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第50話『神殿』

 時は、十五分前に遡る。


 神殿の中に入ったレーゼ、セリスティア、ファム、ミカエル、シャロンの五人。


 中は若干薄暗いが、入り口の扉を閉めると、天井が光り、周囲を照らす。


「何で出来ているのかしら、この床……?」


 ミカエルが視線を下に向けて首を傾げる。


 一瞬白い大理石かとも思ったが、よく見れば踏んでいるところが僅かに凹んでいる。硬さを感じつつも、その実、若干の弾力性があった。


 奥まで廊下が続いており、突き当たりは左右に分かれ道になっていた。左を見れば扉が、右には階段がある。


 どちらに魔王種レイパーがいるのか……敵の気配は、驚くほど、全く感じない。


 以前、ミカエルとファムが神殿を見た時は二階らしそうなところは無かったが、今日見た時は新しく出来ており、実は驚いていた。


 故に、いるのであれば二階ではないかと考えるミカエル。


 他の四人に、異議はない。


 レーゼを先頭に、慎重に階段を登る。


 その先には、扉も廊下も無い。


 あったのは、巨大な部屋だった。


 外から見た時に持ったイメージよりも、ずっと広い。


 円形の床に、ドーム状の天井。


 半径百メートルの半球のような部屋だ。


 シャロンが竜に姿を変えても、余裕で暴れられそうなスペースがある。


 部屋は全体的に薄暗く、天井にあるステンドグラスから入る日の光のお陰で視界が確保出来ているという状況。


 そして、部屋の奥を見て、


「――っ!」


 五人は息を呑む。


 そこにいたのは、骨ばったフォルムの真っ黒い肌をした身長二メートル程の人型の生き物。トゲのある肩パッドを身につけており、黒いマントをはためかせ、血で汚れたブーツを履いている。


 魔王種レイパーだ。


 レーゼ達はアーツを構え、シャロンは竜へと姿を変える。


 レイパーはレーゼ達に背を向けており、レイパーが向いている方には小さな祭壇があった。


 祭壇の一番上にあるのは、鏡。


 ミカエルはその鏡に、見覚えがあった。


 かつてガルティカ遺跡で拾い、魔王種レイパーに奪われた、あの鏡である。


 一体、何をしようとしているのか……そう思った時、五人の存在に気が付いたのか、魔王種レイパーは振り向く。


 レイパーの胸には切り傷が。雅がドラゴナ島で戦った際につけた傷だ。あの時と比べて多少治ってはいるものの、それでもまだその跡は大きく残っていた。


 不気味な程真っ白な眼に射抜かれ、背筋にゾワリと気味の悪い感触が走る。


「……ラヤトザカ」


 呟く言葉が、静かな空間にやけに大きく響く。


「レコモオギヌヒモレタモボケユニテレイテレムナマアゾボ……ハタコリテネワッナロハヤジンウワ」


 アーツ持ちの四人と、竜の一人を目の前にしているにも関わらず、魔王種レイパーの顔に焦りの色は全く無い。それどころか、今の言葉さえ、内容は分からなかったが実に楽しそうに喋っていた。


 それはまるで、これから友達と遊びに出かける子供のような無邪気ささえ覚えてしまう。


 だが、レイパーから殺気が溢れ出て、そんな考えは一気に吹き飛んだ。


 床に広がる、黒い二つの魔法陣。


 その中心から、それぞれ二体のレイパーが新たに召喚される。


 一体は、身長二メートル程の人間の骸骨のようなレイパー。手には骨で出来た剣と盾。分類は『人型種骸骨科』。


 もう一体は、目以外の全身を包帯でグルグル巻きにされた人型の生き物。身長は人型種骸骨科よりも頭一つ小さい。分類は『マミー種』だ。


 ミカエルとシャロンが先手必勝と言わんばかりに火球と雷のブレスをその二体のレイパーに向けて放つが、人型種骸骨科レイパーがマミー種レイパーの前に出て、持っている盾で二人の攻撃を防ぐ。


 爆音と共に煙が上がり、すぐに晴れる。


 どちらのレイパーも無傷だ。


 ミカエルが続けて二発目を放とうとするも、人型種骸骨科レイパーは大きな足音を鳴らしながら一気に彼女に近づき、骨の剣を振り上げる。


 同時に、人型種骸骨科の行動に咄嗟に反応し、ミカエルを守ろうとしたセリスティアの足に包帯が巻きつく。マミー種レイパーから伸びていた。そのまま転ばされ、うつ伏せのままマミー種レイパーに引き摺られるようにして引っ張られる。


「アストラム!」

「セリスティア!」


 人型種骸骨科レイパーの攻撃をシャロンが前足を盾にして受け、ファムがセリスティアの手を掴む。


 刹那、その攻防を遠くで見ていた魔王種レイパーが手の平を向け、黒い衝撃波を放つ。


 レイパーごと、彼女達を攻撃してきたのだ。


 もの凄い速度で迫る衝撃波。羽で身を守れるファムや、頑丈な鱗を持つシャロンはともかく、セリスティアやミカエルが受ければひとたまりも無い。そう感じさせる攻撃。


 四人が「ヤバい」と思ったその時、一人の女性が乱戦の中から飛び出して、衝撃波へと突っ込んでいく。


 レーゼだ。


 顔を強張らせながらも果敢に衝撃波に向かって飛び、背中を向けて体を丸める。


 同時にスキル『衣服強化』を発動。ほぼ同時に、衝撃波がレーゼを襲う。


 大きな鉄を勢いよくぶつけられたような重い痛みが全身を襲い、吹っ飛ばされるレーゼの体。


 だがそのお陰で、魔王種レイパーの放った黒い衝撃波は分散され、あらぬ方向へと飛んでいき壁に衝突する。壁には僅かなヒビが入った。


 吹っ飛ばされたレーゼは空中で体勢を整え、床に激突する前に受身を取る。


 今の一撃は、強化された服越しでもかなりのダメージがあったはずだが、それを感じさせない動きだ。


 そしてレーゼは素早く魔王種レイパーとの距離を詰め剣型アーツ『希望に描く虹』を振って十連撃を放ち、さらに背後に素早く回りこんで五連撃を繰り出す。


 その全てを魔王種レイパーは体を少し動かすだけの動作で躱すが、その顔には若干の驚愕の色があった。


 斬撃の後には、いくつもの虹が架かる。


 雅と別れた後、レーゼ研鑽を積んでいた。虹はその象徴だ。


 魔王種レイパーを睨むレーゼ・マーガロイスの目は、ギラギラと闘志が燃えていた。

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