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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第49章 アサミコーポレーション
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第436話『氷菓』

 二月十一日月曜日、午後三時十八分。


 新潟市中央区旭町にある、新潟大学医歯学総合病院……そこに、一台の車と、白バイが停まる。


 車は、優一のもの。ライナとラティアも乗っている。白バイは、優一の部下の冴場伊織のものだ。優一から連絡を受け、駆け付けたのである。


 車が停まるや早々、ライナとラティアよりも先に後部座席から降りてきたのは、杏。


 病院を見上げる杏の眼は、凍り付くように冷たく、そして鉄すらも貫かんほどに鋭い。無理も無いだろう。ここには自分の娘、浅見四葉を殺した張本人――鬼灯淡がいるのだから。


 後遺症の治療を受けるために、淡は今、ここに入院している。


 マグナ・エンプレスの小手を借りることと引き換えに、杏は鬼灯淡との面会を希望した。ライナが『警察と一緒なら』という条件で交渉し、それを優一に伝えたところ、承諾されたのである。


 杏が、面会が実施されなければマグナ・エンプレスは貸さないと言っている以上、事は急を要する。急ぎ面会の手続きをし、こうして大学病院までやって来たというわけだ。


 ……社長の業務で忙しいはずの杏だが、面会の準備が整うや否や、こうして駆け付けたところを見るに、この展開は最初から杏の中で予定していたことのようだ。上手く交渉したつもりだったが、まんまとしてやられてしまった気がして、ライナは無性に悔しくてならない。


「よし、二人とも、少し待っていてくれ。後は我々が」

「妙なことはさせねーですから、安心して欲しいっす」


 力強くそう言ってくれる優一と伊織に、ライナもラティアも深くお辞儀する。


 後ろの方で、「早くしろ」と言わんばかりに睨んでいる杏を連れ、病院の中へと向かっていく二人。


「……えっと、どうしよう?」

「面会は三十分の予定だし……あ、近くにアメニティモール? っていうのがあるみたいだね。喫茶店とかもあるみたい……適当に何か買って待っていようか」


 コンビニや薬局等が入っている建物を見てそう言ったライナは、頷くラティアの手を引いて、歩き出すのだった。




 ***




 そして、十分後。


 アメニティモール内の喫茶店に来た二人。


「ごめんね、付き合わせちゃって……」

「ライナお姉ちゃんが謝るような話じゃないよ。……誰が悪いとか、そういう話じゃないし」


 ライナはコーヒー、ラティアはアイスを注文し、そんな会話をする。


 ラティアはライナの言葉に小さく首を振ると、アイスにスプーンを刺した。心なしか、少し硬い気がする。


「それより、交渉お疲れ様。はい、これあげる。あーん」

「……恥ずかしいよ、もう」


 スプーンにアイスを一欠けら乗せて差し出され、ライナは少し顔を赤くする。周りの目が無性に気になるが……ラティアの純粋な好意に背くのは気が引け、素直に受け取ることにした。


「……バニラ、好きなんだ?」

「んー……偶に無性に、食べたくなるの。季節限定の味とかも」


 そう言って、自身もアイスを口に含むラティア。


 アイスを食べると、色んなことを思い出す。


 それまで喋ることが出来なかった自分の口から、自然と声が漏れたこと。


 ……そして何より、四葉のこと。


「……アンズさん、怖かったね」

「うん。前に会った時も厳しそうな人だったけど……でも、今はちょっとあの時とは違う感じ」


 バスターという仕事をしているからか、分かってしまう。……何となく、今の杏が危険な状態だというのは。


 ライナは病院の方へと視線を向けた。そこにいるはずの鬼灯淡……今、杏と何を話しているのか。穏やかで終わるはずはない。優一と伊織の苦労が想像出来て、その場にいないはずのライナまで胃が痛くなってしまう。ミルクではなくコーヒーを頼んでしまったことを、ライナはちょっぴり後悔した。


 ――それはそれとして。


「ラティアちゃん。……無理してない?」

「えっ?」


 ライナが、ずっと気になっていたことを尋ねる。「何か役に立ちたい」という本人の意思、そして杏の条件、この二つがあったからラティアは今日の交渉に着いてきたのだが、実はライナとしては、ラティアが来ることには反対だった。


 交渉という行為自体、子供のラティアにさせることではないし――どうしたって、四葉の死を思い出してしまうはずだから。


 ライナも、両親を亡くしている。特に父親のジョセフは、目の前で無残に殺された。大事な人が死んでしまった辛さは、よく分かるつもりだ。だからこそ、ラティアの苦しさも伝わってきてしまう。


 ピタリと固まる、ラティア。ライナにこんなことを聞かれるとは、まるで思っていなかったのだろう。


 ライナは決して、ラティアの回答を急かすようなことはしない。コーヒーを少しずつ飲みながら、彼女が答えるのを待っていた。


 アイスが、ちょっと溶けだしてきた頃。


「無理は……してるのかな? 分かんない」


 胸元の、紫チェック柄のリボン――四葉から貰った、大事なプレゼントだ――の端を摘みながら、ラティアはポツリと、そう答えた。


「…………」

「この間も、ヨツバお姉ちゃんが、幽霊になってレイパーに操られているのを見て、胸がざわついた。久しぶりに会えて嬉しいとか、そんなこと思えなくて……凄く悲しかった。今も、多分似たような気持ち……かも。よく分かんないけど……。もしかして、私、期待していたのかな? アンズさんと、ヨツバお姉ちゃんの話とかするの」

「……そっか」


 最近、亡霊四葉が真衣華達を襲うという、ショッキングな光景を見て、気持ちが酷くざわついたラティア。……いや、「ざわつい()」というのは間違いか。今も尚、穏やかな心ではいられていないのだから。


 彼女の言葉通り、ラティアはある種、求めていたのだろう。杏と話をすることで、この心のざわつきを抑えることを。生前の四葉の話題でも出れば、少しは明るい気持ちにもなれるだろうから。


 ラティア自身、そんなことを思っているつもりは全くなかった。自分では、ただ純粋に、皆の力になれることをやろうと思っていたのだが……。


「……ごめんなさい。何だか私、凄く自分勝手だったかも……」

「そんなことないよ。きっとそれが、普通の感情だと思う。私も多分、同じだし……」

「……ライナお姉ちゃんも、アンズさんと、ヨツバお姉ちゃんの話をしたかった?」

「うーん……多分。そんな話が出来るなんて、全然期待していなかったけどね」


 そう言って苦笑いを浮かべると、ライナはコーヒーを一気に煽った。


 ラティアも、残ったアイスを急いで食べる。


 ――そろそろ杏と淡の面会が、終わる時間になっていた。

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