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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第53章 ラージ級ランド種レイパー体内~宮殿
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第466話『促進』

 雅を助けてくれた二人の警察所属の大和撫子。


 彼女達の制服のベストには、新潟県警の文字と、そのシンボルマークが付いている。


冬歌(とうか)! その人をこっちに!」

「うん! 夏音、分かった!」


 冬歌と夏音、そう呼び合う二人の女性。


 黒髪シニヨンの髪型の方が冬歌で、髪を一つ結びにしている方が夏音だ。


 そして夏音の方は、名前は今初めて聞いたが、雅も知っている人物。数時間前にペリュトン種レイパーに襲われているところを助けた人である。雅も空中に投げ出され、『アンビュラトリック・ファンタズム』やセリスティア、レーゼ、ファムの力を借りて何とか凌いだので、その記憶と合わせてよく覚えていた。


 冬歌に肩を貸してもらいながら、夏音の方に連れていかれる雅。雅は「ありがとうございます」とお礼を言いながらも、視線の先で、二人の持つアーツを観察する。


 ミドル級鷹種レイパーにしがみついていた雅に向かって伸ばされた、あの三十メートルもの異常に長かった白金の斧槍(ハルバード)。それは、冬歌の手に握られている。今は何故か、全長三メートル程の普通のサイズになっているが。


 斧部は、まるで三日月のような形状になっている。色も合わせて、実物の月のようなそれは、柔らかな光を帯びていた。これは斧槍型アーツ、『三日月之照(みかづきのてる)』。


 一方で、夏音の手には、野球ボール程度のサイズの小さなエンブレム。一見すると八卦路のようにも見えるが、正八角形の八卦路とは異なり、正七角形の形状をしている点で異なる。真ん中には、先のビームを発射口がある。これは射出機型アーツ『一気通貫』である。


「た、助かりました! ――っ! 二人とも、奴が来ます!」


 雅が警告を飛ばした直後、ミドル級鷹種レイパーが甲高い声を上げ、翼を広げる。そして、片翼から緑の血を流しながらも、三人の方へと勢いよく突っ込んできた。


 地面スレスレの低空飛行だ。怪我をした翼は大空を飛べなくとも、これくらいなら出来るらしい。


(っ、足が……っ?)


 避けようとした雅だが、足が言うことを聞かない。ここまでに複数回の戦闘をこなし、挙句先程まで過度な緊張状態にあったからか、疲労が足にきてしまったのだろう。


 レイパーは、時速百キロ以上ものスピードで突っ込んできている。その目は、雅へとロックオンされていた。このままでは衝突は必須だ。


 だが、


「させないよっ!」


 冬歌が三日月之照を大きく横に振るうと同時に、斧槍の柄がグングンと伸びていく。そして、刃を突進してくるレイパーの横っ面に叩きつけ、その進行方向を僅かに逸らした。


 少しの角度差でも、距離があれば、最終到着地点は大きくずれる。翼が三人の頭上を掠めたものの、それだけで済んだ。


「す、凄い! 今のはスキルっ?」

「うん! 『ムーンスクレイパー』! アーツを伸ばして、鞭みたい出来るの! ――夏音!」

「分かってる!」


 既に、一気通貫の発射口をレイパーへと向けていた夏音。光を収束させ、再び青色のビームを発射する。


 握りこぶし程の太さのビームは、レイパーの脇腹に命中。爆音と共に、敵の体に僅かな火傷痕を作る。


【ミヤビ! 私達も!】

(はい!)


 剣銃両用アーツ『百花繚乱』。それをライフルモードにし、雅も敵に向かって桃色のエネルギー弾を放つ。狙いは、夏音が今攻撃を当てた、その火傷痕があるところだ。


 が、


「キュオォォォォオンッ!」


 レイパーは怒り狂ったようにそう叫び、翼をはためかせてエネルギー弾を弾き飛ばしてしまう。


 そして、再び三人の方へと、勢いよく突っ込んできた。


「同じ手を……っ!」


 冬歌が再び、『ムーンスクレイパー』を使いながら三日月之照を振るう。伸び、鞭のようにしなるアーツの攻撃が敵の顔面へと迫るが――


「ええっ?」


 レイパーとて、同じ攻撃は通用しない。


 羽を大きく羽ばたかせ、高く舞い上がり、今の一撃を回避してしまった。


 レイパーの顔は、少しばかりキツそうな様子。今の飛翔は、敵にとってもかなり無理をしたのだろう。


「二人とも、下がって!」


 空から急降下し、鉤爪を振りかざすレイパー。ようやく体の感覚もしっかりとしてきた雅が、百花繚乱をブレードモードにしながら前に出る。


 全身に防御用アーツ『命の(サーヴァルト・)護り手(イージス)』による光のバリアを展開しながら、雅は敵の攻撃を、剣で受ける。


 一発では終わらない。二撃、三撃と振るわれる鉤爪。それに、雅は力一杯迎え撃っていく。


 そして、四撃目の攻撃を、バックステップで大きく躱した。標的を失った爪が、地面に当たって土塊を巻き上げる。


 土煙で遮られる視界の中、雅は流れるような動きで百花繚乱をライフルモードにする。敵の姿は見え辛いが、雅の視線はブレない。敵の位置、そして次に攻撃をする、その場所を。


 腕を上げ、銃口を向ける先は、ミドル級鷹種レイパーの喉。土煙をくりぬいて、そこに桃色のエネルギー弾をぶち当てる。


 抉り込むように入った今の一撃に、さしものレイパーも大きく怯まざるを得ない。


「冬歌! 今よ!」

「うん!」


 間髪入れずに、冬歌がスキルを使いながら三日月之照を振るう。その一撃がレイパーの横っ面に叩きつけられ、大きく吹っ飛ばした。


 夏音が止めの一撃を当てようと、一気通貫の発射口を向け、ビームを放つ……が、


「っ? あぁっ!」


 レイパーが翼を広げ、空高く舞い上がってそれを躱してしまった。今まで左翼の付け根にあった傷が、いつの間にか消えている。急降下の攻撃から今の間で、回復してしまったのだ。


「ど、どうしようっ? あんなに空高く飛ばれちゃ、勝ち目がないよっ!」


 既に高度二百メートルまで到達したレイパーを見て、夏音が絶望の声を発する。一気通貫は、ビームを一発撃ったら三十秒は使えない。冬歌も、スキルでアーツを伸ばせるが、あまりやり過ぎるとその分扱いが難しくなる。雅の百花繚乱のエネルギー弾も、ここまで敵との距離が開いていると、簡単に躱されてしまうだろう。


 こちらの攻撃の隙を突き、空から一方的に攻撃をされてしまえば、勝ち目がない。どうすれば……夏音と冬歌がそう思っていると、


「夏音さん! そのアーツ、『StylishArts』製ですかっ?」

「えっ? え、ええ!」

「やった! なら合体出来る! こっちに! 冬歌さん! フォローお願いします!」

「何をするつもりか分かんないけど……取り敢えず分かった!」


 返事をする冬歌に、困惑しながらも雅に駆け寄る夏音。


 雅が百花繚乱を差し出すと、その柄の後ろ側が開く。出来た空間に、夏音の一気通貫を入れると、柄が一気通貫をガッチリくわえ込んだ。


「こ、これは?」

「夏音さん! 私のアーツ、しっかり握って! ――行きますよ!」

「えっ? ――きゃあぁぁぁあっ?」


 言われた通りに、雅が持っている合体アーツの柄を、夏音が握った瞬間。


 柄の底に嵌った一気通貫が、火を噴いた。


 まるでロケットミサイルのように飛んでいく合体アーツと、それを握って一緒に飛んでいく雅と夏音。


 百花繚乱からエネルギーを貰った一気通貫が、それを爆発力に変換し、猛スピードで空のミドル級レイパーへと向かっていく。地上で発せられた冬歌の驚きの声、そして二人の悲鳴をおきざりにする速度で、敵へと突っ込んでいった。


 レイパーは空を動き回って、合体アーツの攻撃を躱そうと試みるが、その動きに合わせて合体アーツも進路を変える。レイパーを決して逃がさない――それが、アーツ越しに雅達にも伝わってきた。


 レイパーに近づくにつれ、錐揉み回転をしだす合体アーツ。遠心力に飛ばされまいと、絶叫しながらも柄を握る手に力を入れる雅と夏音。


 これは避けられないと悟ったレイパーが、せめて迎え撃とうと爪を掲げる。


 だが、合体アーツはその一撃を躱し――ミドル級鷹種レイパーの腹部に命中した。


 悲鳴を上げるように啼くレイパー。回転する合体アーツは、敵の毛を引きちぎり、肉を抉り、噴き出す鮮血を弾き――そして、合体アーツに掛かっていた抵抗が、嘘のようにフッと消え失せる。


 刹那、雅と夏音の後ろから、爆発音が鳴り響いた。


 熱と爆風に煽られながらも、落下していく雅と夏音。


「二人とも! これに!」


 冬歌が三日月之照をスキルで伸ばし、二人の体に巻き付けて引き寄せる中、二人はここで、ようやくミドル級鷹種レイパーを撃破したという実感を湧かせるのだった。




 ***




「本当に助かりました……! お二人が来てくれなかったら、どうなっていたか……」


 ミドル級鷹種レイパーを撃破してから少しした後のこと。雅は、改めて二人にそうお礼を言って、頭を下げる。


「いや、気にしないでよ。大和撫子なら、助け合うのは当然だしね」

「先に助けてもらったのは私の方ですし、お礼を言いたいのは寧ろこっちの方っていうか……。こんな形で、あなたを助けるチャンスがくるなんて思ってもみなかった」

「私も、まさかこんなに早く再会出来るなんてビックリでした。あ、そうだ。自己紹介がまだでしたね。私は束音雅です。お二人は? 互いにトウカさんとカノンさんって呼んでいましたけど……」

「おっと、ごめん。私は天堂(てんどう)冬歌。新潟県の、西蒲警察署所属の大和撫子なの」

「私は長瀬(ながせ)夏音って言います。所属は冬歌と同じ。私達二人、普段は岩室駐在所で働いています」

「岩室? あぁ、温泉がいっぱいあるあそこですね! うわぁ! 昔、祖父母に連れて行ってもらったことあります!」


 新潟市の南西に位置する西蒲区。岩室は、その一番端にある温泉街だ。お隣には観光地の弥彦村がある。


 まだ祖父母が生きていた頃は、毎年夏休みか冬休みに、小旅行として温泉に入りにいったものだ。


「おっと、雑談している場合じゃ無かった……。私、実はあそこに見える宮殿に向かう予定だったんです。お二人も、やっぱりあれが気になって?」

「うん。なんだか妙な感じがしたから……。そしたら、途中で雅ちゃんが、あのレイパーに捕まっているのが見えて、それでこっちに来たの」


 夏音の言葉に、冬歌も「そうそう」と肯定する。やはり、他の人から見ても、あの場所は何か異様な感じがするらしい。


「折角ですし、一緒に行きませんか? お二人のことももっと知りたいですし、お互いの話とかしながら……ね?」


 雅の提案に、夏音と冬歌も、「喜んで」と言って頷くのだった。

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