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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第53章 ラージ級ランド種レイパー体内~宮殿
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季節イベント『学鬼』

 これは、久世の部下の葛城(くずしろ)裕司(ゆうじ)を捕まえるためにウラへと遠征する、少し前の話。


 夏休み期間中のある日の学校、自習室にて。


「……ヤバい。真衣華は?」

「あー……うん。無理。駄目。終わった」


 部屋の隅にあるテーブルで、死んだような目をする、二人の少女の姿があった。


 黒髪サイドテール、そしてエアリーボブの彼女達は、相模原優と橘真衣華である。


 目の前には、ULフォンによって空中に作られたウィンドウ。そこには、期末テストの結果が映っている。


 ……悲惨な点数の表示と共に、馬鹿みたいに目立つカラフルな字で書かれた『追試のお知らせ』が、絶望を突き付けていた。




 ***




「てなわけで、我々大ピンチ!」

「助けてみんなー!」

「えぇ……」


 昼の二時半。束音家のリビングで土下座する真衣華と優。それを、引き攣った顔で見つめるのは、緑髪ロングで前髪が奇抜に跳ねた少女、ノルン・アプリカッツァ。


 後ろでは、金髪ロングの女性、ノルンの師匠かつウェストナリア学院の教師、ミカエル・アストラムと、家主の桃色ボブカット娘の束音雅が、揃って苦笑いを浮かべていた。なお、他のメンバーはそれぞれ別々の用事で、今日は家に帰ってこない。ここにいるのは、五人だけだ。


「あ、あの……色々言いたいことはあるんですけど、何故私達に?」


 たった今、「追試が決定したから勉強を教えて欲しい」と頼まれたノルン達。ノルンは「なんで年下に勉強を教わろうとするんですか」だとか「私達、勉強していることが全然違うんですけど」だとか「頼んでいるのに、既に目が諦めを悟っている感じがするんですけど」だとか、言いたいことは山ほど浮かんだが、それは一先ず置いておき、一番先に聞かなければならないことを聞くために、口を開く。


「あ、あの……私達より、シアさんとかアイリさんの方が適任では?」

「志愛は遠征のための準備とかトレーニング、愛理の方は動画のストック作りで、二人とも時間が取れないって言われた」

「じゃあ、キララさんは?」

「平均点ど真ん中に勉強を教わるのは、なんか屈辱」

「赤点よりマシでしょう……」


 なんて無駄なプライドなのだと、それを聞いていたミカエルが頭痛を堪えるような仕草をした。


「……他に、勉強教えてくれそうな友達とかいないんですか?」

「困ったことにいないのよ。いや他の子と仲が悪い訳じゃないんだけど、ヘビーな頼み事は流石に出来なくて……」

「えー? 私なら普通に声かけますよ?」

「みーちゃんみたいに出来たら苦労しないって」


 そりゃあみーちゃんは簡単だろうけど、と言って、優は天井を仰ぐ。その口からは、エクトプラズマが出そうになっていた。


「面倒ごと頼むようで申し訳ないんだけどさ、ミカエルさんは先生だし、ノルンちゃんは成績優秀なんでしょ? 頼むよー!」


 手を合わせて頼みこむ真衣華。


 しかし、だ。そうお願いされたとて、根本的に優達とノルン達では、授業で習う内容は当然異なる。一部似たようなものはあるが、先生役としてはあまりにも不適切極まりない気しかしない。


「まぁ、一応見てみますけど、期待はしないで下さいね?」

「おっけーおっけー! てなわけで、これが追試の範囲と、今回のテストの結果なんだけど……」

「…………」


 ありがたやー、と言った様子でテストの答案用紙を見せてきた二人。それを見たノルンは、思わず「うわぁ……」と言いそうになるのを辛うじてグっと堪え、それに対してミカエルが心の中でグッとサムズアップをしてやった。


 素人目に見ても、中々の点数。優は文系科目、真衣華は理数系科目はそこそこ点が取れているが、逆の方が悲惨極まりない。ファムとほぼ同レベル……いや、下手をすればファムより酷い気さえする。いや、得意科目がある分、ファムよりはマシだろうか。


 まぁ、世界が融合してからあれこれ忙しかったということを鑑みれば、ある意味仕方ない気もするが……しかし志愛や愛理、希羅々がちゃんと点数を取っている以上、言い訳は出来ない。


「えっと……追試は何時で?」

「明日」

「なんでもっと早く相談してくれなかったんですか……」


 テストが返却されてから、それなりに時間は経っている。その間、二人は本当に何もしていなかった。今日学校に呼び出され、このことを聞かされて「しまったそうだった」と思い出したくらいだ。


 ……日々の忙しさにかまけ、都合の悪い現実から目を背けていた結果である。


 これ、果たして間に合うだろうか。ノルンの頭に、そんな疑問が警告灯を光らせ主張してくる。せめて後一日は欲しい。


 すみませんとシュンとする優と真衣華に、冷や汗をかくノルン。こんな二人の様子を見て流石に「無理です諦めて下さい」と即答する程、冷たくは出来なかった。


 だが、


「し、師匠……」

「うーん……この『古文』とか『ニホン史』は流石にどうにもならないわ。他は幸い、私達の世界でも習う内容ね。教えられるかも」

「えっ! じゃ、じゃあ……!」

「まぁ、私も教師だし、面倒見てあげるわ」

「ありがとうございます、師匠」

「わーい! やったぁ! これで勝ち確!」

「勝ち確かどうかは、あなた達次第よ」


 調子に乗らないの、というように呆れた声でそう告げるミカエル。


 すると、


「あ、ちょっと待っていて下さい! ミカエルさん、いいものがあるんです!」


 何故か雅が興奮気味にそう言って、大急ぎでリビングを出る。


 そして五分後。


「あの、ミヤビちゃん? それは……?」

「女教師セットです! どうせなら、パッツンパッツンのスーツを着ている方が、それっぽいじゃないですか! これに着替えて下さい!」

「嫌よ」


 自室から持ってきた、明らかにミカエルには小さすぎるクールビズのスーツとタイトスカート、伊達メガネを見せて鼻息を荒くする雅に、ミカエルはばっさりそう返す。


 その後も雅はゴネたが、こんなん絶対エロいと、当然ながら却下されるのだった。




 ***




 さて、そういうわけで、優と真衣華に勉強を教えることになったのだが――


「んで、なんで雅ちゃん、そんな格好を?」


 持ってきたスーツ等を自分で着た雅を見て、真衣華が怪訝な顔をする。雅は伊達メガネを掛けながら、フフンと得意そうな笑みを浮かべた。


「今日の私は魅惑の女教師ですから」

「ちょっと待って。なんでみーちゃんが先生側? どっちかってーとこっちでしょ?」


 テストの点数うんぬん以前に、休学中の雅。一体お前は何を教えられるのかと、至極当然の疑問が出る。


 ノルンとミカエルも同じようなことを思って雅に視線を向けると、雅は伊達メガネを、生意気にも薬指でクイっと上げると、


「ふっふっふ! 舐めてもらっては困ります! こんなこともあろうかと、実は独学で学んできました!」

「はぁっ?」

「そしてお二人が受けたテスト、私も解いてみたんですけど、点数はこちらです!」


 勢いよく空中でスライドされる、雅の指。


 空中に現れる、ULフォンのウィンドウ。


 そこに現れる、答案用紙の数々。


 それを見た優と真衣華、さらにはミカエルとノルンが、あんぐりと口を開く。


 なんと二人よりも点数が良かったのだ。……なんなら希羅々よりも点数が良いくらいである。


「こ、この……天才肌めぇっ!」

「どやぁ!」

「うっざ! その顔マジうっざ!」

「うっわぁ……ヤバ、私、マジ頑張らないと駄目な感じ?」

「はっはっは! さがみん、どうせ赤点とって泣きついてくるだろうって分かっていましたからね! 教えられるように準備はしていますよ! まさか真衣華ちゃんのお役に立てるなんて思ってもみませんでしたけどね!」


 そう言ってのける雅だが、やっていることは普通に凄い。天才肌なんて言ったが、裏では相当な努力があったことくらいは、優と真衣華にも分かる。


 惜しむらくは、無駄に女教師のコスプレをしたせいで、そのありがたみや敬意がそんなに湧いてこないことか。


 まぁそれはともかく、実力的には申し分ないので、ミカエル、ノルン、雅の教師と共に、いざ追試の勉強を始める優と真衣華。


 そして、二十分後。


「ちょっとマイカさん、テスト範囲の単語、碌に覚えていないってどういうことですか」

「いやぁ……暗記ってちょっと苦手で」

「何をファムみたいなことを……暗記に得手不得手なんてありません。気合と根性です」

「ま、まぁまぁノルンちゃん。暗記だって、一応コツとかあるじゃないですか」

「ミヤビさん……そうやって甘やかすと、後が大変ですよ。――はい、マイカさん、単語帳開いてキリキリ覚えましょう!」

「ひえぇぇ……」


 ビシバシ厳しいノルン先生に、半泣きになる真衣華。試験に出る英単語を、ノルンに指示され発音&手書きコンボでひたすらに詰め込まされていく。


 しかも、


「あ、真衣華ちゃん。折角なので、一緒にテストに出る古文単語も覚えちゃいましょう! あとついでに日本史の元号も!」

「無理無理無理無理! 絶対無理!」

「大丈夫です! 優しく教えますから!」

「教科の違う単語を一遍に覚えられるわけないじゃん!」


 至極最もな真衣華の悲鳴。だが何せ時間が無いのだから仕方がない。


 一方、優はというと、


「こら、また計算間違いしているじゃない。簡単な問題でケアレスミスなんてしないの! 格好つけて暗算しようとしないで、ちゃんと筆算使いなさい!」

「でもミカエルせんせぇ……それじゃスピードが……」

「どうせ後半の文章題なんて解けないでしょ。公式に当てはめるだけの単純な問題で稼ぎなさい」

「うごご……!」


 ミカエルの正論がクリティカルヒット。文章題がチンプンカンプンなのはまさにその通りだから、グゥの音もでない。


「生物と地学もテキパキいくわよ。こっちもマイカちゃんみたいにしっかり暗記しないといけないから、気合入れて覚えて頂戴」

「せんんせぇ! 人間の脳には限界がありますぅ!」

「限界なんて超えなさい!」

「きょえぇぇ……」


 学校の先生の倍分かりやすいが、疲労は十倍の早さで溜まる。なんだか脳がオーバーヒートしてきた気がして、ともすれば口から煙が出そうだ。


 さらに二時間後、


「ほらマイカさん、そこ間違っていますよ。さっき教えたじゃないですか。一発で覚えて下さい」

「わぁーん! ノルンちゃんが鬼教官だー!」

「鬼とはなんですか! こっちはファムで手慣れているだけです!」

「ノルーン、その突っ込みもどうかと思うわよー」

「てか比率絶対おかしいって! なんで優ちゃんがミカエルさん一人で、私はノルンちゃんと雅ちゃんのダブルチームなのっ?」

「だって仕方ないじゃないですか。マイカさんが赤点とったニホン史とか古文とかは、私は教えられないんですから。ミヤビさん頼りです」

「ノルンちゃんは厳しいですけど、私は優しいじゃ無いですか。平均すればまぁ普通の厳しさで、丁度いいんじゃないですか?」

「そんなわけあるか!」

「真衣華、うるさい。ミカエルさんはミカエルさんで強敵なんだからね! 本職の教師に見られながら勉強する緊張感の半端なさ、分かる?」

「ユウちゃーん? 私の本職は研究者よー?」

「素人目には似たようなもんですよ!」

「さがみん、流石にそれをごっちゃにしているのは擁護できません。教師と研究者は全くの別物です」

「あーもう! 無駄話せずに頭に詰め込みましょう! 追試、落ちますよ!」


 ノルンの雷が落ち、ヒィヒィ言いながら勉強する優と真衣華。


 鬼教官三人の指導は続く。


「ここにレーゼさんがいなくて良かった」……優と真衣華は、心底そう思った。いればきっと、さらにスパルタになっただろうから。


 結局、この日は徹夜になった優達。……疲労感だけで言えば、人生で一番勉強させられた日だったかもしれない。少なくとも、高校受験でヒーヒー言っていた頃よりは勉強した。


 だがその甲斐あって、二人は何とか、追試をパス出来たのだった。

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