第441話『依頼』
二月十三日水曜日、午前九時三十分。
レーゼ達の家がある、ナランタリア大陸。その南……シェスタリア近郊の海の上を飛ぶ、一枚の魔法の絨毯がある。
赤色の魔法の絨毯は非常に大きい。畳八畳くらいはあるだろうか。そこには四人もの少女が乗っており、しかしそれでもまだ随分とスペースに余裕があるくらいだ。
その内の一人……桃色のボブカットに、ムスカリ型のヘアピン、そして黒いチョーカーを身に着けた少女――束音雅が、口を開く。
「カリッサさん。コートマル鉱石があるという遺跡って、どの辺りなんですか?」
「シェスタリアとカームファリアの間くらい。もう三十分も飛べば着くはず」
カリッサと呼ばれた長身の女性が、雅の質問に表情を変えずに答える。魔法の絨毯を操縦しているのは彼女だ。本名はカリッサ・クルルハプト。エルフ特有の長い耳がある女性であり、首から下げた星型のブローチが日の光を浴びて輝いている。
「それにしても、そんなところに遺跡なんてあったんですね。最近発見されたものなんでしょうか?」
そう言って首を傾げたのは、銀髪フォローアイに、ロケットをぶら下げた少女、ライナ・システィア。その顔は、緊張と、そして少しばかりの好奇心を露わにしていた。遺跡や骨董品等が好きなライナからすれば、今から向かう場所は、用件の有無に拘わらず是非行きたい場所である。
その隣では、黒髪サイドテールの女の子、相模原優が眉を寄せる。
「あの、疑うみたいで申し訳ないんですけど……本当にそこに、コートマル鉱石があるんですか? そんな近い場所にあるんだったら、前に探した時、わざわざ遠くのオートザギアまで行く必要もなかったというか……」
「うん。確かな情報があるから、信用してもらっていいよ。ライナさんの言う通り、最近発見されたものだから、今まで誰も知らなかっただけなんだ。……最も、誰かに先を越されてしまえば、その限りではないけれど」
「……因みに何度も聞くようで申し訳ないんですけど、カリッサさんはどこから、そんな情報を仕入れたんです?」
「何度も言うようで申し訳ないけれど、そこは内緒」
「は、はあ」
怪しい微笑を携えて答えるカリッサに、優は胡乱な目つきで見つめずにはいられない。
雅が「まぁまぁさがみん、今はいいじゃないですか」と宥める中、四人を乗せた魔法の絨毯は空を進む。
さて、彼女達はどうやらコートマル鉱石なるものを探している模様。それは何故か。
――事の発端は、昨日、カリッサ・クルルハプトが突然、束音家に訪ねてきたことだった。
***
ラージ級ランド種レイパー討伐に向け、敵の調査をし、作戦を立てていた雅達。
その中で、いくつか大きな課題がある。
最も懸念されていた問題……あの巨大なレイパーに張られた膜。それは、装甲服型アーツ『マグナ・エンプレス』を借りることで解決出来た。だが、問題はそれで終わりではない。
戦力の確保や、被害の少ない戦場の選定等は勿論……続いて問題となったのは、ラージ級ランド種レイパーを倒すために使う予定の装置、それを動かすために必要となる、莫大なエネルギーをどこから確保するかということだった。
他にも、敵と交戦することを考えるのなら、雅達が持っている防御用アーツ『命の護り手』の強化もしておきたいし、他の人用に個数を増やしておきたい。物理的な部品は『StylishArts』が調達してくれたが、機能させるためのエネルギーは別途必要だ。
そういった事情から、優一達は、かつて雅達が入手してきた、魔力を大量に含んだ石――コートマル鉱石を探していた。
しかしこのコートマル鉱石、中々見つからない。オートザギア王国が、雅達が最初に見つけたハプトギア大森林を再調査したが、そこには鉱石の欠片も無かった。
どうするか……そう悩んでいた時にやって来たのが、カリッサだ。
ラージ級ランド種レイパーの一件は、独自のルートから詳細を聞いていたカリッサ。カリッサはある二つの条件と引き換えに、コートマル鉱石がある場所を教えてくれると言う。
一つ目の条件とは、『雅達と会わせて欲しい』ということ。もう一つは、オートザギア王国には秘密だという。雅達に会ってから話をするということだった。
訝しんだオートザギア王国だが、雅達とは知り合いだということは確かであった。手掛かりもほぼ無い以上、王国が束音家の場所を伝えたのだ。
そういう訳で、雅達と再会したカリッサ。そこで、彼女は二つ目の条件を出してきた。
それは、『雅達に、自分の依頼を受けてもらう』ということ。
何故、少ししか交流の無かった雅達に依頼があるのか。一体、何を依頼しようというのか。具体的な話は、何もない。ラージ級ランド種レイパーの一件が落ち着いたら、改めてきちんと話すと、カリッサは言う。
怪しいことこの上無い。事実、一緒に話を聞いた優は、カリッサに疑いの目を向け、質問攻めにしたくらいだ。その質問――先の優の発言が、質問の一部である――も、全部きちんと答えてもらったわけではない。
しかし、雅は少し悩んだ上で、条件付きでカリッサの頼みを聞くことにした。
具体的ことが分からないというのは非常に不安だが、コートマル鉱石のありかを知っているというのであれば、背に腹は代えられない。……そういう事情もある。
ただ一番の決め手となったのは、カリッサの目だった。
雅達に話をしにきたカリッサは……どこか本当に思いつめ、困っているような、そんな目をしていたように雅は感じたのだ。
恐らくは、雅達を意図的に嵌めるような、そんな悪い企みは無いだろう。雅はそう判断したのである。
***
そういう訳で、カリッサと一緒に、ここまで来た雅達。
わざわざ雅達が同行しているのは、これが、カリッサの頼みを聞くために、雅が提示した条件だからだ。「折角だから、一緒に連れていって欲しい」と。
優とライナも一緒なのは、本人達の意向である。優はカリッサを怪しんでいるからで、ライナは『人手が必要になるかも』ということからだった。
そして、皆であれこれ話ながら向かうこと、三十分。
「さぁ、見えてきた。皆、あれだよ!」
カリッサは指を差しながら、そう叫ぶ。
「えっ? あれが遺跡……?」
思わずそう声を上げる雅。無理も無い。
石造りの建物がそこに建っていたのだが……それはあまりにも、小さなものだった。
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