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第418話『抵抗』

 庭の方から、突然姿を現し、襲い掛かってきたライナ。


 彼女の奇襲を受け止め、ニヤリと笑みを浮かべたネクロマンサー種レイパーだが――直後、更なる殺気が、あちらこちらからレイパーへと迫ってきた。


 レイパーと雅は気が付く。目の前にいるライナと同じ格好をした者が複数、鎌を振り上げ、周りからレイパーに襲い掛かってきていることに。


 レイパーは困惑するが、雅には分かる。……これらは全て、ライナが自身のスキル『影絵』を発動させ、創り上げた分身達であることに。


「マドモヘレ!」


 レイパーはそう叫ぶと、地面に無数の魔法陣を発生させ、そこからエネルギーで出てきた触手を出現させる。目の前にいるライナも含め、周りのライナ達を纏めて捕らえて、その体を絞め上げる。


 あっという間に、黒い煙となって消えていく分身達。後には誰も残らない。


 刹那、


「はぁぁあっ!」


 地面の魔法陣が消えたタイミングで、家の奥からライナが突っ込んできた。先程までの分身では無い。本物のライナだ。


「くっ……すみませんっ!」


 ライナからレイパーを庇うように、雅の体が勝手に動く。剣銃両用アーツ『百花繚乱』の刃が、ライナの持つ鎌型アーツ『ヴァイオラス・デスサイズ』を受け止めてしまった。


「ミヤビさんっ?」

「離れて下さいライナさん! 私、こいつに操られているんです!」


 そう叫ぶと同時に、ライナを突き飛ばし、間髪入れずに百花繚乱をライフルモードにして、ライナへとエネルギー弾を放つ。


 それを鎌で弾き飛ばしながら、ライナは「成程……だからこんなことに!」と漏らす。


 何が起こっているのか、ライナは全てを理解している訳ではなかった。レイパーと一緒に家の中に入ろうとしている雅を見つけ、何かのっぴきならない事態が起こっていると思い、奇襲を仕掛けただけだったのだ。


「こいつの狙いは杭です! 私を倒してでも、こいつを止めて下さいっ!」

「くっ……!」


 中々に難しい注文だと、ライナは苦しい表情を浮かべる。


 スキル『影絵』を使い、十五人もの分身を出現させ、レイパーに襲い掛からせるが――それらを全て、雅が引き受けようとしてしまう。分身の相手を雅がしている間に、レイパーは玄関へと足を踏み入れる。


 唇を噛み、思考を巡らせるライナ。束音家の廊下はそれなりに広いが、アーツを振り回せば壁や天井は普通に邪魔になる。分身は雅が引き受けてしまい、このままでは押し切られること等明白だ。


 悠々と廊下を進んでいくレイパー。後退るライナ。


 レイパーが、リビングの入口まで差し掛かった、その時。


「こっち!」


 リビングの方から声が轟き、大きな盾を持った、美しい白髪の少女が飛び出てくる。ラティア・ゴルドウェイブだった。


 先の雅の言葉は、リビングまで聞こえていた。ライナからは、リビングに隠れているように言われていたのだが、状況を把握したラティアが、何とか敵の隙を作ろうと行動したのである。


 盾で押して敵の体勢を崩す――そういう狙いだったのだが、


「スヤ!」

「っ!」


 レイパーは杖を振って、彼女を玄関の方まで払い飛ばしてしまう。


 そして、


「マズい! そっちは――」

「ラティアちゃん! 逃げて下さい!」

【避けろラティア!】


 丁度、全ての分身達を斬り伏せた雅がそこにいた。


 容赦なく動く、雅の腕。警告はあまりにも遅い。


 アッパーするかのように振り上げられた百花繚乱。それを、ラティアは辛うじて護身用の盾型アーツで受け止める。


 が、


「きゃぁっ!」

「ラティアちゃんっ?」

「ああっ! そんなっ!」


 雅の斬撃を盾で受けたとて、その衝撃は相当なもの。崩れかけていた体勢では踏ん張りも効かず、体重も軽いラティアでは、あっけなく吹っ飛ばされてしまった。


 廊下の床に打ち付けられるラティアの体。受けたダメージは大きく、立ち上がろうと体を震わせるばかりで、上手く力が入らないようだ。


 レイパーの持つ、T字の杖の先が、ライナへと向けられる。魔力が集中していき、放たれるは巨大なエネルギーボール。


 床を削りながら迫る、レイパーの魔法攻撃。ライナは分身を大量に創り出して肉壁にするが、エネルギーボールの進みは止まらない。


 ライナがアーツで弾こうとするが――


「きゃあっ!」

「ライナさんっ!」


 鎌が触れた瞬間に爆発し、天井や壁に罅を入れながらライナを吹っ飛ばす。


 倒れたライナを一瞥しながら、レイパーはやって来た。


 雅の祖母、麗の部屋。……杭が刺さっている、その部屋へと。


 レイパーは再びエネルギーボールを放ち、部屋の扉を破壊し、無遠慮にその部屋へと足を踏み入れ、鼻を鳴らす。


 その眼前には、淡い光を帯びた杭。畳の下……砕かれた荒板の下の地面に、確かに突き刺さっていた。


 レイパーが、杖を掲げる。


 だが、その瞬間――どこからともなく、小さな何かが、レイパーの持つ杖へと突っ込んできた。


「ッ?」


 レイパーの杖にタックルしたのは――エメラルドグリーンの毛並みの猫。


【ペグっ?】


 野生の勘か、主人のピンチにも気が付いたようだ。今までは姿を隠し、今が好機と飛び出してきたのだろう。


 しかし、


「ルッナルヘレチマキッ!」


 レイパーには効かない。鬱陶しそうに杖を振るわれ、ペグはくぐもった鳴き声と共に退けられてしまう。


 操られた雅。そしてラティアとペグを退け、ライナは倒れ、外にいる連中は亡霊共の相手で精一杯。レイパーにとって、もう邪魔者はいない。


「ロタラヤトタレコレコヘレネモオ……マイジミヘニムイウ!」

「や、やめろぉぉぉおっ!」

【くっ……体のコントロールも戻せない……っ!】

「だ、駄目ですっ!」


 勝ち誇ったように叫ぶ、ネクロマンサー種レイパー。雅とカレン、ライナの声が響く。


 だが、レイパーは止まらない。杖を掲げると、先端から禍々しくも神々しい光が、部屋に満ちていき、ダンボールで塞がれていた窓に亀裂が入る。


 それと同時に、床に刺さる杭が光を帯び、上方向へと力が加わっていく。レイパーは魔法により、杭を抜こうとしているのだろう。床にも罅が入り、まるで杭が、抜かれまいと抵抗しているかのようだ。


 ライナが『影絵』のスキルを再発動させるが、時既に遅し。




 ネクロマンサー種レイパーの魔法により、杭が少しずつ、地面から抜けていく――。

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