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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第49章 アサミコーポレーション
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第49章幕間

「レイパーが、輪廻転生……。何よ、それ」


 オートザギア魔法学院の学生寮、その一室。


 人払いがされたそこで、少女の震えた声が響く。紫色の眼に、金髪ロングの髪――オートザギア王国第二王女、スピネリア・カサブラス・オートザギアのものである。


 時は遡ること、二月七日の夜八時。ライナ達がネクロマンサー種レイパーを撃破した次の日のことである。


 亡霊レイパーが出現した理由等……一般人では知り得ないはずの情報を、うっかり口走ってしまった愛理。


 それ以前にも、皆と深刻な内容の会議をしていた等の、怪しいところはスピネリアに度々目撃されてしまっていた。


 案の定、スピネリアに事情の説明を求められ――最早誤魔化しようがないところまで来てしまったため、愛理は優一やミカエルに許可を貰った上で、自分の知っていることを話したのだ。


 最初は愛理の話を半信半疑で聞いていたスピネリアだが、雅が撮った映像等も交えて話をすると、信じざるを得なかったのだろう。今や、青い顔をしている。


 そんな彼女を見て、愛理は改めて、自分の失敗を悔やんだ。しかしもう、何もかもが遅い。あの時の自分をぶん殴ってやりたい気持ちで一杯である。


「今まで黙っていて、申し訳ありませんでした」


 せめてもの誠意として愛理に出来るのは、平身低頭、スピネリアにひれ伏すことのみ。


 土下座する愛理に、スピネリアは「やめて」と厳しい声を投げ、愛理に顔を上げさせる。


「……このことは、お父様達……国王は知っているのかしら?」

「私の仲間に尋ねたところ、各国のトップには、話をしてあるとのことです。……恐らく、私よりももっと詳しい事情まで知っておられるかと」

「……私、こんな話は初めて聞いたわ。そこまで情報を流していないとなると、きっと、混乱を避けるためね。こんなの、今までの人類の頑張りが、全て無駄でしたって言っているようなものだわ」

「だからこそ、束音達――私の仲間達が、その原因となる、あの巨大なレイパーを倒すために動いています」

「この化け物を、本当に倒すつもりなの? 大陸一つ、海の藻屑にしているじゃない」


 そう言ったスピネリアの視線の先には、愛理がULフォンで空中に出現させたウィンドウ。そこには破滅の未来――雅とカレンが、時計型アーツ『逆巻きの未来』に見せてもらった、あの光景が映し出されていた。ラージ級ランド種レイパーが、派手に暴れている、その映像が。


「シノダ、今すぐこの件から手を引いた方がいいわ。あなた死ぬわよ」

「それは出来ません」


 スピネリアの言葉に、愛理は緊張の汗を浮かべながらも、即答して首を横に振る。


「私が逃げても、私の友は決して逃げない。私抜きでも、きっとこの強大な敵に立ち向かうでしょう。……もしここで逃げてしまえば、彼女達がどのような結末を迎えたとしても、きっと後悔する」

「…………」

「なに、きっと大丈夫。これでも私は、相当に強いレイパーと何度も戦っているんです。魔王のようなレイパー、覚えておられますか? あいつも、我々で追い詰めたんです。最初は七人掛かり、その次は十二人掛かりでした」

「ええ、覚えているわ。あいつ、最期はオートザギアで倒されたのだし。止めを刺したのは子供達だって聞いていたけど、そういえば奴は発見された時には既に、ボロボロだったって話だったわね……。そう、あなた達が追い詰めたの」

「……最も、その後にカームファリアでもっと強いレイパーと会って、そいつらに手も足も出ませんでしたが」

「何よ、いきなり不安になるようなこと言うわね……」


 最初は頼もしいことを言っていたと思ったのに……と、スピネリアは力が抜けたように息を吐く。


「それにしても、成程合点がいったわ。何で魔法が使えない世界の人が、この学校に来たのか。わざわざ魔法を覚えようなんて無茶をすると思ったら……」

「ええ。私は、強くなるためにここに来たんです。鍛えたりしても、どこか限界があって……ワンランクもツーランクも上に上がるためには、何かもっと別の技術……魔法を身に付けられないかと思いまして」

「こっちに来てから、殆ど日も経っていないじゃない」

「私だってこんな早々に、ここまでとんでもない奴と戦うことになるなんて思ってもみなかったのです。……当初の目的では、歯が経たなかったあの騎士と侍のレイパーを倒すためだったんですが……」


 こんなことなら、もう少し日本にいるべきだったとも思い、愛理は苦笑いを浮かべた。


 現状、魔法の魔の字も使えていない以上、いきなり魔法が使えるようになるわけもない。強くなるために魔法学園に来たが、流石に今回は、今までの力だけでどうにかしなければならないだろう。


「……わたくしが何を言ったところで、考えを変えるつもりはないの? 王族の頼みよ? 聞けないの?」

「……何故、私をそこまで止めようとするのですか? それこそ、知り合ってまだ少ししか経っていないではありませんか。私は、オートザギアの国民でも何でもない、ただの異国の人間です」

「……わたくしが『王族の頼み』だなんて言うと、あなたは『卑怯です』だのなんだの言うけど、今回は言わないのね」

「……王女様が、私の身を案じて言っておられるのは、流石に分かります故」

「…………」


 唇を噛み、俯くスピネリア。


 何となく、伝わってしまった。――愛理は、本気でラージ級ランド種レイパーと戦うつもりなのだ、と。彼女は言葉こそ丁寧だが、その裏には決して揺るがない意思がある。


「何が、シノダをそうさせるのかしら?」

「自分でも、よく分かりません。これでも私は、割と臆病なんですが……」


 いつからだろうか、自分がレイパーと、積極的に戦うようになったのは。束音が行方不明になった辺りからだっただろうか。


 愛理がそんなことを思っていると、


「ねぇシノダ、あなたのことを、もっと教えて」

「えっ?」

「知りたいの。シノダのことを、もっと。私、あなたのことを全然知らなかった」

「き、聞いても、そんなに面白いことなんて何もありませんよ?」

「いいのよ、それでも。わたくし……いえ、私が知りたい。私のことも教えるから。ね? いいでしょう?」


 どうせ夜は長いわ――スピネリアは、そう続ける。


 困った顔になる愛理。本当に、スピネリアが聞いて面白いような話は何もないのだ。


 が、しかし。


「……では、私がなんで動画投稿をしようと思ったのかというところから」


 折角の王女様の頼みを、たった今断ったばかりだと、これくらいの頼みは聞いてやりたいというのも事実。


(そう言えば、身の上話をちゃんとするのは、動画以外では初めてか?)


 ふと、そう思う愛理。


 初めて、というのは大袈裟かもしれないが、精々一回二回あったかどうかといったところだろう。


 少し緊張しながら、愛理は話始めるのだった。

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