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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第53章 ラージ級ランド種レイパー体内~宮殿
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第467話『親仇』

「ええっ? お二人は、恋人同士なんですかっ?」

「あ、いや……改めてそう言われると恥ずかしいんだけど……」


 宮殿へと向かう途中、衝撃の事実を聞かされた雅。冬歌は「あはは……」と照れ臭そうに笑い、夏音も何とも言えぬ顔で明後日の方を向く。その反応がどうにも生々しく、そして初々しい。これはガチだと、雅は顔を真っ赤にしながら、口に両手を当てて興奮する。


 一方で、ちょっとショックも受けていたが。夏音には、「私達、苗字か名前に『音』って字が使われているなんて奇遇ですねー!」なんて適当な理由を付けてナンパしようかなんて考えていたから、呆気なく失恋してしまった形である。


 ……最も、ワクワクが大きすぎて、失恋ショックなんてすぐに遠くに消えていったのだが。


「え、あの、参考までに聞きたいんですけど! 恋人って、その……何する感じなんですかねっ?」

「聞いても面白いことは何も……。普通に一緒に生活して、二人で一緒に出掛けたりして……。多分、雅ちゃんが期待しているようなことは何も――」

「大有りっ、です! 一緒にお出かけって、それもうデートじゃないですかぁっ!」

【ミヤビ、声大き過ぎ】

「あ、そこで興奮するんだ。もっと大人の話を期待しているのかと……」


 なんかグイグイくる割に、意外と初心なぁ……夏音は、そう思って、本人には聞こえない声量でそう呟く。


 因みに、雅的にもそういう「大人なムフフ話」は聞きたい気持ちでいっぱいだ。ただ、それを聞くにはそれなりの度胸が必要で、悲しいことに雅はあまりにもチキン過ぎただけである。


「うわー、いいなぁ! え、あの、馴れ初めの話とか聞いちゃってもいいもんですかね? 参考までに。参考までに!」

「な、馴れ初め? てか、なんで二回言ったの? えっと、そんな面白いことは特に……。んー、夏音。話してもいい?」

「まぁいいよ。隠すようなものでもないし」


 天堂冬歌と長瀬夏音。今年で二十九歳となる彼女達の最初の出会いは、警察学校だ。特にドラマチックな出会い方をしたわけではない。普通に座学の授業で席が隣だったり、実技訓練で一緒だったりする機会が多かったというだけ。


 ただ、話していると何となく気が合った。冬歌も夏音もゲームが趣味。出身地も冬歌は西蒲区の巻地区、夏音は中之口地区で近い。アーツも冬歌が近接武器、夏音が遠距離武器で、一緒に組むとバランスの良いパーティになる。


「そんでもって、警察学校出た後の配属も、二人一緒に岩室駐在所になったから、何だか運命感じちゃってね」

「で、今から三年くらい前だったかな? それまでは先輩大和撫子が二人いたんだけど、異動になるって出ていって、そんな時に四体のレイパーが出たの」

「あー……ありましたね。ニュースにもなっていたので、私も知っていますよ」


 岩室にいる警察所属の大和撫子は冬歌と夏音の二人だけという、なんとも悪いタイミングだった。しかも出てきたレイパーがべらぼうに強い相手で、西蒲警察署の応援が到着するまで、二人しててんやわんやになりながら対処したものである。


「あの時はヤバかったよね。最初は男性上司が一人いたんだけど、途中で住民を守って病院送りになったし。住民も一丸となってレイパーを引き受けてくれたりして、本当にギリギリの戦いだった。その後は、二人の大和撫子が配属されたから、結構安泰になったけど。……まぁ、そういう戦いを一緒に乗り越えたからかな。今までは『相棒』って感じだったんだけど、それとは違う感情が出てきて……」

「何となくだけど、私も冬歌も、お互い無しの人生って考えられないかなって感じになって、後は自然と」

「どっちから告ったとかは無くて、強いて言うなら私の方から『一緒に暮らす?』って提案したくらいだよね。――ね、面白い話とかじゃないでしょ?」

「いえ、めっちゃ参考になりました!」


 ビシっと綺麗な敬礼を決め、そう言う雅。


 夏音が「もしかして、付き合いたい人でもいるの?」と聞くと、「そりゃあもう三千人くらい!」と即答されてしまい、苦笑いを浮かべるしかない。


【ミヤビ、そろそろ……】

「おっと、いけない。そろそろ敵の本拠地ですね。声を落とさないと……」


 カレンの注意に、雅はハっとさせられる。気づけば森は抜け、徒歩十分程度で到着というくらい、宮殿の近くまで来ていた。


 そしてここまで来れば、宮殿の全容も見えてくる。


 見た目は、屋根が半球型の、十階建てをした石造りの住宅だ。ホテルとは違う雰囲気で、やはり最初に受けた印象通り『宮殿』なのだろう。


「妙なところでしっかりしてるね、雅ちゃん」

「何せ私、自分の中にカレンさんって人がいますからね。彼女がよく見てくれているんですよ」

「え、何それ。もしかして多重人格?」

「似て非なるものです。――っと、あそこから近づきますか」


 雅が指差した方には、茂み。そこに身を隠しながら進めば、上手く敵に見つからずに宮殿まで辿り着けそうだった。


「そろそろ、レイパーに出くわす確率も高くなっているはず。辺りに警戒。私は左と前に意識を払う。夏音は背後と上、雅ちゃんは右と地面に特に注意を」

「オッケー」

「ラジャーです」


 人型種モグラ科レイパーのように、地中から姿を見せるレイパーさえいるのだ。いつどこから敵が出てくるか、分かったものではない。


 辺りに最大限の注意を払いながら、慎重に進んでいく三人。


 そして、


『気配を消して』


 冬歌が声を上げることなく、ULフォンのメッセージ公開機能を使ってそう指示を出す。


 言われるまでもなく、二人は可能な限り、息を潜めていた。




 三人から少し離れたところに、レイパーの集団が歩いているのが見えたからだ。




『奴ら、宮殿に向かっていますね。跡を付けますか?』

『危険だけど、状況は把握したいし、そうしよう』

『賛成』


 生唾を飲み込みこんで、三人はレイパーの跡を付けていく。レイパー集団は三人には気づく様子を見せることなく、ただひたすら無言で宮殿へと向かっていた。


【……あいつら、仲が悪いのかな? 雑談とか、全然する様子がないけど……】

(偶にレイパー同士で会話しているところに出くわしますけど、大体喧嘩しているような雰囲気ですよね。そもそも、ちゃんとコミュニケーションする気があるのか疑わしいです)


 思えば、タイムスリップ事件の際のメタモルフォーゼ種レイパーも、過去の自分と最初こそ多少仲良さそうなやりとりをしていたものの、すぐに相手に対して悪態を吐いていた。レイパーの個性的なものではなく、種族的な考え方や常識として、ああいうものとしか思えてならない。


 そんなやりとりをしながらも、遂に宮殿の出入口へと辿り着く。


 鉄柵は無く、誰でも自由に入れるようになっているようだ。それが却って不気味である。


 だが、そんなことはあまり気にならなかった。そこで、三人は信じられないものを見たから。それは――




 宮殿に出入りする、大量のレイパーだ。




 三人は慌てて、もっと離れた茂みへと逃げる。


「え、うわ……何あれ……」


 夏音が思わず顔を引き攣らせ、震える声でそう呟く。


「……何体いるんだろう? 十体二十体ってレベルじゃないよね。三十体は軽く超えている気が……」

「ここ、そんなに大事な場所ってことなんですかね?」

「多分、これだけレイパーがいるってことは、そうなんだと思う。でも、何のための場所なのかは分からないね」

「レイパーが輪廻転生するために必要な施設だったりしないかな? それなら、ここを破壊すれば、敵にとっても大きな痛手になると思うんだけど……」


 思わぬ光景に、筆談することを忘れてそんな会話をする三人。


 幸い、その声がレイパー達に聞かれることは無かったが。それだけこの異様な光景に、正常な判断力を失ってしまったということでもある。


「そうか……。あの鷹のレイパー、多分私をここに連れてきて、こいつら全員で袋叩きにするつもりだったのか……」

【……考えただけで、ゾッとするね。改めて二人に感謝しないと……】

「でも、ここからどうする? いつまでも隠れっ放しってわけにもいかないけれど……」

「流石にこれじゃ、突入というわけ……に、は……」

「ん? 雅ちゃん、どうしたの?」


 急に言葉を失った雅に、怪訝な顔をする冬歌。


 しかし、雅はその質問には答えない。否、冬歌の声が、耳には入っていなかった。――雅の目は、ある一点で固定されていた。


 宮殿の出入口……そこから出てきた、ある一体のレイパーに、見覚えがあったから。


 全身を黒い刺に覆われた人型のレイパー。手には、紐が付いた二股の銛。


 直接見たのは初めてだが、その特徴的なフォルムは、見間違えようがない。




 そう、奴は――『人型種ウニ科』。




【あ、あいつ……生きていたのか! 確かに倒したわけじゃなかったけれど……!】


 カレンの震える声を、どこか遠くに聞きながら、雅はふいに、一歩前に踏み出してしまった。


 慌てた夏音に、服の裾を後ろから引っ張られ、ハッとしてすぐに足を元に戻す。


「知っているレイパー?」

「え、ええ。両親が死ぬ切っ掛けになった奴で……直接手を下されたってわけじゃないんですけど……」

「親の仇ってことね。……討たせてあげたいんだけど……」


 夏音の悔しそうな言葉に、雅は震えながらコクンと頷く。


 頭では分かっている。この大量のレイパーがいる状況で、人型種ウニ科レイパーに突撃しに行けば、どうなるか。


 それでも本能的に動きそうになる体を抑えるのが、たまらなく苦しかった。


 そんな中、


「――ん?」


 ふいに、冬歌が異変に気付く。


 ひっきりなしに宮殿に出入りしていたレイパーが、一斉に動きを止めたのだ。


「二人とも――」


 嫌な予感がして、二人に退避の指示を出そうとした冬歌。


 ――だが、それは少しばかり遅い。


「っ! しまった! 二人とも後ろを!」

「えっ?」

「うわっ!」


 目撃した大量のレイパー。奴らの気配に気圧されて、気付かなかった。




 自分達の背後にも、五体ものレイパーがいたことに。




 丁度、自分達を攻撃しようとしていた。今一斉にレイパー達が動きを止めたのは、それに気づいたからだ。


 慌てて茂みから飛び出す三人。だが、その先は最悪の場所……宮殿の出入口の方。


 つまり、レイパー達の前に、わざわざ出てきてしまったのだ。


「二人とも! 戦闘体勢!」


 夏音がそう叫ぶと同時に、大量のレイパー軍団が、我先にと三人の方へと押し寄せる。


 あっという間に始まる、混戦。


 鋭い爪や牙、武器を持っているレイパーはそれで攻撃してくる中、斬撃や伸びるハルバード、ビームが応戦。


 だが、当然戦況は圧倒的に雅達が不利。あまりの物量差に、防戦一方で耐えるのが精一杯だ。


「くっ……どこかに逃げる場所はっ?」

【ミヤビ! 上だ!】

「えっ? ――っ!」


 カレンの指示する方を見た雅は、一瞬顔を強張らせる。


 そこは、宮殿の三階辺り。そこは、窓が開いていた。


 あそこに飛び込めば、少なくともこいつらからは逃げ出せる。……が、同時に敵の本拠地に突入するということでもある。


 今はあの中に敵がいることは見えないが、いない訳がない。


 だが、


(やるしか、ない……っ!)


 このままここにいては、全滅する。


 何がいるか分からない。もっと悪い状況になるかもしれない。それでも、この状況を打破するには、それしか方法がない。


「二人とも、私に掴まって!」


 そう言うやいなや、雅は二人の返事も聞かずに体を抱き寄せる。


 そして、『共感(シンパシー)』でセリスティアの『跳躍強化』を発動すると、迫り来るレイパー包囲網の中、大きくジャンプする。


 獲物が逃げ出し、騒ぐレイパー。悲鳴を上げる冬歌と夏音。


 弧を描いて窓の方へと跳んでいく雅達に向かって、レイパーが飛び道具で攻撃してくるが、それは当たらず。あるいは冬歌と夏音が咄嗟にアーツでそれを防ぐ。


 何とか無事に、窓から中へと侵入した三人。


 そこは、階段の踊り場。薄暗い空間だが、周りは見えないわけではない。


 しかし、そこには――


「くっ……やはりここにも……っ!」


 数は三体だが、人型のレイパーがいた。


「冬歌! 雅ちゃん! 下から敵の援軍が来た!」

「逃げるなら上っ? あぁ、もう!」

「とにかく上がりましょう!」


 雅が剣銃両用アーツ『百花繚乱』をライフルモードにし、無茶苦茶にエネルギー弾を乱射。


 冬歌が斧槍型アーツ『三日月之照』を『ムーンスクレイパー』のスキルで伸ばして振り回し、それでもなお近づいてきた一体は、夏音が射出機型アーツ『一気通貫』のビームで吹っ飛ばす。


 そしてすぐに、三人固まって四階へと駆け上がるのだった。


 レイパー達が、下と上から彼女達に迫る――




 ***




 一方で、遡ること三時間。


 ここはラージ級ランド種レイパー体内、海岸エリア。


 そこで二体のレイパー――イービルアイ種レイパーとミドル級セイウチ種レイパーだ――と戦う、シャロン、志愛、ファムの三名。


「ふんっ!」


 一部だけ竜化状態のシャロンが、イービルアイ種レイパーが遠くから放ってきた黒いビームを、腕を振るって明後日の方向に弾き飛ばす。


 そして間髪入れずに、目の前で大きな口を開けていたミドル級セイウチ種レイパーの牙に、強烈なテールスマッシュを喰らわせた。


 バキリという音と共に、圧し折れ地面に落ちるレイパーの牙。


 志愛の攻撃でもびくともせず、逆にアーツの方が壊れてしまった程の強度だったそれが、こうも呆気なく折れた事実に、ファムと志愛が一瞬だけ歓喜の声を上げたが、


「ええっ?」

「何だトッ?」


 何てことなさそうに、牙がすぐさま生えてきて、唖然とさせられる。


 小さく舌打ちをするシャロン。これは梃子摺りそうだと、直感させられた。


「あぁっ! もうっ!」

「パトリオーラ! 飛ぶな! あの単眼のレイパー、飛んでおる相手への狙撃性能が高い!」


 セイウチ種に攻撃してやろうとしたファムに、シャロンがさかさず警告の声を飛ばす。


 その言葉を裏付けるように、ファムに向かってかなり正確にビームが飛んできた。


 ギリギリのところで体を反らしてそれを躱し、すぐに着陸するファム。困ったというように、険しい顔で頭を掻く。


 ファムの戦い方は、敵の手が届かないところから羽根を飛ばし、隙を見計らってドロップキックや踵落としを決めること。空を飛ぶなと言われてしまえば、どうやって戦えというのか。


「ファム! 下がっていロ!」


 志愛が地面に落ちたレイパーの牙を拾いにいく。志愛のアーツは、棒状のものを形状変化させて作るという、特殊なものだ。アーツが壊れても、すぐに新しいものを補充できるというメリットがある。


 近くに木の枝等が無くて困っていたが、シャロンが折ってくれた牙があるなら問題無い。


 しかし、それを拾い上げた、次の瞬間。




「痛ッ!」




 痺れるような痛みが指先に走り、一気に眩暈と頭痛、吐き気が襲ってきて、志愛は膝を付いてしまう。


 彼女は知らなかった。――ミドル級セイウチ種レイパーの牙には、毒があることを。

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