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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第48章 束音家~西区
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第421話『雷涛』

 一方、ここは束音家の南西にある大きな潟……鳥屋野潟(とやのがた)。その付近にあるスポーツ公園にて、轟音とスパークが鳴り響く。


「ぐアァァァァァッ!」


 悲鳴と共に、大きく吹っ飛ばされる一人の少女。その手からは、銀色の棍、『跳烙印・躍櫛』が零れ落ち、地面に落ちて折れてしまう。


 ツリ目をした、ツーサイドアップの彼女は、(クォン)志愛(シア)。身に着けたるは、チマ・チョゴリを思わせるような、紫色の上着と巻きスカート。真衣華と同様、志愛も『変身』してパワーアップした姿だった。


 にも拘わらず、志愛は苦戦を強いられている様子。それは何故か。――相対する相手が、人間よりも遥かに強靭な生き物だからだ。


 紫ロングの髪と、クリっとした眼。身長も子供くらいの高さだ。……しかし腕は紫色の鱗で覆われており、爪や尻尾、角、そして翼をも生やしている。


 エスカ・ガルディアル――かつて、雅が過去の異世界に飛ばされた時に共に行動し、死んでしまった竜人だ。苗字のとおり、シャロンの母親である。


 彼女も四葉と同様に、その姿は虚ろで頼りない。亡霊であり、ネクロマンサー種レイパーに操られていた。彼女も四葉のように、志愛に申し訳なさそうな顔になっている。体だけ操られ、意思は本人のままなのも四葉と同じだった。


(ナ、なんという強サ……シャロンさんよりも強いゾ……ッ!)


 朦朧とする意識を必死で奮い起こし、立ち上がる志愛。


 エスカの攻撃は苛烈だ。そもそもの身体能力が竜基準なのだから当然である。今も、強烈なテールスマッシュを受けたばかりだ。変身していなければ、あばらの数本は逝っていただろう。


(クッ……変身した私なラ、竜人の戦いに着いていけるかと思ったガ……こうも差があるとハ!)


 これで、シャロンのように、本来の姿であるドラゴンへと変身されていたら、既に勝負は着いているだろう。だがエスカがそうする様子を見せない以上、亡霊として現世に呼び出された彼女は、竜にはなれないのだろうと思われた。それだけは、志愛にとって救いだ。


 アーツが破損した志愛に、一気に接近してくる亡霊エスカ。雪の舞う中、まるで一筋の紫電のような勢いだ。


 半ば本能の示すままに、志愛は横っ跳びしつつ、それを躱す。その際に積もった雪の中に落ちていた木の枝を拾い上げることも忘れない。


 突撃を回避され、がら空きとなったエスカの背中――木の枝を『跳烙印・躍櫛』に変化させ、変身でパワーアップした身体能力に任せて棍で突き攻撃を放つ。


 が、


「何ッ?」


 亡霊エスカの尻尾が蠢き、棍を絡めとって投げ飛ばされてしまう志愛の体。


 それでも負けじと、気力を奮い立たせ、志愛はエスカの次の攻撃のタイミングを見計らう。


 亡霊に、物理的な攻撃は効果が無い。亡霊の方から攻撃をする時だけは実体があり、ダメージを与えるのなら、その瞬間を突くしかないのだ。


 だが――


「クッ……隙が無イッ!」


 迫る亡霊エスカの、爪や角、尻尾の乱打をアーツで防ぎながら、堪らず志愛はそう叫ぶ。


 エスカの動きは俊敏であり、嵐のように放たれる攻撃の数々は止む気配が無い。志愛が攻勢に出ることは難しく、完全に防戦一方に追い込まれていた。


 さらに悪いことに、


「――ッ? しまっタ!」


 元の制服姿に戻っていく志愛。変身の効果時間が終わってしまったのだ。


 それとほぼ同時に放たれる、エスカの爪の一撃。


 反射的にアーツで受け止めた志愛だが、生身では敵わない――


「ッ!」


 エスカのパワーに負け、あっという間に宙へと吹っ飛ばされてしまう志愛。


 エスカは口を開くと、そこに小さな雷球を創り出し、エネルギーを溜めていく。


 スーッと空気が静かになっていく感覚。そして、次の瞬間――志愛に向けて放たれるは、紫電の光線。雷の力を一点に集中させ、放ったのである。


 空中にいる志愛に、これを躱す術は無い。




 もう駄目だと、志愛が電撃の一撃に備えて身を強張らせた瞬間――急に、制服の襟を誰かに掴まれる。




 同時に空へと浮き上がる志愛。


 光線がすぐ下を通り抜けた直後、


「シア! 良かった! 何とか間に合った!」


 上から声が響き、そちらを見て、志愛は顔を明るくさせる。


 薄紫色のウェーブがかった髪に、背中から生やした白い翼型アーツ『シェル・リヴァーティス』。そう、彼女は――


「ファム!」


 ファム・パトリオーラ。ネクロマンサー種レイパーにやられたミカエルを安全な場所まで運んだ彼女は、皆に加勢するために戻ってきたのである。


 だが、ファムの頭は『?』でいっぱいだった。ここにいるはずの雅と真衣華、さらにはネクロマンサー種レイパーがおらず、志愛は見知らぬ竜人と戦っているのだから。ヤバいということは分かったから助けたが、何がどうなっているのやらである。


「ねぇ! これどういう状況っ?」

「雅が操られてどこかへ消えていっタ! 彼女ハ、雅の中から出てきた亡霊……シャロンさんのお母様ダ! 四葉の亡霊も出てきテ、真衣華はそっちと戦っていル!」

「ちょっ? ええっ? 訳分かんないんだけど――って、おわっ?」


 情報の整理が追い付かず、目を白黒させていたファムだが、突如背後に迫ってきた気配に慌てる。亡霊エスカはファムと志愛を追いかけて飛んできており、もう既にファムへと接近していた。


 再び口を開くエスカ。また光線が来ると、ファムは急いで上空へと逃げる。


 が、その瞬間。


 志愛は感じる。――空気が痺れる、その独特な感触を。さっきとは違う、嫌な感覚だ。


「ファム! 右ダッ!」

「っ?」


 志愛に言われるまでもなく、一気に右方向へと進路を変えていたファム。


 亡霊エスカの口から放たれたのは、光線では無く、電撃。広範囲に拡散する程の、派手なものだ。


 猛スピードで逃げようとしたファムだが、完全には逃げられない。


 外側に逸れる僅かな電撃が、ファムの背中のシェル・リヴァーティスを捕らえてしまい、


「きゃぁぁぁぁぁあっ!」

「ぐぁぁぁぁぁアッ!」


 そこからファムへ、そして志愛へと、電流が伝う。


 体が痙攣し、視界が真っ白に。少し触れただけでも、思考が飛ぶ程の威力があった。


 さらに……真っ白な視界が、チラっと陰る。


「ファ……ファム……前ダァッ!」

「くぅ……っ!」


 直後に二人の体に襲い掛かる、激痛と衝撃。


 エスカのテールスマッシュを受けたのだ。


 吹っ飛んでいく二人。急所は免れたが、それでもダメージは大きい。ギリギリのところで意識が戻り、回避行動に移ったファムだったが、間に合わなかったのである。


 二人の体は、最早ボロボロ。それでも亡霊エスカは、容赦なく二人に向かって飛んでくる。


 次の一撃を受けたら、もう終わり……どうすればいいと焦る志愛。


 その時だ。


「……ッ!」


 志愛は見た。向かってくるエスカの眼を。


 ――何かを訴えている、彼女の目を。


「ファムッ! 合図をしたラ、私を盾にしロ! 彼女の意図が分かっタ!」

「う、うん!」


 志愛が何を読み取ったのか、ファムには分からない。それでも信じた、彼女のことを。


 亡霊エスカが、体を捻る。テールスマッシュの構え――


 それを見たファムが、言われた通り、抱えていた志愛を前に出した。


 瞬間、志愛は防御用アーツ『命の(サーヴァルト・)護り手(イージス)』を発動しながら、跳烙印・躍櫛を体の前に出す。白い光のバリアが志愛とアーツを包み、それに激突する、エスカの尻尾。


 バリア越し、そして志愛越しに伝わる、強烈な衝撃。悲鳴を上げ、大きく吹っ飛ばされるファムと志愛。


 しかし――


「イ……いマ、ダッ!」

「わ……分かった!」


 この指示の意図は分かる。目一杯に翼をはためかせるファム。


 尻尾の一撃は、ブースト。亡霊エスカから逃げおおせるために、必要な力だ。


 亡霊とは言え、竜人。体は確かに自由が効かないが、何もかもがコントロール出来ないというわけでは無い。エスカは狙っていた。自分の一撃で二人を敢えて大きく吹っ飛ばし、遠くへ逃がすことを。


 それに気づいた志愛がファムに指示を出し、辛うじてだが何とかその通りになった。


 二人の姿は、遥か遠く。もうエスカの攻撃が届かないところへと向かっていた――。

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