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第413話『対策』

「ちょっ……これ何っ? 何がどうなっているのっ?」


 闇夜に響く悲鳴や戦闘音に混じり、優の驚愕の声がする。


 辺りには、人型の蝗や、猪型……様々な種類のレイパーがいた。


 どれも、体が透けている。亡霊レイパーだ。大量の亡霊レイパーが、この町内を蠢いていた。全員では無いが、女性を襲おうと、家に侵入しようとしている奴もいる。


 しかも、


「おい! 何か向こうも騒がしくねーかっ?」

「警報が出ていますわ! ……はぁっ? 新潟市内全域で、大量の亡霊レイパーが発生中っ?」

「この地域だけじゃないのっ? ちょ……こんなの、魔王の奴が魔法陣出した時みたいじゃんっ!」


 理由は不明だが、大量に亡霊レイパーが出現したという事実に、戦慄する一行。


 そんな中、苦しい表情ながらも、レーゼは素早く辺りを確認し、口を開く。


「ざっと見えるだけで二十体ってところかしら……。とにかく、手分けして対処するわよ! セリスティアとファムは避難誘導! ラティアは家で待機! ライナはラティアを守りつつ、分身で辺りの援護を! ミヤビとシア、マイカは東から南側! キララとユウと私で北と西の亡霊の対処よ! 倒せればベストだけど、無理なら追い払うことに集中しなさい!」


 テキパキとした状況判断プラス指示は、流石バスターといったところか。しかもレーゼは同時に、警察署にいるミカエルや優一達にも報告をいれている。誰一人異議を唱えることなく、返事をして行動に移るのだった。




 ***




「きゃぁぁぁあっ!」


 束音家の東側。鉈型のアーツを持った女性が、悲鳴を上げる。目の前には、熊のような亡霊レイパーが覆い被さろうと迫っていた。


 突然現れた亡霊レイパーと交戦したものの、力及ばず破れ、殺される寸前といったところ。


 だが、次の瞬間――亡霊レイパーの頭部に、桃色のエネルギー弾が命中し、爆発を発生させた。


 女性が、攻撃が飛んできた方を見ると、そこには――


「みっ、雅ちゃんっ?」

「大丈夫ですかっ? ここは私に任せて!」


 女性が良く知る近所の友、雅がいた。その手に、ライフルモードにした剣銃両用アーツ『百花繚乱』を握りしめて。


 少し離れたところには、志愛と真衣華もいる。二人とも、別の亡霊レイパーと交戦中だ。


「あっちの方にセリスティアさんとファムちゃん……異世界人の女の人がいます! 彼女達と一緒なら大丈夫! さぁ、早く!」

「き、気を付けて! そいつ、物理攻撃が全然効かなくて……っ!」

「ええ、心得ています!」


 そう叫んでサムズアップすると同時に、亡霊レイパーへとエネルギー弾を飛ばす雅。彼女の言う通り、こいつらに斬撃等は効かないが、エネルギー弾系の攻撃なら普通に通用する。


 逃げていく女性。亡霊レイパーが追いかけようとするが、雅がそれをさせない。


 手だけでなく、体の芯まで冷える寒さの中、自らの体に鞭を打ち、亡霊レイパーへとエネルギー弾を乱射していく。


 熊のような亡霊レイパーは、熊とは思えぬようなゆらゆらとした動きでエネルギー弾を避けながら、女性を追いかけようとしたり、と思ったら雅に向かってきたりと、芯の定まっていないような行動をする。


【ねぇミヤビ! こいつらの動き、何だか変じゃない? 自分の意思が無さそうっていうか、まるで誰かに操られているような気が……】

「操られて……確かに、そう見えるけど――あっ! まさか、あのネクロマンサーのレイパーに操られているんですかっ?」


 近づいてくる亡霊レイパーをエネルギー弾で牽制しながら、雅はその可能性に至る。


 先程のミカエルの話も踏まえれば、十分にあり得る話だ。


【それが正しいとすると、問題は、奴がどうして亡霊レイパーを操って暴れさせているのか、だけど……】

「雅ッ! この状況、どうすルッ?」

「ヤバいよヤバいって! 数多すぎ!」


 カレンと会話中に、雅の方へと圧されてきた志愛と真衣華。雅のようにエネルギー弾系の攻撃が使えない二人にとって、物理攻撃が擦り抜けてしまう亡霊レイパーというのは、実に戦い辛い相手だ。


「今カレンさんと推理していたんですけど、これは、あのネクロマンサーのレイパーの仕業かもしれません! 近くに奴はいませんかっ? それっぽい影とか見たりはっ?」

「いやいや! この視界の中じゃ見つけらんないって!」

「で、でっすよねー……!」

「私も見ていなイ……ム?」


 半ばパニックのような状態に陥っている中。


 ――雅達全員のULフォンに、メッセージが届いた。




 ***




 八時十七分。


 ここは、新潟市の鳥屋野潟(とやのがた)付近にある、とある大きな公園。


 除雪されずに、ただひたすら積もっていく雪の中――緑色をした、妖しい光が揺らめいている。


 ヤギの頭蓋骨のような頭部と、骨のように細い体。闇夜と同化するかのような黒いローブを羽織り、その手にはT字型の長い杖を持っている。


 紛れもなく、『ネクロマンサー種レイパー』だった。


 新潟市内の、亡霊レイパー騒ぎ……これはこいつが引き起こしたもの。この場所から亡霊レイパーを操っているのである。


 杖の先端から発せられる緑色の光は、亡霊達をコントロール出来る特殊な魔法。これをゆらゆらと振り、レイパーは市内の亡霊達に指示を出していた。


 数分前も、付近に亡霊レイパーを向かわせたばかりだ。


「ムレソコゾケヌモオヤモ。……ザルヘノカタモ」


 ここで亡霊を操り始めて、約二時間。


 少し苛立ったようにそう呟いたレイパーは、少し休憩しようと言わんばかりに杖を降ろす。


 だが、その時だ。


「――ッ?」


 不意に、背後に勢いよく迫って来る熱。それを敏感に察知したレイパーは、慌ててその場を跳び退く。


 刹那、水が蒸発した時のような音が聞こえ――地面に積もっていたはずの雪に、何かが通ったような線が出来る。


「トテカタゾッ!」


 ネクロマンサー種レイパーが杖を振ると同時に、放たれる小さなエネルギーボール。攻撃が飛んできた方へと、それは向かっていく。


 その時、レイパーは見た。エネルギーボールを防ぐために、炎で出来た壁が出現したのを。


 積もった雪を蒸発させ、それにより出た煙。未だ降り続く雪が、それを鎮めていく。

 そんな中……


「流石に不意打ちでは倒せなかったかしら? 何とか上手く近づけただけに、残念ね」


 現れ出でたるは、雪にも負けない、純白の魔法使い。


 金髪ロングに、エナン帽。白衣にも似たローブ。その全身は、防御用アーツ『命の(サーヴァルト・)護り手(イージス)』の光に包まれている。


 やって来たのは、ミカエル・アストラムだ。


 彼女を見たレイパーが、低く唸る。まるで、「何故ここに?」と聞いているかのように。


 そんなレイパーに、ミカエルは軽く鼻を鳴らして口を開く。


「考えたわね。今日みたいな悪天候の日なら、ここに来る人はほぼいない。しかもここにいるとバレたとしても、大雪のせいであなたにまで辿り着くのにも時間がかかる。隠れるには打って付けってところかしら?」


 普通の人間ならば、ここにいるネクロマンサー種レイパーに辿り着けもしなかっただろう。


 だが、ミカエルは炎の魔法が使える。雪が積もっていようとも、溶かしてしまえば関係がない。


 それを踏まえても、レイパーは驚いていた。まさか自分が見つかるなんて、露程も思っていなかったから。ミカエルの今の言葉は最もだが、それにしたって、他にも自分がいそうな場所なんて山ほどあるはずだ。


 驚いた様子を微かに滲ませるレイパーに、ミカエルは軽く鼻を鳴らす。


「知らない訳がないでしょうから白状するけど……魔法を使えば、目には見えなくとも、必ず痕跡が残るわ。余程優れた魔法使いでなければ分からないものだけど、ね」


 普通なら、流石のミカエルと言えども、その痕跡は分からない。……が、しかし、ここは日本。一般に魔法が使われることのない土地だ。こういう場所では、異世界の地よりも遥かに、魔法の痕跡は目立つ。聡い魔法使いなら分かる程度には。……つまり、ミカエルにも辿れるのだ。


 この亡霊レイパーの騒ぎが発生した時、ミカエルはすぐに、ネクロマンサー種レイパーの仕業では無いかと考えた。そしてもしそうなら、亡霊を魔法で操っているとも思った。


 そこで、ミカエルはまず、警察署の中から辺り一帯に魔力を張り巡らせ、今言った『魔法の痕跡』を探し……亡霊を操っている魔法の源が、この鳥屋野潟の辺りにあることを突き止めたのだ。


 後は実際にここに赴き、正確な場所を特定したという訳である。……最も、少し時間は掛かってしまったが。


 惜しむらくは、市内の混乱への対処に人員を割かなくてはならないせいで、ここに来られたのがミカエルだけということくらいか。


 レイパー相手にタイマンというのは、正直無謀と言ってよい。不安はあるが……ミカエルは、その気持ちをおくびにも出さず、その手に持ったアーツ……節くれだった白い杖、『限界無き夢』を敵に向ける。先端に付いた赤い宝石が、電灯を受けてギラリと光った。


 瞬間、ネクロマンサー種レイパーは自らの杖を振り、自らの足元に魔法陣を呼び出す。


 転移の魔法だ。


 ここでミカエルと交戦するつもりは、ネクロマンサー種レイパーには無い。襲いたい気持ちは山々だが、レイパーの今の目的は、別のところにあるのだ。


 だが――


「ッ?」


 足元に展開したはずの魔法陣から、炎が噴き出し、直後に消えてしまう。


 驚くレイパーを見て、僅かに口角を上げるミカエル。


「残念。その転移魔法の構造は既に把握している。私個人なら、いくらでも対処可能よ。――逃がすつもりはないから、観念しなさい」


「……ワモアル。ラコリタワルトラヤト、ジメイゴマタニジマアヘニケノモッノ。ネンルザワレ」


 不敵な笑みを零し、レイパーはT字の杖をミカエルへと向けた。


 瞬間、湧き上がって来る、禍々しい魔力。普通の人間なら、それだけで足が竦んでしまうような迫力があった。


 だが、ミカエルとて負けてはいない。限界無き夢を持つ手に力を込め、そして口を開く。


「あなた、転移魔法で逃げることが出来るのよね? その対策なんて色々考えたけれど……一番良い方法なんて、最初から分かり切っていたわ」


 刹那、警戒を強めるネクロマンサー種レイパー。


 ――ミカエルの全身から、レイパーに負けない程、夥しい量の魔力が溢れてきたから。




「私がここであなたを倒してしまえば、それで全部解決よ」

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