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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第48章 束音家~西区
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第419話『蓬菊』

 雪が燦々と降り注ぐ夜八時四十四分。束音(たばね)家。辺りには、戦闘音に混じり、人の悲鳴等の声がする。新潟県内に、大量の亡霊レイパーが出現する事件、その真っただ中。


 束音(みやび)の祖母、(うらら)の部屋で、まるで木が音を立てて折れるような、そんな異常な音が鳴り響く。


 部屋の中にいるのは、銀髪フォローアイのライナ・システィア――そしてもう二人。


 ヤギの頭蓋骨のような頭部と、骨のように細い体。黒いローブを羽織っているのは、『ネクロマンサー種レイパー』。


 もう一人は、桃色ボブカットにムスカリ型のヘアピン、そして黒いチョーカーを付けた少女。……ネクロマンサー種レイパーに操られてしまった雅である。


 部屋の中心……大きな穴が開き、むき出しとなった地面に突き刺さるは、『ラージ級ランド種レイパー』を封印している長い杭だ。


 今は二つに分裂しているラージ級ランド種レイパー……この杭が、その内の一体を封印しているが、万が一、その二つが一体に戻れば、世界が破滅してしまう程の化け物が誕生してしまう。


 ネクロマンサー種レイパーは、先端がT字となった杖を掲げ、杭に魔法を掛け、その杭を抜こうとしていた。鳴り響く音は、杭が徐々に抜けていく際に発生している音である。


「スヤ、カルママコジニレネンムヘニレウモ……ゾボ、ロコレ!」


 レイパーが力を込めると、杖の先から放たれる光が強まり、杭を抜く魔法の力をさらに強力なものにしていく。


 レイパーに操られた雅に出来るのは、ただひたすらに「やめろっ!」と叫ぶことだけ。ライナも倒れて抵抗もままならない。


 が、


「――ッ!」


 部屋の、棚等の物陰から現れた五人ものライナ。スキル『影絵』で呼び出した分身達だ。


 彼女達が、一斉にレイパーへと襲い掛かる。杭を抜かれることを防ぐために。ライナ自身は倒れても、分身を呼び出すことまでは封じられていない。


「いっけぇぇぇえっ!」


 ライナが、分身達に喝を入れるように叫ぶ。今ライナに出来るのはここまで。ここで分身達が負けてしまえば、もうレイパーの行動を止める手立てはない。この五体の分身の頑張りに賭けるしかないのだ。


 レイパーに、我武者羅に紫色の鎌、アーツ『ヴァイオラス・デスサイズ』を突き刺していく分身達。レイパーは杖を振って分身達を払おうとするが、分身ライナ達は怯むことなく敵を責め立てる。雅がレイパーに加勢するが、それも二体の分身達が懸命に妨害する。


 そして――


「――ッ!」


 レイパーの苛立った声が響いた直後、分身ライナの一体が、鎌の柄をレイパーの腹部に直撃させ、奴をよろめかせる。その隙に他の二体がレイパーの体に組み付き、窓の方へと押していった。


 ダンボールで目隠しされた窓を破り、外に飛び出すレイパーと分身ライナ。


 刹那、レイパーの杖の先から発せられていた光が消え、同時に杭に加わっていた『抜く力』も無くなっていく。


「よ、よしっ!」

「やったっ!」

【ライナさん! ナイスっ!】


 ライナ、雅、そして雅の中にいるカレンの声が重なる。


 雅が剣銃両用アーツ『百花繚乱』を振り回す中、ライナはあらん限りの力を振り絞って起き上がり、雅へと突撃。


 分身達がその身を呈して雅の斬撃を受け、隙を作ったところに、ライナが雅の背中を突き飛ばして外へと吹っ飛ばした。


「あぁぁぁぁぁあっ!」


 さらに気合を入れるように声を張り上げ、外に可能な限りの分身を呼び出し、何十体かが窓を守り、残りがレイパーと雅に飛び掛かる。


「マヘンムト!」


 レイパーと雅が、群がってくる分身達を、魔法で迎撃し、剣で斬り伏せていく。


 分身の数と、一体一体の性能はほぼ反比例の関係だ。大量に出せば、単体の防御力はクッキーよりも脆い。どんどんと分身達は数を減らしていく。


 今のライナがとったこの戦術は、精々ただの時間稼ぎにしかならない。


 しかし……それは承知の上。狙いはまさに、その時間稼ぎなのだから。


 何故なら――


「セリスティア! あっちよ!」

「っ! レーゼ! 急げ! やべーぞ!」


 雅とレイパーが、全ての分身達を消し飛ばした直後、束音家に戻ってきたのは、二人の女性。


 青髪ロングで、空色の西洋剣型アーツ『希望に描く虹』を持ったレーゼ・マーガロイス。


 赤髪ミディアムウルフヘアで、両腕に、銀色の爪が伸びた巨大な小手のアーツ『アングリウス』を着けた、セリスティア・ファルトだ。


 ライナは戦闘の最中、近くにいるであろう二人にSOSを送っていた。通話の魔法……それで、助けを求めていたのだ。その二人が、やっと到着したのである。


 ライナと雅の目に宿る、希望の光。


「レーゼさんセリスティアさんっ! こっちですっ! 早くっ!」

「私はこいつに操られていますっ! 構わず私ごと倒してくださいっ!」

「ミヤビッ? 操られたって何っ?」

「おらぁぁぁあっ!」


 状況は分からないが、とにかくヤバいというのだけは理解したセリスティア。レイパーを見た瞬間、奴に真っ先に突撃していく。


 己のスキル『跳躍強化』……これを使い、脚力を何倍にもし、地面を蹴って大地に対して水平に跳ぶことで、一気に敵に接近。


 その細い体を、爪で抉ろうと迫るが――寸前で、雅が間に割り込み、セリスティアの攻撃を百花繚乱で受け止めてしまう。


 強い衝撃が雅に襲い掛かる。普通ならその衝撃を逃がすために吹っ飛ばされるのだろうが、雅の体を操る魔法は、それをさせない。雅の体に大きな負担を掛けながらも、全力でセリスティアの攻撃を受け止めさせる。


「あぁっ? ミヤビっ?」

「ご、ごめんなさいっ!」

「操られたってそういうことね! ――このっ!」


 事情を理解したレーゼが、レイパーに斬撃を放つ。からくりは分からないが、レイパーを倒せば何とかなるはずという考えだ。


 斬撃の軌跡に出来る虹。それとともに、刃がレイパーの首元を狙う。


 だが、


「ロコレ!」

「っ?」


 レイパーは杖を振ってバリアを出現させて、レーゼの攻撃を防いでしまう。


 さらに杖に魔力を集中させ、深緑色のエネルギーボールを放つレイパー。


 レーゼは自身のスキル『衣服強化』を発動させ、身に纏う服の強度を鎧並みにしてその攻撃を受けるが、エネルギーボールは触れた瞬間に爆発し、彼女を吹っ飛ばしてしまう。


「ぐっ……!」

「レーゼっ!」

「レーゼさんっ?」


 レーゼを助けに行こうとするセリスティアだが、雅がそれを妨害。仕方なくセリスティアが雅と格闘をする中、レイパーはレーゼに再び攻撃しようと杖の先を向ける。


 しかし、


「まだ……私がいますっ!」


 レイパーの背後に迫っていたライナ。今の攻防の合間に、気配を消して動いていた。


 レイパーがレーゼに止めを刺すよりも先に、鎌の斬撃を背中に直撃させる。


(っ? 硬いっ?)


 見た目とは裏腹に敵の体が丈夫で、目を見開くライナ。背中を圧し折るつもりで繰り出した攻撃だったが、やれたのは敵をよろめかせた程度。


 それでも歯を喰いしばり、ライナはレイパーに果敢に攻撃を続けていく。レーゼも加わり、二対一。雅はセリスティアが何とか引き受けている。


 ライナ達とレイパー達、二つ勢力が拮抗し、戦況が膠着しだした頃――


「相模原さんっ! 急ぎますわよ!」

「分かってるって!」


 少し離れたところから聞こえてくる、二人の少女の声。桔梗院(ききょういん)希羅々(きらら)と、相模原(さがみはら)(ゆう)の声だ。


 他にも、何人もの女性の声が聞こえてくる。一時的に避難させていたはずの近隣の住民が、アーツを持ってこぞって束音家へと集まっていた。束音家の方で大きな騒ぎがあることを知り、一部戦い慣れしている者だけは徒党を組んで戻ってきたのである。


 それを聞いたレイパーは、舌打ちをすると――杖を振って、足元に魔法陣を出現させる。


「……ホレニレビヤタヘバナソジヌノモ。レッノヤセレニンウナヘワル」

「くっ……お前……っ!」


 苦悶に歪む雅の顔。


 レイパーは、麗の部屋の方をチラっと見ると――魔法陣から放っせられた光に包まれていく。


 流石に五対二は分が悪いと判断し、一旦引くことにしたのだ。この魔法陣は、転移の魔法である。


 レーゼ達が「待て!」と言うのを聞き流し、ネクロマンサ―種レイパーと雅はこの場から消え去るのだった。

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