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第48話『蕎麦』

タイトルは誤字では無いです。

 神殿の表口側。


 雅とセリスティアは、パラサイト種レイパーに寄生されたライナと交戦しながらそこまで移動していた。裏口側ではレーゼとミカエルがケットシー種レイパーと戦っており、邪魔になりそうだと判断したからだ。


 雅とセリスティアは現在、三人の(・・・)ライナに苦戦を強いられていた。内二人は、ライナのスキル『影絵』によって創り出された分身だ。


 分身は単調な攻撃しか出来ないが、ライナと戦っている最中に後ろから忍び寄られ攻撃をされれば厄介なこと極まりない。分身は攻撃を当てれば簡単に消えるが、そのすぐ後に別の分身を創り出されてしまえば、実質不死身なものと何ら変わりは無いだろう。


 勿論、本体のライナをさっさと倒せば分身が創り出されることも無いが、寄生したレイパーに操られ、無理矢理戦わされている彼女に大ダメージを与えることは憚られる。


 アーツはそれ自体が凶器。一歩間違えれば、ライナを殺してしまいかねないこと等、二人とレイパーは百も承知だ。


 レイパーは別にライナが二人の攻撃で息絶えても何も困らず、それ故に一切の防御を取らない。寧ろ、二人の攻撃にわざと当たりにこようとすることすらある。


 幸い、本体と分身の違いは雰囲気で分かる――分身には、生気が感じられない――ものの、雅もセリスティアも、攻めの手はかなり鈍っていた。


「ちぃっ! 次から次へと、こんにゃろう……っ!」


 苛立たしげに呟くセリスティアは、腕に装着されたアーツ『アングリウス』から伸びた、銀色の爪で、背後から鎌を振り上げ襲ってきた分身のライナを貫き、消し去る。


 しかし、分身ライナの後ろには本体のライナが立っていることに気が付き、一瞬硬直するセリスティアの体。


 その隙に、新たに出現した分身のライナが、セリスティアの右から襲いかかる。


 そちらの攻撃は何とかアーツで防いだものの、やや遅れて本体のライナが鎌を横払いするように振ってきて、それもアーツで受け止めるセリスティア。


 結局、二人の力に押し負け、後ろに吹っ飛ばされてしまう。


「セリスティアさんっ?」


 それに気が付いた雅は、分身のライナと戦いながらもつい余所見をしてしまう。


 だがその行動は余りにも迂闊。


 分身のライナが力一杯鎌を降り下ろし、それを咄嗟に百花繚乱で防ぐが、刹那、自身の腹に強烈な蹴りを入れられ、吹っ飛ばされてしまう。


「や、やべぇなこりゃあ……」

「ど、どうしましょう……」


 背中合わせになる二人は、意味が無いと分かっていても、そう漏らさずにはいられなかった。


「と、とにかく……ライナさんの手からアーツを無くしましょう。武器があっちゃ、どうにもできません……!」

「っ! ミヤビっ!」


 セリスティアが咄嗟にミヤビを掴んでその場を離れる。


 瞬間、彼女達が今までいた場所に、上空から分身ライナが一人、鎌を振りながら落ちてきた。


「セリスティアさんっ!」


 攻撃を躱した直後、別の場所から本体のライナが攻撃を仕掛けてきたことに気が付き、雅がそれをアーツで受ける。


 その背後から襲いかかる分身ライナがいたが、そちらはセリスティアが爪を突き刺し消し飛ばした。


 二人は互いの死角や隙をカバーしながら動き、迫る分身のライナと本体のライナをいなしていく。


 二人はその間にも、必死で頭を回転させていた。


 どうすれば、ライナを助けることが出来るのかを。


 ふと、雅は残るスキルで何か使えないものが無いか考え……気が付く。


 使っていないスキルは三つ。


 その内一つは、もしかするとこの状況を打破出来るのではないか、と。


 それに賭けるしか無い。そう思った。


 その時、雅の右側から、本体のライナが迫る。ライナのアーツ『ヴァイオラス・デスサイズ』が、上から振り下ろされた。


 それを百花繚乱を盾にして受けた雅は、ライナの腹部に蹴りを入れてよろめかせる。


 そして跳躍し、体を横回転させ、踵を繰り出す。胴回し回転蹴りである。


 狙いは彼女の鎌。


 ライナも雅の狙いに気が付き、咄嗟に鎌を振り上げ応戦する。


 雅の踵とライナのアーツが激突するが――負けて吹っ飛ばされたのは雅の方だ。


 背中から地面に叩き付けられ、痛そうな呻き声を上げる雅。


 その隙に、飛び掛るようにして襲いかかってくる二人の分身ライナ。


 雅は素早く百花繚乱の柄を曲げてライフルモードにすると、分身の内一人に向けて桃色のエネルギー弾を放ち、消滅させる。


 続けて二人目……と銃口を向けかけたが、その時既にもう一人の振り下ろす鎌の刃は目の前にあった。


 間に合わない――と思った刹那、その刃諸共分身が消滅する。


 ギリギリのところでセリスティアのアーツから伸びる爪が、分身を貫いていたのだ。


「ありがとう!」


 言いながら、銃口をさらに別の方向へと向け、エネルギー弾を放つ。


 そこには二人の分身。倒れた体勢から放った攻撃のためか、狙いが逸れてエネルギー弾は当たらない。


 さらに分身の反対側からは、本体のライナが襲いかかる。


 雅は起き上がると同時に百花繚乱の柄を伸ばしてブレードモードにし、分身の相手をしに向かう。


 本体のライナの相手はセリスティアだ。


 ライナはセリスティアの足目掛け、鎌を横に払うように振るが、セリスティアはそれをバク転して躱す。


 そして着地と同時に足に力を込め、一気に地面を蹴った。


 猛スピードでライナとの距離が縮まる。


 本能的な危機感からか、ライナはその突進攻撃を思わずアーツで防いでしまい、顔を顰めた。


 攻撃を防がれてしまったことで、セリスティアは一旦距離をとるためにバックステップしようとして体を若干仰け反らせた刹那。


「――っ!」


 ライナは待っていたと言わんばかりに、鎌を振り回し、素早い八連撃を繰り出す。


 体勢が不十分で、セリスティアはアングリウスを盾にして防ごうとするが、完全には防ぎきれない。直撃こそしないまでも、鎌の刃が三度、体を掠ってしまう。


 痛みに顔を歪め、一瞬動きが鈍るセリスティア。


 その隙を逃さず、ライナはセリスティアの首目掛けて鎌を振る。


 しかし、その攻撃が当たる直前、ライナの手から鎌が弾き飛び、真上に放り投げ出されてしまう。


 少し離れたところから、雅がライフルモードにした百花繚乱の銃口をライナに向けていたのだ。分身ライナを倒した後、本体のライナの持つヴァイオラス・デスサイズへエネルギー弾を放ったのである。


 決定的なチャンスに、ライナを捕らえようと再び前に踏み込むセリスティア。


 だがライナはセリスティアの懐に素早く潜りこむと、彼女の腹に肘打ちをし、怯んだところに回し蹴りで大きく吹っ飛ばす。


 そして落ちてきたヴァイオラス・デスサイズをキャッチし、瞬間、地面を蹴って雅に一気に近づく。


 雅は百花繚乱をブレードモードにする間も無かった。


 ライナが繰り出す鎌の連続攻撃を、やむなく身一つで躱していく。


 上下左右と斜め、回転斬り、フェイントからの足払い……それら全てを、雅は青い顔をしながらも避けていく。


 しかし、長くは持たない。


 斜め左下方向から繰り出された鎌だけはどうしても避けきれず、咄嗟にライフルモードの百花繚乱を盾にして直撃を防いだ……が、衝撃を殺しきれず、雅の手から百花繚乱が弾き飛ばされてしまった。


 しまった――と思ってしまったが最後。


 流れるように鎌を上段に構え、振り下ろされてしまう。


 別のことに気を取られてしまっていた雅に、それを避ける暇は無い。


 刹那、二人の間にセリスティアが割って入り、アングリウスで鎌の一撃を防いだ。


 セリスティアの手には、百花繚乱も握られている。


 冷や汗を流すセリスティア。間一髪で間に合ったのだ。もしスキル『跳躍強化』により高速で移動出来なければと思うと、今日ほど自分のスキルの有難味を感じた日は無かった。


 気合を入れるように吠えながら、ライナを押し飛ばす。


 そして雅を抱え、一気にライナと距離を取る。


 だがホッとする暇は無い。


 彼女達を取り囲むように、十数人もの分身ライナが、二人に襲いかかってきた。


「にゃぁろう……!」

「セリスティアさん」


 大量の分身を見て歯噛みするセリスティアに、雅はそっと耳打ちをする。


 状況が状況だけに、短く簡潔に、要点だけをライナには絶対に聞こえないように。


 しかしそれを聞いて、セリスティアは目を見開き――こんな時にも関わらず、不敵に口角を上げる。


「上等! 絶対やれよ!」

「必ず!」


 セリスティアの足に力が籠る。


 同時に、スキル『跳躍強化』が発動。本来はジャンプ力を十倍にするスキルだが、両足が地面から離れれば効果が発揮するため、『水平方向に飛ぶ』ことで、高速移動することも可能だ。


 セリスティアの姿が、分身ライナの視界から消える。


 どこに行った――と姿を探す本体のライナだが、それより先に次々に分身の数が減っていくのが見え、眉を顰めた。


 高速で飛び回るセリスティアが、分身をアーツから伸びる爪で次々に串刺しにしているのだ。


 そして、僅かに撃ち漏らした分身のライナを、雅がブレードモードにした百花繚乱の回転斬りで一気に消滅させ、その後、ライナに向かって走り出す。


 応戦するため、ライナも雅に向かって地面を蹴って近づく。


 互いの距離が二メートルを切ったところで、同時にアーツを振る。


 二人とも、自身の斜め右上から振り下ろす形。


 ライナの狙いは、雅の体。


 雅の狙いは、自身の持つヴァイオラス・デスサイズだとライナは思う。


 だがライナは振りかぶった瞬間、雅の攻撃の方が先に届きそうだと直感し、咄嗟に自分の体を無理矢理にでも前に出していた。


 こうすれば、ライナの体を傷つけられない雅の動きが鈍る。そうすれば、自分の鎌が先に雅の体を斬り裂けると思ったから。


 もし勢い余って雅が自分の動きを止められずにライナを斬ってしまっても、中のパラサイト種レイパー(自分)にダメージは無い。死んだライナを見て絶望した雅に寄生し、セリスティアをゆっくり甚振れば良い……レイパーからすれば、どちらでも問題無い未来だ。


 勝った――と確信しかけた、その時。


 ライナの目が、見開かれる。


 雅の手から、百花繚乱がするっと抜け落ち、地面へと落下していた。


 雅の狙いは、ライナの持つアーツでは無かったのだ。


 雅がライナ目掛けて飛び掛った時、ライナは初めて彼女の目的が、自分を捕らえることだと知る。


 雅の腕がライナの体の後ろに回され、密着する二人の体。


 しかし、ライナの腕はまだフリー。


 ライナは持っている鎌を、自分へと振り下ろす。


 しがみつく雅の心臓を、貫くのだ。


 結果は変わらない、と笑みを浮かべたライナ。


 だが。


「うぉおおらぁああっ!」


 この攻防の間に近づいていたセリスティアが、アングリウスの爪で、ヴァイオラス・デスサイズを弾き飛ばす。


 しまった――と思ったライナだが、彼女の視界に雅の顔が映りこみ、目を見開く。


 何をする気か、と疑問を持つライナ。


 レイパーはちっとも分かっていなかった。雅の『本当の』狙いを。


 雅が一気に顔を近づけてきたことで、ようやくそれに気が付き、焦り出すレイパー。


 もう遅い。


 レイパーが慌てはじめた時はもう、雅はライナの唇に自分の唇を重ねていた。


 何故、雅はこんなことをしたのか。


 雅は使っていたのだ。彼女に残された、ある女の子のスキルを。


 ファム・パトリオーラのスキルだ。スキルの名前は雅も知らない。どういう効果があるのかは知ってはいるものの、実際に見たわけではない。イーストナリアのガルティカ遺跡の地下で、ミカエルからファムがスキル持ちだという話を聞いただけだった。


 本当は後でファムに見せてもらおうと思っていたのだが、バタバタしていて忘れてしまっていた。だから、これまでそのスキルの存在も忘れてしまっていたのだ。


 ファムのスキルは、自分を縛る拘束を解く、というもの。


 雅がそれを使うと、効果はちょっと変わる。


 その効果は……掛けられた拘束を解く方法が分かる、というもの。


 さっき、無駄撃ちになる可能性を承知で使って、その効果を知ったのだ。


 一見、ファムの完全下位互換のように見えるが――一個だけ、ファムのスキルよりも優れた点があった。


 ファムのスキルは『自身に掛けられた拘束』にしか効果が無いが、雅のスキルは『自他問わず掛けられた拘束』に効果がある、という点だ。


 これを知ったのは、つい先程。セリスティアと本体のライナが戦っている最中だった。


 雅は賭けたのだ。最後に残った、効果の分からないスキルに。


 そして、『共感(シンパシー)』とファムのスキルは、雅に味方した。彼女がこの場で最も必要な効果を持っていたのだ。


 パラサイト種レイパーの寄生からライナを解放する方法。



 それは、寄生された人間の精神を大きく揺さぶることだった。



 雅達は知らないことだが、パラサイト種レイパーが女性に寄生するのには条件がある。大きく動揺した対象の脳みそに自分の神経を接続し、かつ体内に侵入することだ。それにより体と心を完全に支配するのだ。


 人間、動揺すれば精神的な隙が生まれる。レイパーはその隙を付くわけだが……実は神経が接続されている状態で対象がもう一度動揺すると、その接続は簡単に切れてしまう弱点があった。そして神経が接続されていなければ、このレイパーは人間の体内に滞在出来ない。


 心と体を支配していれば滅多なことで寄生された女性本人が動揺することは無い。例え家族や恋人、友人を殺させたところで、心を支配された対象が動揺することは無いのだが、例外はある。


 今のように、セクシュアルな接触がその例外だ。


 特に、体の内側への刺激には弱い。


 だから、雅は舌までライナの口の中に入れる。


 たった一度の掴んだチャンス。今を逃せば、パラサイト種レイパーは逃げ出すだろう。そうなれば、もうライナは助からない。


 何としても、ここでライナを救い出す。


 その覚悟で、雅はライナの舌に自分の舌を絡ませる。


 流石の雅と言えど、女性相手にディープキスは今が初めてだ。そういった行為は、年齢的にまだ早いと思っていたから。


 でも関係無い。


 危険を感じたレイパーがライナを内側から壊す前に、彼女の中からレイパーを追い出さなければならない。


 永遠とも思える時間が、雅の中で過ぎる。だが、実際に過ぎた時間は、僅か二秒。


 ライナの体が、大きく揺れる。


「……っ!」


 そしてライナの目に、本人の光が戻った瞬間。


 ライナの耳から、勢いよく白い『何か』が飛び出る。


 クラゲとイカを足したような見た目のあいつ――パラサイト種レイパーだ。


 刹那、雅がライナの口から自分の口を離し、セリスティアが地面を蹴る。


 雅がライナを自分の後ろに匿うと同時に、セリスティアのアングリウスの爪が、パラサイト種レイパーの体に深く、深く突き刺さる。


 雅は先程落とした自分のアーツ、百花繚乱を拾うと、爪を付きたてられてもがき苦しむパラサイト種レイパーに飛び掛り、セリスティアのように百花繚乱の刃を突き刺した。


 あまりにも柔らかいレイパーの皮膚。二人の持つアーツの鋭い爪と鋭利な刃を防げるはずも無い。簡単に斬り裂かれ、傷口からは透明な液体がとめどなく流れ出る。


 二人は一斉にアーツを掬い上げるように振り、パラサイト種レイパーを宙に放り投げた。


 怒りの咆哮を上げながら、雅とセリスティアは同時にアーツを振り上げ、落ちてくるパラサイト種レイパー目掛けて振り下ろす。


 百花繚乱とアングリウスがレイパーの体を斬り裂いた瞬間。


 セリスティアが雅と、離れた所で倒れるライナを抱え、レイパーから離れる。


 そして背後で、大きな爆発が起こるのだった。



 ***



「ミヤビっ! セリスティアっ!」


 パラサイト種レイパーを倒してから一分後。


 レーゼやシャロン達が雅達のところへ集まる。


 床に座りこんでいた二人は、声をかけて近づいてくるレーゼ達に向かって片手を挙げる。


「レイパーとライナさんはっ?」

「今倒したところです。ライナさんも無事ですよ。今はまだ気を失っていますけど」

「よ、良かった……」


 ライナが無事だと知り、ミカエルは胸を撫で下ろす。


「こちらもレイパーは全部撃破したところじゃ。これで邪魔者はおらん……中に入るかの?」

「……ん? 子供が何でこんなところに……?」


 人間態のシャロンは神殿を見ながらそう言うと、その存在に気が付いたセリスティアが眉を顰める。小柄だから、声を出すまで気が付かなかったのだろう。


「この子、竜だよ」

「りゅ、竜だぁ? あっちで戦ってた、山吹色の、あの?」

「うん、私も驚いたけどね」


 セリスティアの疑問に答えたのはファム。


 何となく信じられないといった様子のセリスティア。ちらっと雅に視線を向けるが、雅が頷くのを見て「マジかぁ……」と小さく漏らす。


「し、知らないこととはいえ、子供とか言って悪かった」

「気にするでない。竜の中じゃ子供じゃからの、かっかっか!」


 快活そうに笑い声を上げるシャロン。


 呆気に取られたセリスティアとは対照的に、つられて笑いそうになる雅だが、その頬を両側からファムが摘む。


「ミーヤービー?」


 目がちょっと怒っており、雅はダラダラと冷や汗を流す。


「無茶しないって、約束したよね?」

「あー……これにはちょっと事情が――」

「言い訳しない。……心配した」

「……ごめんなさい」


 謝ると、ファムは深く息を吐いて、雅の頬から手を離す。


 そのやりとりを眺めていたミカエルは、一段落すると、コホンと咳払いをしてから口を開く。


「一旦、自己紹介しましょう? さっきはそんな余裕無かったし……。わ――」

「む、そうじゃの。儂もまだ名乗っておらんかった。シャロン・ガルディアルじゃ。よろしく頼むぞ」

「わ、私から名乗ろうと思っていたのに……」

「す、すまぬ……!」


 出鼻をくじかれ落ち込むミカエルの肩に、ファムは呆れたようにポンっと手を置く。


 そして一通り、名乗るだけの簡潔な自己紹介を終えた後。


「で、これからどうするの? 皆で神殿の中に突入する?」


 レーゼがそう聞いた。


「いいのか? 俺ぁ大丈夫だが……皆、戦闘が終わったばかりだろ?」

「私は心配しなくていいわ。スキルを使えば、まだ魔法も使えるし」

「遠くから援護するくらいなら、私も平気」


 セリスティアの言葉に、ミカエルとファムはそう答えた。


「儂もいけるの」

「え? でも結構酷い怪我、してなかった?」

「竜の体は丈夫じゃ。あれくらいなら、何とか戦える」


 心配そうな顔をするファムに、安心させるように口角を上げて言うシャロン。


「わ、私もいけ――っ?」

「ちょ、ミヤビ!」


 立ち上がろうとした雅だが、ふらついて倒れそうになり、レーゼに支えられる。


「す、すみませんレーゼさん……」

「私達が来るまで、随分大変だったんでしょ? ちょっと休みなさい」

「朝から連戦続きじゃったからのぅ……。体が悲鳴を上げておる」

「で、でも……」

「落ち着きなよミヤビ。その体じゃ無茶だって」

「さっきの戦闘も、相当きつかっただろうが。休んどけって」

「そ、それは……」

「……ライナさんをここに一人にしておくわけにはいきません。彼女が目覚めるまで、誰かが側にいた方がいいでしょう? ミヤビさん、お願い出来ませんか?」


 渋る雅に、ミカエルが優しくそう提案する。


 そう言われると、雅も押し黙る。


 確かに、その役目も必要だった。


 少し考え込む雅だったが、大きく息を吐いて口を開いた。


「……分かりました。彼女が目覚めるまでは、ここにいます」

「ええ、お願い」


 それでいい、と言うように、ミカエルは頷く。


 その横で、ファムが雅に見えないようにこっそりミカエルにサムズアップする。


「じゃあミヤビ、行ってくるわ!」

「そうだ……皆さん!」


 雅は、神殿に向かうレーゼ達を呼び止める。


「あの魔王みたいなレイパー……あいつの胸に、傷を付けました。多分まだ治っていないはず……。そこを狙って下さい。気をつけて!」


 五人は、同時に頷いた。


 そして、神殿の表口から中へと入っていくのだった。

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