表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
545/669

第47章幕間

 雅達が、ネクロマンサー種レイパーと大量の亡霊レイパーの対処にてんやわんやになっている頃。


 新潟市内の、とある廃屋――何年も前から売り屋になっている、一般住宅だ。最も、築五十年以上もの古い家ではあるが――に、一人の男がやって来る。辺りを見回しながら慎重に……黒いコートと深くかぶった帽子も相まって、その様子は、まるで泥棒のよう。


 近くの有料駐車場には、軽バン。そう――彼は、今日の夕方、束音家の出入口のドアを直しに来た男性だった。


 彼は一体、ここで何をしているのだろうか。まさか、廃屋の扉を直しに来たわけではあるまい。


 すると、廃屋の窓の奥から、誰かがこっそり手招きするのが見えた。誰もいないはずの家なのに、だ。だがそれに臆することなく、男性は音をなるべく立てないように、かつ素早く廃屋へと入っていく。ドアの鍵は、開いていた。


 痛んだ床や壁、埃が積もったままの棚……まさに廃屋という感じだが、その中に薄らと、現在進行形で人が使っているような気配がある。


 先程手招きが見えた窓と、その人の気配を頼りに、真っ直ぐ奥の部屋へと進んでいく男性。


 そして――


「失礼します」

「ご苦労。早速報告をしてくれ」


 部屋に入ると、もう一人、黒いスーツを着た男性が立っている。頭髪にはところどころ白髪が混じっており、やや不健康な感じの痩せた体型。




 久世(くぜ)浩一郎(こういちろう)。人間をレイパーに変える薬……通称『人工レイパー』になる薬を作った人物だ。




 およそ四か月前に、鬼灯淡を利用し、まんまと純粋な『お面の力』を手に入れた久世。それからしばらくは目立つ行動はしていなかったが……こういった廃屋に隠れ、密かに活動を続けていたのである。


 そして束音家の入口のドアを直したあの男性……彼は、久世の仲間。つまり人工レイパーだった。


「杭は確かに、あの家の一室に刺さっておりました。詳しく調べる隙はありませんでしたが、ほぼ本物で間違いないでしょう。また現在、あの家に住んでいるのは、赤髪の女……セリスティア・ファルトが一人だけでした。しかし本日、家主も含めて何人かは戻ってくるようです」


 男の報告に、久世は「そうか……」と呟き、軽く息を吐く。部屋には暖房など無い。白いはずの吐息は、夜闇に紛れてまるで見えなかった。


 久世は、男に何をさせていたのか。……それは、ラージ級ランド種レイパーの片割れを封印している杭の様子を、見にいかせていた。


「ご命令通り、あの女には手を出しませんでしたが……よろしかったのですか? 邪魔者なのでしょう?」

「ああ、構わない。彼女も含め、奴らにはまだ利用価値がある。調べたところによると、どうやら妙な力を発現させた者もチラホラいるようだが……。しかし、杭は無事だったか。ならば良い」

「見たところ、不思議な杭でしたが……しかし本当なのですか。あれが、佐渡の隣にいた巨大なレイパーを封印しているというのは?」


 男の言葉に、頷く久世。そこら辺の事情を、久世は全て理解していた。


「それだけの力が、あの杭にはある。実際、つい最近まで、キャピタリーク近郊の海に、奴のもう半分が封印されていたのだからな。忌々しい力が込められた杭ではあるが、我々にとってもメリットがある。出来れば、もうしばらくの間は抜かれないままでいて欲しいが……」


 そこで舌打ちをすると、久世は窓の外へと視線を向けた。亡霊レイパーの騒ぎは、この辺りでも起こっているから、知っている。


 その先……遠くの方から感じる大きな力。この亡霊レイパーの騒動が、杭を抜くためであることにも、確信こそないものの、久世は薄々勘付いている。それらを踏まえると、自分のこの望みは叶わないと、久世は直感してしまった。


「……まぁ、杭が抜かれそうになれば、彼女達も抵抗するだろう。完全に抜けきらなければ、まだ何とかなる」

「奴ら、杭を抜くつもりでいるとお考えで? しかしその割には、奴らに焦ったような様子が無いのが不思議ですが……」

「最悪、倒されても構わないと思っているのだろう。……四、五年掛かるが、もう一度生成も出来るからな」

「えっ?」

「巨大なあのレイパーは、レイパーであると同時に、原初の力が創り出した装置だ。原初の力さえれば、創り出した以上、素材があれば作れるというのは道理だろう。……まぁ最も、再生成に時間が掛かる。故に倒されたくないという想いはあるのだろうな。こういった騒動を起こしているのが、その証拠だ」


 レイパーサイドの視点に立つと、仮にラージ級ランド種レイパーが倒されたとて、出来なくなるのは輪廻転生のみ。今の自分が殺されなければ、大した影響はないということだ。自分の強さに自信があるレイパー程、ランド種の存続の優先度は下がる。


「家にいた女……セリスティア・ファルトの様子はどうだった? 奴らが輪廻転生するという事実に気が付いていそうな感じはしていたか?」

「そこまでは何とも。家主がどこにいるか、それとなく尋ねてみたのですが、適当なことを言ってはぐらかされてしまいました。ただ片割れの方を急いで封印するのに東奔西走していたこと、そして各国のトップにその事実が周知されているということを鑑みれば、気が付いていると考えるのが妥当かと。喜怒哀楽のお面の役割についてまで辿り着いているかは不明です」

「ふむ……わざわざ自分の家に杭を打ち込んでいる。ほぼ気が付いているということで間違いないと見るべきか。お面の本当の役割についても、気付かれている可能性が高い。ミカエル・アストラムというレイパー研究者がいるのだからな」


 だが……と久世は続ける。


「呑気に家の修理を頼んでいるのなら……あちらの事実までは知らないのだろうな。輪廻転生に使われているエネルギー……その正体には。それを知っているのなら、もっと憤っているだろう」

「今後も引き続き、我々は静観で?」

「ああ。レイパーの輪廻転生は、我々にとっても現状邪魔なものだ。彼女達が潰してくれるのなら、それに越したことは無い。今はまだ何もしないが、いよいよとなれば彼女達に手を貸すという選択肢もある。が……本来の目的を果たすことが優先だ。あちらの計画にトラブルは?」

「ありません。全てつつがなく進行中です」


 ならば良い。そう久世は答える。


 外の、痛ましい喧騒……この廃屋の中は、薄ら寒さで満たされていた。

評価や感想、いいねやブックマーク等、よろしくお願い致します!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ