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第47話『反攻』

 神殿の裏側。


 レーゼとミカエルは、ケットシー種レイパーと交戦していた。


「――っ! くっ!」


 レーゼはレイパーのラリアットを腕で防ぐも、呻き声を上げる。


 彼女のスキル『衣服強化』により、彼女の衣服は鎧並に頑丈になる。故にレイパーからの攻撃によるダメージも最小限に抑えられているのだが、衝撃を完全に消せるわけでは無い。何発も喰らっていれば、そんな声も出てしまうというもの。


 素早く動くレイパーの動きに翻弄され、攻撃しても容易く躱されてしまう。


 こんな時、ミカエルが炎魔法で牽制出来ればよいのだが……肝心の彼女は困ったように眉を寄せるばかりで、中々思うように魔法を撃てないでいた。


 レイパーとレーゼの距離が近過ぎることが原因だ。下手に魔法を撃とうものなら、レーゼに攻撃が直撃してしまう。


 レイパーもそれ分かっているのか、レーゼから大きく離れようとはせず、ミカエルが向ける杖型アーツ『限界無き夢』の直線状にレーゼがいるように立ち回る。決してレーゼを大きく吹っ飛ばさないように気を払い、それで尚、確実に彼女を弱らせていた。


 一体、どうすれば――


 敵の攻撃に振り回されながらも、レーゼは思考を巡らせる。


 そして……敵の動きの隙をついて、ミカエルへとアイコンタクトを送った。


 何をする気か、とミカエルが思った直後、レーゼは何と、自身の剣型アーツ『希望に描く虹』を腰についた鞘に収める。


 レイパーは動きを止めることこそ無かったが、僅かながら怪訝そうな顔をした。


 レイパーは決して油断はしない。


 何故なら、剣を収めたレーゼは、先程までと比べ、明らかに集中力が上がっているのを感じたからだ。


 嘗低、ラリアット、蹴り……次々と放たれるレイパーの攻撃。


 そのキレは、それまでとは比べ物にならない。


 だがレーゼは、それら全てを、一つ一つ確実に、丁寧に受け、捌き、流していく。


 下手に攻撃しようとせず、体中の神経を全て『防御』することに集中させたことで、レーゼはこれまでよりもずっと、レイパーの攻撃が見えるようになっていた。


 初めから相手の攻撃を受ける気でいれば、衝撃が襲ってきても気にならない。


 嵐のように襲いかかる乱打を耐えつつ、レーゼの集中力はどんどん高まっていく。


 そして――


 レイパーの片足が僅かに浮いた瞬間、レーゼは軸足を払う。


 グラりとよろめく、レイパーの体。


 刹那。


 レーゼは腰に収めたアーツの柄に手を掛けると、希望に描く虹を勢い良く抜く。


 刃が孤を描き、その跡には虹が架かる。


 見る者の息が止まる程に美しいフォームで繰り出した斬撃は、体勢を僅かに崩したケットシー種レイパーの右眼を斬り裂いた。


 突如襲いかかる、想像も出来なかった激痛。レイパーは斬られた眼を手で押さえながら、耳を劈くような叫び声を上げる。


 流れ出る夥しい量の鮮血が、押さえた手の隙間から溢れんばかりに流れ出る。


 それでも、眼を押さえる手と反対側の腕を振り回し、近くにいるであろうレーゼに攻撃しようとするのは流石だというところか。


 が、しかし。


 痛みに気をとられたケットシー種レイパーは、気が付かない。


 もう自分の近くには、レーゼはいないことを。気配を感じないことにすら、レイパーは疑問に思うことが出来なかった。


 レイパーの眼を斬り裂いた瞬間、レーゼはすぐさまレイパーの側を離れていたのだ。


 レーゼと格闘することに気をとられていたケットシー種レイパーは、気が付かない。


 その攻防の間、ミカエルがずっと、魔力を集中させていたことに。


 そしてレイパーは、やっと気が付く。


 自分に、高温の『何か』が近づいてくることに。


 危機感を覚え、咄嗟に飛び退こうとすれども、時既に遅し。


 ビーム状に放たれた、巨大な火炎が、レイパーのすぐ側にまで迫ってきていた。


 斬られていない左眼が捕らえたのは、ミカエルが自身に限界無き夢を向けている姿。彼女の頭上には、五枚の星型の赤い板が高速回転し、そこから炎が放たれていた。


 ミカエルの最大魔法だ。


 生きることに執着するような叫び声を上げるレイパーだが、炎に呑み込まれた瞬間、その声は嘘のように消えてしまい――爆発四散する。


 炎が消え、敵の姿が完全に無くなったことを確認して、ようやくレーゼとミカエルはホッと息を吐くのだった。



 ***



 天空島の上空にて。


 グリフォン種レイパーと交戦中のファムとシャロン。


 二人はレイパーを挟み撃ちにするような位置で飛びまわり、硬化・鋭利化させた羽根と、雷のブレスを飛ばして攻撃していた。


 二人から同時に攻撃されているレイパーは回避に徹していたが、すぐに攻撃態勢にうつる。


 ファムから飛んでくる羽根が止んだ瞬間、前足を掲げ、彼女の方へと猛スピードで近づいていったのだ。


 ファムの使う羽型アーツ『シェル・リヴァーティス』は、羽根を三十発撃つと、十五秒間は飛ばせなくなる。レイパーはそれに気が付いた故だった。


 それでもそれなりの距離を保っていたファムは、レイパーの直線的な攻撃を悠々と躱し、高度を上げる。


 そして再び羽根の嵐。攻撃を外したことで隙が出来た瞬間を逃さず、一気に三十発全ての羽根をレイパーに飛ばす。


 が――


 ここまでの戦いで、レイパーの目も慣れていた。


 グリフォン種レイパーは嵐のように飛んでくる羽根の隙間を縫うように素早くファムへと接近。


 今度こそ彼女の体を抉ろうと、前足を伸ばす。


 しかしそれがファムに届くことは無かった。


 ファムとレイパーの間に、いつの間にか近づいていたシャロンが自分の腕を潜りこませ、レイパーの攻撃を防いだからだ。その隙に、ファムはさらに上空へと飛び去っていく。


 それでもレイパーの前足についた鋭い爪は、シャロンの頑丈な竜の鱗を貫通し、彼女の腕に深々と傷を付ける。


 腕から爪を抜くと、レイパーはシャロンに突撃し、彼女を吹っ飛ばす。


 そしてすぐさまファムを追う。


 距離を取るため逃げるファムと、それを追うレイパー。


 高度が上がるにつれて、ファムの飛ぶスピードも落ちていく。


 必然、徐々に縮まるファムとレイパーの距離。


 自身の前足の攻撃範囲にファムを捕らえた瞬間、三度繰り出すレイパーだが、それはファムも読んでいた。


 体を捻り、さらに仰け反るように一回転し、ギリギリのところでその攻撃を躱し、一気に急下降して距離を取る。


 攻撃を外したレイパーもすぐにその跡を追おうとし、下を向いた瞬間……驚いたような唸り声を上げた。


 雷のブレスがレイパーに襲いかかってきていたから。


 レイパーがファムに気を取られている間に、シャロンが下の方で、悠然と翼を広げ、顎門を開けてエネルギーを集中させていたのだ。そしてファムがブレスの範囲から外れた瞬間、レイパー目掛けて放ったのである。


 グリフォン種レイパーは体を回転させ、シャロンへと突っ込んでいく。


 レイパーの嘴が、襲ってくる雷のブレスを貫き、激しい放電を外に反らしながら、どんどんとブレスを抉っていく。


 そしてついに、レイパーはシャロンのブレスを突き破ってしまう。


 しかし、攻撃を破られても、シャロンは落ち着いていた。


 既に彼女の右前足は、後ろに引かれている。強烈な一発を放つ準備が出来ていた。


 シャロンはレイパーを、ブレスでは仕留めきれないことを予想していたのだ。


 本命は、この一撃。


 レイパーの顔面目掛け、力一杯に前足を伸ばす。


 だが、同じくレイパーも予想していた。シャロンが、ブレスを打ち破られたことを想定し、次なる一手を用意していることなど。


 故に、雷のブレスを打ち破った瞬間に、レイパーも前足を掲げていた。


 シャロン目掛けて突っ込んだ時の速度は、多少は落ちているものの充分に残っている。先に攻撃が当たるのはレイパーの方だ。


 自身の攻撃に貫かれ、息絶えるシャロンの姿を幻視し、勝利を確信するレイパー。


 不気味にレイパーの目が光る。


 だが――


「――っ!」


 突如、掲げた前足に突き刺さる羽根。


 遠くから、ファムが攻撃を放っていた。


 予想していなかった痛みに、僅かに攻撃のタイミングが遅れるレイパー。


 本当に一瞬の遅れだが、あまりにも致命的な遅れ。


 レイパーの前足がシャロンに届くより一瞬速く、シャロンの前足がレイパーの顔面を捕らえる。


 シャロンの前足から伸びた爪が、夥しい量の鮮血を撒き散らしながらレイパーの体を貫いていく。


 刹那、発生する大爆発。


 遠くで見ていたファムは、思わず顔を強張らせるものの――爆発の煙が消え、そこにシャロンの無事な姿を見ると、ホッと胸を撫で下ろすのであった。

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