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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第50章 カルムシエスタ遺跡
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第448話『本音』

「さぁ、こっちだ。もうすぐ着くよ」

「あぁ、やっと……!」


 雅達が敵と交戦してから、一時間後。


 四人は少し休んでから、カルムシエスタ遺跡の奥へと進んでいた。


 この先が遺跡の最深部であり、そこにコートマル鉱石があるらしい。それを知り、優が心底ホッとしたようにそう漏らす。


「ライナさん、体は大丈夫ですか?」

「うん。平気。心配してくれてありがとう」


 粘液で床に接着させられていたライナ。戦いの後、接着されたところを破壊し、助け出された。粘液付着による後遺症等も、特に無さそうだ。


「それより、コートマル鉱石、本当にこの先にあると思いますか? さっきのレイパーが、既に持ち帰ってしまったということは……」

「いや、それは無いよ」


 ライナの質問に、カリッサはきっぱりとそう答える。


「ここにあったコートマル鉱石は、それなりに大きかったんだ。奴が回収したのなら、あの時近くにあったはず。――よし、あそこだ!」


 曲がり角に差し掛かり、通路の出口が姿を見せる。


 瞬間、雅と優、ライナが感嘆の声を漏らした。




 通路の先にある部屋……そこに、全長三メートルものコートマル鉱石が、まるで山のように置かれていたから。







 ――それから程無くして、遺跡の入口に、光の魔法陣が出現。


 そこに、まるでワープしたかのように、雅達とコートマル鉱石が出現する。


「いやぁ、てっきりまたあの長い通路を戻らないといけないと思っていたけど、カリッサさんがワープ魔法を使えて良かったわ。……一方通行なのが勿体ないくらい」

「緊急避難用の魔法だからね。もうちょっと使い勝手がいいと助かるというのは、何度も思ったよ」


 優の、若干疑いのある視線を受けるカリッサ。しかし彼女は特に気にした様子を見せることもなく、肩を竦めてみせる。


 カリッサの言葉に、嘘は無い。彼女が今使ったワープの魔法は、あらかじめ魔法陣として設置しておいたワープ先に、人や物を転移させるもの。設置出来るワープ先は一か所だけであり、一度使うと再設置が必要なので、行きに使えば帰りには使えない。設置には魔力もそれなりに消耗するので、気軽に使うのも難があるのだ。


 因みに、以前雅達がハプトギア大森林から脱出した時に使ったのも、この魔法だった。


「……ま、取り敢えず、目的のコートマル鉱石は手に入ったんだし、早く皆に届けないと。でもこんな大きさのコートマル鉱石、どうやって持って帰ろうか?」


 宅配の魔法なら、ライナもカリッサも使える。だがそれは、小さな荷物に限定されたものだ。届け先も、同じ魔法が使える必要がある。


 挙句、三メートル近いサイズともなれば、カリッサの魔法の絨毯にも乗せられない。


 さて困った……と、優が困った顔になるが、


「まぁ、壊して送るから大丈夫。こんな大きさなのは知っていたし。そこら辺は、向こうにも話が付いているんだ」

「ふぅん。じゃあ、もうひと頑張りしないといけないってことですね。なら、私にお任せを」


 ライナがそう言うと、スキル『影絵』で創り出された十体もの分身ライナが出現し、鎌でコートマル鉱石を砕き始める。


「よし、私達は少し、休憩しましょうか」

「いやぁ、こういう時に分身出せるって羨ましい。……ん? どうしたの、みーちゃん?」


 三人があれこれと話している中、一人思案顔でコートマル鉱石を見つめていた雅。


 優にそう尋ねられると、雅は「おっと、失礼」と小さく首を横に振る。


「ちょっと不思議で。遺跡の入口、かなり狭かったじゃないですか。通路だって、人が一人通るのがやっとというところもあったし。……このコートマル鉱石、どうやってこの中に持ち込んだのかなって」

「んー? ……ん? まぁ言われてみれば、確かに。カリッサさん、何か知ってますか?」

「さぁ? 私と同じような魔法が使える人が、昔にいたのかもしれない」

「……まぁ、古代の神秘ということで」


 そう言いながらも、雅はカリッサのことを、ジッと見つめるのだった。




 ***




 午後一時四十分。シェスタリア。


 宅配の魔法にて、無事にコートマル鉱石を日本に届け終わった四人。帰る前に休憩しようと、ここに立ち寄っていた。


 ついでに、ドラゴナ島で修行しているシャロンと、ウェストナリア学院にいるノルンも合流し、一緒に帰るつもりである。


 さて、シェスタリアの街中にあるカフェ。その外で、カリッサは店の壁に寄りかかりながら、物憂げに空を見ていた。先程まで皆で一緒にお茶をしていたのだが、主に優から発せられる警戒心に居心地が悪くなって、適当な理由を付けて一旦距離を置くことにしたのである。


 最も――カリッサ自身、そういった態度をとられても仕方ないという部分があるのは自覚していた。この一件を雅達への貸しにして、()()()()()()()()に、彼女達を利用しようと思っているのだから。


 カリッサは、コートマル鉱石を守るクルルハプト一族の者。あの遺跡にコートマル鉱石があると知っていたのは、他でもないカリッサが、あの遺跡の中に鉱石を隠していたからだ。


 カリッサがひたすらに情報の出どころを隠していたのは、それを他人に話すわけにはいかなかったからである。良い誤魔化し方が思いつかず、それを勘付かれてしまったのは力が及ばなかったが故か。


 そして、


(今日会ったあの姿の見えない敵。あいつはやはり……)


 カリッサの心を搔き乱すのは、今日戦った敵のこと。


 実は、カリッサは敵の能力や見た目は分からずとも、その正体には心当たりがあった。そして、コートマル鉱石を雅達に渡すという目的で遺跡に行けば、出くわすかもしれないと予想もしていた。


 予想通り襲撃を受け、それがカリッサに、『ある事』の確信を抱かせ……同時に、心が苦しくなってしまう。願わくば、予想は外れて欲しかったから。


 気づけばカリッサは、拳を握りしめていた。自分の感情のやり場に困っていると、


「カリッサさん。どうかしましたか?」

「っ? あぁ、ミヤビさんか。もう出るの?」


 突然横から声を掛けられ、驚くカリッサ。雅が側に来ていたことに、まるで気付かなかった。


 雅はカリッサの質問に「いえ、二人とも、もうちょっとのんびりしたいみたいです」と首を横に振る。


 ならばなんの用か……少しばかり警戒するカリッサに、雅は苦笑して口を開いた。


「何だかカリッサさん、思いつめているみたいな顔だったから。遺跡を出た後……いや、レイパーと戦っている時からかな? だから、ちょっと心配になって」

「……そういう君は、ちょっと憑き物が落ちたような顔をしていたみたいだけど?」

「そうなんですよ。ちょっと途中、さがみんに愚痴聞いて貰ったからかな? 意外とスッキリするんですね」


 ケロリとそう言う雅に、カリッサは内心で舌を巻いていた。十代そこらの少女に、自分の内心を見透かされていたとは、夢にも思っていなかったのだ。


「……あの、私のスキル、『共感(シンパシー)』って言って、仲間のスキルを、一日一度だけ使えるんです。仲間判定の基準は結構緩いんですけど、何でもかんでもってわけじゃなくて、相性次第では使えないものもあるっぽいんですけど。……でもそういうのって、スキルの方から教えてくれるんですよね。『私は共感(シンパシー)じゃ使えないよー』って。その理由とか仕組みなんかは、まだ分かってないんですけどね。ただ、そういうのが無い場合って、相手が自分に、あんまり心を開いてくれていないってことなんですよ」

「……?」

「前に会った時、一緒に共闘して……今日も遺跡の探索も、一緒にしたじゃないですか。雑談だって結構した。でも、私はまだ使えないんです。――カリッサさんの、『光封眼』のスキル」

「…………」


 嫌な汗が、カリッサの背中を伝う。


 優の警戒心にばかり気を取られて、油断していた。雅もまた、自分のことを探っていたことなど、夢にも思っていなかったのだ。言外に、彼女は言っているのだ。『自分達のことを、何故仲間と思っていないのか』と。


 確かに、カリッサは雅達のことを利用するつもりがあるだけで、特に心を開いているというわけではない。事実、カリッサは彼女達に、自分の正体を伝えていないのだ。『コートマル鉱石を守る一族だ』ということを。


 ヤバい……そう焦るカリッサ。現状、雅が『カリッサを信用する』と決めたからこそ、大なり小なりの警戒心はあれど、優とライナも自分に着いてきた。交渉に乗ってくれたのだ。その雅までもが疑い始めたら、自分の計画が狂ってしまう。それは、カリッサにとって、最も望まぬことである。


 どう言い訳すれば良いか……色々な考えが頭を巡る。


 だが、


「カリッサさん。私、待ってます」


 雅の口から出たのは、意外な言葉。


 呆気にとられ、二の口が告げないカリッサに、雅は続ける。


「カリッサさんが何か隠し事をしているっぽいのは、私も分かっています。でも、きっと理由があるんでしょう? 私達を仲間だと思えないのも、多分それに関係している気がする。でも……カリッサさんは悪い人じゃない。それは理解していますから。私、全然待てます」


 わざわざ、束音家に訪れたのだ。


 カリッサは、現状は難しくても、きっと、雅達を信用したいのではないか。雅はそう思う。


 だから、


「いつか話せることとか、話したいこととか、そういうのがあったら、遠慮なく来てください。私で良ければ、聞きますから。それだけは、ちゃんと伝えようと思って」


 それじゃ、と言って、雅はカリッサに背を向ける。


 その背中を見たカリッサは、堪らず口を開いた。「いつか、全部話すよ」……そう伝えるために。


 だが、その言葉が中々出て来ない。


 気づけば、雅はもう店内戻ってしまっていたのだった。

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