第460話『豚怪』
「戦うって……王女様、アーツは持っておられるのですか……っ?」
自信満々な顔のスピネリアに、恐る恐るそう尋ねる愛理。見たところ、スピネリアは丸腰だ。
ペリュトン種レイパーにダメージを与えているところは見ていた。ならば当然、何かしらのアーツは持っているのだろう。そうでなければ、戦場には来ないはずだ。が、この状況下でもアーツを出さない彼女を見ると、どうしても不安になってしまう。
ランド種の体内に吸い込まれた際、落としてしまった……その可能性は、充分にあるのだ。
「心配しないで、シノダ。ちゃんと――」
「ライ、ラヤト、ノノムタフメ!」
スピネリアが最後まで話すより先に、動いたのはミドル級オーク種レイパー。
レイパーは下品な笑い声を上げてそう叫び、その手に持った太い棍棒を、愛理とスピネリアに力一杯に振り下ろす。
空気を乱暴に振り切って放たれた一撃。まともに喰らえば即死だろう。地面に血をぶちまける自分の姿が容易に想像出来た愛理は、何とかして敵の一撃を受け流そうと、青い顔をしながら刀型アーツ『朧月下』を頭上に構える。
そんな中、スピネリアは大きく一歩前に踏み込むと、愛理が制止の声を掛けるより早く、指をパチンと鳴らす。
瞬間、目の前に出現する、厚さ三十センチ程もある巨大な土壁。
それがオークの棍棒を真正面から受け止める。
が……刹那、轟音が鳴り響き、土壁に大きな亀裂が入った。
「っ? ヤバいっ!」
「あら、意外と強力な攻撃なのね」
「マヤトモギ、クゾ」
二発目の棍棒の攻撃が放たれ、今度こそ土壁は砕け散った。
だが、そこに二人の姿は無い。――土壁に罅が入ったところで、二人ともその場から離れていたから。
どこにいるのかと、ミドル級オーク種レイパーが辺りを見回そうとすると、
「これはどうかしらっ?」
右の方からスピネリアの声が聞こえてきて、直後、再び指をパチンと鳴らす音がした。今度は空中に、二メートル程の氷の槍が出現する。
もう一度指を鳴らすと、それがレイパーの方へと飛んでいく――が、ミドル級オーク種レイパーは、ごつくて太い腕で氷の槍を弾き飛ばしてしまった。
ニタァ……と笑うレイパー。お前の攻撃等、まるで効かないと言わんばかりの顔をする。
だが、レイパーは気づかない。もう一人の少女、篠田愛理がスピネリアの近くにいないことに。
彼女は――
「はっ!」
「ッ?」
レイパーの背後に回っていた。スピネリアがレイパーの気を引き、その隙に回り込んでいたのだ。
愛理から放たれる斬撃。狙いは、レイパーの足の裏の関節。
しかし――
(くっ? 硬いっ?)
元々の肉質なのか、骨が近いからかは分からない。が、朧月下の刃は、ミドル級オーク種レイパーの皮膚に少し入り込んだところで止まり、痺れるような衝撃を愛理の手に伝えていた。
無論、レイパーに大したダメージ等あるはずもない。痛みに若干顔を顰めてはいるが、精々その程度だ。
怒り狂ったレイパーの声が、愛理の鼓膜を震わせる。ヤバい――本能がそう察知し、瞬間、愛理の体を光のバリアが覆い出す。防御用アーツ『命の護り手』だ。
バリアが完全に展開されるのとほぼ同時に、愛理の体にレイパーの蹴りが直撃する。この体格から放たれる蹴りは、凄まじい威力だ。命の護り手を使っていても、愛理の体の骨がミシミシと恐ろしい音がする。
痛みと苦しさの両方でわけが分からなくなった愛理は、悲鳴を上げることも出来ず、呆気なく吹っ飛ばされた。
落ちる先は地面。そこに、頭から落下し、あわや首の骨が逝くと思われた、その瞬間。
「シノダ!」
スピネリアが指を鳴らすと、地面がまるでトランポリンのように柔らかくなり、愛理の体を優しく受け止めてくれる。
「ちょっと! 大丈夫っ?」
「ぐっ……な、何とか……! しかし、どうしたものか……」
軽く吐血しながら、痛む胸元を手で庇いつつ愛理はそう呟く。
敵の体が、想像以上に硬い。あれでは、とても斬撃でダメージを与えることも出来ないだろう。時間を掛けて同じところを何度も斬りつけ突破するという手もあるが、あのパワーの前では、非現実的と言わざるを得ない。
ドシ、ドッシと音を立て、勝利を確信したような顔で近づいてくるレイパーに、二人は後退る。
「……シノダ。何とか三十秒くらい、あのレイパーを引き付けられる?」
「た、多分。……何か、作戦がおありで?」
「ええ。ちょっと耳を貸して」
レイパーと距離を取りながら、スピネリアは愛理の耳元に顔を寄せる。
囁かれる作戦を聞いた愛理は一瞬目を見開き……つい反射的に反対しようと口を開いてしまう。
その作戦は、愛理は勿論、スピネリアも危険に晒される方法だから。
だが、すぐに唇をギュッと結ぶ愛理。
自分の攻撃は、悔しいけれども通用しなかった。この状況を打開するためには、スピネリアの作戦に乗っかる以外の方法は思いつかない。
それでも、
「……危険を感じたら、私を置いてでもすぐに逃げてください。それを呑んでくれるなら、何とかしましょう」
せめてもの意地として、愛理は絞り出すようにそう告げる。
が、
「何言っているのよシノダ。そんな真似、するわけないじゃない。――逃げるなら、二人一緒によ」
こんな状況でも、イタズラっぽく、若干の硬さを残した笑みを浮かべて、スピネリアはそれを突っぱねた。
「全く……我儘なお姫様だ。自分の身くらい、一番に考えて頂きたいものですが……」
「王族は面子も大事なの。ここでシノダを置いて逃げたら、いい笑いものだわ。――さ、やりますわよ!」
「あぁ、もう!」
一歩前に進み出たスピネリアに、やけっぱちにそう吐き捨てて、愛理も覚悟を決める。いくら反対したところで、スピネリアは自分の作戦を貫くつもりなのだろう。ならば、最悪の結末にはならないように、出来ることを精一杯やらなければなるまい。そう思った。
スピネリアが指をパチンと鳴らすと、冷たい風が吹き荒ぶ。それはやがて霙が混じり、雪や霰へと変わり、吹雪へと姿を変えていく。それが、ミドル級オーク種レイパーの全身を襲っていた。
このまま動きが鈍れば儲けものだが、
「ライ、ホクホ、シッネンオ!」
レイパーは、へっちゃらと言わんばかりに吠える。吹雪を払おうと、我武者羅に棍棒を振り回す動きに、欠片の鈍りもない。
そんな様子に、スピネリアは口を尖らすも、特に焦ることもなかった。この吹雪の狙いは別にあるのだから。
「さぁシノダ……頼むわよ!」
スピネリアが小さくそう叫んだ、その刹那。
「こっちだ!」
レイパーの耳に、右から愛理の声が聞こえてきた。
見れば、愛理はもう既に、すぐそこにいた。吹雪に殺気を隠し、そこまで接近していたのである。
「ラコリ、ライテモトヨトレ!」
近づいてきた獲物を叩き殺そうと、棍棒を叩きつけるミドル級オーク種レイパー。しかし、その動きはあまりにも大振りだ。躱すのは難しくない。
地面の方で轟音が鳴り響く中、愛理は敵の腕を斬りつける。だが、傷は浅い。
「ラコリタマルビメ、メモトレ!」
ゲラゲラ笑うレイパーは、横薙ぎにするように蹴りを放つが、愛理は上手く相手の股をくぐってそれを回避。お返しと言わんばかりに、ふくらはぎの裏側に斬撃を命中させる。
苛立つように呻くレイパーは、振り返りながら棍棒を振るうが、愛理には当たらない。
我武者羅に振るわれる棍棒を、吹雪の視界の悪さを盾に、次々と回避していった。体に纏わりついていく雪を振り払うように、攻撃の速度を上げようとするレイパーだが――
「っと!」
愛理が、振り下ろした棍棒を掴む腕、それを踏み台にして顔面まで飛び掛かってくる。そして、
「グギャァッ!」
さかさず放たれた斬撃が、導かれるようにレイパーの眼へと直撃した。
レイパーが血を噴き上げながら絶叫する中、さらに間髪入れずに、もう一発の斬撃が放たれる。それをレイパーが仰け反って避けた刹那――愛理が、レイパーの背後に瞬間移動する。敵が攻撃を避けた時、死角にワープ出来る『空切之舞』のスキルだ。
そして、三発目の斬撃が繰り出されるが、
「トキウトォォォオッ!」
レイパーは振り向き、愛理に向かって大きく口を開く。激痛と吹雪の中、頭に血が上っていても、愛理の気配を正確に捕らえていたのだ。
ムワっとした臭い息と共に、レイパーの顔面が愛理に迫ってくる。口に生えた、ごつい歯に噛み砕かれれば、即死だ。
愛理が顔を強張らせた、その瞬間。
「あら、そうはさせないわ」
スピネリアの声と共に、吹雪の中でパチンという音が小さく聞こえ、
「――ッ?」
ミドル級オーク種レイパーの体が、いきなり沈む。すぐ側にいたはずの愛理が、一気に遠ざかっていく。
片足が地面に潜る奇妙な感覚……下を見たレイパーは、驚きの声を上げた。
その感覚は、嘘では無かったのだ。自分の右足の地面が流砂になって渦巻いており、本当に足を飲み込んでいた。スピネリアの魔法である。
そしてそのスピネリアはというと――レイパーの頭上に舞い降り、右手をその頭部に押し付けていた。
威嚇にも近い笑い声を上げるレイパー。ここまでのスピネリアの魔法によるダメージは、殆ど無い。何をしようが無駄な事……そう思っていた。
だが、直後。
「これで終わりよっ!」
スピネリアの手から激しいスパークが放たれると共に、ミドル級オーク種レイパーは絶叫する。
全身を駆け巡る雷が、その体を焼き、筋肉をズタズタにしていったのだ。
爆ぜる棍棒。肉が切れ、血が蒸発しながら噴出していく。
「はぁぁぁぁあっ!」
スピネリアが気力を振り絞るように魔力をつぎ込むと、スパークは威力が強まっていく。それを抜きにしても、レイパーは相当なダメージを受けていた。それは何故か。
吹雪の本当の目的は、敵を凍らせることでも、動きを鈍らせることでもない。愛理が戦いやすい舞台を作るわけでも無い。
霙や雪に塗れた体が、激しく動いて熱を持つ……そうすれば必然、レイパーの体は濡れる。これが狙いだった。そうすれば、電撃魔法の威力は跳ね上がるから。
愛理に時間を稼がせたのは、スピネリア自身がレイパーに接近する隙を作るためでもある。
「す、凄い……っ!」
見ている愛理が、聞くだけで震えるような、恐ろしいバチバチ音。シャロンの雷の迫力に迫る程だ。
本人達の体感では、かなりの時間。しかし実際は、僅か三十秒。
十分に電撃を流し終わり、スピネリアがレイパーの頭から飛び降りた時にはもう、ミドル級オーク種レイパーは真っ黒になっていた。
「どう? わたくし、結構強かったでしょう?」
スピネリアが得意気な顔でそう尋ねると同時に、ミドル級オーク種レイパーは爆発する。
愛理はただただ、感服するしかなかった。――これが、魔法大国オートザギアの王女の力か、と。
「……お、御見それしました。まさか、ここまでお強いとは……」
「シノダも、わたくしの時間をよく稼いでくれましたわ。――ほら、頭を出しなさい。撫でてあげるから」
「え、えぇ……この歳になってそれはちょっと……」
この王女様は、一体何を仰られているのか。何となく不敬な気がしても、愛理は断らずにはいられなかった。
「何よその顔は。王族がなでなでしてあげるんだから、素直に受けなさいよ。早く頭を降ろしなさい。あなた、背が高いんだから」
「少し背伸びすれば、手くらい届くでしょうに」
「それは無理よ。……えっと……さっき着地した時に、足を挫いてしまって……」
「前言撤回。何をやっておられるのですか……」
「いや、ちょっと休めば良くなるはずよ。ちょっとグキってしちゃっただけだから……ね?」
無駄に格好つけるからこうなるのだと、溜息を吐く愛理。
仕方なくスピネリアをおんぶして、宮殿の方へと向かうのだった。
***
一方、その頃雅達も、愛理達と同じく、いかにも何かがありそうな宮殿へと向かっていた。あれから特にレイパーとも遭遇していない。広大な草原の光景が続く、順調な道筋だ。
「……ここがレイパーの体内でなければ、長閑で良い散歩日和なんですけどねぇ」
空を仰ぎながら、呆れたように呟く雅。その言葉は、風に流され消えていく。
「体内なのは間違いないんですわよね? なら空に向かえば、自ずと奴の体のどこかにぶつかるはず……。こんな時にパトリオーラさんやガルディアルさんがいないのは困りましたわね」
「そう言えば、あの二人、見ないわね。空を飛べるなら、真っ先に目に映りそうだけど……」
希羅々が怪訝な顔をし、皇奈が辺りを見回しながらそう答えた。
言われて、雅も「確かに」と頷く。見晴らしは悪くないこの場所、二人の姿を全く見ていないというのは不思議な話だった。真っ先に飛んで、他の人達の姿を探しそうなものだが。
「飛べるアーツやスキルを持っている人は何人かいたわ。その人達の姿も見えない。……となると、空に何か仕掛けがあるのかしら?」
「あー、一定以上は飛べないようになっている、とかですか?」
「……もしくは、ここから見えない程遠くにいる、という可能性もありますわね」
「これだけ広い場所です。その可能性は十分にあり得ますよね」
そう言って、後ろを振り返る雅。自分達が最初に目を覚ました場所は、もう見えない。歩き始めて、かれこれ一時間半といったところか。
ラージ級ランド種レイパーの全長は約二百五十キロメートル。新潟県の端から端の直線距離とほぼ同じということを踏まえると、未だにファム達の姿が見えないことも、なんら不思議では無い気がした。
すると、
「……ん?」
何かに気付いたように、雅が目を細めて遠くの景色を見る。丁度、木が生い茂っている辺り。その向こう側は、森になっていた。釣られて希羅々と皇奈もそちらを見れば、そこには――
「セリスティアさんっ?」
「あぁ! 真衣華っ!」
セリスティアと真衣華、二人がこっちに向かってきていた。真衣華はセリスティアにおんぶされている。
二人もこちらに気が付いたようだ。真衣華が、大きく手を振ってきた。
ホッとする雅達。さっきまであんな話をしていたからか、仲間が無事だということが分かると、余計に安心した。
「おっしゃ! ミヤビ達と会えたぜ!」
「ああ希羅々っ! やった良かったぁっ! 皇奈さんもいるし!」
何とか再会出来たことに、手を取り合って騒ぐ雅、希羅々、セリスティア、真衣華。すると、皇奈は手をパンパンと叩いて注意を促す。
「ヘイ、ミス橘とミスファルト! 随分傷だらけだけど、何があったの?」
「あ、悪い、報告が先か! 実は四体のレイパーに囲まれてよ。二体は倒して、何とか逃げてきたんだ。途中から追ってこなくなったのか、姿は見なくなったけどな」
「いやー、セリスティアさんが凄かったんだよ。大変だった……」
「こっちも三体のレイパーと戦いましたわ。一体には逃げられましたが……」
「逃げた奴の行方は分からないんですよね……。結構怪我はしていたから、すぐに暴れることはないはずですけど……」
「となると、分かっているだけでも最低三体のレイパーがまだ残っている、と……。困ったわ、はぁ……」
(……Hurt? あぁ、そう言えば、『お金に困る』とかの困るに使う単語でしたわね。確か、怪我をさせるとかの意味もあったような……)
もしかして、またアメリカンジョークかと聞きそうになる口を、ギュッと結んでモゴモゴさせる希羅々。
雅達がどこに向かっているのか、という話もして、一先ずは一緒に行動しようということになり、五人は先へと進んでいく。
が、それから十分も経った頃だろうか。
「ん? 何かしら?」
「ね、ねぇ、あれ……人じゃない? 倒れているんじゃ……!」
不意に飛び込んできた光景。丁度、森と草原の境目付近だ。希羅々が疑問を覚え、真衣華がそれを認識すると、顔を青褪めさせる。
慌ててそちらへと向かうが、
「……遅かったわね」
渋い顔で、皇奈はそう呟いた。
真衣華の言う通り、五人程の女性が倒れていた。地面に生えた草には、赤い液体がベットリついている。
あちこちにアーツが散乱しており、レイパーに襲われたのだというのは、すぐに分かった。
すると、
「……ん? こいつは……」
女性の首に付いた、紐で縛られたような跡を見て、セリスティアが怪訝な顔になる。調べてみると、他にももう一人、同じ痕跡があった。しかも、
「……やべぇ、この糸、まさか……」
見覚えがある白い糸が残っており、舌打ちをする。バグモス種レイパー……自分達を襲ってきたあのレイパーが吐いていた糸と、同じものだった。
「あいつ、俺達を逃がした後、ここに来ていたのか……! くそっ、すまねぇ……!」
よく見れば、他の女性の体には、爪で切り裂かれたような傷もある。バグモス種レイパーがここに来ていたのなら、人型種ジャッカル科レイパーも一緒だった可能性が高い。
(ちっきしょう……また俺は、同じ過ちを……!)
思い出されるのは、ライナの父親に寄生していたパラサイト種レイパーのこと。
あの時、無理してでもあの二体をキッチリ倒しておくべきだったか。いや、それだと真衣華が殺されていた可能性もあるのでは……答えの出ない疑問が、彼女の頭の中をグルグルと回る。
「ミスファルト。今は切り替えなさい」
そんなセリスティアに後ろから投げかけられる、厳しめの声。振り返ると、皇奈がいた。さっきのセリスティアの呟きを、彼女はバッチリ聞いていたのだ。
「逃がしたレイパーが、別の女性を殺してしまうというのは、よく聞く話。あなたは四体のレイパー相手に、自分とミス橘の『安全』を優先させた。これ自体は間違いじゃなかったはず。結局何が正しかったのかなんて、後になってみないと分からないものよ。その結果を引き摺り過ぎて、今すべきことを疎かにしてしまえば、本末転倒もいいところだわ。――死体がまだ新しい。近くにまだ、レイパーがいる可能性は高い」
「……悪い。オウナの言う通りだわ」
悔しいが、これが現実。セリスティアは両手で頬をバチンと叩くと、辺りの気配を探り始める。
そんな中、
【ミヤビ、ユウのあのスキル、使えないかな?】
「……あぁ! そっか!」
近くにいる敵を探し出せる『エリシター・パーシブ』。優が先日、カルムシエスタ遺跡でそのスキルを使った後から、雅も『共感』で使えるようになっていた。
一日一回しか使えないとなると、無駄撃ちになる可能性も高く、中々使用に踏み切れないのだが、今は使うべきタイミングだろう。
雅が早速、それを使うと――
「――っ? 真衣華ちゃん! そこから離れて!」
「えっ?」
一瞬で、雅の顔から血の気が引く。
きょとんとする真衣華。
直後、真衣華の足元の地面が盛り上がる。
轟く悲鳴と、舞う血飛沫。
怒号と悲鳴の入り混じった希羅々の絶叫が、辺りに木霊する。
人型のモグラが、地面から出てきて真衣華を強襲した――。
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