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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第50章 カルムシエスタ遺跡
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第447話『粘固』

 ライナとカリッサが、正体不明の敵と戦っていた、丁度その頃。


 雅と優も、全速力で闘技場の方へと向かっていた。――優のスキル、『エリシター・パーシブ』に、レイパーの反応があったから。


「さがみん! 敵の位置はっ?」

「上の方! 動きからして、多分二人に攻撃している感じ!」


 瞳を緑色に輝かせ、焦ったような顔をする優を見て、雅は拳を握りしめる。


(私のせいで……っ)

【ミヤビ! 今は気にしている場合じゃないよ!】


 話始めたら止まらなくなってきて、随分長いこと優を付き合わせてしまった。あれが無ければ、とっくにライナ達と合流できたはずだ。それを後悔する雅に、カレンが檄を飛ばす。


 だが、そんなカレンの声も、少しばかり震えていた。


 カレンも、分かっているのだ。……雅の苦しみは、自分が吐き出させてやらなければならなかったのだと。だが出来なかった。雅と一緒に過ごした時間が長かったせいで、雅の抱えていた苦しみと同じようなものを、カレンも抱えてしまっていたのだから。


 雅に吐き出させようとすれば、自分も色々込み上げてきてしまう。きっと、互いに不満を吐き出すことになってしまうだろう。その結果、もう一度前を向けるか、自信が無かった。


 カレンは思う。自分が雅の中にいたとて、彼女を助けてやること等、出来ないのだと。自分の無力さが、酷く歯がゆかった。




 ***




「ぐっ……!」


 闘技場にて、二階に上がったカリッサの太腿から、血が滴る。


(これは――粘液を固めた物っ? こんな攻撃も出来たのっ?)


 まるで弾丸。敵は、粘液を飛ばすだけでなく、その粘液を予め固め、飛ばすことも出来たのだ。


 まさかこんな攻撃を隠し持っていたとは思ってもいなかったカリッサ。こんなことが出来るのなら、何故今まで使わなかったのかと思ってしまうくらいだ。


 何か制約があるのか、ただ単に気分の問題なのか……カリッサは、相手の行動の意味を考える。あくまでも頭は冷静だ。混乱するようなことは無い。


 が、一瞬の隙はどうしたって生まれる。


「カリッサさんっ! 避けて!」

「――っ!」


 マシンガンのように放たれる、破片。それが、カリッサの体に無数の傷を作っていく。


 ライナによって創り出された分身ライナが、彼女の前に出て盾になる。だが破片の攻撃は思った以上に威力があり、あっという間に分身を消し飛ばし、後ろにいるカリッサに命中してしまう。


 チリっとした鋭い痛みの嵐に、意識が揺れる。


 それでも、カリッサの目は、辛うじて死んでいない。攻撃を受けながらも、彼女は探していた。――敵の姿を。


(どこだ? どこにいる……っ?)


 攻撃が飛んでくる方向には目を向けている。そこにいるはずだ。痛みを堪えさえすれば、必ず見つかるはずなのだ。


 だが、直後。


「――っ」


 マシンガンのように放たれていた破片攻撃が止んだ突如、突き刺さるような重い鈍痛が、カリッサの腹部に響く。


 ハンマーのようなものを叩きつけられたのか、殴られたのか。それは分からない。


 分かったのは――


(そうか、こいつは――)


 物陰に隠れていたのではない。……敵は、姿を消せるのだ。ここでやっと、それに気づいた。


 吹っ飛ばされる体。遠のいていく意識。


 しかし、カリッサはそんな中で、手を前に突き出す。


 耳の遠くで聞こえてくる、自分の名前を呼ぶライナの声。それが、彼女の意識を繋ぎとめていた。残った意識で、カリッサは勝負に出る。


 相変わらず敵の姿は見えない。


 だが、近くにはいるはずだ。あの一撃は、遠距離攻撃ではない。徒手空拳にしろ、武器にしろ、近距離から繰り出されたような、そんな一撃だった。僅かながら、殺気も近くから感じたのだ。


 ならば――


 瞬間、カリッサの手の平に集中していく魔力。刹那、放たれる星型のエネルギー弾。


 そして直後、それは爆発する。


「ざ、ざまあ見ろ……っ!」


 確かな手応えと共に、カリッサは見た。僅かに見えた、敵の姿を。


 まるで空間が揺らいだかのような違和感。それは、詳細ははっきりとは分からないが、人型の化け物の形をしていた。


 再び姿を完全に消したが、これが敵の正体……そう分かった時には、カリッサはライナの名前を叫んでいた。


 ここに敵がいる。それを彼女に知らせる為に。


 直後に闘技場に轟く、ライナの咆哮。


 刹那、この闘技場を埋め尽くすように続々と創り出される、分身ライナ達。


 三十人以上もの分身を創り出せば、一体一体は単調な動きしか出来ないが、それで充分。分身達は、迷うことなく二階へと飛んでいき、鎌を振り上げた。――そこにいるはずの、見えない敵へと攻撃するために。


 だが、


「っ?」


 カリッサの瞳が、困惑に揺れる。


 分身達の攻撃……それが、空振っているようにしか見えなかったから。


 薄れていく意識による視界が、そう錯覚させているようには思えない。もうそこに、敵はいない。


 決定的なチャンスを、完全に逃してしまった。


 その喪失感に、もう駄目だとカリッサが意識を手放しそうになった――その瞬間。




「今よ、みーちゃん!」

「ええ、さがみん!」




 突然そんな声が轟いたと思ったら、どこからともなく桃色と白色の二つのエネルギー弾が飛んできて、何かに命中し、爆発する。


 その一撃の衝撃が、離れかけていたカリッサの意識を引き寄せた。


 一体何が起きたのか……カリッサがそう思っていると、


「カリッサさん! 大丈夫ですかっ?」

「くっ……ミヤビさんに、ユウさん……? そうか、君達が奴に攻撃を……?」


 カリッサに駆け寄ってきたのは、雅と優。それぞれ剣銃両用型アーツ『百花繚乱』と、スナイパーライフル型アーツ『ガーデンズ・ガーディア』を握っている。


「ええ。ライナさんが上手く隙を作ってくれたお蔭で、何とかね」


 ライナに感謝しなさいよと言いたげな口調で、優がサムズアップをする。


 雅と優の姿を見たライナ。


 その時、ライナは二人に指示を飛ばしていた。――未だ姿を見せない敵を、倒すために。


 今、敵はこの場に、ライナとカリッサしかいないと思っている。そしてライナは既に拘束済みで、分身を出して応戦する以外に手を打てない。カリッサも満身創痍だ。


 ならば、少なからず勝利を確信し、油断しているだろう。


 そこが隙だ。だからライナは、大量の分身を出したのである。――彼女達が分身に紛れ、敵に奇襲するために上の階段で二階に上がれるように。


 大量の分身達の攻撃が届かないことは、ライナも承知していた。それでも良かったのだ。優がくれば、スキルで敵の位置は把握出来るのだから。


「た、助かった……。あっ! そ……そうだ、奴はっ? 倒したっ?」

「いや、まだ生きてる。スキルも乗っけたんだけど、しぶといわね」


 攻撃が命中した手応えはあったが、レイパーを倒した時の爆発は発生していない。視認されなかった攻撃の威力をあげる『死角強打』のスキルを二人とも使っていたため、それなりのダメージはあったようだが、撃破にはもう一押しといったところだろう。


「みーちゃん!」

「はい! さがみん!」


 雅が返事をすると同時に、百花繚乱を優へと投げる。


 刃の先から縦に割れ、優のガーデンズ・ガーディアの上下に嵌り込んだ。二人の合体アーツだ。


 一緒に合体アーツを構える、優と雅。


 敵の姿は、どこにもない。


 だが、


「ふん! 姿が見えなくたってねぇ……!」


 優の『エリシター・パーシブ』からは、逃れられない。




「そこだっ!」




 銃口を向ける先は、虚空。一見すると、そこには何もない。


 だが、優のスキルは、はっきりと教えてくれていた。――そこに、人ならざる敵がいると。


 二人で同時にトリガーを引くと、白と桃色のマーブル模様をした弾丸が、真っ直ぐ放たれる。


 何かに命中し、巻き起こる爆発。


 その衝撃たるや、壁がミシリと音を立て、既に入っていた罅が、僅かながらに広がる程だ。


「よし……! 倒したっ!」

「……いえ」


 ガッツポーズをするカリッサだが、雅は険しい表情のまま、首を横に振り、天井を指差す。




 ――そこに、今までは無かったはずの穴が開いていた。




「ま、まさか……逃げたの?」

「ええ。さっきの爆発、違和感がありました。殺されたと思わせるために、自分から起こしたんでしょうね」

「『エリシター・パーシブ』も、遠くに逃げていくレイパーを捕らえている。……あ、今消えた。スキルで察知出来る範囲の外に行ったのね。あぁ、もう! せめて姿くらいは確認したかった!」


 敵が持っている能力か、合体アーツによるエネルギー弾を上手く利用したのか……カラクリは分からない。


 ただ、敵にまんまと一杯食わされてしまったことだけは、確かだった。

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