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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第48章 束音家~西区
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第424話『妙動』

 一方、夜の十時半。ここは新潟市西区の海岸沿いにある、とある空き倉庫の中。


 そこに、雅とネクロマンサー種レイパーはいた。少し前まで南区で警察所属の大和撫子と戦っていた雅とレイパーだが、一度ここに転移し、身を隠していたのである。


 外は激しい吹雪だが、中に暖房などは当然無い。凍えるような寒さの中、雅は体を震わすことも出来ず、白い息を吐き、鼻頭を赤く染めていた。


【ミヤビ……後どれくらい耐えられる?】

(わ、分かりません……だけど、正気限界で……)


 視界が霞む。体も頭も痛い。ネクロマンサー種レイパーに操られてから、気温一桁あるいはマイナスになる中、コート類も身に着けることなく、長時間戦わされていた。風邪を引くのも当たり前だ。


 さらに、


(カレンさん……音符の力の方は……?)

【駄目だ。解除出来ない】


 雅の服装は、相変わらず桃色の燕尾服。普通なら三十分で消えるはずのこの力は、未だ残っていた。雅の体をコントロールしているレイパーの魔法は、この力の持続時間にも影響を及ぼしているらしい。


(いっ……)

【くっ……ミヤビ……っ!】


 突如右腕に走る、耐えがたい激痛。まるで骨をハンマーでダイレクトに叩かれたような、そんな痛みだ。


 音符の力は強力だ。変身者の身体能力をアップさせ、特殊な力すらも手に入れられる。それだけに、長時間の変身は、体に大きなダメージを与えてしまうのだ。本来変身が解けるはずの時間を超えた辺りから、こんな痛みを感じるようになっていた。


 以前、優香達が予想していたこと――三十分という変身時間は、セーフティだという彼女達の考えは、正しい。それを無視した結果が、これだ。


(せめて、音符の力だけでも解除出来れば……)

【ごめん。何とか色々やってみてはいるんだけど……】


 雅の中にいるカレンは、何とか変身を解こうと、雅の中で出来うる限りのことをしているが、結果は無駄に終わっていた。


【……役に立てなくて、本当にごめん】

(……いえ、正直、こうして何か会話出来ているだけで、助かってます)


 これは雅の本心。もしも完全に独りでこの状況に置かれていたら、とっくに心は壊れていた。カレンがいるということは、雅が思っている以上に大きな助けとなっていたのである。


【……私は引き続き、出来ることをやってみる。一応、雅の中に、違和感みたいなものはあるんだ。あいつが雅に掛けた魔法だと思う。解除出来なくても、弱められないか、やってみる】

(お願いします。今は、カレンさんだけが頼りで……)

【……出来る時に、出来ることをやろう。今はそれしかない】


 二人がそんな会話をしていると、


「……ンッナカザッニメノモ」


 倉庫の扉をすり抜けて、二人の女性が中に入ってきた。


 黒髪と紫髪……浅見四葉と、エスカ・ガルディアルの亡霊だ。


 ネクロマンサー種レイパーの命令で、ここに戻ってきたのである。最も、真衣華と志愛、ファムを倒していないという事実までは、レイパーには分からないが。


 二人を見て奥歯を噛み締める雅。そんな彼女と、四葉達の目が合う。


 言葉を交わせなくとも、分かる。四葉もエスカも、申し訳なさと悔しさを滲ませていることなどは。


 レイパーは、そんな彼女達を嘲笑うかのように鼻を鳴らし、口を開く。


「ホロ、ラコリノネタンムキソカルラヨエ。ロレヌタカナシナクモルボレレ」


 そう言って、杖を海の向こうの方を指す。


 亡霊の意に反し、四葉とエスカの体が勝手に動き出す――が、途中で動きを止めてしまう。


「……ンソエ、マタキレイレソメミヤモ。リチウベーテネワルザワレラヤトトタゾボ、マヘンムト……」


 二人とも何かに抗うかのように顔を顰めており、それを見たレイパーは不満げにそう吐き捨てる。


(あいつ、一体何を……?)

【杖を海の方へ向けていたね。二人をそっちに向かわせようとして、拒否された? でも、何で……?】

(二人をこの場から移動させようとしていたんでしょうか? 邪魔になった? 奴にとっても、この二人は戦力になるはずなのに……?)


 互いに『?』を浮かべる、雅とカレン。


 しかし、やがて思い出す。――レイパーが杖を向けた先にいる、()()()()を。


【そうだ……あいつ、サドの方を指していた?】

(……じゃあ、まさか?)


 二人の脳裏に、巨大な鯨のようなレイパーの姿が浮かぶ。――そう、『ラージ級ランド種レイパー』が。


【多分、あいつ自体はあそこにいるんだよね? よく見えないけど……】

(多分。でも、封印は完全には解けていないはずです。杭は抜けかけただけで、まだ抜けきっていないはずですし。こいつは二人を、あいつの元へ送ろうとした? でも一体なんで?)

【それに、亡霊レイパーなら分かるけど、この二人はレイパーじゃない。……何を企んでいるんだろう?】


 気味の悪さ……とでも言うべきか。そんな嫌な感じが、二人の胸の中に沸き上がる。


 何かを決定的に勘違いしている、見落としている……そんな気がしてならなかった。


「コロ、ワレ。マヤモレタレッミヤテソ、レアレアトヘヲルモムボロッノ。ロタラヤトボ、『ミヤビ』ナレルラヤトタレリテレウマナカヨモッノヘト」

【……今、ミヤビの名前を出した?】


 何を言っているのか、未だ解明されていないレイパーの言葉。


 しかし今の『ミヤビ』という言葉だけは、はっきりと雅のことを指していたように思えた。


 夜はまだ、終わらない。


 外の吹雪は一層強まるばかりだ――。

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