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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第48章 束音家~西区
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第48章閑話

 二月八日、金曜日。午後十時十七分。


「ん……んぅ?」

【あ、ミヤビ。おはよう。……もう夜だけど】


 ネクロマンサー種レイパーを倒した後、気を失っていた雅は、ようやく目を覚ます。


 心の奥から聞こえてくるカレンの声を、どこか意識の遠くの方で聴く雅。目に飛び込んでくるのは、見知らぬ天井。窓際には花瓶が置かれ、赤いスプレーバラと、ダークピンクのバラが生けられている。ここが病院のベッドの上だということに気が付いたのは、少し遅れてからだ。


 すると、


「あ、ミヤビさん。起きたんですね。……良かった」

「……あぁ、ライナさん? えっと……私……」


 ベッドの横にいたのは、銀髪フォローアイの少女、ライナ・システィア。


 雅は気づく。ライナが自分の手を握りしめていることに。温かい。恐らく、ずっと握ってくれていたのだろうと分かった。


「ミヤビさん、今日一日、ずっと眠ったままだったんですよ。お医者さんは命に別状はないって仰っていましたけど、気が気じゃなくて……」

「ご心配おかけしました。すみません」

【ヨツバのスキルで復活したけど、それにしてもダメージは大きかったんだろうね。私も、二時間くらい前に意識が戻ってさ】


 殺されても復活出来、特に後遺症なども残らないはずの『超再生』のスキル。


 ただ、雅は長時間、レイパーに体を操られ、本来なら三十分しか使えないはずの音符の力を、三時間以上も使わされていた。挙句その後、数分とは言え、もう一度変身して戦ったのだ。流石に回復しきれるダメージではなかったのだろう。これは今後、注意していかなければならないことだと、雅は上体を起こしながら思った。


「あ、そうだ……さがみんとレーゼさん、それにファムちゃんは?」

「三人とも無事です。ユウさんとファムちゃんはもう元気ですけど、一応今日一日は入院させられています。ただ、レーゼさんは、受けたダメージが大きすぎて……」


 ネクロマンサー種レイパーの最大魔法である、骸骨の竜に噛まれたレーゼ。変身で纏った鎧すら砕けた威力であり、死ななかったことが既に奇跡のようなものだ。


「二時間くらい前に意識が戻ったんですけど、骨のいくつかに罅が入っていて、まだ動ける状態じゃないそうです。でも、『こんなとこで寝ていられない』ってベッドから降りようとして、止められていました」

【いやー、凄いね。流石レーゼ】

「あ、あはははは……。彼女らしいです。そう言えば、ティップラウラの時も、相当ダメージあったはずなのに駆け付けてきてくれましたよね」

「ええ。一生敵わない気がします」


 そういって、二人は互いに苦笑いを浮かべる。


「シアさんやキキョウインさんも結構無茶したみたいで、半日くらい入院してました。マイカちゃんは何故か、病院行きたがらなかったんですけど……。後は、ミカエルさんも別室で入院中。明日には退院だそうです。セリスティアさんとラティアちゃんもちょっと治療してもらいましたし、ペグも今頃、家で寝ていますね。……怪我も多かったですけど、皆無事で何よりです」


 言いながら、ライナは雅から目を逸らす。


 人は無事だが、束音家はそうではない。ネクロマンサー種レイパーに侵入され、あちこち壊されてしまったのだ。修繕には時間がかかるだろう。


 最も、雅が回復したばかりのこのタイミングでは、その話はし辛い。しかし、いずれ話をしないといけないと思うと、心が苦しくなった。


 が、そう思っていると、


「杭の方は、どうですか?」

「えっ?」

「家、壊されちゃいましたよね? そっちは直せばいいですけど、杭が抜かれているのなら、ここで寝ているわけには……」

「……抜けたわけではない、はずです。抜けかけているだけで」


 頬を掻きながら、ライナはそう告げる。よく考えてみれば、杭のことがあるのだから、雅がそれに触れないはずもなかった。


「ユウカさん達が、色々頑張ってくれています。しばらくは、完全に抜けることもないはずです。今は、体を休めることに専念しましょう。それくらいの時間はありますから」

「でも――」

「お願いです、ミヤビさん。今は……」

「ラ、ライナさんっ?」


 自分を抱きしめてくるライナに、慌てだす雅。


 そのまま、半ばベッドに押し倒されてしまう。


 頬に、温かい液体がポトリと落ちてきて、言葉を失う雅。




 ――ライナは、泣いていた。




「ごめんなさい……私……ずっと不安で……」


 普段は髪に隠れた片眼……それが、今は見えていた。


 両方の目に涙を浮かべ、見つめられると……雅もそれ以上は何も言えない。


「ミヤビさんが操られて、もう戻ってこないかもって思ったら、どうしようもなくて……今だって、本当は怖くて怖くて、仕方なかった。目を覚まさなかったらどうしようって……」

「…………」

「あの時、ミヤビさんの首を斬り落とした時だって、凄く嫌な感触で……助けるために仕方ないって分かっていても、割り切れなくて……痛かった、ですよね……?」

「……痛くなんて、なかったですよ。すっぱり斬ってくれたから」


 雅の手を握る、ライナの手が力む。花瓶に生けられていたスプレーバラが、クタリともう一本のバラへと倒れ込んでいた。


「……ごめんなさい、本当に。一度でもあなたに、私を殺させてしまったこと……本当に、ごめんなさい。もう二度と、そんなことさせません」

「……私も、もう二度と、あなたを殺したりなんかしませんから」


 誓いを交わすようにそう言いあい、見つめ合う二人。


 ……何となく、顔を背けるタイミングが分からなかった。


【見てないよー。それに、何も聞いてない。ほんとだから。うん、何にも見てない、聞いてない】


 雅の中で、言い訳がましくそう呟くカレンの声が、いっそ清々しいまでにうるさい。


 どうしたものかと、互いに困っていた時、




「ライナさん、入るわよー。……お?」




 病室の戸が開いた。そこにいたのは……黒髪サイドテールで、頭に包帯を巻いた少女、相模原優。


 傍から見れば、何やら凄い空気で凄いことをやり始めそうな二人を見て、優の顔が強張る。


 凍り付く空気。長い沈黙。


 それを破ったのは、


「あ、あのぉ……さがみん? どうしたんですか?」


 雅が、引き攣った顔で、恐る恐るそう尋ねる。別に悪いことは何もしていないのだが、何故か雅の頭の中で、警報が鳴り響いた。


「みーちゃん、目が覚めたんだ。良かった。いや、ライナさんに謝ろうと思ってね? まぁちょっと色々あったから……なんだけど……」


 束音家で起きた、優とライナの喧嘩。あの時、優はライナのことを引っ叩いたのだが……事情を知って、冷静な頭になってから、気が付いたのだ。あれはライナが、雅を助けるためにわざと反感を招きそうなことを言ったのだと。


 雅を助けるためには、一度彼女を殺し、レイパーの魔法をミカエルに解除してもらう必要がある。一度は復活出来る『超再生』のスキルがあるからこそ、出来る話だ。


 つまり、それを行うまでの間、誰かが雅を誤って殺してしまわないようにする必要があった。加えて、この雅救出の作戦は、レイパーに悟られるわけにはいかない。それに合わせて対策を取られてしまえば、雅を助けることは不可能になってしまうからだ。


 だからこそ、ライナは皆に、『間違っても雅を殺さないようにしなければ』ということを、強く意識させた。いざとなれば、自分が雅を殺す……そう言って。バスターである立場を思えば、彼女がそう言っても何ら不思議はない。自然な形で、上手く物事が進んでいったのである。


 そこら辺のことに気が付いたから、わざわざ就寝時間を過ぎているにも拘わらず病室を抜け出し、こうしてちゃんと謝罪に赴いたのだが……その先で、こんな光景を目にするとは思ってもみなかった優。


「あ、あんた達ねぇ……」

「あ、あのっ! 違うんですよユウさん! これは色々違くて……!」

「そうそう! 事故? 不可抗力? 取り敢えず色々とそんなところでして……!」

「ええいっ! 互いにダメージデカい体で、何やってんのよもぅ!」


 二人きりだったの病室に、雷が落ちる。……夜は長い。


 この後、看護師から「こんな時間に何を騒いでいるんですかっ!」と叱られるまで、二人は優に説教されたのだった。

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