第477話『構造』
一方、ラージ級ランド種レイパーの体外。
そこでは、もう一体の巨大レイパー――眼の付いた翼を広げ、孔雀の尻尾を生やした全長三十メートルもの巨大な怪鳥、『ラージ級シムルグ種レイパー』との激戦が繰り広げられている。
目玉から無数のビームを放ち、鉤爪を振り回して、次々に人が乗るドローンを墜落させるレイパー。
この討伐戦のキーパーソン、白髪の美しい少女、ラティア・ゴルドウェイブを乗せた巨大ドローンは、まだ健在。その中から、十発もの小型ミサイルが次々と発射され、ラージ級シムルグ種レイパーの胴体に命中。それでも、大型のレイパーは威嚇するような声を夜闇に轟かせ、自分が平気であると主張する。
「あ、あんにゃろぉ……ムカつくくらいタフっすねぇっ!」
心底頭にきたという声でそう吐き捨てたのは、おかっぱで目つきの悪い警察所属の大和撫子、冴場伊織。今攻撃したのは彼女だ。腕に装着された、銀色の箱、ランチャー型アーツ『バースト・エデン』からは、白い煙が上がっている。
「とっととこいつぶっ潰して、あっちに加勢してーんですけど……」
伊織の視線が、下にいる巨大な白い鯨のレイパー、『ラージ級ランド種レイパー』と戦う大和撫子やバスター達――そして、今し方到着した、アサミコーポレーションの社長、浅見杏の方へと向く。
甲高い声で吠えるランド種レイパー。そいつはまだ健在。全身を覆う膜を破壊しなければ、攻撃を通すことすらままならない。ラティアが杏から譲り受けた小手型アーツ『マグナ・エンプレス』の衝撃波で膜を破壊しなければ、奴に吸い込まれた仲間達を助けることも、奴を倒すことも出来ないのだ。
「あなた! ビームが来るわよ!」
「分かっている!」
そんなやりとりをするのは、優の両親の相模原優香と優一。直後、想像の三倍近い量のビームが放たれる。
優一は巧みにドローンを操縦し、ビームの合間を縫うようにして避けていくが、それでも極太のビームが、彼らの乗るドローンに迫る。
が、
「危ないっ!」
光で出来た分厚い防壁。斜めに出現したそれが、ビームを轟音と共に上空へと逸らす。
直後、風を集めて作られた巨大な球体が、レイパーの首元向けて飛んでいった。
声のした方に優香と伊織、ラティアが目を向ければ、そこには大きな絨毯。
乗っているのは、二人の女性。金髪のエルフ、カリッサ・クルルハプトと、前髪が跳ねた緑髪ロングの、ノルン・アプリカッツァである。
「あぁ! もう! だから私達から離れるなって言ったじゃない!」
「すまない! 助かった!」
敵の攻撃を躱していたら、いつの間にか二人から離れていることを失念してしまっていた優一。最も、それもラージ級シムルグ種レイパー相手では仕方が無いのだが。
「それにしても……やっぱりあのレイパー、私の魔法が全然効かない」
ノルンが、黒いスタッフ、『無限の明日』を握り締め、レイパーの方を見る。
先程放った風魔法は、確かにレイパーの喉元に着弾した。しかし、レイパーは何事も無かったかのように振舞っている。衝撃で怯むような素振りもない。
カリッサもそれが気になっており、渋い顔をしながら口を開く。
「まさかとは思うけど、あいつの体、本当に魔法を完全に無力化するの?」
「いえ、そんな生物、聞いたことも……」
「でも、私達、現に魔法構造を結構変えて攻撃しているけど、全然効いていないじゃない。そうとしか考えられないと思う!」
魔法構造。それは、名前の通り、魔法を形作る構造のこと。人間で言えば、細胞のようなものだ。
熱や冷気、風、電気……魔法には属性というものがあり、それが敵との相性を左右するのは周知の事実だが、実はこの魔法構造というものが一番重要だったりする。これが、そもそも敵の体に効き辛い構造になっているのなら、属性的な相性が良くても、ダメージは薄い。
前に、ミカエルが『魔王種レイパー』相手に魔法が効かないからと、この構造を変えて攻撃するという工夫をしたことがある。相当な魔法使いでなければ出来ない芸当だが、それを、ノルンとカリッサの二人もやっていた。
「普通なら少し構造を弄れば、多少なりともダメージが入るはずでしょ? こんなに効かないなんて、やっぱりおかしい」
「ええ、確かにカリッサさんの言う通――……んー?」
「ノルンちゃん?」
「……いや、待って? もしかして……それ、あいつもやっているとか、あり得ると思いますか?」
魔法に合わせて、それが効かない体の作りに変化させる。
敵に合わせ、体の形状を変えたり、合体・変身したりするレイパーはいる。今まではいなかっただけで、そういうレイパーがいてもおかしくはない。
「……カリッサさん! ユウカさんのところに!」
「何か考えがあるのね? 分かった!」
そう叫ぶと、カリッサは魔法の絨毯を、ドローンへと近づけていく。
開いたハッチから、ノルンはドローンの中へと飛び込むのだった。
***
さて、海が干上がった跡地で、豚鼻をした巨大な黒い化け物――『ミドル級亀種レイパー』と戦うライナ、シャロン、希羅々も、苦戦を強いられていた。
戦わなければならない相手は、ミドル級亀種レイパーだけではない。こいつが生んだ、大型犬くらいのサイズの子亀も、三人に襲い掛かってきている。
それを、どういうわけか声が出せず、聴覚も失っているという状態で対処しなければならないのだが――
(……ちぃ! 目も霞んできましたわ! 一体どうなっていますのっ?)
敵の姿がぼんやりとしてきて、希羅々のレイピア型アーツ『シュヴァリカ・フルーレ』を持つ手に苛立ちが籠る。
怒り任せに子亀レイパーを斬り、刺して倒すが、数が数。キリがない。
こいつらは噛み付いてきたり、突進してきたりするだけで、単体では弱いのが幸いか。しかしライナが『影絵』で分身を作り、対処させているが、それが間に合っていない。
大きな口を開ける、親レイパー。そこからは、水がまるで弾丸のように放たれ、彼女達を襲う。
ただの水だが、この弾丸は相当な威力。希羅々が動き回ってそれを避けるが、地面に着弾した弾丸は、容易に地面を抉っていく。子亀すらも巻き添えにするほど、このレイパーの攻撃には容赦がない。
そんな中、ライナがULフォンのウィンドウを可視化させ、希羅々とシャロンに何か伝えてくるが、それもぼやけてみえない。これではコミュニケーションも取れないではないか。
そんな中、本来の山吹色の竜となったシャロンが、希羅々の方へと猛スピードでやって来る。腕を伸ばしてきており、まるで「掴まれ」と言っているかのようだ。
希羅々がその手を掴み、一気に上空へと連れていかれた直後――今まで希羅々がいたところから、大きな蔦が出てくる。
(な、何ですのっ、あれは……っ?)
さらに、レイパーは宙にいるシャロンと希羅々に、開けた口を向けると、そこから再び水の弾丸を乱射。だが、今度はそれだけではない。水の弾丸に混じり、鎌鼬と木の矢も放たれていた。
シャロンは希羅々を背中に隠し、竜の鱗の防御力に任せてその攻撃を受けながら、負けじと口を開く。広げた翼が光を帯び、顎門に電撃エネルギーが収束。それをブレスという形で、敵に放った。
が――それはレイパーには届かない。
地面から生えた蔦が壁となり、ブレスを防いでしまったから。
それを遠くで見ていたライナは、戦慄する。
ただでさえ強敵なのに、それがこのタイミングでパワーアップするとは、夢にも思わなかったのだ――。
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