第456話『奇策』
「おるぁぁぁあっ!」
赤髪ミディアムウルフヘアの女性、セリスティア・ファルトが吠え、腕を振るう。両腕に嵌った巨大な小手『アングリウス』からは、銀色の爪が片側三本ずつ伸びており、今まさに、一体のペリュトン種レイパーのボディを貫いたのだ。
噴き上がる血飛沫と羽。抵抗しようともがくレイパーだが、徐々に力が抜けていく。セリスティアが放り投げれば、あっさり爆発四散した。
だが、セリスティアが安堵の表情を浮かべることはない。すぐ横から、別のペリュトン種レイパーが迫ってきていたから。
「ちっ……鬱陶しい!」
セリスティアは舌打ちをすると、足に力を込めて跳躍する。その高さ、なんと十メートル。脚力を増幅させるスキル『跳躍強化』を発動させたからだ。
上の方にある足場に着陸するが、ペリュトン種レイパーはセリスティアを追って、物凄い速度で追いかけてくる。下方向からきた角の一撃をアングリウスで受け止めるセリスティアだが、流石にパワーでは敵わない。
が、セリスティアは上手く全身を仰け反らせ、敵の攻撃を空へと受け流す。
端から力比べをする気等、彼女にはさらさら無かったのだ。狙いは――
「ユウ! ぶち抜け!」
「うんっ!」
もう少し下の足場にいた黒髪サイドテールの少女、相模原優が攻撃する隙を作ること。
手に持った白いスナイパーライフル『ガーデンズ・ガーディア』から放たれた弾丸型の白いエネルギー弾は、レイパーの背中から心臓を正確に貫通する。
悲鳴も上げずに爆発四散するペリュトン種レイパー。
「ナイスっ! ――まだいけるかっ?」
「はいっ!」
セリスティアと優が互いにサムズアップし、遠くにいるペリュトン種レイパーへと向かう中、
「シャロンさんっ! 今です!」
その近くで、銀髪フォローアイの少女、ライナ・システィアの声が聞こえる。
スキル『影絵』によって生み出された十人以上もの分身ライナ。本物のライナを含めた彼女達が、三体のペリュトン種レイパーと交戦していた。爪や角による反撃を幾度も受け、何度も分身を呼び出しては攻め立てて、何とか一か所に固めたのだ。
「システィア! 離れよ!」
山吹色の巨大な竜、シャロン・ガルディアルがそう叫び、ライナが大きくその場を跳び退いた直後、レイパー達に雷のブレスが直撃する。
さらに、
「ユウさぁぁぁんっ!」
「これでも喰らうがよいっ!」
優へ合図するライナ。そして大きく翼を広げるシャロン。
シャロンの周りに雷のリングが出現すると同時に、空に残る雨雲が唸りだし、その刹那、ガラスが割れたような高い音が響く。ライナが、ラージ級ランド種レイパーの膜を割ったのだ。
その機を逃さんとシャロンが咆哮を上げると、ランド種レイパーに雷が落ちる。
激しくスパークする海と、レイパーの体。
だが、レイパーは僅かに身じろぎをするだけであり、シャロンは苛立たし気に唸り声をあげる。ピンピンし過ぎだと思わずにはいられない。流石にノーダメージではないのだろうが。
優を始めとした他の者も、シャロンに続いて攻撃を仕掛けるが、結果は変わらず。
唯一の救いは、レイパーがこれらの攻撃に、きちんと反応しているということか。日本海へと誘導するように移動する大和撫子やバスター達を、きちんと追ってきている。
時折反撃するように特大の潮噴きをかましてくることもあるが、それは裏を返せば、彼女達を意識しているということでもあった。
千島列島付近に差し掛かるラージ級ランド種レイパー。
世界が融合した影響で、島同士の間隔が大きく広がっているところがある。元々は水深もそこまで深くない海域だったが、今はレイパーが普通に泳いで通れる程度には深い。最初に佐渡の隣のランド種の片割れが、キャピタリーク沖で復活したもう一体と合流しようとした際に通ったのもここだ。
ここを抜ければ、その先はいよいよ日本海。作戦では、北海道の南西まで誘導出来れば、第一段階はクリアとなる――
***
時刻は午後四時。雲に隠れていても、水平線の向こうに夕日が沈んでいくのが分かる。
「あぁ! もうしつこいっ!」
魔法の絨毯に乗ったカリッサ・クルルハプトが悲鳴を上げるようにそう叫ぶ。後ろからは二体のペリュトン種レイパー。一度後ろに付かれてからかれこれ二分。こいつらは、ずっと追いかけてきている。
対象の視界を白く染め上げる『光封眼』のスキルを使えば一時的に追手を撒けるのだが、まるで計ったかのように別のペリュトン種レイパーがやってくるのだ。堪ったものでは無かった。
誰かと合流しようにも、複数のペリュトン種レイパーが連携して襲ってくるせいで、それもままならない状況だ。
「ノルンちゃん! 魔力の回復はまだっ?」
「ご、ごめんなさいっ! 後一分!」
カリッサの背中に抱きつくようにして乗っているノルン・アプリカッツァは、額に脂汗を浮かべながら苦い顔をする。ずっと戦いっぱなしで、ガス欠になってしまったのだ。スキルでどうにか出来るミカエルとは違い、一度こうなってしまったら、回復するのをただひたすらに待つしかない。
焦るノルン。戦いの中で魔力切れになれば、もう一度魔法を撃てるようになるまで、仲間に助けてもらうしかない。ここが魔法使いの弱いところだ。カリッサは頑張ってくれているが、彼女もまた、魔力が僅かしか残っていない。そしてその魔力は、魔法の絨毯のブーストに使っており、攻撃や防御に回す余裕は無かった。
「マズいですカリッサさんっ! 追いつかれます!」
「くっ……!」
ペリュトン種レイパーの追跡の方がいくらか速い。
他の者の助けも期待できない中、これは絶望的だ。このままでは攻撃をモロに喰らう……それを覚悟せざるを得ないか。二人が、そう思った時。
「お困りかしら? なら、わたくしが助けてあげる!」
「――ッ!」
そんな声が響いた刹那、ペリュトン種レイパーの頭上に一人の少女が降り立つ。紫色の眼をした、金髪の彼女は、そう――スピネリア・カサブラス・オートザギアだ。
愛理と一緒にやって来たは良いが、肝心の愛理が雅を助けに突っ込んでいってしまった為、彼女を追いかけていたのだ。その途中でピンチの大和撫子やバスターを助け、今こうしてノルン達を見かけて駆け付けてくれたというわけである。
「やった! 助けが来ました!」
「えっ? あなたは――」
スピネリアの登場に素直に喜ぶノルン。どうやら彼女がオートザギア第二王女だというのは知らないようだ。そんなノルンとは対照的に、その正体を知っていたカリッサは驚きに目を見開く。
「ちょっと失礼するわ!」
レイパーの体に手を当て、一瞬にして羽の付け根を氷漬けにするスピネリア。彼女がカリッサ達の乗る魔法の絨毯の方に飛び乗ると同時に、羽ばたくことが出来なくなったレイパーは落下していった。
スピネリアがフィンガースナップをすると、空中に大きな氷の槍が出現。
そして、
「止めよ!」
勝気にそう叫ぶと、それが堕ちるレイパーへと飛んでいく。氷槍に貫かれたレイパーは、たちまち爆発四散した。
「さ、もう一体ね!」
「後は任せて下さい!」
スピネリアがペリュトン種レイパーを一体倒して出来た、僅かな余裕。そのお蔭で、ノルンの魔力回復が間に合い――
「そこだっ!」
節くれだった黒い杖型アーツ『無限の明日』から、緑風を集めて作られた小さな球体が放たれる。ノルンが少ない魔力を一点に集め、速度と貫通性能に特化させたものだ。それが、接近してきていたペリュトン種レイパーに直撃する。
頭部から脳を貫いて胴体まで進んだところで、レイパーは大爆発した。
それを見て、ピューと口笛を吹くスピネリア。一つの魔法を見ただけで、ノルンが中々優秀な魔法使いだと分かったのだ。
「ねぇそこのエルフさん。あっちに飛んでいって頂ける? 三つ編みの女の人がいる方よ」
「あ、アイリさんだ!」
「あら、あなたアイリの知り合い? ……んー、よく見れば、アイリが見せてくれた写真に写っていたような……」
「……?」
思案顔をし始めるスピネリアに、キョトンと首を傾げるノルン。後ろでは、カリッサが二人に何と声を掛けようかと困惑の表情を浮かべている。
そんな微妙な雰囲気は、別方向からさらに二体のペリュトン種レイパーがやって来たことで、終わりを迎えるのだった。
***
初めは一五〇〇体いたペリュトン種レイパーも、そろそろ五十体まで数を減らしてきた頃。
既に日が完全に落ち、暗かった辺りはさらに見通しが悪くなっている。ミカエルによって足元に展開された赤い足場が灯りとなっているのが救いか。
そんな中でも、人々は懸命に戦っていた。
「志愛ちゃん! 今です!」
「あア!」
雅の声と共に投げられる、剣銃両用アーツ『百花繚乱』。それが二つに割れ、志愛の持つ棍型アーツ『跳烙印・躍櫛』と合体する。
出来上がった巨大な矛で、目の前に迫っていたペリュトン種レイパーを一体貫き爆散させると、
「アイリちゃん! 避けて!」
その近くでミカエルが警告を飛ばす。丁度一体のレイパーと鍔迫り合いをしていた愛理が、その声で大きく跳び退くと同時に、巨大な火球がレイパーに直撃し、焼き尽くした。
雅が志愛からアーツを返してもらい、次なる敵に向かって走り出そうとした時、
【ミヤビ! そろそろいい位置のはずだよ!】
カレンがそう叫んだ直後、ラティア達の乗るドローンから、強い光が発せられる。
これは合図だ。計画を次の段階へと移すための。
それを見た者達が、次々にアーツを構え、意識の大半を、残った僅かなペリュトン種レイパーからランド種の方に変える。
雅もそれに倣おうとすると、
「タバネ! 乗れ!」
偶然近くにいた山吹色の竜、シャロンにそう言われ、雅は礼を言いながら背中に飛び乗った。
シャロンの体には、無数の細かい傷。巨体の彼女は、それだけ敵の攻撃に当たりやすい。彼女に限った話では無いが、それだけ奮闘したということだ。
もうすぐ……もうすぐ、その努力が実を結ぶ時がくる。
「シャロンさん! もう一回合体です!」
「うむ!」
雅の言葉にシャロンが返事をすると、彼女の周りに十二個もの雷球が出現する。シャロンのアーツ『誘引迅雷』だ。
雅が百花繚乱をライフルモードにすると、その雷球が銃身の周りに集まり、リボルバーのシリンダーのように回転していく。
「今度は確実に当てる!」
その銃口を、海を掻き分け泳ぐラージ級ランド種レイパーへと向け、雅はそう叫ぶ。
誘引迅雷との合体アーツによる一撃。初手はタイミングが合わず膜に阻まれたが、同じ轍は踏まない。
刹那、ラティアから放たれる衝撃波。
それを見た雅は、一拍置いて、エネルギー弾を放った。
超速の電磁弾は、敵の膜が復活する前に、見事命中。
激しい電撃がレイパーの全身を襲う中、他の攻撃も次々に直撃していく。
(よし! このまま奴の気をこっちに集中させ続けられれば……っ!)
【っ! 見て、ミヤビ! 奴の様子が!】
瞬間、鼓膜が痛くなる程の轟音が響き渡る。
ランド種レイパーが、その巨大な尻尾を振り上げ、海面に叩きつけたのだ。打ち上げられた水飛沫が舞い、数機のドローンが制御を失い墜落していく。
今まではしてこなかった行動に、戦慄する雅。一体何故――そう思った直後に、気付く。
「ヤバい……皇奈さんの限界が……っ!」
ラージ級ランド種レイパーは今、神喰皇奈のスキルによって、自由な動きを抑えられている状態だ。好き勝手に泳いでいるように見えて、先程のように尻尾を振り上げたり、最初にやったような大ジャンプは封じられている。
だが、戦闘開始から六時間以上が経過し、皇奈もスキルを維持出来なくなってきたのだろう。ペリュトン種レイパーの対処に、想像以上に時間がかかってしまっていたのだ。
(マズい! 今、奴がここで暴れたら……っ!)
そう思ったのは、雅だけではない。大和撫子やバスター達も危険を察知し、大急ぎでドローンの中へと戻っていく。
――一刻も早く、ここから逃げるために。
【ミヤビ! 来るよ!】
「タバネ! しっかり掴まっておれ!」
カレンの警告の言葉の直後、耳を劈くような音が鳴る。ラージ級ランド種レイパーの方からだ。あれが、奴なりの咆哮なのだろう――雅は耳を抑えながらそれを悟り、背筋を凍らせる。
何となく分かる。あの咆哮は、喜びの声だと。身に降りかかっていた巨大な重力が消え、体が軽く感じているのだと。
カレンの言う通り、来るのだ。
一切の枷を解かれ、本気が出せるラージ級ランド種レイパーの猛攻が。
近くでダイナマイトが一斉に爆ぜたのではないかと錯覚するような音と共に、レイパーの巨体が跳ねあがる。
巨体で出来た影が、まるで夜のような闇が世界を覆い、海が悲鳴を上げた。
ミカエルの魔法で作られた足場等、粉々になっていく。
ほんの一秒にも満たない間。空中で身体を捩り、可能な限り暴れるレイパー。ヒレや尻尾、胴体に襲われたドローンが爆発していき、生き残ったドローンも、レイパーの動きの余波や爆発による衝撃で発生した突風により、宙に留まるので精一杯。
海水に叩きつけられるレイパー。爆ぜるように撒き上がった海水は、散弾銃のように雅達に襲い掛かる。発生する大きな津波が、日本の海岸へと勢いよく向かっていった。
シャロンも吹っ飛ばされ、雅が辛うじて背中にしがみつけている。
たった一度の大ジャンプ。
それは、ギリギリ順調ともいえた状況を、一瞬にして最悪なものへと変えた。
だが――敵の攻撃は、まだ終わりではない。
「――っ?」
あの、本能的な危機感を覚える、シュっという空気の音が耳に入ってしまう。
ヤバい。アレが来る。
雅がそう思ったのとほぼ同時に、下の方から大気の激しい振動が伝わってくる。
ここまで誘導してくる途中、何度も見たあの潮噴き。それが、雅がいるところから少し離れたところで、また放たれたのだ。
何とか生き残っていたドローンのいくつかが、その潮噴きに直撃してしまう。生き残っていたペリュトン種レイパーも全て巻き込む程の特大の一撃だった。
最も、それを嘆く余裕は誰にもない。ラージ級ランド種レイパーの激しい攻撃に、意識と正気を保つのでやっとなのだから。
しかし、
【ミヤビ!】
それでも、
「あれ、は……!」
希望が、完全に潰えた訳ではない。
「……ッ?」
ラージ級ランド種レイパーが、この瞬間、初めて困惑したような小さな鳴き声を上げた。何故なら――
あの巨体をすっぽり収めるかのような、巨大な光の魔法陣が出現していたから。
この猛攻の嵐の中、いつそれが行われたのかは雅には分からない。
だが、分かる。これを、誰がやったのかということは。
これが作戦の一つだから。
あの魔法陣は、封印の杭を打ち込んだ際のもの。雅が直接見た事は無いが、それは間違いない。
佐渡。
レイパーが日本海まで到達した瞬間、その地に封印の杭が打ち込まれたのだ。
この杭は、雅が過去にタイムスリップした際に打ち込み、何者かがそれを抜いてランド種の片割れの封印を解き、その後、キャピタリークのバスターに回収されたもの。
既に封印の力は無くなっていたが、雅から詳細を聞いた学者が、ガルティカ遺跡でエネルギーの注入を試みて、見事成功させていた。
雅達がネクロマンサー種レイパーの対応や、カルムシエスタ遺跡でコートマル鉱石を探していた裏で、そういうことも行われていたのである。
潮噴きは多少なりとも体力を消耗してしまう。そこを狙い、再び一つに合体した自分を、杭で封印するつもりなのか……そう思ったランド種レイパーは、抵抗するように力を振り絞る。
二体に分裂していた時は、為す術もなく封印されてしまったが、今は違う。杭一本なら、例えエネルギーがフルに充填されていたとて、打ち破ることは可能だ。しかもその杭は、一度抜かれたことでボロボロになっている。
全身を包んでくる光に、ランド種が激しく体を捩る。光はレイパーを抑え込もうと輝きを強めるが、徐々にパキリ、パキリと音がしてきた。光に亀裂が入ってきたのだ。
レイパーが力を振り絞るように甲高い声を上げると、光は粉々に砕けてしまう。レイパーが、杭から発せられた封印の力を破ってしまったのだ。
勝ち誇ったかのように尻尾を振り上げるレイパー。
だが――
「――ッ?」
またしても、大きな魔法陣が出現する。杭と違う種類のもので――
***
「あれは転移魔法っ?」
「よしっ! いいぞ!」
ドローンの中で、目を見開くスピネリア。その横で、愛理がグっと拳を握り、口角を上げる。
ネクロマンサー種レイパーの使っていた転移魔法を封じるため、優香とミカエルが知恵を絞り、対策装置を創り上げた。その際、その装置には『転移魔法自体の構造を分析する』という機能を搭載した。転移魔法を分析すれば、後々に何か役に立つだろうと考えたからだ。
そして今、この転移魔法が発動させたのだ。
端から、あの巨大生物を封印するつもりなど人類にはない。
封印というのは解けるものだから。それは、今までの歴史が証明している。
これは討伐作戦。つまり、あくまでも最終目標は奴を倒すこと。
封印の力を打ち破られるのは想定済み。杭を打ち込んだのは、レイパーにそれを破らせ、体力を消耗させるため。
「でも、一体どこに移動させるつもりっ?」
新潟県と同じくらいの大きさがある化け物だ。転移魔法に必要な魔力は、対象の大きさ、そして移動距離に比例して増大していく。ラージ級ランド種レイパーくらいの大きさともなれば、近場に転移させるだけでも恐ろしい魔力を費やさなければならないだろう。
どれだけの魔力を確保したかスピネリアには分からない。そして、そもそもあのレイパーをどこに転移させるつもりなのかも。
「あんな巨体よ! どこに移動させたって、被害が大きくなるばかり――」
「いえ、そうでもないんですよ」
愛理が若干の笑みを浮かべてそう告げると、目の前で転移魔法が正常に作動。
愛理達を乗せたものも含め、近くを飛んでいた多くのドローンを巻き込み、魔法陣に吸い込まれると――
***
「上手くいったっすかっ?」
ここはラティア達が乗っているドローン。魔法陣から大きく離れていたこともあり、転移から免れていた。その中で、伊織が興奮気味にそう尋ねる。
転移魔法によってワープしたレイパー。
だが、伊織達の視界から消えてはいない。近くにいたのが、少し遠くに動いただけだ。
一見すると、大して意味がある行為には思えない。
だが、一つだけ違うところがある。
遠くにいるラージ級ランド種レイパー。その巨体が増しているということ。
……否、そうではない。見えている範囲が増えたのだ。
今まで海に沈んでいた部分が、表に出てきたから。
「よし! 上手くいったわ!」
それをしっかりと確認した優香が、ガッツポーズを取る。
「まだ終わっていないけど、後は何とかなる……かな?」
そう尋ねたのは、ラティア。何発も衝撃波を撃ったせいか、左腕がかなり痛い。
「安心は出来ないけど、一先ず、山場は超えたはずよ。私達も向かいましょ。まだ奴の膜は健在。ラティアちゃんに破壊してもらわないと」
「うん。もうちょっと頑張ってみる」
汗を垂らしながらも頷くラティア。随分と根性があると、運転席でそのやりとり聞いていた優一は舌を巻く。
そして、背もたれにグッと体重を預けると、安堵したように大きく息を吐く。優一の目は、彼にしては珍しく、勝ち誇ったような光を帯びていた。
この作戦は、優一のアイディアを元に立てられたもの。雅が未来の映像を見せてくれたことで、合体したラージ級ランド種レイパーの姿が明らかになったことが、この作戦を思いついた大きな要因だ。
彼が、どんな作戦を思いついたのか。それは――
「お前が鯨のような見た目をしてくれていて助かった。――悪いが、そのまま座礁していてもらうぞ」
誰に聞かせたいわけでも無かったが、優一はそう呟かずにはいられなかった。
新潟、及び佐渡島の間の海。ラージ級ランド種レイパーが転移したのは、その場所。
今、奴はその体が海岸に引っ掛かっているという状況だ。これまでは佐渡の隣に鎮座していたランド種だが、合体し、巨大になったことで、そうもいかなくなったのである。
ドローンはラージ級ランド種レイパーの方へと飛んでいく。大した距離ではない。ラティアの衝撃波圏内まで、十数分といったところだろう。
――そんなドローンを上から見下ろす巨大な生物がいることに、この時誰も気づいていなかった。
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