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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第48章 束音家~西区
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第428話『苧環』

 地面に激しく迸る、強力な電撃。


 亡霊エスカが爪を地面に突き刺し、放ったのだ。


 志愛、真衣華、ファム、希羅々、そしてその奥にいる亡霊四葉諸共、この電撃で攻撃を仕掛けたのである。


 地面を隆起させ、積雪を蒸発させながら迫る紫電。


 雪に濡れた四人がこんなものを喰らえば、あっという間に感電死してしまう。


 くノ一姿に変身した真衣華が消え――影に潜る能力だ――、ファムが、チマ・チョゴリを纏った志愛を抱えて飛翔。希羅々も『フォートラクス・ヴァーミリア』と『百花繚乱』による合体アーツ、斧鳥に掴まり空へと逃げる。


 四葉も『マグナ・エンプレス』の飛行能力で宙に浮き、エスカが放った広範囲にわたる電撃攻撃は誰にも当たることなく、地面を紫色の電流で装飾するのみに終わった。


 その雷が消えた刹那、


「こっちだよっ!」


 亡霊エスカの背後から、真衣華が飛び出してくる。手に構えた深紅の片手斧、フォートラクス・ヴァーミリアを振り、攻撃を放つ――が、エスカはもう次の攻撃を放っていた。


 長く、太い尻尾。それを振り回し、真衣華の細い体に叩きつける。


 しかし、


「っ?」


 殆どのれんを押したに近い手応えと共に、煙となって消えていく真衣華。


 刹那、またしても影から真衣華が飛び出してくる。


 先程煙となって消えたのは、真衣華の姿をした人形。身代わりだ。変身したことによって得た能力である。


 真衣華は自身のスキル、『腕力強化』を使いながら、今度こそエスカへと攻撃を当てにいく。変身し、パワーも上がった今、この一撃は安易に受けられる威力ではない。


 だが響く。甲高い音が。亡霊エスカが爪で、真衣華の斬撃を受け止めたのだ。竜人のエスカは、いかに変身した真衣華であっても、決してパワー負けなどしない。


 そして、その瞬間、


「っ!」


 真衣華の頭上から迫る、攻撃の気配。


 亡霊四葉が、迫っていた。足を上げ、踵落としのモーション……今の真衣華は隙だらけ。この一撃を後頭部にでも受ければ、即死は免れない。


「真衣華ッ! 頭を下げロッ!」


 近くから響く声。真衣華が咄嗟に頭を下げると、その頭上に矛が差し込まれ、すぐ後に鈍い音が響いた。


 棍型アーツ『跳烙印・躍櫛』と、百花繚乱の合体アーツ――志愛がそれで、四葉の踵落としを受け止めたのだ。


 その直後、四葉の腹部に激突する、巨大な斧。


 二枚に割れた剣を翼のようにはためかせた合体アーツが、四葉に突進し、彼女の実体がある内に遠くまで運んでいく。


 そして、


「ハァッ!」


 志愛はエスカの腹部に向けて、矛を突く。


 変身した志愛には、真衣華のような特殊能力が無い代わりに、その身体能力の向上は彼女の比では無い。鱗の薄い腹部にモロに受ければ、いかに竜人の体と言えど、ダメージは決して少なくなかった。


 よろめかされるエスカの体。その直後、


「はぁっ!」

「とぉっ!」


 希羅々の『シュヴァリカ・フルーレ』による突きと、ファムの『シェル・リヴァーティス』による推進力を加えた飛び蹴りが炸裂し、エスカは大きく吹っ飛ばされた。


「よシッ! 何とか戦えていルッ!」


 ようやく反撃出来たことに、拳を握りしめ叫ぶ志愛。


 が、エスカの背後で、大きな打撃音が響き――斧鳥が志愛達の元へと吹っ飛んでくる。亡霊四葉が蹴り飛ばしてきたのだ。


 空で、亡霊四葉は左手にエネルギーを溜めており――


「っ! 皆さん伏せなさい!」


 四葉は放つ。衝撃波を。


 同時に希羅々は、地面にレイピアを突き刺した。


 刹那、全長十メートルもある巨大なシュヴァリカ・フルーレが空に出現する。実体を持った幻影を呼び出す希羅々の必殺スキル『グラシューク・エクラ』だ。


 巨大レイピアが空から地面へと向かって落下し、衝撃波から皆を守る盾になる。響く轟音。揺れる幻影。


 そして『グラシューク・エクラ』が向かう先は、エスカのいる少し手前の地面。


 地響きを鳴らし、大地が盛り上がり、爆ぜる。吹雪の中で、大きな土の塊が派手に撒き散った。


「パトリオーラさんっ! (わたくし)を浅見さんの方へ! 真衣華っ! 権さんっ! 勝負に出ますわよ!」

「う、うんっ!」


 希羅々はファムに抱えられ、亡霊四葉の方へ飛んでいく。


 勝負に出る……その言葉の真意に、真衣華と志愛は気づいていない。一瞬、何を言っているのかと呆気に取られてしまった。


 だが、すぐに理解する。自分達が伏せていた時、希羅々が何を見ていたのかを。


 土煙と吹雪の向こう、その空――そこで迸る、紫の電流。


 吹っ飛ばされた亡霊エスカの体に、雷の力が収束していた。


 空が悲鳴を上げるように轟雷を鳴り響かせ、僅かだが大地も震えている。エスカに雷が落ちるが、収束する雷の力は、そのエネルギーさえも取り込んでいた。


 亡霊エスカは、目で訴えている。「逃げて」と。それが、これから放つ攻撃がどれだけ恐ろしい威力なのか、物語っていた。


 斧鳥を掴む志愛。彼女の腰に、真衣華も抱きつく。


 直後、亡霊エスカから放たれる、電撃のレーザービーム。太さ五メートルはあろうかという大きさだ。空気を震撼させて勢いよく向かってくるその攻撃は、激しくスパークする音だけで、その威力の凄まじさが理解出来てしまう。


 しかし、そんな一撃を前に――


「志愛ちゃん! お願い!」

「あアッ! 真衣華、行くゾッ!」


 二人は、逃げなかった。


 あろうことか、そんなレーザービームへと、斧鳥に運ばれ、勢いよく突っ込んできたのである。


 矛を突き出す志愛。回転を始める斧鳥。この後の未来を創造し、恐怖に揺れるエスカの瞳。


 そして激突する、レーザーと二人。


 合体アーツがどれだけ強力だったとて、エスカのこの攻撃とまともにぶつかれば、敗北は必至。


 だが、志愛は集中させていた。回転する矛の先端に、アーツのコアの力を。


 跳烙印・躍櫛の一つの力だけではない。合体している雅のアーツに使われているコアのエネルギーも、そこに集めていた。


 一つのコアだけでは力不足でも、二つの力を合わせれば話は別。


 そこに回転の力と、斧鳥の推進力、変身によるパワーアップも加われば、強力なレーザーにだって負けることはない。


「グ……ゥ……!」

「がん、ばれ……志愛ちゃんっ!」

「オォ……オォォッ!」


 レーザーを外側へと抉るように突き進む志愛達。


 目が回るという表現では生ぬるい。内臓が外へと飛んでいきそうになり、ともすれば意識ごと脳みそが吹っ飛んでいきそうになるこの感覚は、志愛にとっては過酷なものだ。


 それでも、志愛は離さない。合体アーツを握りしめることを。そして逸らさない。合体アーツの中のコアの力の流れに向けた意識を。


 そして――レーザーと矛が接する部分に、徐々に浮かび上がる。


 巨大な、虎の刻印が。エスカの紫電に負けないくらい、紫色の光を帯びた、その紋様が。


「オ……おあぁぁぁぁぁアッ!」


 力を振り絞る志愛。


 瞬間、刻印がより一層の光を放ち――亡霊エスカの目が、大きく見開かれる。




 激しく振動する雷。悲鳴を上げるように、スパークし――エスカの雷を一点に集中させた、強力なレーザービーム……その中心をぶち破り、志愛達が出てきたのだから。




 だが、亡霊の体に、物理的な攻撃は効かない。攻撃の最中とその直後なら別だが、今はもう、エスカの体に実体はない。


 必然、すり抜けていく志愛達。


 しかし、それで良いのだ。……志愛と真衣華の狙いは、亡霊エスカではないのだから。


 回転を続けながら二人が向かう先は――空。


 そこには、いる。




 ファムと希羅々の二人と交戦中の、亡霊四葉が。




 空中で回し蹴りをして二人を吹っ飛ばしていた四葉。彼女にはまだ、実体がある。


 そんな四葉も、近づいてきていた志愛と真衣華を見て、驚いていた。彼女も思っていなかったのだ。エスカのあのレーザーを、二人が打ち破ることなんて。


「今ダァァァッ!」


 轟く志愛の声。そして、彼女の腰にしがみついていた真衣華は、跳ぶ。


 きりもみしながら志愛から離れる彼女の体。回転の力と、『腕力強化』、そして変身によるパワーアップ……そこから繰り出す。斧の一撃を。


 四葉にそれを回避する余裕は、全くない。


 激しい音と共に墜落していく、亡霊四葉。その後をゆっくりと落ちていく真衣華。


 そんな真衣華を見たエスカが、空から電撃で攻撃をしようとする。空中で自由に動けない真衣華は、格好の的だった。反撃すらも許さぬよう、遠距離攻撃で確実に仕留める構えである。


 エスカの手から、放たれる電撃。


 が、しかし。


 不意に、何かが真衣華を飛び越えて落下していくのが目に飛び込む。


 それは、矛。


 斧鳥に掴まり、遠くまで飛んでいっていた志愛が、投げたものだ。


 弓なりに飛んでいく矛が向かうは――亡霊四葉が落下したところより、僅かに離れた地点。


 矛には、僅かだがバチリバチリと音を立てて電流が流れている。先程エスカの攻撃を破った際に、帯電したのだろう。


 手から放っている電撃の挙動がおかしくなった瞬間――亡霊エスカは気づく。


 ()()()()()()()に。


 エスカの口が、僅かに動いた。『見事』と。言葉こそ発せないが、確実に、そう告げている。


 そして――







「四葉ちゃぁぁぁぁぁぁあんっ!」







 空に轟く、真衣華の絶叫。


 それを聞いた亡霊四葉は気づく。


 彼女達が、()()()()()()()()()()()()()()()()()を。


 勝ち誇った顔となった四葉の左手が、真衣華に向けられる。そこに、四葉は全エネルギーを集中させる。


 そして放たれる、最大パワーの衝撃波。


 雅の記憶の中から無理矢理引きずり出され、亡霊として現世に出現させられた四葉とエスカ。


 この時、その元凶であるネクロマンサー種レイパーは、二つ……正確には三つのミスを犯していた。


 一つは、亡霊に、その人物の人格を敢えて残してしまったこと。雅や志愛、真衣華を苦しめるためだけに、ネクロマンサー種レイパーは四葉とエスカを、ただの操り人形にはしなかったのだ。互いに互いを攻撃し、苦痛と苦悶に歪む様を楽しみたかったから。


 だがそのせいで、隙が出来た。志愛と真衣華達が、エスカ、四葉と意思疎通が出来てしまうという隙を。亡霊の二人は、体は自由に動かせずとも、彼女達の意図を理解出来る。


 もう一つのミスは、亡霊に、目の前の敵を全力で殺しにかからせるようにしてしまったこと。この二人は、志愛達相手に、一切の容赦が出来なかった。彼女達を倒すために、最善の戦いをするようにされてしまっていた。


 しかしそれは逆に言えば、四葉はエスカを、エスカは四葉のことを、まるで鑑みないということでもある。敵を倒すために注力させてしまったせいで、互いを思いやる行動が出来ないのだ。


 さらに、全力で敵を殺す範囲ならば、四葉もエスカも多少の自由が許される。ここで、意思疎通が可能だと言う点が生きてくる。


 志愛達四人は、それを利用した。


 エスカも四葉も、空中にいる真衣華に向けて、電撃と衝撃波を放った。空からはエスカが、地上からは四葉が……真衣華は今、その中間にいる。


 そして放たれた電撃は、エスカの想定する挙動をしていない。四葉の背後に突き刺さった矛……帯電したそれが、エスカの電撃に呼応し、電撃を引き寄せている。


 この矛は、いわば避雷針だ。エスカの電撃を、四葉へと誘導するための。


 このままでは四葉に電撃が直撃する。エスカが普通に戦えているのなら、この電撃は、体に大きな負担が掛かることも厭わず、気合と根性で何とか無理矢理にでも曲げていただろう。だが今のエスカに、それは出来ない。――その自由が、エスカにはないのだから。


 一方で四葉も、真衣華に向けて衝撃波を放ってしまっていた。迫る電撃を回避することよりも、真衣華を攻撃することを優先してしまったのだ。空中にいる真衣華を殺すため、全力で撃った。――その奥に、エスカがいることを全く考慮せずに。


 もしも真衣華がこの衝撃波を躱してしまったら?


 ――そしてそれは現実になる。


 衝撃波が真衣華に当たる直前、横から飛んできたファム。


 真衣華を拾い、勢いを落とすことなく逃げるファム。標的を失っても、衝撃波は止まらない。凄まじい勢いで、エスカへと向かっていた。


 今の四葉とエスカは、亡霊だ。ゾンビでも死体でもない。


 確かに攻撃する瞬間とその直後しか実体を持たない厄介な特性はある。エスカの竜の体など、物理攻撃が当たったとしても、殆ど傷つかないのは言わずもがな。亡霊の特性と合わせれば、物理的な攻撃には滅法強い。


 だが、亡霊なのだ。過去にシャロンが亡霊レイパーをブレスで消し飛ばせたように、物理的ではない、激しい光や魔法、そしてエネルギー弾系の攻撃には、亡霊は弱い。――その弱点の中には、勿論電撃や衝撃波も含まれる。


 これが、ネクロマンサー種レイパーが犯したといえる、三つ目のミス。亡霊ではない形で復活させるべきだったのだ。


 同時に衝突する、電撃と衝撃波。


 普段なら耐えられる程度の攻撃だが、亡霊の体とあってはそうはいかない。


 消えていく二人。


 そんな中、四人は見た。




 よくやった……四葉とエスカが、そんな顔をしていたのを。

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