第416話『雅操』

　金属同士がぶつかり合う、高い音が響く。

　だがこれは、レイパーと戦っている音では無い。……棍型アーツ『跳烙印・躍櫛』と片手斧型アーツ『フォートラクス・ヴァーミリア』が、剣銃両用アーツ『百花繚乱』とぶつかり合う音だ。志愛と真衣華が、ネクロマンサー種レイパーに操られた雅と戦っているのである。

「ふっ、二人ともっ！　私から離れてっ！」

　雅は苦悶の声を上げると同時に、力一杯に回転斬りを放つ。警告してくれたお蔭で何とか回避が間に合った二人だが、

「わわっ！」

「クッ……！」

　間髪入れずに雅が手の平を向け、音符を放つ。相手の体に蓄積し、攻撃がヒットしたのをトリガーに体内で炸裂するという効果を持った音符だ。

（こ、この力も使えるんですか……っ？）

【駄目だミヤビっ！　奴のコントロールは止められない！】

　自分の体をコントロールされていることに、焦る雅とカレン。幸い、言葉を発したりすることは自由に出来るが、いかんせん体が勝手に動いてしまってはどうしようもない。

　音符の攻撃は、二人とも辛うじて躱せたが、これを乱射されれば、いずれ取返しの付かないことになるのは明らかだろう。

【さっき殺された時に、何か魔法を掛けられたんだ！　これを何とか出来れば良いんだけど……っ】

　雅の体がおかしくなったのは、『超再生』のスキルで復活した後から。ネクロマンサー種レイパーに鎌で心臓を貫かれたことから、あの時に何かされたと考えるのが自然だ。

　事実、レイパーはその時に、雅の体を操る魔法を仕込んでいた。

【ミヤビ！　ファムのスキルで、何とか敵のコントロールから抜け出せないっ？】

（駄目です！　スキルも自由に使えなくて……っ！）

　基本的に、雅のスキル『共感(シンパシー)』は自発的に使う必要がある。だが敵の魔法は、雅にそれさえもさせてくれない。

「志愛ちゃん！　真衣華ちゃん！　私のことは気にせず、倒してください！　そうすれば――」

「デ、できるカッ！」

　雅の斬撃を棍でいなしつつ、志愛が怒鳴るように叫ぶ。

　直後、雅の背後の影から真衣華が飛び出て、雅の背中を斬りつけようとするが、それより早く雅は振り返り、彼女の斧を百花繚乱で受け止め、そして真衣華を押し返してしまう。

「も、もう！　やり辛いなぁっ！」

　苛立った真衣華の声。変身して身体能力が上がっている今なら、今の雅の反撃に力負けすることは無かった。押し返されてしまったのは、雅相手に本気で力を入れられなかったからだ。

　志愛と真衣華の動きは、どこかぎこちない。一方で、雅の動きには容赦がない。二対一にも拘わらず、防戦一方に追い込まれているに近い程苦戦させられてしまっていた。

　雅と志愛、真衣華が、苦しそうな顔で同士討ちをしているのを、ネクロマンサー種レイパーは離れたところで観戦し、低い笑い声を上げる。

「レレダ、ハタココワメワルユヌズミニレア」

　そう呟くレイパーの体は、禍々しい光に包まれている。雅を操って二人を引き受けさせている間、ミカエルとの戦いで消耗した魔力を回復させているのだ。

　そして――

「二人とも！　来ますっ！」

「えっ？　――っ？」

　雅の後方から、杖の先を真衣華達に向けるレイパー。充分に回復させた魔力を、杖の先に集中させる。

　雅がその場から大きく跳び退くと同時に放たれる、深緑色のエネルギーボール。

　その大きさたるや、直径五メートル近い巨大なものだ。

「志愛ちゃん！　私の後ろにっ！」

「ッ！」

　真衣華が前へと進み出て、二挺のフォートラクス・ヴァーミリアをクロスさせて盾にする。

　刹那、レイパーの放ったエネルギーボールがアーツに直撃。

「ぐ、ぬぬ……！」

「マ、真衣華ッ！　頑張レッ！」

「分かってる、けど……だ、だめ……もう……！」

　何とかエネルギーボールを抑えている真衣華。だが、敵の攻撃は弾き返すにはあまりも強力だった。

　さらに、

「二人ともっ！　避けてぇっ！」

　雅の悲鳴にも近い声。

　雅が百花繚乱の柄を曲げてライフルモードにし、真衣華が耐えているエネルギーボールへと、弾丸をぶっ放す。

　警告はされても、どうにもならない二人。

　雅の攻撃が、レイパーのエネルギーボールに抉り込んだ瞬間――爆発する。

　悲鳴を上げて吹っ飛ばされる志愛と真衣華。

　雅の口からも、何やら言葉にもならぬ叫び声が発せられる。

　大ダメージを受けて地面に背中から激突し、それでも何とか立ち上がろうとする二人。

　レイパーはそんな志愛と真衣華を見ながら、小馬鹿にしたような笑い声を上げ、雅の側までやって来る。

「ホニ、デヲヤゲソナナタッノ。ヒレヂレンムテノッニカオルナヘワル」

　そう言うと、レイパーが杖で雅の頭を軽く叩くと、

「っ？」

【な、なんだこれっ？】

　雅の頭から、白い靄が出てくる。

　レイパーが杖を軽く振ると、その靄が肥大していく。

　最初は何が起きているのか分からなかった雅達。

　だが、それがだんだんと、二人の人間の姿へと変わっていくのを見た時、

【なっ……】

「お、まえ……はっ！」

　絞り出すように吐き捨てられた、雅の声。

　靄が模った二人の人は、雅とカレンの知っている人物だった。

　一人は、背中まで伸びた、ハーフアップアレンジがされた黒髪の娘。全身は銀色のプロテクターで覆われており、胸にはアゲラタムの紋様が刻まれている。

　もう一人は、雅よりも頭半分ほど背の低い、紫ロングの髪の女性。皮膚の一部は、竜の鱗がむき出しとなっていた。尻尾も生えており、それはまさしく竜人の姿。

　彼女達は、死んだはずの者。蘇った……のではなく、亡霊として蘇らされた女性達。

　そう、この二人は――

【ヨツバに、エスカさん……っ！】

　浅見四葉と、エスカ・ガルディアルだった。