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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第50章 カルムシエスタ遺跡
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第442話『岩塞』

 カルムシエスタ遺跡。これが、ここに付けられた名前だ。


 遺跡の入口だとカリッサに言われた場所に到着した雅達。


 だが、その様相は驚く程、小さいものだった。


 建造物……と呼んで良いものか。昔懐かしの電話ボックスよりも、若干大きいくらいのサイズの、直方体。


 凡そただの石柱だと言われても納得してしまうような、そんなものである。


 だが、近くに来てみれば――


「あ、これ……扉です……!」


 ライナが、側面に指を這わせながら、目を輝かせてそう呟く。Uの字に欠かれた若干の隙間に指を掛け、引っ張ると、扉が重々しい音を立てて開いた。


 すると、


「あぁ、成程。地下に続いている、と」

「うん。コートマル鉱石は、この奥にある」


 現れたのは、下へと降りるための階段。人が一人通るのにやっとというくらいの狭さである。


 カリッサを先頭に、地下に降りていく一行。


 階段から落ちないように、注意しながら降りていくのだが、


「意外。中は暗いと思っていたんだけど……」


 優が、周りを見ながらそう呟く。薄暗いというレベルでも無い。普通に歩けるくらいの明るさがあった。


「壁に使われている石は、発光石だね。暗いところで光る性質があるんだ」


 カリッサはそう言って、壁をコンコンと叩いてそう説明する。


「それにしてもこの遺跡、何の為に造られたものなんでしょう?」

「大昔にこの辺りに住んでいた部族が、武器の保管庫として使っていたらしいよ」

「あぁ、成程。見つかり辛いようにしていたのは、そういう理由が……」


 言いながら、ライナが壁に指を這わせる。大小様々な傷があり、恐らくは武器を運ぶ際に付いたものなのだろうと思われた。


「武器、頻繁に運んでいた感じです。……隣国のナリアに、ガルティカ遺跡がありましたよね。そこに攻め入ったりもしたのかな?」

「可能性は高そうです。争いを好まず、戦うことをしなかったガルティカ人相手なら、いくら攻め入っても失うものは少なそうですし」


 前にシャロンから聞いたガルティカ人の話を思い出しながら、雅はライナにそう言った。


 狭く、若干声も反響する遺跡の中。話をしながら、皆で進んでいく。


 だが……階段を降り、廊下に足を踏み入れた直後、


「あれ? 行き止まり?」


 先に見える光景を目にしたカリッサが、そう声を上げた。


 確かに、廊下の先は壁……のようにも見えるが、どこか様子がおかしい。


 走り出すカリッサに、雅達も目を合わせてから、後に続く。


 おかしな様子の理由は、すぐに分かった。壁のように見えていたものは……


「これは、岩?」


 廊下の先を、大きな岩が塞いでいたのである。押して退かそうとしてみるが、動かない。重さのせいというわけでは無さそうだ。何か後ろから、つっかえ棒のようなもので固定されている感覚がある。


「……このすぐ後ろには大きな部屋があるんだけど、前にここに来た時、そこにこれと同じような岩があった」

「でも、ここまで一本道でしたよね?」

「お、おかしいな。前に来た時は、これは隅っこにあったはずなんだけど……。誰かが、後から入って来た人をここから先に進ませないように、ここを塞いだみたい」


 カリッサは眉を顰め、声を震わせる。どうやら彼女にとっても、これは想定外のようだ。


 これはマズいと、カリッサは唇を噛む。


 岩があることがマズいのではない。先客がいることが、だ。


 挙句、こんな風に障害物を置くような人物でもある。


 そんな人物が入っていったのなら、その目的はコートマル鉱石だというのは想像に難くない。もしそれを先に全部持っていかれてしまえば――それは、カリッサも非常に困る。


「まぁ、言うて岩でしょ? 壊せば……」

「いや、止めておこう。強い衝撃なんて加えたら、遺跡が壊れて生き埋めになるかもしれない」


 周りの壁に入った罅を見て、カリッサが優の提案に首を振る。


「えぇ……。じゃあ、どうしよう? 向こうの部屋が見えないんじゃ、ライナさんのスキルも使えないんだっけ?」


 その言葉に、頷くライナ。実は彼女の『影絵』のスキルには制約があり、様子を知らない場所に、分身は出せないのだ。


 すると、


「ここ、隙間がありますね」


 雅が指差したところ……岩が丸いお蔭で、右下の隅には、小さな通り穴が出来ている。雅達では無理でも、もっと小さな子供なら、頑張れば何とか通れそうな大きさだ。


【ミヤビ、()()()()()、使えないかな?】

「あー……試しに使ってみますか。ギリ行けるかもしれません。――ちょっと皆さん、失礼」


 そう言うと、雅は一日一回だけ仲間のスキルを使える自分のスキル、『共感(シンパシー)』を発動させる。


 使うのは……雅の祖母、麗の『春巡(タイムリープ)』。実は、あのタイムスリップ事件の後から使えるようになっていた。


 刹那、雅の体が光に包まれ――みるみる内に縮んでいく。


 そして、


「よし、これでオッケーです! みなさん、ちょっとまっていてくださいね!」

「あら可愛い」


 雅のたどたどしい口調に、優達が思わず口元を綻ばせる。


 そこにいたのは、確かに雅だが……大分幼い。年齢的に、五歳くらいの雅だった。


 これが、『春巡(タイムリープ)』の効果。自分の年齢を、三分の一くらいにするのだ。


 麗は戦闘の際、これで若返ることで、年齢からくる体力、肉体的な衰えを解消するのだが、雅は元々若いため、わざわざこれを使う理由が無い。こんなシチュエーションでもなければ、使う機会が無かった。


「ふーん、けっこうちぢむんですね」

【私は幼くなった感じは無いね。ミヤビの体だけ若返る感じか。……でも、背丈に応じて服まで縮んでくれるのは、相当親切な仕様かも】


 小さな穴に、自分の体を捻じ込みながら、雅もカレンも感想を口にする。


 少し苦労したものの、無事に岩の反対側に辿り着いた雅は、スキルを解除。元の大きさに戻っていった。


「ふぅ。……使ってみて思いましたけど、ここまで小さくなれるのなら、攻撃を躱す時にも使えませんかね?」

【元に戻る時も、スムーズだったしね。でも体は柔になるから、諸刃の剣なのは気を付けた方が良さそう】


 握りこぶしを作り、開くことを繰り返す雅。体に違和感なども無い。


 案外、使ってみないと分からないものだと思った。


 辺りを見回す雅。カリッサの言う通り、岩で塞がれた先は、広い部屋になっている。恐らくは、集会場所のような部屋なのだろう。部屋の隅には階段があり、両側には廊下が伸びていた。


「ミヤビさん、そっちはどんな感じですか?」

「予想通り、岩が固定されてますね。でも、これは何だろう? ……接着剤、かな?」


 岩の下が、何か白いものでガチガチになっている。詳しい正体は不明だが、雅の言う通り接着剤の役割があるのだろう。これを剥がせば、普通に動かせそうだ。


 雅の手に嵌った指輪が光り、全長二メートルもの大きさの、メカメカしい見た目をした剣……『百花繚乱』が出現する。


 それで接着されている部分だけを壊し、カリッサが岩を押し、問題は無事に解決するのだった。

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