表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/669

第46話『責任』

「ミヤビ、説明してくれ……。こりゃあ一体、どういう状況だ?」


 怒気をはらんだ静かな声で、赤髪の女性――セリスティアが雅に聞く。


 その目は、遠くに転がっているライナの父親の頭に向いていた。


 雅は体を起こしながら、ライナを指差し口を開く。


「私達が逃がした、あのレイパー! クラゲとイカを足したようなあいつ……彼女の父親に寄生していて……」

「父親にだぁ?」


 若干言葉足らずだったが、セリスティアはそれだけで全てを理解する。


「ちぃっ! 男に寄生してやがったのか! 道理で見つからないわけだぜ……」


 過去にパラサイト種レイパーを逃がした時、雅もセリスティアも、セントラベルグのバスター達も、ずっとこのレイパーが別の女性に寄生して身を潜めているのだと思っていた。


 様子のおかしい女性ばかりを探し、『男性に寄生している』なんて考えはこれっぽっちも無かったのだ。


「あの娘の目の前で父親を殺して、絶望させた隙に彼女に寄生したってところかよ……畜生が」


 吐き捨てるようにそう言ったセリスティアに、ライナはニヤニヤしながら口を開く。


「赤髪の女、久しぶりだな。姿が見えないから、どこに逃げたのかと思っていたところだ」

「喋ったっ? 人に取り憑いているからか……!」


 青髪の女性――レーゼが、ライナの声を聞いて眉を顰める。


「ライナさん!」

「駄目ですミカエルさん! ああなったら……もう誰の声も届かない!」


 ツバの広いエナン帽と白衣のようなローブを身に付けた金髪の女性――ミカエルがそう声を掛けるが、雅は悔しそうに首を横に振る。彼女もかつて、何度も試したのだが……誰一人として、レイパーの寄生から解放させることは出来なかった。


「じゃあ、どうすれば……!」

「まずは動きを止めるわよ!」


 レーゼはそう言うと、剣型アーツ『希望に描く虹』をライナに向けようとするが、それはセリスティアが手で制した。


「レーゼ、ミカエル。こいつは俺とミヤビで何とかする。そっちの猫みたいな奴は頼んだ」


 自分達の不始末は自分達の手でケリをつける。そういう意図を込め、セリスティアはそう言った。


 レーゼとミカエルは、ライナと反対側で、姿勢を低くして唸り声を上げているケットシー種レイパーに目を向ける。


 確かに、こっちも放っては置けない。


 少し迷った様子だが、二人は頷いた。


 雅は、そんな二人に向けて、神殿の表口のある方を指差す。


「向こう側に、シャロンさん……私の仲間が、他のレイパーと戦っています。そっちも多分苦戦していると思うから……」

「大丈夫、そっちには――」


 ミカエルは言いながら、『彼女』がいる方向を向く。


「ファムちゃんが助けに向かったわ」



 ***



「ぬぅ……」


 慢心創痍のシャロンを、グリフォン種レイパーはじっと見つめる。


 もはや勝敗は決し、後は敗者をどう甚振るか、レイパーはそれを考えていた。


 だが、レイパーが前足を振り上げた、次の瞬間。


 何者かに横から突撃され、レイパーは大きく吹っ飛ばされてしまう。


 雅が助けに来たのかとシャロンは一瞬思ったが、そこにいた人物は、シャロンの知らない女性だった。


 ブラウンのコートと黒いハーフパンツ姿の、薄紫色の髪の娘。背中から伸びた、白い翼は、まるで天使の羽のよう。


「大丈夫?」

「お、お主は……?」

「ファム・パトリオーラ。ミヤビの友達」


 ファムは一瞬だけシャロンに目を向けた後、すぐにレイパーの方を睨む。


「何か、ヤバそうだったから助けにきた」


 ファムがそう言った刹那、体勢を整えたグリフォン種レイパーが、猛スピードでファムに突っ込んでくる。


 ファムはシャロンを小脇に抱え、飛翔して突進を躱すが、レイパーはすぐに彼女の後を追ってきた。


 ファムは飛び回りながら、羽根をレイパーの方へと飛ばすも、レイパーにひょいひょいと簡単に避けられてしまい、唇を噛む。


「やっぱりノルンも連れて来ればよかったけど……下の相手で忙しいだろうしなぁ……」


 そんなことを呟いていると、レイパーは急加速して一気にファムに近づき、振り上げていた前足の一撃を繰り出す。


 ファムは咄嗟に翼を体の前に持ってきて攻撃を防ぐが、衝撃により大きく吹っ飛ばされてしまう。


 追撃せんとさらにファムへと飛んで行くレイパー。


 ファムが視界を確保するために翼を広げた瞬間を狙い、再び前足による一撃を繰り出す。


 目を見開くファム。翼での防御は、もう間に合わない。


 が――


「……っ! ぬぅっ!」


 その一撃を防いだのはシャロン。


 腕だけを竜化させ、ファムの代わりに腕で攻撃を受けたのだ。


 鱗は頑丈だが、レイパーの攻撃力はそれを上回る事等百も承知。


 それでも咄嗟に、シャロンは動いていた。


 激しい痛みに唸るシャロンだが、そのままレイパーを弾き飛ばす。


「あ、ありがとう! 助かった!」


 そう言ってから、ファムは息を呑む。


「礼を言うのは儂の方じゃよ……お主のお陰で活路が見えた」


 体中ボロボロで、明らかに慢心創痍。息も絶え絶え、といった様子にも関わらず、シャロンの目は死んでいなかったから。


 その身に纏うは、竜の風格。


 ファムの腕から抜け出し、空中に身を投げるシャロン。


 刹那、体が光り輝き、山吹色の竜が出現する。


 シャロンはファムを見て、


「力を貸してくれんかの……一人では勝てんのじゃ。協力して奴を倒すぞ!」


 そう言うと、気合を入れるように咆哮を轟かせるのだった。

評価や感想、ブックマークよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ