第423話『腹括』
「希羅々っ! 優ちゃんはっ?」
「見失いましたわ……全く、あの子は……!」
ライナの「必要ならば、ミヤビを殺す」という言葉に激怒し、家を出ていった優。希羅々を筆頭に皆で慌てて追いかけたのだが、外は猛吹雪で、あっという間に見失ってしまった。
GPSで追えると言いたいところだが、この天気では外でULフォンを使うこともままならない。状況が状況であり、流石にこのまま優を探し続ける訳にもいかず、渋々戻ってきた一行。
全身に被った雪を払いのけながら、希羅々は舌打ちをして口を開く。
「GPSは……ふん、やっぱりですわ。相模原さん、一人でレイパーのところに向かっていますわね」
雅のGPS信号が機能しているお蔭で、敵の位置はすぐに分かる。予想通りの行動だ。この悪天候の中、一周回って感心してしまう。
「実質二対一……いえ、浅見さんとガルディアルのお母様もいらっしゃるのなら、四対一。真衣華、すぐに向かいますわよ。相模原さん一人で手に負えるものではありませんわ」
「……うん。そうだね。分かった、行こう」
チラリとライナの方を見てから、真衣華はそう言って頷くと、二人揃って再び外へ出ていった。
「ファム、私も行ってくル。君ハ――」
「行くよ、流石にさ。寒いの嫌だし辛いけど……今、そんなこと言っている場合でも無いし」
外を見て唇を噛み締めてから、ファムはそう言って、志愛と共に希羅々達に続いた。
そんな四人の背中を、しばらく見つめていたレーゼ。
しかし全員の姿が見えなくなると、ライナの方に向き、意を決したような顔で、軽く頭を下げて口を開く。
「……ごめん。ライナに嫌な役目をさせた。――私も出る。ミヤビの場所なら、私だって分かるから」
そう言うと、レーゼも足早に家を出ていく。
残ったのは、ライナとセリスティア、ラティアのみ。
静まり返る家の中。どこか重苦しい空気が充満していく。外よりも寒い気さえする中、
「……ラ、ライナお姉ちゃん、あの――」
空気に耐え切れず、何か言いかけたラティアだが、最後まで言い終わる前に、セリスティアがそれを手で制す。
どうして……そう訴えるラティアの目に、セリスティアは「俺に任せな」と囁き、ライナの方に近寄ると――
「誰かが言わなきゃならないことだった」
ライナの背中を軽く叩き、きっぱりとそう言った。
「考えないわけにはいかねーよな。まぁでも、ユウ達にあれを言わせるわけにもいかねぇ。あれを言うべきは、この場で最年長の俺とか……バスターであるレーゼやライナの役目だった。レーゼも言っていたけどよ、俺にも謝らせてくれ。すまなかった」
どこか、身内に対して甘さが出ていたと、セリスティアは痛感する。
セリスティアだって、元バスター。この状況下で、本当に優先すべきは何なのか、分からないわけではない。
そして――
「そこら辺のこと、レーゼはちゃんと分かってる。皆も口には出さなかったけど、分かってるはずだ。……多分、ユウもな。少なくとも――ライナがミヤビを殺したいわけじゃないなんてことくらいは、全員がちゃんと理解してる」
「…………」
「皆はミヤビのところに行ったけど、俺は少し頭を冷やしてから向かうわ。十五分後くらいか? んで、まぁ……なんだ、俺はあんま上手くULフォン使えねー。GPSだっけ? 追跡出来ねーのが困りもんで……」
「……ええ。大丈夫です。私だってULフォン持ってますし、ミヤビさんの居場所、探せます。一緒に行きましょう」
「おう。頼んだ」
セリスティアはもう一度、今度は強めにライナの背中を叩くと、リビングを出ていくのだった。
***
雅のGPS信号を頼りに、レイパーの元へと向かっていた一行。
が、しかし――
「うぅ……寒い……」
「これを羽織レ。……吹雪、強くなってきたナ」
建物の軒下で、震えるファムにコートを掛けながら、志愛が苦い顔で辺りを見回す。
ファムが志愛を抱え、飛行していたのだが、途中で天候が悪化し、一旦安全なところに避難したのである。他の皆とは、はぐれてしまった。
「ファム、大丈夫カ?」
「ひ、人の心配してる場合? シアだって唇、青いじゃん……」
「これでモ、新潟で生活して結構経ツ。これくらいなラ、もう慣れタ。気にするナ」
「……ねぇ、相談があるんだけど……。二つ……」
コートにくるまり、ファムは控えめにそう言ってくる。志愛は、視線で言葉の先を促した。
「ライナ……ミヤビのこと、本当に殺したりしないよね? そんなことしたくないって顔はしてたけど……」
「…………ファム、相手は年上なんだかラ、ちゃんと『さん』を付けロ」
志愛のその言葉は、覇気がない。
明確に答えようが無いのだ。ファムの疑問には。完全な否定をする根拠等、志愛には見つからなかった。
「……ちゃんと、前みたいに、皆で仲良く出来るよね?」
「……させるんダ。ちゃんと雅を助けてナ」
「うん……じゃあ話、変わるけど……シャロン、呼ばない? ノルンに連絡取ってさ。超特急で来てくれれば、三、四時間くらいでこっちに着くでしょ」
このまま雅の元へと向かえば、立ちはだかるであろう相手がいる。そう、亡霊エスカだ。
竜人の彼女は、人間と比べて遥かに身体能力が高い。変身した志愛と言えど、その差は埋まらない。まともに戦えば、苦戦は必至だ。
故に、同じ竜人のシャロンを呼びたい……ファムはそう思ったのだが――
「駄目ダ」
「えっ? なんでっ?」
まさか反対されるとは思わず、目を見開くファムに、志愛はゆっくりと首を横に振る。
「ファムはあの二人ヲ、戦わせるつもりカ? ……親子なんだゾ」
「い……いや、それは……」
言葉の終わりになるにつれ、段々と勢いが無くなっていく。
志愛の言いたいことは、分かってしまったから。
「……じゃあどうするのさ。今のままじゃ、エスカさんには勝てっこないし……シアだって、もう変身、出来ないじゃん」
「あア。だから立てル。作戦をナ」
幸い、いくらかの作戦はある。無策で挑もうとは、志愛とて思っていない。
どうせ、しばらくはここに留まる必要があろう。
そう思った志愛は、一度今の時刻をチラリと見てから、自分の考えている策を、ファムに話始めるのだった――。
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