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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第51章 太平洋~日本海
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第455話『海超』

 二月十四日木曜日、午後二時四十八分。北海道東部の遠洋にて。


 ラージ級ランド種レイパーとの交戦が始まってから、四時間弱が経過。


「真衣華っ! まだバテていませんわよねっ?」

「いや、ちょっとキツいってぇっ!」


 ミカエルが空中に創り出した、たくさんの赤い足場。そこを縦横無尽に動き回りながらそんなやりとりをする少女が二人。ゆるふわ茶髪ロングの少女、桔梗院希羅々。そしてエアリーボブの髪型をした、なよなよとした体型の女の子、橘真衣華である。


「来ますわよ! 三方向から同時にっ!」

「またぁっ?」


 半泣きになりながらも、両手に持っていた二挺の斧、『フォートラクス・ヴァーミリア』を構える真衣華。敵襲来時にドローンを飛び出した二人は、休む間もなくペリュトン種レイパーと戦っていた。ここまでに、二十体程の数を相手にし、内五体は自分達で止めを刺したのだ。


 真衣華は勿論のこと、アグレッシブな声を上げた希羅々も、そろそろ体力的に限界が近づいていた。手に持つ金色のレイピア、『シュヴァリカ・フルーレ』も、少しばかり震えている。


 ――が、


「はぁっ!」


 闘志の炎を消してなるものかと、希羅々は声を張り上げ、目の前から突っ込んできたペリュトン種レイパーに、レイピアによる突き攻撃を放つ。


 敵の頭部から生えた鹿の角。これを、体を捻って躱しながらカウンター気味にレイピアの切っ先を抉り込ませることに成功した希羅々。衝撃と痛みでレイパーが弾き飛ばされるように逃げる中、希羅々の左手に嵌った指輪が光を放つ。


 刹那、今まで右手に握られていたシュヴァリカ・フルーレが、左手に瞬間移動。『アーツ・トランサー』……アーツをもう片方の手に一瞬で移動させるアイテムによるものだ。


 直後、左側から攻めてくるレイパーを、レイピアで受け流しつつ、再度アーツを右手に持ち替える。間髪入れずに右側から、鉤爪を振りかざして襲ってきた三体目のペリュトン種レイパーの足の付け根に、強烈な突きをお見舞いする。


「真衣華っ!」

「やっ! とぉっ!」


 怯んだレイパーに、真衣華のフォートラクス・ヴァーミリアによる二連撃が炸裂。斧の刃はレイパーの羽の付け根を斬り裂き、飛ぶ手段を失ったペリュトン種レイパーは海へ落下。大きな爆発を起こした。


 一体倒しても、まだ真衣華の動きは止まらない。


 左右から同時に襲ってくる、二体のペリュトン種レイパー。どちらも角を真衣華に向け、突進してきていた。真衣華は片方のアーツで、左方向から迫る角の一撃を防ぎつつ、もう片方のアーツで横一閃を繰り出し、突進攻撃を逸らす。


 レイパーと言えど、猛スピードで突っ込めば、急には止まれない。進行方向をズラされてしまったその先には、運悪くバスターの姿があった。


 隙だらけになったそのレイパーを、バスターが、十字の大きな剣型のアーツで斬り、撃破。


「やりますわね、真衣華!」

「偶然だって!」


 それより早くこっちを何とかしてくれと、真衣華は一体のレイパーの攻撃を抑えながら叫ぶ。切羽詰まっているような声を出しているが、複数の敵相手に、中々に上手く立ち回れているといえよう。


 希羅々のシュヴァリカ・フルーレの一撃を受け、大きく吹っ飛ばされるレイパー。


 さらに今度は四体のペリュトン種レイパーがやってきて、希羅々と真衣華はそれに対処する。その動きには、やや先走り過ぎた感じはあるものの、不安定な焦りは無い。


 皇奈の戦闘訓練が、かなり効いている。少なくとも、あの大量の丸太を相手にさせられたお蔭で、複数の敵の動きに戸惑うことは殆ど無かった。それだけでも、あの訓練の価値は大いにあったと言える。


「さぁ! この烏合の衆ども、さっさと片付けますわよ!」

「うんっ!」


 希羅々も真衣華も、額に汗を浮かべながら、次なる敵へと立ち向かうのだった。




 ***




 一方、その頃上空。


「皆さん! 左へ!」


 カリッサと共に魔法の絨毯に乗ったノルンの声に、複数のドローンが一斉に急旋回する。直後、五体ものペリュトン種レイパーが、今までドローンがいた場所を、勢いよく通過した。


 あのままの位置で飛んでいたら、危うくレイパーに撃墜させられてしまっていただろう。ノルンが定期的に『未来視』のスキルを使い、奇襲などが無いが確認していたから防げたことだ。


「おら! これでも喰らいやがれっす!」


 ドローンの中から轟く伊織の声。刹那、十発以上ものミサイルがぶっ放され、一体のペリュトン種レイパーに全弾命中させる。


 爆散するレイパー。その爆発の後ろから、別のペリュトン種レイパーが突っ込んでくるが、


「させない!」


 カリッサが天に右人差し指を掲げてそう叫ぶと、空中に光の十字架が出現。彼女の指の動きにリンクしてレイパーの体に突き刺さり、撃破する。


 他のペリュトン種レイパー達も、ドローンに乗った大和撫子達によって、少しずつ数を減らしていった。


 そんな中、


「も、もう一発……っ!」


 ラティアが片目を閉じ、涙目になりながらも右腕を精一杯に伸ばし、小手型アーツ『マグナ・エンプレス』から、今日で何度目かも分からぬ衝撃波を放つ。


 狙うは、海上に体を出していた巨大な白い化け物、ラージ級ランド種レイパー。


 衝撃波を撃つ瞬間に腕がブレ、一発目は明後日の方向に飛んでしまったものの、二発目はきっちり命中。高い音と共に、レイパーを覆う(バリア)が割れる。


 直後、あらゆるところから、ランド種レイパーへと攻撃が放たれた。


 次々とヒットし、苛立つように体を捩らせるレイパー。ダメージは大したこと無くとも、鬱陶しいのだろう。奴の敵意と殺意が、確実にこの場にいる者達へと募らせていく。


 故に、ドローンが向かう先へと、レイパーは進んでいた。誘導されていることに気付いていないのか、それともそれを分かった上で敢えて着いていっているのかは不明だが。


 (バリア)が再生し、ラティアは再び狙いを定める。


 腕もキツくなってきたが、泣き言なんて欠片も漏らさない。


 皆が頑張っているから、彼女も必死で喰らいついていた。




 ***




 それから、十五分。


「来るわよっ! ――また、あの攻撃がっ!」


 空に轟くレーゼの声。同じような言葉は、辺りからも聞こえてくる。だがそれを聞き終わる前に、ほぼ全員が、蜘蛛の子を散らすようにその場から逃げ出していた。


 彼女達の耳には、届いていたのだ。身の竦むような、空気が窄まる音を。


 瞬間、


「っ!」


 大気が震える程の轟音と共に、ラージ級ランド種レイパーの背中から、特大の潮噴きが空高く放たれる。


 砕け散る足場。逃げ遅れた者達の、命が消える音。


 もうこれで何度目かと、レーゼはガンガン痛む頭を堪えながら、奥歯を強く噛む。


 潮噴きによって天へと昇った水滴が集まり、出来上がるは巨大な黒橡(くろつるばみ)色の雲。


 ラージ級ランド種レイパーによる、天災とも呼べる潮噴き攻撃に、まるで地球が悲鳴を上げているかのように、辺りの環境も狂いだす。風が吹き荒び、ポツリポツリと雨が降るが、それはすぐに、嵐へと姿を変える。


「くっ……これじゃあ視界が……っ! ――っ!」


 ズキリと痛みだすレーゼのあばら。限界を訴える体を黙らせるように、レーゼは痛む部分に手を当てる。


 先日のネクロマンサー種レイパーとの戦闘で負った怪我は、完治していない。痛みは鎮痛剤で誤魔化していたが、この激戦と悪天候のせいで、流石にぶり返してきたのだろう。


 ここで倒れる訳にはいかない、まだ作戦は完遂されていないのだ……そう自分に言い聞かせていた時、


「っ? この……っ!」


 横から、ペリュトン種レイパーが迫ってきていたことに気付く。


 応戦しようとするレーゼだが、痛みと嵐の轟音のせいで、先制攻撃を当てるには間に合わない。鉤爪と角を振り回し攻撃してくるレイパーに、レーゼはスキル『衣服強化』を使い、凌いでいく。


 だが、重い。敵の一撃一撃が。雨で身体が冷え、急激に体力が奪われている中で、このレイパーの攻撃はレーゼにはあまりにも激しすぎる。


 それでも、レーゼの目は死んでいない。彼女は諦めない。止まない雨は無いことを、知っているから。


 中々倒れないレーゼに苛立ったように、さらに一発一発の攻撃を苛烈にしていくレイパー。


 しかし、角を大きく振り上げた瞬間、レーゼはそこに勝機を見出す。


 僅かに大振りになったモーション。レーゼの剣型アーツ『希望に描く虹』の斬撃が、レイパーの攻撃よりも先に届く。


 レーゼの体は悲鳴を上げるが、日々の弛まぬ鍛錬が、その動きにズレも淀みも許さない。この雨の中、美しい虹を描きながら、敵のボディに大きな切り傷を付けてみせた。




 ***




「レーゼさんっ!」

【危ないっ!】


 レイパーが爆発四散する中、膝を付いたレーゼ。それが雅の視界に映り、目の前にいる別のペリュトン種レイパーと交戦している最中にも拘わらず、思わず駆け寄ろうとしてしまった。カレンが声を掛けたことで辛うじて踏みとどまり、敵の翼で撃つ攻撃を剣銃両用アーツ『百花繚乱』で受け止めることに成功する。


【ミヤビ! 目の前に集中! レーゼさんなら大丈夫だ! 今バスターの人が駆け付けたから!】

(す、すみませんカレンさん!)


 余所見をしていて生き残れる状況ではない。カレンに叱責され、雅は気を引き締める。


 目の前にいるペリュトン種レイパーは、他の個体よりも少しばかり大きい。その分パワーもあり、雅は苦戦させられていた。大嵐という環境なのも向かい風である。


 雨に濡れた服は重く、靴の中まで水が入っており動きづらい。二月の海は寒く、凍えそうだ。あらゆる条件が、雅に牙を剥く。


 それでも雅は気合を入れるような叫び声を上げ、レイパーに立ち向かっていく。


 が、しかし。


「っ? しまった!」


 雅が果敢に放った斬撃は、レイパーの角で弾かれてしまう。


 大きく振り上げさせられてしまった雅の腕。一方で、レイパーは鉤爪を、既に雅の方へと向けていた。


 早く『命の(サーヴァルト・)護り手(イージス)』か、スキルで身を守らなければ、あの鋭い爪で貫かれる。


 そう思った、その時。




「おい化け物。こっちを見ろ」




 静かな、しかし抑えきれぬ怒りに溢れた声が鋭く耳に届く。


 思わず振り返るペリュトン種レイパー。その刹那、レイパーは見た。背筋が凍るような風切り音と共に、刃が迫るのを。


 寸でのところで、体を捻って斬撃を躱すレイパー。


 だがその瞬間、レイパーの視界から、消える。――今し方斬撃を繰り出したはずの、三つ編みをした長身の少女の姿が。


 そして同時に、激痛が羽の根元に走る。


 悲鳴にも近い声を上げるペリュトン種レイパー。レイパーは理解出来ない。少女が自分の死角に瞬間移動し、攻撃したこと等。


 これは、スキル『空切之舞』によるもの。刀型アーツ『朧月下』を持つ彼女は、そう――


「すまない束音! 遅くなった!」

「愛理ちゃんっ!」


 篠田愛理。ここにきて、彼女がようやく、雅達と合流したのだ。この嵐の中にピンチの雅を見て、ドローンから飛び降りてきたと言うわけである。


「状況は聞いているっ! まずはこいつらからだ!」

「はいっ! 一気にいきます!」


 言うが早いか、雅と愛理は剣と刀を構え、今斬られたばかりのペリュトン種レイパーの方へと突撃する。


 苦しみながらも、角を振りかざして応戦するレイパー。傷を受けても尚、二人が時間差で放った斬撃を弾き返し、直撃を許さない。


 それでも、雅と愛理は負けじと声を張り上げ、斬撃をさらに速く、強力なものへと昇華させていく。


 一瞬。ほんの僅かなタイミング。


 そこだけは、二人の刃が、レイパーの角捌きを上回る。


 雅の百花繚乱が、ペリュトン種レイパーの喉元に深い斬り傷を負わせ。


 愛理の朧月下が、怯んだレイパーの右眼を貫いた。


 激しくもがくペリュトン種レイパー。そこに、雅と愛理の斬撃が、前と後ろから同時にクリーンヒットする。


 耳を劈くような悲鳴を上げ、爆散するレイパー。


 そして、その直後。


 雅の百花繚乱の刃が、別れる。それを見た愛理が、朧月下の柄をそこへと差し込んだ。


 二人の間に、言葉は無い。


 それでも、二人の息は合っていた。雅も愛理も、気が付いていたのだ。




 油断した二人を殺そうと企み、背後から迫っていた、もう一体のペリュトン種レイパーの存在にも。




 二つのアーツを合体させ、出来上がるは三メートルもある巨大な刀剣。それを二人で一緒に握れば、刃が白く光を放つ。


 咆哮を重ね、振り向き様に一気に振り切れば、タイミングはドンピシャ。刀剣による斬撃が最も威力を発揮する位置にいたレイパーはいとも容易く真っ二つになり、爆発四散した。


【ミヤビっ! もうすぐニホンカイに入るよっ!】


 頭の中で聞こえてくるカレンの声に、雅は百花繚乱を握る手に力を込める。


 止む気配の無かった嵐が、僅かに弱まる。


「もうちょっと……っ!」


 後少し。もうひと頑張り。


 ここを乗り越えれば、光が見えるのだ。ラージ級ランド種レイパーを倒す、希望の光が。


 作戦は、終盤に差し掛かる――。

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