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第412話『供与』

 そして、皆で協力してリビングを――ついでに他の部屋も結構散らかっていたため、そこも――片付け、夕飯。


 テーブルの上には、色んな料理がすし詰めになっている。雅とレーゼ、優、ライナの四人で作ったのだが、少し張り切り過ぎてしまったようだ。


 こんなに料理を作った理由は――


「えー、それでは久しぶりの再会と、セリスティアさんの免許取得、志愛ちゃんと真衣華ちゃんが滅茶苦茶強くなったことのお祝い兼、作戦会議を始めます!」

「なっが。もっと短く纏めなさいよ」

「無茶言わないでくださいよさがみん」


 折角だからと、色んなこともお祝いしようなんて考えた結果が、これである。


『むぅ、何だか楽しそうだな。そっちに行けないのが少し残念だ』

『そうねぇ。ちょっとズルいじゃない』


 リビングには、この場にいない人物の立体映像が二つ。三つ編みの女子高生で、今はオートザギア魔法学院に留学中の篠田愛理と、警察署にいる金髪ロングの研究者、ミカエル・アストラムである。


「あはは……まぁ、ノルンちゃんやシャロンさんもいませんし、後日皆で集まって、改めてちゃんとパーティしましょうか。えー、では、乾杯!」


 本当はノルンもシャロンも呼びたかったが、二人ともULフォンを持っていない都合上、致し方ない。


 雅がグラスを掲げると、皆も後に続き、グラス同士がぶつかるカチャンという音が鳴り響く。


「いやー、なんか悪いねー。何で変身出来たのか、そのメカニズムとかは全然分かんないんだけどさー」

「送られてきた動画、私も見たよ、マイカお姉ちゃん。ビックリした!」

「ニンジャって言うんだっけ? ちょっとカッコよかったかも」


 真衣華がケラケラと笑えば、ラティアとファムが手放しで褒め、


「セリスティアも、何とか筆記試験突破出来たんだって? ユウ達から聞いたわ」

「はっはっは! ……いや、まぁ本免許取得の時も、筆記試験あるみてーなんだけどな……はは」

『ま、まぁそんなに遠い目をしないでください、ファルトさん。一度受かったんですから、次だって何とかなりますよ』


 その側では、試験がまだあることにげんなりとするセリスティアを、レーゼと愛理が苦笑いで見つめる。


『シアちゃんの変身、もう自在に操れるのよね? どういう仕組みになっているのかしら? 何か変わったこととか、本当に無い?』

「ムー……それガ、あまり思い当たる節が無くテ……」

「てか私、実物を見たこと無いんだよね。後で変身してみせてよ」

「そうですわ。(わたくし)だって気になりますもの。真衣華と権さんが変身出来たのなら、(わたくし)だって可能性はありますわよね?」


 志愛の変身について、ミカエルと優、希羅々が興味を示す。


 そんな様子を、雅は椅子に座り、ペグを膝の上に乗せ、微笑ましく見つめていた。


「ミヤビさん。どうしたんですか?」

「あぁ、ライナさん。……いえ、なんか久しぶりだなって。こういうの」

「あー……そうですよね。最後に皆でわいわいやったの、ファムちゃん達が学校に戻る前でしたっけ?」

「真衣華ちゃん達の誕生日とかクリスマスの日とかで、ちょくちょくパーティはしてたんですけど、こう……なんか凄く仲良しな人達を大勢呼んでっていうの、何となく特別感があるっていうか……」

「私もなんか、楽しいです。……ミヤビさんとも、こうして久しぶりにちゃんと顔を合わせましたし」


 そう言ってクスリと笑みを浮かべるライナ。


 すると、


【……あー、ミヤビ? 私ってこういう時、どうしていればいい?】

(おおっ? カレンさんっ? いや……どうって言うのは……?)


 雅の中に存在する、カレン・メリアリカ。彼女が、どこか気まずそうにそう尋ねてきた。


【いやさ、こういう二人だけの会話っていうか、雰囲気っていうの? それ、私が聞いているのってなんだか悪いっていうか……。でも、耳を塞ぐことが出来るわけじゃないし……】

(……ま、まぁ、私は気にしませんが……)

【いや、ライナが気にするでしょ? 今は多分、私が中にいることを忘れている感じもするけど、気が付いたら嫌な気持ちにならない? ライナだけじゃなくて、レーゼさんとかユウ達だって】

(……そこら辺、どうするか、おいおい考えましょう)

「……ミヤビさん? どうしました?」

「……いえ、何でも。――あぁ、そうだ! えっと、ご飯食べて眠くなっちゃう前に、やることやっちゃいましょう! 作戦会議です!」

「あぁ、そうよ! なんか雰囲気に流されちゃったけど、先にそれをすべきじゃない。――ミカエル、あのネクロマンサーみたいなレイパーについて、色々分かったんでしょう?」


 レーゼが真面目な声を上げると、急に今までの緩んだ雰囲気が引き締まる。ミカエルも『いけない、そうだったわ』と自分を小突くと、一つ咳払いをしてから改めて口を開く。


『ユウカさんやユウイチさん達にはもう伝えたんだけど、今のレーゼちゃんの話通り、奴の狙いが分かったの』


 雅と愛理がキャピタリークで発見し、先日新潟で真衣華と希羅々の前に姿を見せた、ネクロマンサー種レイパー。


 何を目的として行動しているのかが不明だったが、それがやっと分かったと、ミカエルは言う。


『その理由は、レイパーを輪廻転生させる存在……あの巨大なレイパー、そして亡霊レイパーに関わってくるわ。まず、ここでおさらいよ』


 そう言って、ミカエルは束音家のリビングの上に、大きなウィンドウを出現させる。


 そこには、このように書かれていた。




『・レイパーは倒されても、ラージ級ランド種レイパーの能力で、輪廻転生して復活出来る』

『・レイパーを輪廻転生させるには、死んだレイパーの魂が必要』

『・その魂は今まで、鬼灯淡に憑りついていた四枚のお面が回収していた』

『・しかし、その四枚のお面はもうない』

『・故に、回収されなかった魂が、亡霊レイパーという形になって最近出現するようになった』




『……さて、ここまでが、今までに分かっていたこと。それじゃあ、ここからが本題。今まではお面が集めていた魂だけど、お面が無くなったからと言って、レイパーも何もしなかったわけじゃないわ』

『まぁ、輪廻転生ってのが出来なくなったら、奴らも困りますしね』

『そう。そこで出てくるのが、あのネクロマンサーみたいなレイパーよ。あいつは今、お面の代わりをしているの。倒されたレイパーの魂を回収し、届けていたのよ。先日、やっとその決定的瞬間を見つけたわ』


 そう言って、ミカエルは別のウィンドウを出して、そこに動画を再生する。


 そこには、たくさんの亡霊レイパーを従えたネクロマンサー種レイパーが、浜辺で、ラージ級ランド種レイパーへと、亡霊レイパーを送っているものだった。


 驚きの声を上げる、雅達。


 ネクロマンサー種レイパーは相当慎重に行動しており、こういった防犯カメラには映らないように工夫をしていたようなのだが、ここの防犯カメラは見逃していたのだろう。警察の地道な捜査により、ようやく見つかった貴重な映像だった。


「そうか……じゃあキャピタリークで奴を見つけた時、周りにたくさんの亡霊レイパーがいたのは……」

『魂を回収していたんでしょうね。ただ、お面のように、レイパーの魂を体内に吸収しているわけじゃなさそう。亡霊レイパーを操っているような様子もあったから、上手く誘導して、人目に付かないところに隠していたのかも』

「……もしかして、先日(わたくし)と真衣華の前に姿を見せたのは……」

『二人が倒したレイパーの魂を回収しに来たのでしょうね。二人を襲わなかったのは、回収作業の方を優先したからなのかも』


 最も、様子を見るに、どうやら回収には失敗したようだけどとミカエルは続ける。


『ネクロマンサーみたいなレイパーは、昔のガルティカ遺跡で、レイパーの輪廻転生の現場に立ち会っていた。となると、奴は相当に重要なポジションにいる可能性が高いわ。そいつが、わざわざ自分の足で歩いて回って、魂を回収しているのなら……』

「レイパーの魂を回収出来る能力というのは、奴らにとっても稀な力なのかしら? なら、そういったことが出来るレイパーは殆どいないはず。奴が現状、唯一の魂の供給者という可能性は充分にありうる?」


 レーゼの言葉に、ミカエルはコクンと頷く。


「て、ってことはさ。あいつを倒せば、レイパーの輪廻転生は止められる?」


 少し興奮気味にそう言ったファムだが、ミカエルは力なく首を横に振る。


『止められる……とは違うわね。根本的な解決では無いし。奴らも魂の供給者がいなくなれば、新たに何か手段を考えるはずよ。それまでの間は阻止出来る……言ってしまえば、遅延させられるってところかしら』

「あー……そっか」

『だけど、奴を倒さないといけないことには変わりがないわ。ここからは私やユウカさん、他の人達の予想なんだけど……もしかすると最近になって亡霊レイパーがたくさん出てくるようになったのは、こいつにも理由があるからなのかもしれないの』

「どういうことですか?」

『さっきも言ったように、こいつ自身に、レイパーの魂を吸収する能力は無い。じゃあどうやって魂を供給するか……その結果が、亡霊レイパーという形にすることだったのかもしれないの』

「……成程。魂のままでは回収が出来ないから、亡霊レイパーという形へと変換して操り、送り届けていたというわけですわね」

「ん? じゃあよ、あのネクロマンサーみたいなレイパーを倒せば、亡霊レイパーも出なくなるのか?」


 セリスティアの疑問に、ミカエルは『かもしれないわ』と答える。


「まぁ、その予想が当たっているか外れているのか、どっちにしてもレイパーである以上、倒すことには変わりないですよね?」

『ええ、そうよ。それで、奴の転移魔法の対策なんだけど、装置の開発自体は上手くいったわ。でも、実は困ったことがあって……部品がちょっと、ね。本当は装置の開発さえ上手くいけば、今日、量産出来る予定だったんだけど……』

「あー……この雪ですからね……」

【交通機関、鈍るのも無理はないよね。急に降ってきたみたいだし……】


 未ださんさんと降り注ぎ、庭に積もる雪を見て、眉を顰める一同。


 事前にミカエルと優香がよく構想を練っており、準備も入念に行っていたため、ミカエルが警察署に入ってものの一時間程で、実践に耐えうるものが出来たまでは良かった。だが、流石に天候の悪化は、どうにもならなかったのである。


『何とか色んなところに協力してもらったんだけど、一部どうしても用意出来なかった部品があって……皆の元に届けるのは、明日の午後になりそうね。現状、今あるのは試作品の一個だけよ』

「まぁでも、明日で充分ではありませんの? 流石に明日の午後までに、奴が姿を見せるなんて確率的に早々ありませんし」


 と、希羅々が楽観的な思考を口にした、その時だ。


「……ン? 何か外が騒がしくないカ?」

「……そう言えば、何となく寒くない? 暖房は付いているよね?」


 志愛と優が、互いに顔を見合わせてそんなことを言う。


「……ミヤビ。この寒さ……」

「ええ。……なんか嫌な予感が……」

「少し見てくル」


 志愛がそう言って、険しい顔で外に出る。


 だが、数秒後――




「ヤバイ! いるゾ! ――亡霊レイパーガ! それもたくさン!」




 志愛のSOSの声に、一行は血相を変えてリビングを飛び出すのだった。

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