第445話『談違』
雅達が遺跡の中を進んでいる頃、もう一組……ライナとカリッサも、順調に先へと進んでいた。
ライナが、自らの分身を創り出す『影絵』のスキルを使い、索敵しながら慎重に進む二人。今、二人は通路に隠れている。先には部屋があり、そこを分身ライナが調べているという状況だ。
そんな中、
「カリッサさんって、こういう遺跡とか好きなんですか?」
「え、どうしたの急に?」
不意にそう聞かれ、ビクンとするカリッサ。周りの警戒に神経を集中させていたせいか、急に話しかけられて驚いてしまったのだ。
ライナはそんなカリッサの反応にクスリと笑みを零す。
「いえ。この遺跡の奥にコートマル鉱石がある、なんて話、遺跡に興味が無ければ知る機会って無いから。てっきり、私と同じでこういうのが好きなのかなって」
「あ、あぁ、そういうこと。うーん……遺跡が好きって言うより、自然で創られたもの全般が好きって感じかな」
「へぇ、じゃあ、森の管理人をやっているのも、好きだからですか?」
「……うん。そうだね」
「…………あ、こっちも安全みたいですね。行きましょうか」
分身ライナが手招きするのを見て、ライナはカリッサを連れて部屋に入る。
カリッサに悟られないように、彼女の一挙一動に観察するライナ。
先程の質問に、カリッサは反応が一拍弱程遅かった。何となくだが、何かを誤魔化しているような、そんな感じがする。
カリッサを疑っているのは、優ばかりではない。ライナもまた、彼女を疑っていた。先の話も、適当な世間話から何か情報を引き出せないかと思ってのことである。
(……さっきの質問の答え、多分全部が本当って感じじゃないかな? でも、何か嘘を吐きたくて言っていたというような雰囲気はない。多分、言えない事情があって、仕方なくという感じかも)
自分の経験と照らし合わせ、今のところはそう結論付けるライナ。取り敢えず、自分達の敵では無いというのは間違いがないようだ。
一方で、
(カリッサさん、多分敵の正体に気づいている? 正体までは分からなくても、襲われる理由に心当たりがあるっぽい?)
そうも思うライナ。
何となく、最初の岩の障害にぶつかった時から、ああいうトラブルを想定していたようにも思えたのだ。奇襲を受けたにしては、妙に冷静に見える。
ここにコートマル鉱石があることも、偶然知ったわけではないのは間違いない。情報の太いパイプがあるのだろうと思った。
試しに鎌をかけてみようかとも思ったが、何かしらの拍子でカリッサに、自分達に対して警戒心を持たれるのは避けたい。カリッサが協力してくれなければ、コートマル鉱石を持ち帰ることはおろか、この複雑な遺跡から帰ることも難しくなるかもしれないのだから。
(ミヤビさんは割と信用しているみたいだけど……少し警戒しておくくらいがベスト、かな?)
雅ほど信用するつもりは無いが、優程疑うつもりもない。丁度中間くらいか。
その後も、辺りを警戒しながら、世間話をしつつ先へと進んでいくライナ。カリッサに、感情にならない程度に探りを入れることも忘れない。
――そんなこんなをすること、どれくらい経っただろうか。
「よし、何とかここまで来たね」
雅達との待ち合わせの部屋。そこに、二人は到着する。カリッサの言う通り、確かにここまでは一本道だった。
それにしても、
「ここ……なんの部屋なんでしょうか? というか、部屋?」
辺りを見回しながら、ライナは首を傾げる。
部屋……というには、少しばかり疑問が残るだろうか。ここは、今までのような、ただの石壁に囲まれただけの部屋では無かった。
例えるならば、闘技場。小さな体育館とも言えるだろうか。
サッカーのコートの半分くらいの大きさで、上の階に突き抜けている構造だ。上の方は観覧席となっている。狭い通路が多かった分、体感は物凄く広く思えた。
「多分、訓練場だと思う。戦いの痕跡があるし」
床や周りの壁に付いた無数の傷跡。何度も修復された跡があり、それだけ誰かが派手に暴れたのが分かった。
「武具の収納の為に造られたわけじゃないみたいですね」
「というよりも、そのついでにこんな施設も作ったんじゃないかな? ……それにしても、ミヤビさん達、まだ来ていないみたいだね」
それなりに慎重に、ゆっくり進んできたから、てっきり先に到着しているだろうと思っていたカリッサ。優には索敵用のスキルがあるから、サクサク進めるだろうと思っていたのだ。
それはライナも同じ。二人の姿が見えないことに、少し驚いていた。よもや、優が二人きりになったのを良いことに、雅に色々と愚痴を吐かせているとは思ってもいない。
一応、ライナもULフォンはあるが、それで連絡をとろうにも、流石にこんな遺跡の地下深くでは電波が悪すぎる。こういう時、通話の魔法は便利なのだが……雅と優、ライナとカリッサで分断されてしまったのが運の尽きか。
「ミヤビさん達、あっちの通路から来るはずなんだけど……どうしよう? ここで待つ? それとも迎えに行く?」
「何かあったかもしれませんし……早めに合流できるのなら、それに越したことは――っ?」
二人が、そんな相談をしていた時。
不意に、上の方から殺気を感じ――直後、二人に向かって、何か白い液体が飛んできた。
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