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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第51章 太平洋~日本海
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第452話『重圧』

「な、なに、あれ……っ?」


 別のドローンの機内。


 そこに乗っていた、美しい白髪の少女、ラティア・ゴルドウェイブが、目の前で大ジャンプをかました巨大生物『ラージ級ランド種レイパー』を見て、声を震わせる。


 胸元に付けた紫チェック柄のリボンを、縋るように握りしめる。そうしないと、湧き上がる恐怖と不安でどうにかなりそうだった。


「ラティアちゃん! ビビっちゃ駄目っす! うちらがちゃんと守るから!」


 檄を飛ばすのは、目つきの悪いおかっぱの女性。新潟県警の大和撫子、冴場伊織だ。


「ラティアちゃん、今よ! 的が大きい内に、早く!」

「そうだ! 我々が付いている!」


 優の両親、相模原優香と優一もそう叫ぶ。優一はドローンの操縦役だ。


 優香と伊織から、勇気を後押しされるように背中を叩かれ、ラティアは歯を喰いしばり、左手を前に出す。


 そこに嵌っているのは銀色の小手……装甲服型、今は小手型アーツ『マグナ・エンプレス』。かつては浅見四葉が使っていたものを、ラティア用に再チューニングされたそれを、ラティアは装着していた。


 これが、鍵だ。ラージ級ランド種レイパーは、目には見えないが、身を守るための(バリア)を纏っている。だがそれは、この小手から放つ衝撃波で打ち破れるのだ。


 再び海へと倒れ込むように着水しようとする巨大レイパー。優香の言う通り、的は大きい。


 震えるラティアの腕。それを支える、伊織と優香。


 そして、


「や、やぁぁぁぁあっ!」


 自らを鼓舞するように叫びながら、開いた搭乗ハッチから、ラティアは衝撃波を放つ。


 吹き荒れる風にも負けず、一直線に飛んでいく衝撃波。


 狙いはブレブレ。アサミ・コーポレーションで何度も練習し、こうして二人に補助してもらっているのに、まるで体が言うことを聞いてくれない。


 だが、


「よくやったっす!」

「ナイス!」

「上出来だ!」


 当たる。ラティアが狙っていたところからは大きく外れたが、それでも敵が巨体であることが、今だけは幸運に働いた。


 轟々と鳴り響く風の音から、僅かに聞こえてくる爆音。直後、何かが割れるような、高い音が木霊する。


 瞬間、誰かが叫んだ。――今だ、やれ! と。


 刹那、周りを飛ぶたくさんのドローンから、一斉に遠距離攻撃の嵐が放たれる。(バリア)を失ったランド種レイパーを仕留めんと、あらゆる殺意が向けられる。


 レイパーが海に着水するまでの、僅か数秒。その間に放たれたエネルギー弾やミサイル、魔法やブレス等の攻撃の数、数万。そしてそれら全てが、あの巨体に一発残らず命中していく。誰もがこの瞬間、全力を放っていた。


 轟く爆発音。大量に発生する煙。


 あらゆる攻撃を受けたラージ級ランド種レイパーは、倒れ込むように海へと落ちていく。


 爆ぜるように撒き上がる海水。波が空高く上がり、津波となって全方位に向かっていく。その中で、ラージ級ランド種レイパーの姿は、海の底へと消えていった。


「やったかっ?」

「――いえ、まだね」


 興奮したような優一の言葉に、顔を強張らせる優香。


 直後、優一は目を見開いた。




 一度海に沈み、浮上してきたあの巨体……そこには、何一つとして傷が無かったのだ。




「馬鹿な! あれだけの攻撃を受けて、無傷だとっ?」


 再生したにしても、余りにもダメージを受けた様子がなさ過ぎる事実に、愕然とする。


 そう思ったのは、優一だけでは無いのだろう。


 いくつものドローンからどよめきの様子が伺え、そんなはずはと再びランド種レイパーに向かって攻撃が放たれる……が、


「……効いていない?」


 攻撃はレイパーに命中している。にも拘わらず、レイパーは平然としていた。


 そして、よく見ると、


「――(バリア)が復活している?」


 冷静に敵の様子を観察していた優香が、信じられないという声を上げる。命中しているように見えた攻撃は、直前で何かに阻まれていたのだ。


「ラティアちゃんが(バリア)を破壊した直後に受けた攻撃は、間違いなく当たっていたわ。ただ、その後は、(バリア)を再生させて防いでいたみたいね……!」

「ってことは、ラティアちゃんには定期的に(バリア)をぶっ壊してもらわねーといけねーってことっすか?」

「くっ、そうなるか……! ラティアさん、出来るか?」

「……っ?」


 優一の問いに、息を呑むラティア。一度は何とか当てたが、これを何度も成功させられる自信は無い。あの衝撃波は、無制限に使えるものではないのだ。装甲服型アーツの時ならほぼ無制限のようなものだったが、小手のみになった今、一度打ったら三十秒は待たなければならない。短いクールタイムだが、強敵相手には致命的な隙だ。もし失敗したら……その重圧が圧し掛かってきて、腕が重くなる。


 頷かなければいけないのは分かっていても、恐怖がそれを邪魔してくるのだ。


 すると、


「ラティアちゃん。小難しいことは考えなくていいっすよ」

「……?」

「奴に衝撃波を当てることだけ考えてくれればいいっす。変なこと考えるから、手が震える。今、何をすべきなのか……そこだけ考えてりゃあ、自然と体はちゃんと動いてくれるっす」

「うむ、外すことなんて気にするな。この状況では、十発撃って二、三発当てられれば上出来だろう。私も当てやすい位置にドローンを持っていく。大船に乗った気でいて欲しい」

「次の攻撃準備が整うまで、後少しの猶予があるわ。まずは深呼吸よ」

「は、はい……!」


 言われるがままに、大きく息を吸い込むラティア。


 そして左手を構え、考える。あの巨体のどこに、衝撃波を撃てば良いのか。――狙うは、ど真ん中。多少狙いが逸れても、そこを基準にすれば当たるはずだ。


 いつの間にか、手の震えは止まっていた。ラティアはそのことに、まるで気付いていなかったが。




 ***




 一方、雅達が乗っているドローンにて。


「ちぃ! 奴め、少しくらい効いた顔をせんか!」


 ドローンの近くを飛んでいた、山吹色の竜、シャロン・ガルディアルがそう憤る。ラティアが(バリア)を破った時、彼女は雅の側まで来ており、ラージ級ランド種レイパーに雷のブレスを放ったのだ。それを受けてピンピンしているレイパーに、そう叫ばずにはいられなかった。


「海水塗れだから、電撃は効くと思ったんですけどね……!」


 ドローンのハッチから顔を出す雅も、奥歯を噛み締める。手には、ライフルモードの『百花繚乱』。その銃身の周りを、まるでリボルバーのように十二個もの雷球がグルグル回っていた。シャロンの使う雷球型アーツ『誘引迅雷』である。先程の一斉攻撃の際、雅もシャロンとの合体アーツで、レイパーに雷を纏ったエネルギー弾を放っていた。最も、それはレイパーを覆う(バリア)によって阻まれてしまったが。


「ミヤビ! シャロン! 連絡が来たわ! 奴の(バリア)は、壊してもすぐに復活するそうよ! だからラティアに何度か破壊してもらいつつ、隙を見て攻撃して、奴をホッカイドウ側に誘導していくわ!」


 ドローンの外まで響く、レーゼの声。だが、それにシャロンは低く唸り、後ろを振り返る。


「マーガロイスよ、また奴があんなジャンプをしたらどうするのじゃ? あんなものを続けられては、儂らは良くとも、ニホン等の島国に被害が及ぶぞ!」


 既に津波は、日本の方まで襲いかかっている。これ自体は想定されていたことであり、太平洋に隣接する県の警察、そして自衛隊はそれに備えてあるが、それにしたって限界があるだろう。


 しかし、レーゼは首を横に振る。


「カミジキさんが、何とかするそうよ! ただ、奴の動きを封じている間、カミジキさんは動けなくなるから、攻撃は頼むって!」

「っ! 見て下さい! レイパーが!」


 雅が、レイパーの方を指差し、レーゼもシャロンもそちらを見る。


 ラージ級ランド種レイパーが尻尾を大きく振り、再び海に潜ったのだ。


 また、あの大ジャンプが来る。


 レイパーが海面に頭部を出した、次の瞬間――




 ズン……っ、という重い音が響き、ラージ級ランド種レイパーが再び海に沈んだ。




「なんじゃっ? どうしたんじゃっ?」

「……っ! 皇奈さんのスキルです!」


 再び浮上してくるレイパー。しかし、その動きは酷く緩慢だ。ジャンプしようとしていたのを、頭から押さえつけられた鈍さとでも言うのか……まるで、何か大きな錘を纏わされたかのような、そんな様子だ。


 雅の言葉は正しい。別のドローンに乗っている神喰皇奈が、レイパーに対して強力なスキルを使ったのである。


 それは、『アイザックの勅命』。敵にかかる重力を増幅させる効果を持っているのだ。


 無論、限度はある。流石にこの巨大レイパーを、海に沈めることは不可能だ。実際、泳ぐ速度は変わっていない。……だが、これでもう、先程のように跳び跳ねることは出来なくなった。あれを気にすることなく、レイパーを誘導させられるのは大きい。


「レーゼさん! 皇奈さんは、どれくらい持ちこたえられそうですかっ?」

「このサイズのレイパー相手に使うのは初めてだけど、六時間は頑張ってみせるって!」

「ならば、それまでが勝負というところかのぉ……っ!」


 なんとか活路を見出した、その時。




【ミヤビっ! 空を見て!】




 雅の中にいたカレン・メリアリカが、いち早く何かに気づく。


 言われた通りにした雅は、直後、目を大きく見開いた。


「っ? ――皆さん、気を付けて! 何か来ます!」


 空のかなた。そこから、無数の黒い影がこちらに向かってきていた。――明らかに、こちらへの殺意を持った、人ならざる化け物が。

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