を竦める。
直後、皇奈がスピネリアを抱え、大きく右方向へとダッシュ。二体のレイパーによる斬撃が既に放たれており、二人のすぐ後ろを通り抜けていった。
それでも、冷や汗を流す皇奈とスピネリア。攻撃を避けても、イメージは別。自分が真っ二つに斬られたような錯覚が、脳裏にこびり付いて離れない。
「プリンセス。魔法、後どれくらい使えるかしら?」
「舐めないで。まだ戦えるわ!」
そう言い放つスピネリアに、皇奈はいよいよ頭を悩ませる。
勝気を装っているが、現状でもかなり無理をしているのが伝わってきたから。魔法の威力とキレに変わりはないが、疲れがそこに現れるのも時間の問題だ。
(……さて、ここからどう戦うべきかしら?)
いくつかの案が、瞬時に頭に浮かぶ。
すると、
「ラレ、ハアハアデモヤゾダ」
「トヤゾナ?」
侍種レイパーが騎士種レイパーに話しかけると、騎士種レイパーが不機嫌と驚愕の混じった声を上げる。
チラりと皇奈達の方を見る二体。騎士種レイパーの方は、何かしたそうに指をピクピクと動かしていたが、
「……えっ?」
「あら、逃げる気?」
突然、侍種レイパーが後方に刀を振るったと思ったら、空間が破れるように、大きな穴が出現する。
穴の先は、どこかの森。これはワームホールのようになっているらしい。
「ラコリノネタモラ、ラガリノダ。ナムテ、コサルユヌモルラルデワワ」
「ラコリタムテユ、ナッニンアル。ヌベソカッナ、ノタヘレノノモレボ、メノレジメウト」
そう言い放ち、穴の先に足を踏み入れる二体。
唖然とするスピネリアに、表情を変えない皇奈……二人の目の前で、ワームホールが塞がっていく。
「あっ」と声を上げて、慌てて追いかけようとするスピネリアの肩を、皇奈が掴んで引き止める。振り返ったスピネリアに、皇奈は静かに首を横に振った。
皇奈としても、想像以上の戦力差。敵が撤退してくれるのなら、それに越したことはない。――今の自分達の目的は、ラージ級ランド種レイパーの討伐なのだから。
歯噛みするスピネリア。しかし、結局騎士と侍のレイパーは消えてしまう。その手に、宮殿の中から持って出てきた、深緑色の球体を抱えて。
――今まで激しい戦闘があったことが嘘のように、静まり返る。
「……プリンセス。怪我の手当をするわ」
「……いえ、結構よ」
「ホワッツ? でも――」
「それより、シノダ達の方が心配。入れそうな場所は――あの窓からね。八階ってところかしら?」
そう言うや否や、スピネリアは宮殿の、開いている窓を見つけ、そちらへと向かっていく。
フィンガースナップをすると、氷の足場が出現する。
それに乗ったスピネリアは、皇奈の方を振り返り、宮殿の下の階の方を指差した。
「上と下の両方で、戦闘音が聞こえるわ。二手に別れましょう。私は上から。カミジキは下から」
「……オーケーよ。お互い、気を付けましょう」
そう言って、正面玄関の方へと向かう皇奈。
その背中を見つめながら、スピネリアは彼女に悟られないよう、深く息を吐く。
(さっきの戦い、彼女はまだ奥の手を隠していた。……どういうつもりかしら?)
第二とはいえ、これでも王女。そこら辺を見抜く力はある。
奥の手を出すタイミングが偶々無かったのか、意図的に隠しきっていたのか……そこまでは分からないが。
ただそれが、スピネリアには堪らなく面白くなかった。
***
――音符、二発。加えてスキルによるパワーバフ、一回――
これが、雅の直感。
円形闘技場。そこで、全身を緑の鱗に覆われ、黄色い鬣を靡かせ、角を生やした人型の化け物……『ミドル級人型種麒麟科レイパー』と戦う彼女。
先端が牛の頭部の形状をしたメイスを振り回し、さらにはあらゆる遠距離攻撃を繰り出してくるこの怪物だが、最も厄介なのは、吸い込むだけでそいつを殺せる瘴気の存在だ。
レイパーの口から出る涎。それが大地に落ちて、煙となる。微量なら大した影響は無いのだが、ミドル級人型種麒麟科レイパーはこの煙を自在に操り、濃度を高めることによって、人を死に至らしめる瘴気を作り出す。
それを為しているのは、頭部から伸びる、全長一メートルもの巨大な一本角だ。
そしてこの角を破壊すれば、瘴気も消える。大きな衝撃を受けただけでコントロールが出来なくなっていたのだから、間違いない。
ここまでの戦いの中で、雅の中にいるカレン・メリアリカは、そのことを突き止めた。
では、角を破壊するにはどのくらいの威力が必要か――それが、最初の言葉に繋がる……のだが、
【ミヤビ、どうする? どうやって音符を当てる?】
そう問いかけてくるカレンに、雅は即答出来ない。
目の前の敵は強敵だ。メイスの一撃は重く、レイパー自身の身体能力も高い。火炎弾や水の弾丸、木の矢や鎌鼬といった攻撃を使いこなし、蔦を生やして雅を絡めとろうとしたり、地形を流砂や蟻地獄のように自在に変化させられ、地震を起こすことも可能。
加えて、何故か不調に陥った雅の体の問題もある。目は眼鏡が必須なレベルで視力がガタ落ちし、音は聞こえず、アーツを持つ手にどれくらいの力が入っているのか分からない。鼻も詰まったような不快感があり、声も出てこない始末。
ただでさえ一対一は不利なのに、コンディションの悪さがそれに拍車を掛けている。挙句に迫る瘴気から逃げつつ、音符を当てないといけないというのは、あまりにも難易度が高い。唯一の救いは、角は大きいことくらいか。
(……考えろ、私)
焦り、落ち着きが無くなってくる心。
滲む汗の、嫌な感触。
寒気がする背筋。
頭痛と吐き気。
それら全てを押し込め、雅は無茶苦茶に走り出す。
動けば、思考が回る。あらゆる恐怖から逃げ出すように、雅はただ一点、『考える』という行為に意識を集中させる。
音符を、マシンガンのように連射することは出来ない。一度に撃てるのは一発だけ。ライフルと同じだ。
だから、普通に撃っても躱される。確実に当てなければならない。
五感が不調な体で、どう動くべきか。今、自分が使えるスキルは何か。
とれる選択肢をつぶさに挙げ、可能な限り冷静に検討。策を練っていく。
一つだけではない。敵が自分の策を上回ることなど、容易に想像がつく。
だから、いくつも練らねばならならい。確実に音符を当てるためにも。
(――勝負っ!)
音符の力も、無限ではない。残りは数分。賭けに出るなら、今だ。
【ミヤビは音符を当てることに集中して! 敵の攻撃を避けるための細かい指示は、私が出すから!】
(助かります!)
【早速来るよ! 地面を変化させるつもりだ!】
カレンの言葉の直後、平坦な地面に、凸凹の突起が出来、蔦が触手のように生えてくる。走り回るにはとても無視できないサイズだ。視界が悪い中では、容易に足を取られてしまう。
しかも瘴気が追ってくるのだから質が悪い。
【っ! ミヤビ! 後ろだ!】
(っ?)
そんなフィールドの中で、レイパーは恐ろしいスピードで雅の背後を取る。
地形を変化させたのはこのレイパー。自分の移動ルートを、きちんと確保していたのだ。
振り上げられるメイス。
狙うは雅の後頭部。
だがしかし――
「ッ?」
背後に伸ばされる、雅の左手。
振り返ることなく、掌は正確にレイパーへと向いていた。
あまりの反応速度に、さしものレイパーも驚愕し、息を呑む。
だから見落としてしまった。雅の、本人も分からぬ程に見事な足捌きを。
最小限且つスムーズに動く、雅の体。
空振るメイスの一撃。
放たれる音符。
「ッ!」
(当たったっ?)
カウンターの要領で撃った一発。それが角へと吸い込まれるのを、振り向いた雅は見えないながらも理解する。
さらに、咄嗟に放たれたメイスによる二撃目を、剣銃両用アーツ『百花繚乱』を盾にしてわざと受けて吹っ飛ばされることで、敵との距離を取ることに成功。
この二つの行動は、狙ってやった訳では無い。雅もカレンも、驚いていた。
異世界と、元いた世界。そこで幾度となく戦ってきた強敵達との戦闘の中で磨かれてきた、雅のセンスと経験。それが雅の動きを先鋭にさせたのだ。
五感は確かに鈍っている。
だが第六感だけは、未だ健在。どう動けば敵に攻撃を当てられるか、どう動けば敵の攻撃を躱せるか……それを、頭ではなく、雅の中の戦いの本能が予知・判断したのだ。
最小限の動きで敵の攻撃を避けられれば、それだけ攻撃に使える時間が増える。敵が回避に使える時間も減る。だからこそ、今の音符を当てられた。
――この機を逃す手は無い。
(ここで決める!)
レイパーに左の掌を向けながら、再び走り出す雅。
凸凹も蔦も瘴気も、カレンの指示を補助にしつつも、綺麗に躱して敵に近づいてく。
神がかった動きは、次に繋がるものだ。「勢いづく」というのは、こういうことを言うのだろう。
レイパーは、腰を低くしたまま動けない。動けば、雅が放ってきた音符に当たる……そう思ったから。
ミドル級人型種麒麟科レイパーとて、雅が瘴気を攻略するために、自分の角の破壊を試みていることは分かっている。蓄積させられた音符の効果も。
今は、まだ一発分だけ。それなら、攻撃を受けても角が砕けることは無いということも、直感していた。レイパーからすれば、二発目の音符さえ蓄積されなければ、雅の斬撃や射撃は怖くない。なんなら斬撃をわざと受け、蓄積された音符をリセットしたって良い。
故に、雅の動きには最新の注意を払っていた。
――それが雅の戦略だとも知らずに。
「――ッ?」
右側から突如襲ってくる人の気配に、レイパーは思わずそちらを向く。
この場には、雅以外いないはず。
だが、そこには確かに存在していた。……もう一人の雅が。
『影絵』……雅が『共感』で発動させた、分身を呼び出すライナのスキルを、雅は使っていたのだ。
本体の雅の動きにばかり集中していたため、分身雅が現れたことに気付かなかったのである。
分身雅は、本体の雅と同じ姿、ポーズで迫っていた。
次の行動を迷うレイパー。
だが、それが命とり。
レイパーの眼が本体の雅に向いた瞬間にはもう、分身雅は手から音符を放つ。
それは当たる。動揺していたところに、殺気ゼロの一発は避けられない。
同時に、『腕力強化』のスキルを使いながら剣を振るう本体雅。
しかし、レイパーはそっちへの対処は早かった。
雅に意趣返しをするように、最小限の動きで斬撃を回避したのである。
さらに攻撃を外したことで大きな隙を見せた雅の腹部に、レイパーはメイスをアッパーでもするかのように叩きつける。
【ミヤビっ?】
カレンの声に、雅は何も返せない。
腹の中心から急速かつ突き刺さるように広がる、鈍痛。
一気に肺から空気が無くなり、襲ってくる息苦しくなる感覚。
衰えた視力でも分かるくらい、視界が大きく揺れる。
雅の体が、とても人並の体重があるとは思えぬ程に浮き上がり、大きく弧を描いて吹っ飛ばされていく。
それでも――思考は飛んでいなかった。
ぼやけた視界の中でも、雅の眼ははっきりと捉える。
蔦と、大きく隆起して壁のようになっている地面の位置を。
刹那、百花繚乱の刃が、まるで鞭のように長く、一気に伸びていく。
これは『ムーンスクレイパー』……天堂冬歌のスキルだ。雅が最上階の扉の奥へと進んだ直後から、使えるようになっていた。
効果は、彼女が使う『ムーンスクレイパー』とほぼ同じ。冬歌は三十メートル以上も伸ばせるが、雅が伸ばせるのは十五メートルが限度という違いがあるくらいか。
だが今は、それで充分。
伸びた刃の側面が、レイパーが発生させた蔦へと巻き付く。
スキルを解除すると、縮んでいく刃。
必然、宙を高速で移動する雅。
その先には、隆起した地面。
壁のようになった、地面だ。
それを足場にし――雅は大きく、レイパーの方へと向かってジャンプする。
足に一気に掛かる負荷。
発動させる、志愛の『脚腕変換』のスキル。
足の負荷が、腕力のブーストに変換されていく。いつもよりも鈍く思えるその感覚と共に、雅は大きく剣を振り上げた。
一瞬の出来事。
レイパーはそれに対応しようとするが、分身雅が決死で喰らいついてくる為、それもままならず。
瘴気も、雅の動きにはついていけていない。飛び掛かる雅の跡を追うが、とても追いつくことは出来ないだろう。
最大の好機。雅の狙いは、レイパーの角。
大きく開いた口からは、声は出ない。それでも雅は、あらん限りに腹に力を込め、叫んでいた。
雅の耳には届かぬ鈍い轟音、そして美しい協和音が、闘技場一杯に広がる。
飛んでいく、レイパーの一本角。
雅の斬撃が、遂にレイパーの角を圧し折った瞬間だった――。
【よしっ! やったよミヤビ!】
追ってきていた瘴気が一気に霧となって消え、角を吹っ飛ばされた衝撃で大きくよろめいたミドル級人型種麒麟科レイパーを見て、カレンが歓喜の声を上げる。
体の不調は、相変わらず健在。これを為すのに、一日一回しか使えないスキルも、たくさん使わされた。
それでも、一番厄介だった瘴気が潰せたのだ。これでやっと、こいつのみに集中が出来る。
――しかし、
(っ? 音符の力が……!)
身に付けていた桃色の燕尾服が消え、元のブレザー姿へと戻っていく雅。それは、分身雅も同じ。
変身のタイムリミットである三十分が、過ぎてしまったのだ。
(……っ)
【ミヤビ! 大丈夫っ?】
(え、ええ……!)
変身が解けた途端、体の不調が強まった気がする。体に、鉛で出来たコートを着せられたような感じさえした。
「ラ、ライタ、デコヤタヌタユ……ヲウホヤダ、ラヤト……ッ!」
静かだが、底冷えするような恐怖の声を滲ませ、近づいてくるミドル級人型種麒麟科レイパー。
風になびく鬣の毛一本一本が、まるで怒りに燃える炎のよう。
余程、角を圧し折られたのが効いたのだろう。
伝説の生き物、麒麟。
その気高さや誇り、気品というものはまるで無いが、威圧感という点だけならば、その名に恥じぬものがある。
息苦しい。今すぐにでも逃げ出したい。膝なんて、とうに笑っている。
それでも、
(……カレンさん。――行きます!)
【うん! 踏ん張りどころだよ!】
雅は、ここで負けるわけにはいかない。
百花繚乱を決して離さぬように、しっかりと握り締め、分身雅と共に敵の方へと走り出すのだった。
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