第46話『責任』
「ミヤビ、説明してくれ……。こりゃあ一体、どういう状況だ?」
怒気をはらんだ静かな声で、赤髪の女性――セリスティアが雅に聞く。
その目は、遠くに転がっているライナの父親の頭に向いていた。
雅は体を起こしながら、ライナを指差し口を開く。
「私達が逃がした、あのレイパー! クラゲとイカを足したようなあいつ……彼女の父親に寄生していて……」
「父親にだぁ?」
若干言葉足らずだったが、セリスティアはそれだけで全てを理解する。
「ちぃっ! 男に寄生してやがったのか! 道理で見つからないわけだぜ……」
過去にパラサイト種レイパーを逃がした時、雅もセリスティアも、セントラベルグのバスター達も、ずっとこのレイパーが別の女性に寄生して身を潜めているのだと思っていた。
様子のおかしい女性ばかりを探し、『男性に寄生している』なんて考えはこれっぽっちも無かったのだ。
「あの娘の目の前で父親を殺して、絶望させた隙に彼女に寄生したってところかよ……畜生が」
吐き捨てるようにそう言ったセリスティアに、ライナはニヤニヤしながら口を開く。
「赤髪の女、久しぶりだな。姿が見えないから、どこに逃げたのかと思っていたところだ」
「喋ったっ? 人に取り憑いているからか……!」
青髪の女性――レーゼが、ライナの声を聞いて眉を顰める。
「ライナさん!」
「駄目ですミカエルさん! ああなったら……もう誰の声も届かない!」
ツバの広いエナン帽と白衣のようなローブを身に付けた金髪の女性――ミカエルがそう声を掛けるが、雅は悔しそうに首を横に振る。彼女もかつて、何度も試したのだが……誰一人として、レイパーの寄生から解放させることは出来なかった。
「じゃあ、どうすれば……!」
「まずは動きを止めるわよ!」
レーゼはそう言うと、剣型アーツ『希望に描く虹』をライナに向けようとするが、それはセリスティアが手で制した。
「レーゼ、ミカエル。こいつは俺とミヤビで何とかする。そっちの猫みたいな奴は頼んだ」
自分達の不始末は自分達の手でケリをつける。そういう意図を込め、セリスティアはそう言った。
レーゼとミカエルは、ライナと反対側で、姿勢を低くして唸り声を上げているケットシー種レイパーに目を向ける。
確かに、こっちも放っては置けない。
少し迷った様子だが、二人は頷いた。
雅は、そんな二人に向けて、神殿の表口のある方を指差す。
「向こう側に、シャロンさん……私の仲間が、他のレイパーと戦っています。そっちも多分苦戦していると思うから……」
「大丈夫、そっちには――」
ミカエルは言いながら、『彼女』がいる方向を向く。
「ファムちゃんが助けに向かったわ」
***
「ぬぅ……」
慢心創痍のシャロンを、グリフォン種レイパーはじっと見つめる。
もはや勝敗は決し、後は敗者をどう甚振るか、レイパーはそれを考えていた。
だが、レイパーが前足を振り上げた、次の瞬間。
何者かに横から突撃され、レイパーは大きく吹っ飛ばされてしまう。
雅が助けに来たのかとシャロンは一瞬思ったが、そこにいた人物は、シャロンの知らない女性だった。
ブラウンのコートと黒いハーフパンツ姿の、薄紫色の髪の娘。背中から伸びた、白い翼は、まるで天使の羽のよう。
「大丈夫?」
「お、お主は……?」
「ファム・パトリオーラ。ミヤビの友達」
ファムは一瞬だけシャロンに目を向けた後、すぐにレイパーの方を睨む。
「何か、ヤバそうだったから助けにきた」
ファムがそう言った刹那、体勢を整えたグリフォン種レイパーが、猛スピードでファムに突っ込んでくる。
ファムはシャロンを小脇に抱え、飛翔して突進を躱すが、レイパーはすぐに彼女の後を追ってきた。
ファムは飛び回りながら、羽根をレイパーの方へと飛ばすも、レイパーにひょいひょいと簡単に避けられてしまい、唇を噛む。
「やっぱりノルンも連れて来ればよかったけど……下の相手で忙しいだろうしなぁ……」
そんなことを呟いていると、レイパーは急加速して一気にファムに近づき、振り上げていた前足の一撃を繰り出す。
ファムは咄嗟に翼を体の前に持ってきて攻撃を防ぐが、衝撃により大きく吹っ飛ばされてしまう。
追撃せんとさらにファムへと飛んで行くレイパー。
ファムが視界を確保するために翼を広げた瞬間を狙い、再び前足による一撃を繰り出す。
目を見開くファム。翼での防御は、もう間に合わない。
が――
「……っ! ぬぅっ!」
その一撃を防いだのはシャロン。
腕だけを竜化させ、ファムの代わりに腕で攻撃を受けたのだ。
鱗は頑丈だが、レイパーの攻撃力はそれを上回る事等百も承知。
それでも咄嗟に、シャロンは動いていた。
激しい痛みに唸るシャロンだが、そのままレイパーを弾き飛ばす。
「あ、ありがとう! 助かった!」
そう言ってから、ファムは息を呑む。
「礼を言うのは儂の方じゃよ……お主のお陰で活路が見えた」
体中ボロボロで、明らかに慢心創痍。息も絶え絶え、といった様子にも関わらず、シャロンの目は死んでいなかったから。
その身に纏うは、竜の風格。
ファムの腕から抜け出し、空中に身を投げるシャロン。
刹那、体が光り輝き、山吹色の竜が出現する。
シャロンはファムを見て、
「力を貸してくれんかの……一人では勝てんのじゃ。協力して奴を倒すぞ!」
そう言うと、気合を入れるように咆哮を轟かせるのだった。
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