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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第46章 新潟市中央区柳島町
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第404話『水溺』

 午前九時三十分。ここは、新潟万代病院。


 レイパーとの戦いが終わった後、体の診察と怪我の治療のために、希羅々と真衣華はここに運ばれていた。伊織が救急車を呼んでくれたのだ。


 そしてここは、そんな病院の通路。その壁に、希羅々は寄りかかっている。頭にはガーゼ、腕には包帯を巻いている有様だ。とは言え、見た目は重症のように見えるが、実際はそこまで酷い怪我では無い。希羅々的には、医者や看護師が大袈裟に騒ぎ過ぎだと思っているくらいである。


 レイパーの魔法の影響をモロに受けた真衣華は診察が続いているが、希羅々はすぐに処置も終わり、そして……


「それで、どうでしたか?」

『ああ。希羅々君の想像通りだった。調べてみたら、あの被害女性も、トラウマを抱えていたらしい。昔、プールで溺れかけたことがあったそうだ』


 希羅々は、相模原優一と通話していた。


 レイパーの情報……特に、真衣華の身に起きたことを中心に、警察官の彼に情報提供していた希羅々。その際、調べてみて欲しいと頼んだことが一つあった。


 真衣華がそうだったように、今朝見つかった被害者も、何か大きなトラウマがあるかどうか、についてである。


 その調査結果を、現在優一から聞かされていた。


「プールで溺れかけた?」

『うむ。生死の境を彷徨った程だったと、被害者のご家族が仰っていた。それ以来、海やプールといった水辺には、なるべく近寄らないようにしていたそうだ。被害女性は死ぬ直前、自分で自分の首を掴んでいた。恐らく、溺れている時の記憶を呼び起こされてパニックになったのだろう』

「自分で自分の呼吸を止めて窒息、というわけですか……」

『ミカエルさんに調べてもらったところ、あの光は、見た者の恐怖の記憶を引き起こす作用があるようだ。最も、トラウマになる程の記憶でなければ、真衣華君達のようにはならないみたいだが……』

「成程、(わたくし)に効果が無かったのは、やはりそのせいですのね。(わたくし)には、真衣華が持っている程の嫌な記憶はありませんし。それにしても、恐怖の記憶……」


 言われてみれば、あのレイパーはどことなく異様な姿をしていた。何となく、見ているだけでSAN値が減っていくような、そんな不気味さがあったのだ。


 分類は、敢えて付けるのなら『テラー種』といったところか。


『取り敢えず、現在奴を捜索中だ。まだ見つかってはいないが……とにかく君達は、なるべく安静にしているように。間違ってもリベンジしようなんて考えないこと。いいかね?』

「善処いたしますわ。情報提供、ありがとうございます」


 優一の忠告を聞き流しながら適当に返事をして、希羅々は通話を切る。


(……真衣華、遅いですわね)


 ここで治療を受け始めてから、随分と時間が掛かっている気がする希羅々。レイパーに怪しい魔法を掛けられたとは言え、そろそろ検査も終わっていていいはずだ。


(……何かあったのかしら?)


 嫌な予感が頭を過ぎて、希羅々は真衣華が治療を受けていた部屋へと向かうのだった。




 ***




 九時四十九分。


 病院に駆け込んでくる、四人の大人達の姿があった。


 光輝に照、蓮に春菜……希羅々の両親と、真衣華の両親だ。


 希羅々と真衣華がレイパーに襲われたと優一から連絡が入り、慌てて飛んできたのである。二人とも生きているということは聞いているが、病院にいるからか電話を掛けても出ないということもあり、本当に無事なのか気が気ではない。


「すみません、こちらにうちの娘達……桔梗院希羅々と、橘真衣華が運ばれたと聞いたのですが」

「しょ、少々お待ちください」


 大勢の大人が息を切らしてやって来たからか、受付の人も目を丸くしていた。


 口にはしないが、光輝達からはどこか急かすような雰囲気も醸し出している。少し身が竦んでしまいそうな迫力があった。


 希羅々は治療が終わったが、まだ真衣華は終わっていないということを聞かされた四人は、足早に治療室の方へと向かったのだが、




「なら、もう勝手になさいっ!」




 その場の誰もが体をビクンと震わせる程の声が、大きく響く。


 とても聞き覚えのある声に、光輝達は表情を強張らせ、声のした方に向かう。


 廊下の角を曲がると――案の定、そこには希羅々がいた。


「き、希羅々っ! 何が――」

「どいてくださいましっ!」


 声を掛けた光輝を突き飛ばし、希羅々は肩を怒らせ、早足で去っていく。


「ちょっと希羅々! どうし――」

「煩いですわっ!」


 小さくなっていく背中に、照が声を掛けても、希羅々は怒鳴り返すだけで後ろを振り返ることなく、そのまま病院を出て行ってしまう。


 何事かと、他の患者さんや看護師、医者の人もこちらに集まってくる始末だ。


「き、希羅々ちゃん、どうしたんでしょう? あんな声出すなんて……」

「真衣華ちゃんと何かあったのかしら? 私、ちょっと行ってくるわ。あなたは事情を聞いておいて頂戴」

「わ、分かった」

「真衣華、入るぞ?」


 照が希羅々を追いかけ、他の三人は治療室へと入る。


 そこには、ベッドに腰掛けたままの真衣華と、治療を担当していた看護師が一人。看護師は、ひどく困ったような顔で、助けを求めるように、入ってきた光輝達を見た。


 真衣華は入ってきた三人を見ることもなく、ただジッと、床を見つめて唇を噛んでいる。


「お、おーい? 真衣華……?」


 蓮がおずおずと声を掛けるが、反応は無い。


 誰もがどうしてよいか分からなくなっていた中……しばらくして、真衣華はゆっくりと口を開く。


 そして、


「……希羅々と喧嘩になった」


 ボソリと、そう呟くのだった。

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