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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第45章 新潟市南区~中央区
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第401話『金人』

「はぁ、はぁ、真衣華! しっかりなさい!」

「うぅ……」

『二人とも、我々が到着するまで、何とか持ちこたえてくれ!』


 希羅々の荒い息遣いに、真衣華の苦しそうな嗚咽。そしてULフォンから鳴り響く、優一の切羽詰まった声。


 今、希羅々は真衣華を抱え、信濃川の方へと走っていた。


 突然真衣華が苦しみだし、優一に助けを求めた希羅々。その優一から、そちらへと逃げるように指示されたのである。


 真衣華がこうなったのは、恐らくレイパーの仕業。それも、先程優一達が捜査していた事件の犯人のせいだと思われる。


 伊織が見つけた、監視カメラの映像。それを詳しく調べてみたところ、被害女性の近くに、妙な生き物のような影が映っていた。詳細はもう少し調べてみないと分からないが、その影がレイパーだった可能性は充分にある。


 希羅々が見る限り、レイパーらしき影はどこにも無いが、近くで気配を潜めているかもしれない。そういう訳で、急いでその場から離れたのだ。


「ご、ごめ、ん……」

「ええい! 何を謝っているのですか! 気にするんじゃありませんわ!」


 そう言いながらも、喋る余裕が出てきたことに、希羅々は僅かに希望を見出す。


 敵が何をしたのかは分からないが、距離を取れば大丈夫らしい。ならば、走るまでだ。


 そして、少しもしない内に、信濃川の方――やすらぎ通りを越え、川岸までやって来る二人。


 静かに揺れる水面に、遠くに掛かる越後線の線路。冬の川沿いは手がかじかみそうになる程に寒いが、風は穏やかだ。


「よし、優一さん、こっちは何とか着きましたわ!」

『うむ! 通話はこのままにしてくれ! 今、皆でそっちに向かっている! 真衣華君の様子はどうだっ?』

「真衣華、気分はどう?」

「……う、うん。少し頭も冷えてきた。――ぃっ」

「真衣華っ?」

「ま、た……!」

「ちぃっ!」


 真衣華を降ろし、慌てて周りを見渡す希羅々。右手の薬指に嵌った指輪が光り、その手に握られるは金色のレイピア、『シュヴァリカ・フルーレ』だ。


 希羅々の眼は、荒れ狂う殺し屋が標的を探す()()の光を帯びている。


「ぃやだ……もぅ……」

(ま、また真衣華が苦しみだして……折角少し良くなりましたのに! ――はっ!)


 段々と真衣華の苦しみが強くなっているところを見ると、こうなった原因を作ったものが近づいているということ。


 この見晴らしの良い場所なら、隠れられそうな場所は限られる――そう思った希羅々は、見る。




 堤防の上の道路……そこの木の陰に、何かがいるのを。




 それに気が付いた希羅々は、何よりも早く、その影に向かってレイピアのポイントを突き出し――刹那、上空に巨大なシュヴァリカ・フルーレが出現する。


 希羅々のスキル『グラシューク・エクラ』だ。


 空気を激しく震わせ、空から地面へと降ってくる巨大レイピア。


 木やコンクリートの地面が砕ける大きな音が響き、くすんだ煙が巻き起こる……が、直後、希羅々は舌打ちをする。


 その煙の中には、誰もいない。


 そして、直後。


「っ!」


 背後に殺気を感じた希羅々が、咄嗟にその場を離れると同時に、今まで彼女がいたその場所を、長い得物が鋭く通り抜ける。


(ふん! やっと姿を見せました……わね?)


 ……のだが、


「……なんですの? あの姿……?」


 攻撃が放たれた方を見た希羅々は、困惑する。


 そこにいたのは、恐ろしくも奇妙な、全身鈍い金色の体をした人型の化け物。


 レイパーなのは間違いないだろう。だが、凡そ、その分類が判別出来ない珍妙な容姿だった。


 頭部には、蛇にもトカゲにも見える生き物の頭の形をした被り物を着け、全身には奇妙な模様の刺青を施している。足は細く、どこか昆虫の足のようにも見えた。


 手に持っているのは、先端に蝙蝠の頭のような彫刻と、小さな青い宝石が付いた、黒い杖。先程希羅々を攻撃したのは、これによるものと思われた。


(肉弾戦を得意とするような体格ではありません。杖を持っているということは、やはり魔法使い系のレイパーですの? 何をしてくるか、全然読めませんわ。それに――)


 希羅々は眉を顰めつつ、チラリと真衣華の方を見る。


(真衣華はあんなに苦しんでいますのに、(わたくし)は何ともない。……何故ですの?)


 真衣華が苦しんでいるのは、このレイパーの魔法か何かだろうというのは想像がつく。現にレイパーは、真衣華を見てニヤリと気味の悪い笑みを浮かべているくらいだ。


 だがそれなら、それと同じ魔法等を、希羅々にも掛けないというのはおかしな話。希羅々も苦しませてしまえば、抵抗されることもないはずなのに、である。


(そもそも、真衣華は何をされているのでしょう? 頭痛に苛まれているようには見えますが、それだけではないような……)


 その理由が分からないことでの気味悪さに、希羅々は奥歯を噛み締めた。


「ふ、ふん! どのみち倒してしまえば関係のないこと!」


 そう叫び、希羅々は一気に地面を蹴り、レイパーへと突っ込んでいく。


 能力等は不明だが、俊敏そうな見た目ではない。油断している隙に、一気に叩く……そう思っての攻撃だ。


 希羅々の放った、レイピアによる鋭い突き。冷たい空気を、背筋も凍るような鋭い音を立てて貫き迫る一撃は、正確にレイパーの顔面らしき部分へと迫っていく。


 だが――


「――っ?」


 空しく空を切る、レイピア。


 敵の姿が、一瞬にして消えてしまったのだ。予想だにしていなかったことに、何が起こったのかと、希羅々の思考が止まりかける。


 刹那、


「っ?」


 希羅々が自分の背後に気配を感じ、慌てて振り向くと、そこには消えたはずのレイパーがいた。


 既に放たれていた杖による打撃を、レイピアで受け流せたのは僥倖と言って良い。


 慌てて反撃の突きを放つも――


「消えたっ?」


 レイパーは、再び消えてしまう。


 しかし、今度は希羅々も、はっきりと見た。敵がどうやって、自分の攻撃を回避したのかを。


(こいつ……自分の影に潜れますのっ?)


 まるで水に沈むかのように、このレイパーは影の中に消えていたのである。


(わたくし)の初撃を躱したのも、この能力っ? 厄介ですわね……!)


 レイピアによる突き攻撃が主体の希羅々としては、自由に影に潜るこのレイパーの動きは、厄介なことこの上ない。点で敵の体を捉える都合上、どうしても狙ったところに攻撃を当てづらいのだから。


「くっ……どこに隠れて……っ?」


 影に消えたレイパーを探し、素早くその場を跳び退きながら、辺りに視線を這わせる希羅々。


 だが、


「っ!」


 希羅々の後ろには、既にレイパー。奴は、希羅々から伸びる影から現れていたのだ。


(影に隠れるだけでなく、影から影へと移動も出来ますのっ?)


 再び放たれていた杖による打撃を、振り返った希羅々はシュヴァリカ・フルーレの側面で何とかガードする。


 それでも、レイパーの攻撃は終わらない。希羅々が反撃に出るより早く、杖による乱打で攻め立てていた。


 その攻撃を何とかアーツで防ぎながら、希羅々は舌打ちをする。


 このレイパーは見た目や雰囲気とは裏腹に、中々近接戦闘が得意なようだ。防戦一方の今の状況では、いずれ確実にやられてしまう。


 どこかで攻勢に転じられれば――そう思っていた、その時。




「あぁぁぁぁっ!」




 悲鳴にも近い声を上げながら、レイパーの横から誰かが跳びかかってくる。


 エアリーボブの、なよっとした弱そうな体の女の子、真衣華だ。


 その手には、紅の片手斧、『フォートラクス・ヴァーミリア』が握られている。


 先程まで苦しんでいた彼女だが、レイパーが希羅々と交戦し始めたからか、少しだけ動けるようになったのだ。最も、頭痛は酷く、視界は霞み、腕は震えているという有様で、とてもまともに戦える状態ではないが。


 それでも、希羅々のピンチに、真衣華は気力だけで身体を動かし、レイパーに襲いかかったのである。


 希羅々との攻防に夢中だったレイパーは、真衣華の攻撃に気が付くのが遅れ――真衣華のスキルも何もない、ただの普通の一撃を体に受けて、よろめかされてしまう。


「良くやりましたわ!」


 怯ませればこちらのもの。


 レイパーが何かをするよりも早く、希羅々は大きく踏み込むと、その薄気味の悪い胴体に突きを叩き込む。


 鋭い痛みに、怯むレイパー。


 直後、希羅々の()()()()()()()()が光を放ち、右手に握られていたシュヴァリカ・フルーレが左手へと瞬間移動。


 間髪入れずに、さらに強烈な威力の二撃目が、怯んだレイパーの鳩尾に直撃。鈍い音と共に、レイパーは大きく吹っ飛ばされた。


「真衣華! 具合はっ?」

「ご、ごめん……ちょっとキツいかも……! だけど……」


 アーツを支えにしなければ、立つことも辛い真衣華。


 その目は、希羅々の攻撃を受けた部分を手で抑えながら立ち上がる、レイパーへと向けられている。


「気を付けて下さいまし! あいつ、影に潜ったり、自分の影から人の影へと移動できますわよ!」

「ぅ……」


 頭痛を堪えるような表情で呻く真衣華に、希羅々は彼女を守るように前に出る。


 そんな二人を見たレイパーは、ニヤリと笑みを浮かべて、杖を構える。


 またも杖の乱打が来る……そう覚悟した希羅々。


 だが、レイパーが杖を振りかざすと、先端から不気味な光が発せられる――

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