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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第45章 新潟市南区~中央区
525/669

季節イベント『聖夜』

 二二二一年、十二月二十四日月曜日。


 言わずと知れた、クリスマスイブの日。その午後三時十八分、束音家では。


「いやー、お疲れさまでした!」

「いえ、こっちも楽しかった。ありがとう」


 リビングの椅子の背もたれに思いっきり体重をかけながら、吐き出すようにそんな言葉を交わす、雅とレーゼ。


 リボンで綺麗に飾り付けられた室内。


 テーブルの上には、たくさんの皿。


 窓際に設置されたクリスマスツリーのてっぺんに付いた星がキラキラと光っており、外で延々と降り続ける雪を、やんわりと照らしている。


 毎年クリスマスイブの昼間には、束音家に子供達を集めてパーティをするのだ。始まりは無論、祖母、(うらら)であり、それを雅もずっと続けているというわけである。


 少し前までは優や志愛達も来ていたのだが、子供達を家まで送ったりなんだったりで、今、束音家には雅とレーゼ、あとラティアだけである。


「アランベルグにはクリスマスなんて行事は無いから、新鮮だったわね」

「また来年もやりましょうね。それにしても今年は料理の量、割と丁度良くて良かったです。毎年多すぎたり少なすぎたりするんですよね」

「人数を見たら、どれくらいの量が必要か分かるようになっていて良かった。『BasKafe』でのアルバイト経験が生きるなんてね。買い出しに奔走してくれたセリスティア達には感謝よ。……それにしても忙しかったわ」


 やったことは、出来あいの料理を皿に盛りつけて提供し、子供達とレクリレーションするだけ。……なのだが、これが意外にも体力を使った。


「子供の食欲って、多いだけじゃなくて早いのね。手分けしたつもりだったけど、それでも目が回りそうだった」


 入れ替わり立ち代わり子供達が来て、大騒ぎだったのだ。案内を出したのは近所だけだったはずなのだが、あれは絶対、町内に留まらない数だったとレーゼは思う。


「あぁそうだ。片付けを始める前に、一個聞きたいんだけど……」

「……?」


 不意に、レーゼの声が少し真面目なトーンになり、雅は眉を寄せて身を乗り出す。


「ねぇミヤビ。『さんたくろーす』って何? 子供達がそんな話を聞かせてくれて、意味はよく分からなかったんだけど、なんだか不穏な話で……」

「ふ、不穏、ですか?」

「だって、知らない人がいきなり家に押し入って、勝手にプレゼントを置いていくんでしょう? 完全に不審者じゃない」


 言われてみると確かにその通りな言い草に、思わず苦笑いを浮かべる雅。


 とは言え、一応レーゼが思っているような人ではないのだと、その正体も含めて説明しようと口を開くも、レーゼはまだ止まらない。


「『サンタクロース』なんていう名前も、なんだか怪しいわ。本当は『サタンクロス』で、それが変化して今の名前になったと言われればしっくりくるかも……」

「あ、あの、レーゼさん?」

「『サタン』……悪魔。『クロス』は交差。……悪魔が交差する、なんだか嫌な響きね。悪いことが起こりそう」

「す、ストップですレーゼさん。一旦落ち着きましょう。サンタクロースというのはですね――」


 サンタクロースの認識がとんでもなく明後日の方向に向かいだしたレーゼ。流石にこれはマズいと、雅はレーゼにサンタクロースの説明を始める。


 最初は眉を顰めて聞いていたレーゼだが、その正体がお父さんやお母さんであると聞かされると、


「……ふぅん。まぁ、そういう行事なら納得は出来るかしら。子供を騙すのは、何か引っかかるけれど」


 まだ少し疑いの色は残しているものの、そう呟いて控えめに頷いてくれる。


 すると、


「あれ? ミヤビお姉ちゃんにレーゼお姉ちゃん、どうしたの?」


 家の奥から、美しい白髪をした少女がリビングに入ってきて小首を傾げる。ラティア・ゴルドウェイブだ。パーティの片付けを始めようとこっちに来たのである。


「あぁ、ごめんなさいラティアちゃん。レーゼさんに、サンタクロースの話をしていたんです」

「サンタの話? ……あ、そうだ。私も変な話を聞いたんだけど……ミヤビお姉ちゃん、『シチクヤマのサンタクロース』って何か知ってる?」

「『シチクヤマのサタンクロス』? サタンクロスって、一人ではないの?」

「さ、サタンクロス?」

「レーゼさん、そろそろ『サタンクロス』は忘れましょう。サンタクロースです。ラティアちゃんが間違って覚えたらどうするんですか。いや、それより『紫竹山のサンタクロース』ですか。……んー」

「皆が言うには、毎年クリスマスになると、お願いしていたプレゼントとは別に、謎のプレゼントが枕元に置かれてるって。お菓子のちっちゃな詰め合わせらしいけど、お父さんやお母さんに聞いても、知らないって言われるみたいで。……皆は喜んでいるみたいなんだけど、流石に不気味と言うか……」


 サンタクロースの正体やら真実は、実はラティアも知識として持っている。


 だが、この『紫竹山のサンタクロース』にまつわる話は、それこそ先程レーゼが言った『不審者』そのものだ。


 故に、吊り上がる。レーゼの眉が。


「ねえミヤビ。さっきの説明、本当に正しいの? 実はあなた達、サタンクロスに騙されてそう思わされているんじゃ……」

「違います違います! ええっと、いや、紫竹山のサンタクロースも悪い人じゃないんですよ。ただ、説明が難しいというか……」

「あ、ミヤビお姉ちゃん、何か知っているの?」

「あぁ、まぁ、それはそのぉ……なんというか……んー……」

「何よミヤビ。随分と歯切れが悪いわね。……何を隠しているの?」


 ギロリと光る、レーゼの眼。彼女の目は、雅が女絡みでだらしないことをした際に咎める時のそれに酷似しており、雅のこめかみを、ツーっと冷たい汗が流れ落ちる。


「あぁっ! そうだお片付け! ささっ、二人とも、ちゃちゃっとパーティの片付けをしちゃいましょう! ほら、さがみん達が帰ってきたら怒られますよ!」


 そう言って、雅はテーブルに置かれた皿を持って、キッチンへと向かってしまう。


「……逃げたわね」

「うん、逃げた」


 そんな雅の背中をジト目で見ながら、二人はそう呟くのだった。




 ***




 そして、その夜。


 時刻は、真夜中の零時に差し掛かった頃。


「ふんふんふふふふーん」


 雅は部屋で、上機嫌に鼻歌を歌っていた。


 その装いは、赤い服にスカート、そして白い付け髭。そして床には、何やら白い大袋がある。


 そう、トナカイがいない他は、完全にミニスカサンタの格好だ。


「さて、今年も頑張りますか。……『紫竹山のサンタクロース』」


 子供達が話していた奇妙なサンタとは、雅のことだったのである。子供達に内緒で、お菓子を置きにいくのだ。勿論、ご両親の許可はとってある。


 これも、この町内のクリスマスイベントの一つ。


 ただこれは、雅が始めたものである。麗から続いている伝統の行事に、雅が新しく追加したものだった。


 伝統行事をそのまま続けるのも良いが、何となく、祖母の頃から進化させていきたいと思った雅が、中々にハードなのを承知で、やることに決めたのである。因みに、優も雅とは別行動だが、同じことをする予定になっていた。


 身支度も終わり、さてこれから始めようと、雅は静かに自室の扉を開く。プレゼントにはラティアやレーゼ達の分も勿論あった。


 故に、彼女達にもバレてはならないミッション。


 だが、




「そんな格好をして、こんな時間にお出かけかしら?」

「――っ!」




 部屋を出た瞬間に横からそう声を掛けられ、雅はビクンと飛び上がる。


 そこにいたのは――


「レ、レレレ、レーゼさんっ? なんでここにっ? それにその格好はっ?」


 腕組みをしていたのは、レーゼ。


 しかもその格好は、雅のものと酷似した……そう、サンタクロースの格好そのものだった。ミニスカでは無いが。


「あなたの様子がおかしかったから、ユウに聞いてみたの。そしたら白状したわ。それで見張っていたのよ。全く……ほら、貸しなさい」

「えっ?」

「プレゼント、配るんでしょう? 雪も降っているし、一人じゃ大変じゃない。手伝わせなさいよ」


 そう言いながら、レーゼは窓の外を親指で示す。


 雅が慌てて外を見れば、そこには――


「セリスティアさんに志愛ちゃん、皆も……っ?」


 仲間達が、そこにいた。揃いも揃って赤い服に身を包んで、だ。


「シアが、コスプレ? とかいう関係で衣装を持っていて、キララも似たような服を持っていたから貸してもらったの。サタンクロ……サンタクロースっていうのは、随分大変なお仕事のようね」

「……ええ、結構な大仕事ですよ。レーゼさん、ありがとうございます!」


 ――それじゃあ、まずはラティアちゃんの部屋に。そう言って、二人はそちらへと向かうのだった。


 抜き足差し足忍び足、息と足音を潜めながら。

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