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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第46章 新潟市中央区柳島町
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第407話『苛立』

今年最後の投稿です!

来年もよろしくお願い致します!

 午前十一時四十二分。


 新潟市中央区柳島(やなぎしま)町。やすらぎ堤から信濃川沿いに北上したこの地域の、とある物陰。


 やや見通しの悪い通りの、塀から伸びる影が揺らめいた。


 そこから浮上するように現れ出でたるは、全身金色の、人型の化け物。おどろおどろしい金色の鈍い光を煌めかせ、不気味な刺青を施し、蛇だかトカゲだか分からぬような頭部と、昆虫のような細い足をしたそいつは――真衣華と希羅々を苦しめた『テラー種レイパー』である。


 このレイパーは一度逃走した後、西堀通(にしぼりどおり)を経由して古町(ふるまち)西湊(にしみなと)(まち)を過ぎ、この辺りまで来たのである。その間に、お得意の魔術で二人の女性を殺害。次なる得物を探している最中であった。


 視線の先には、老人ホーム。入口の辺りに介護士の女性がおり、それを見たレイパーがニヤリと口角を上げる。


 次なるターゲットを定めたレイパーが、動き出そうとした――その時。


「――ッ!」


 背後から鋭い殺気を感じ、思わずその場を跳び退く。


 刹那、今までレイパーがいた場所を、鋭い音とともに刃が突き抜けた。そして共に舞う、ふわりとした茶髪のロングヘアー。


 レイパーを後ろから突き殺しにきたその人物は……桔梗院希羅々である。


 その手に握られているのは、金色のレイピア。『シュヴァリカ・フルーレ』だ。


 奇襲が躱されたものの、希羅々の瞳に焦りやブレはない。


 即座に左手に嵌めた指輪が光を放ち、『アーツ・トランサー』が起動。右手に握られたレイピアが一瞬で左手に移動し、すぐさま回転斬り放つ。


 あまりにも一瞬の行動の変化、そして攻撃。流石のレイパーも仰け反るという回避行動を取ることが精一杯だ。


「ちぃっ!」


 レイピアの切っ先は、僅かにレイパーの肌を擦っただけ。期待していた手応えが無かったことに、今回は希羅々も舌打ちを鳴らした。


 レイパーは刃が掠ったところを手で押さえながら、「何故ここにお前がいるのか」と言うような視線を希羅々に向ける。


 移動の際は、今日はあれからずっと、影から影へと移動する能力を用いていた。表に出ていたのは、獲物を殺すときだけだ。


 そんなレイパーの視線の意味に気が付いた希羅々は、鼻を鳴らして口を開く。


「最近、状況が悪くなると逃げ出すレイパーが多くて……少し、対策を取らせて頂きましたわ。特に影に潜って移動するあなたのような臆病者には、良い方法でしたわね」


 小型のGPS発信機。シールで貼り付けられるようになっている、ボタンくらいのサイズのそれを、先の戦闘で希羅々はレイパーに貼り付けていた。それを頼りに、ここまでやって来たのである。


 影から影へと移動する能力を使っていても、GPSがきちんと電波を発信していたのは、レイパーにとっても完全に予想外のことであった。


「最も、追いつくには少し時間が掛かりましたが。これは次回の課題かしら」


 言いながら、希羅々は老人ホームへと視線を向ける。レイパーの行く手にこの施設があることに気が付けたため、もしやと思って先回りしたのだ。それがドンピシャで当たったというわけである。


 最も……当たったことは嬉しいと思う反面、別の感情も湧き上がるのだが。


「それにしても、老人ホームですか……。長生きしている方なら、あなたの大好きな『トラウマ』を抱えている方に会える確率も上がりましょう。それとも、介護士の方が狙いかしら? 反吐が出るような考えですこと」


 言いながら、シュヴァリカ・フルーレの刀身を撫でる希羅々。


 彼女の言葉の端々からは、言いようのない重苦しい圧が発せられているよう。


 レイパーは思う。この女は、ここで殺さねば、何時までもずっと追いかけてくると。


 このレイパーにとって、希羅々は獲物にはならない。レイパーの魔法は、相手のトラウマを強制的に呼び起こさせ、当時の恐怖や苦痛を何倍にもして再現するだけでなく、このレイパー自身にも、対象の記憶や感情を味わえる。それが、レイパーにとって何よりも楽しいことなのだ。そういったトラウマがない希羅々は、テラー種レイパーにとっては何も面白味がないのである。


 しかしレイパーは、ここは戦うべきだと判断した。自分の楽しみを続けるために、邪魔になる存在を消さねばならないから。


 レイパーの影から湧き出るように出現する、黒い杖。蝙蝠の頭の彫刻と、青い宝石が付いたその杖を、レイパーは希羅々へと向ける。同時に、辺りを警戒することも忘れない。


 だが、


「あぁ、ご安心を。今は(わたくし)だけですの。他に援軍はいませんわ」


 希羅々はそう言い放ち、静かに腰を低くする。


 この言葉に、嘘は無い。希羅々は、誰にも知らせずにここに来た。伝えればきっと、自分を止めようとしてくると思ったから。


 合理的に考えれば、自分の行いが愚策であるというのは百も承知だ。優一や伊織達警察、そうでなくとも優やセリスティアには伝えておくべきことだろう。


 仲間達に、このレイパーのトラウマ攻撃の餌食になって欲しくなかったからというのも、無論理由としてはある。


 が、しかし、


「さぁ……邪魔はいませんわ。存分に殺りあいましょう。あぁ、そうそう……」


 希羅々にこれをさせた一番の理由は、別にあった。


「悪いですけど、今、(わたくし)――」


 シュヴァリカ・フルーレを握る手に、鈍い音がする程の力が籠る。


「無性に機嫌が悪いんですの。ここできっちり殺してあげますから、覚悟なさい」


 直後、希羅々は地面を蹴ってレイパーへと突っ込んでいく。


 その眼は、復讐に燃えた殺人鬼のような色を帯びていた。

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今後の展開がどうなるのか。ますます見逃せなくなりました! こちらは新作投稿しました。是非見てください!
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