第426話『杖隙』
夜の十一時五十五分。新潟市西区にある青山海岸に、五人の少女が集まっていた。
レーゼに真衣華、志愛、ファムに希羅々……皆、雅のGPSを頼りにここに来たのである。信号の発信源は、すぐ近く。そこに、ネクロマンサー種レイパーもいる。少し前まえでは倉庫の辺りにいたのだが、活動を再開するためか、また外に出てきていた。
束音家から、普通に歩いても二時間弱。途中でタクシーやパトカーを使ったものの、大半は徒歩。防御用アーツ『命の護り手』で寒さを防いでいなかったら、凍え死んでいただろう。それくらいには、無茶な行動だ。しかしそれをせねばならない程、事態はひっ迫しているということでもある。
「後五分で、日付が変わるね。……ユウは、まだ来ないのかな?」
「真っ先に来ていると思ったんだけど……どうしたんだろう?」
「彼女のGPS信号は、こっちに向かって来ていますわ。この速度……車にでも乗っているのでしょうね」
海岸近くの林。そこで吹雪を凌ぎながら、日付が変わるのを待つ一行。日付さえ変わってしまえば、志愛と真衣華は再び『変身』出来るからだ。
しかし、真っ先に束音家を飛び出ていった優が、何故かまだ来ない。どうやら遠回りしてこちらへと向かっているようで、その行動の不可解さに、ファムと真衣華、希羅々は首を傾げる。
「到着まデ、もう十分くらいといったとこロ……どうしますカ? 優を待ちますカ?」
「……いえ、私達だけでやりましょう。皆、準備を」
そう言うレーゼの視線の先は、ULフォンにより空中に表示された、マップの立体映像。
雅のGPSが、こちらに向かってきていた。
「クッ……気配に気づかれタ? この吹雪の中デ?」
「かもしれないわ。……来るわよ。皆、構えなさい!」
レーゼの言葉に、志愛達はアーツを出して、各自戦闘体勢に入る。
レーゼが構えるは、空色の西洋剣、『希望に描く虹』。
志愛はポケットに入れていたペンを取り出す。指輪の光に呼応してペンが形を変え、銀色の棍『跳烙印・躍櫛』に。
少し遅れて、希羅々も金色のレイピア型アーツ『シュヴァリカ・フルーレ』を握る。
真衣華も深紅の片手斧『フォートラクス・ヴァーミリア』を出し、さらに『鏡映し』のスキルで二艇に増やす。
ファムが背中から生やすのは、白翼。『シェル・リヴァーティス』だ。
吹雪と、夜の闇で、敵はまだ見えない。足音も聞こえない。
――だが意識すれば、はっきり分かる。敵の気配が、すぐ近くに来ていることには。
緊張に張り詰める空気。
刹那、
「っ!」
バチリという、本能的に脅威を感じる音が辺りに響き、全員が直感的にその場から大きく跳び退く。
直後、空から降り注ぐ、激しい電撃。
紫の雷が木々を砕き――地面に作られたクレーターの中心にいたのは、半透明の体の少女。
竜の鱗に覆われた腕や額、足、そして尻尾。紫髪ロングの彼女は、エスカ・ガルディアルの亡霊。
さらに、
「希羅々っ! 危ないっ!」
「……ちぃっ!」
亡霊エスカの登場に気を取られた希羅々の背後から、誰かが迫っていた。
エスカと同じく、半透明の体。銀色のプロテクターとバイザーに包まれた彼女は、浅見四葉の亡霊だ。
亡霊四葉の蹴りを、辛うじてレイピアで逸らすも、思ってもみなかった方向からの攻撃に、希羅々は動揺する。亡霊四葉の繰り出す嵐のような猛攻に、ぎこちない動きで何とか対応していた。
そして、
「志愛ちゃん! 右に跳んでください!」
「オォッ?」
響く、聞き慣れた声。
志愛が言われた通りにした直後、今まで彼女がいた場所に、桃色のエネルギー弾が通過する。背後にあった木にぶつかり、幹を木っ端微塵に吹き飛ばした。
「サル、トモトモンウト」
そんな声と共に現れたのは、黒いローブを羽織った、細い体のレイパー。その手には、T字の杖が握られている。ネクロマンサー種レイパーだ。
その横には、桃色の燕尾服を着た雅が、メカメカしい見た目をした銃剣、『百花繚乱』を向けていた。柄を曲げ、ライフルモードとなったそのアーツの銃口から出る薄い煙が、あっという間に風にさらわれていく。
「ふん……おでましってわけね!」
「うぐっ……皆……ごめんなさいっ!」
雅が百花繚乱をブレードモードにすると、レーゼへと向かって突撃してくる。
レイパーも杖を振り上げ、深緑色のエネルギー弾を創り出し、レーゼや志愛達を攻撃し始めた。
亡霊エスカと四葉も、襲い掛かってくる。
レーゼ達も、負けじと応戦し、あっという間に混戦になっていく。
「ファム! 手筈通りニ!」
「分かってるよっ!」
激しい攻撃の嵐を潜り抜け、一直線にレイパーの方へ向かうファム。
シェル・リヴァーティスから飛ばされる羽根が、レイパーの足元の地面に直撃し、土煙を上げた。
「マヘンムトッ!」
レイパーが杖を振るって煙を払う――が、迫っていたはずのファムの姿が無い。
どこに行ったと、レイパーがそう思った、次の瞬間。
「はぁぁぁあっ!」
「ッ!」
横からファムが突っ込んできた。狙いはレイパー……では無い。
その手に持つ、杖だ。
「雅ッ! 合体ダッ!」
「っ!」
志愛がそう叫ぶのと、シェル・リヴァーティスの速度を乗せた蹴りが、杖に命中するのはほぼ同時。
その刹那、雅は理解する。志愛とファムの狙いを。
そして――
【ミヤビっ! いけるよっ!】
雅の中でそう叫ぶ、カレンの声。
直後、雅は発動する。二つのスキルを。
レイパーに操られている雅は、スキルを使う自由すら無かったはずだった。だがレイパーの杖にファムの蹴りが命中した瞬間、敵の魔法に歪が生じたのである。
敵の魔法の源は、杖だ。そこに衝撃を加えれば、魔法に何かしらの隙は出来るはずだと、志愛は考えた。その考えは正しい。中にいるカレンがその隙を突いて、一瞬だけチャンスを与えた。雅に、『共感』のスキルを使わせるチャンスを。
一日一度だけ、仲間のスキルを使える雅のスキル。
雅の持つ百花繚乱が、二つに増える。真衣華の『鏡映し』の効果だ。
そして、二本の百花繚乱を持った雅が、二人に増える。ライナの『影絵』を使ったのである。
レイパーが操っているのは、本体の雅のみ。分身の雅は、敵の魔法の影響を受けていない。分身雅は、本体の雅へと突撃していく。
それを迎え撃とうと、本体の雅は百花繚乱を構えるが、
「レーゼさンッ! 雅ヲッ!」
「分かってるっ!」
事前に、作戦の内容を聞いていたレーゼ。
彼女の背中に、巨大な虹のリングが出現する。
「トテッ?」
空色に輝きだす、レーゼの体。この夜闇に慣れた目では、この光はあまりにも眩しすぎる。
必然、白く染まる、本体の雅やレイパーの視界。
希羅々や真衣華、志愛やファム……さらには亡霊四葉とエスカも、この輝きの前には動きを止めてしまう。
動けたのは、分身の雅だけ。
分身の持つ百花繚乱が振るわれ、本体の持つアーツの柄の底に直撃。
「ファム! 今よ!」
レーゼがそう叫ぶと同時に、彼女を包んでいた光が弾け飛ぶ。その体に纏うは、空色を基調とした鎧と小手。
紛れもなく、レーゼの『変身』だ。
視界が回復したファムの目に飛び込んできたのは、空に弾き飛ばされた百花繚乱。
誰が何をするよりも早く、ファムは飛ぶ。――そのアーツ目掛けて。
その直後に、分身雅も動き出した。
誰もの目には、この二人の動きが、まるでスローモーションのように映っていたことだろう。多少の打ち合わせこそあれど、ぶっつけ本番かつ戦況に合わせたアドリブとは、とても思えない程の鮮やかな光景だった。
「シアっ!」
「真衣華ちゃんっ!」
本体の雅から弾き飛ばされた百花繚乱を、空中でキャッチし志愛に投げるファム。自身が持っていた百花繚乱の内、一本を真衣華に投げる分身雅。
そして、それに向けてアーツを持つ腕を伸ばす志愛と真衣華。
二本の百花繚乱……それが、空中で変形を始めた――。
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