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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第46章 新潟市中央区柳島町
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第410話『禁句』

 午後一時五分。万代病院。


 テラー種レイパーを倒した後、真衣華と希羅々は再び、この病院で検査を受けていた。よもや一日に二度も同じ患者が来るとは病院側も思っておらず、受付の事務員の方は大層驚いていた。


「……全く、優一さんには叱られるわ、面倒な検査は受けねばならないわ、今日は散々ですわ」

「優一さんに怒られたのは、希羅々の自業自得じゃん。……散々な日だったけどさ、まだ午後が残ってるんだよね? うわー、憂鬱」

「流石に授業受ける気になりませんわね。……ところで真衣華、体は大丈夫ですの?」

「うーん……特に変なところはないし、多分大丈夫じゃない? ――それよりさ、これ見てよ」


 興奮気味にそう言って真衣華が見せてくるのは、先程の戦闘の動画だ。


 万が一敵を逃がしたり、敗走してしまった時用に、レイパーとの戦闘中は常に動画撮影の機能がONになっている。


 上から見下ろすようなアングルの映像の中、忍者装束スタイルの真衣華が、影から影へと自在に動き回り、次々とテラー種レイパーに『フォートラクス・ヴァーミリア』で斬りつけていた。


「やっば。自分で見て言うのも難だけど、ちょっと惚れ惚れするかも……。これ、カッコよ過ぎない?」

「何をナルシストみたいなことを……。しかし、真衣華に先を越されてしまいましたわね。ちょっと悔しいかもしれませんわ」


 言いながら、希羅々はどこか誤魔化すようにそう言って映像から目を逸らす。


 ……希羅々も不覚にも、映像の中の真衣華が、ちょっと格好良いと思ってしまったのだ。


(やれやれ……。忍者の格好、ですか……。使っている武器がフォートラクス・ヴァーミリアではなく『影喰写』なら、もっとそれらしくなっていましたが……)


 そう思いながら、こっそりと真衣華の横顔を見る。


 多分、本人も同じことを思っているだろう。口ではあんなことを言っているが、内心は少し複雑なのでは……と、ヒヤヒヤとしてしまう。


「いやー、戦っている時は違和感無かったけど、こうして映像で見ると、流石に忍者が大きな斧を持っているのは不思議だよね。影喰写なら、もうちょっとスマートな感じだったのかな?」

「っ?」

「ん? どうしたの希羅々?」

「い、いえ、何でも……」


 まさか自分からそれを言ってくるとは……希羅々は心臓が跳ねあがるのを抑えるのが、やっとだ。


(……案外、もう心配もいらない……のかもしれませんわね)


 どこか禁句扱いだった『影喰写』。


 そうでなくなる日も、遠く無い気がした。


「いやー、でも凄いなー。もう一回見よ」

「……あ、そう言えば(わたくし)も、動画で記録撮っているはずですわ。それも見ませんこと?」

「見る!」


 待合室で、そんな話をしている真衣華と希羅々。


 若干のギクシャク感は残っているものの、その光景は、概ねいつもの二人のものだ。


「……あの子達、なんか普通に仲直りしてますね。ちょっと時間が掛かるかと思っていたけど、良かったわ」

「それにしても、何があったのかしらね? こうもあっさりと仲直りされると、逆に不安よ」


 そんな彼女達を遠巻きに眺めながら、照と春菜は首を傾げる。無事に仲直りしたのなら安心なのだが、肩透かしされた気さえしてしまう。


 それでも、ホッと胸を撫で下ろしている二人。


 やはり幼馴染は、仲良しが一番だ。




 ***




 一方、その近くには、優一と優香もいた。優香のULフォンは起動しており、通話中のアイコンが出ている。


「……まさか、今日優香と話をしたばかりなのに、真衣華君が『変身』するとはな。これで四人目……ううむ」

「何かあるのは間違いない、けど……何があるのかしら?」

『せめて何か共通点があればいいんですが……』


 優香のULフォンから聞こえてくるのは、ミカエルの声。


 テラー種レイパーとの交戦中に真衣華の姿が変わったため、連絡を入れておいたのだ。戦闘中の動画等も、既にミカエルに送ってある。


『変身の前後で何をした、とか、こんな心境の変化があった、とか、同じ感じの何かがあるなら何でもいいんです。ただ、そういうのが何もない、となると……』

「お手上げよねぇ……」

『マイカちゃんは、特に具合とかは悪くなっていませんか? 今のところ、シアちゃんは特に異常が無いみたいなんですが……』

「検査結果待ちだが、我々が見る限り、至って普通だ。やはり前に優香が言っていた通り、特に変身することによるデメリット等はないのかもしれない。あぁ、そうだ、ミカエルさんにもう一つ連絡を入れた件ですが……」

『ええ、ネクロマンサーのレイパーが、そちらにいた件ですよね』


 一難去って、また一難。頭を抱える問題は、他にもある。


「キャピタリークにいたはずのレイパーが、日本に来ているなんてね。あなた、追跡の方はどうなの?」

「いや、冴場君達が探しているが、まだ影も見つかっていない。もう少ししたら、私も捜索隊に加わろうと思っている」

『少し予定より早いですが、私達もニイガタに向かいます。今から準備するとなると、到着は明後日頃になりそうですね。ユウカさんに話した前の件次第ではあるのですが……』


 ミカエルの言葉に、優香は少し困った顔で「んー……」と唸る。


 ネクロマンサー種レイパーは、転移の魔法が使える。ピンチになれば、瞬間移動して逃げられてしまうのだ。以前奴と戦った雅が、「これは何とかしないと倒せない」と、転移魔法対策をミカエルに相談していた。


 ミカエルがネクロマンサー種レイパーの魔法を動画で見た限り、魔法使いなら対策自体は難しくないと分かった。だが、魔法が使えない雅達でも対策しようとなると、もうひと段階工夫が必要で、それをミカエルは優香に相談していたのである。


 最も、二人の間で大まかな構想は出来ている。後は実際に色々試験してみたりすれば良さそうなのだが……


「頼んでいる部品が、届くまでに少し時間がかかりそうなのよ。でも、何とか間に合わせてみせるわ」

『ありがとうございます。それでは、到着時間とかはっきり分かったら、また連絡しますね』


 そう言って、ミカエルは通話を切る。


 グッと、伸びをする優香。


 これから、忙しくなりそうだった。

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