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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第45章 新潟市南区~中央区
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第400話『心傷』

「全く……優一さん達から色々教えてもらえたように思えて、結局何も分からないままではありませんの」

「はいはい希羅々、どぅどぅ。ちょっとでも教えてもらえただけ良かったって思わないと」


 八時十二分。


 事件現場から追い出された希羅々と真衣華は、学校へと向かっていた。


 憮然とした表情の希羅々は、何度も現場の方を振り返っている。隙あらば戻ろうなんて考えているんだろうなと、真衣華は彼女を宥めつつ苦笑いを浮かべていた。


「それにしても、どんなレイパーなんだろうね。死体には外傷がなかったらしいけど」

「さぁ? そこら辺は、優一さんと伊織さんからの結果報告を待つしかありませんわ。教えてくれるか分かりませんが」

「教えてはくれるでしょ。こっちだって身を守らないといけないんだし、正体とか能力とか分かったら公表はしてくれると思うよ。……あれ、なんだろう?」

「真衣華、どうかしましたの?」


 突然立ち止まり、明後日の方を見つめだした真衣華に、希羅々は頭に『?』を浮かべて振り返り――直後、眉を顰める。


 心なしか、真衣華の目が虚ろになっているように見えたのだ。


 しかし、


「ん? ううん、何でもない。気のせいだったかも」


 首を横に振って、再び前を向いた真衣華の顔は、もういつも通りのもの。先程様子がおかしそうに見えたのは、光の加減だったのだろうかと、希羅々も少ししこりが残る心持ながらも、そう納得した。


「そう言えば、あの被害者って、アーツで戦った形跡が無かったって話じゃん? なんでだろうね? ……もしかして、アーツが壊れるのが嫌だった、とか?」

「はぁ? いえ、自分の身が危ないんですのよ? そんな時に、武器の心配なんてしないでしょう?」

「いや、私は嫌だよ、アーツが壊れるの……」

「いや、真衣華あなた……」


 何と返せば良いか分からず、喉から出てこない言葉に困ったように、希羅々は口を開いたまま固まる。


「ねぇ希羅々。覚えてる? 影喰写(ようばみうつし)が壊れた時のこと。あの場に、希羅々もいたよね?」

「…………は?」

「あの時私達を襲ったレイパーってさ、人型の狼みたいな奴だったよね。力も強くて、狡賢くて、私達小学生だったから、全然敵わなくてさ……幼稚園とか学校で教わった身の守り方とか忘れて、本当に為す術もなくて……」

「…………」

「私、スキルまであったのに、どうにも出来なくて、あいつに影喰写を奪われて……それで、それで……あいつ、私の影喰写を――」

「……真衣華。もう、その話は止めましょう」


 もう我慢は出来ないと、希羅々は真衣華の言葉を途中で遮る。


 真衣華の言葉に、間違いはない。その時のことは、希羅々だってよく覚えている。自分だって当事者なのだから。


 だが当時のことを、真衣華が自分から話すことは殆ど無かった。話したとしても、「昔、レイパーに襲われた時に、大事なアーツを壊されてしまった」くらいの、簡単な説明で済ませていた。


 あの時のことは、真衣華のトラウマなのだ。自分からこんなに詳細に話をすること自体、相当精神的に苦痛なはずだ。


(影喰写のことに自ら触れるなんて、一体どうしたんですの? しかも、あの日の話なんて……今日、(わたくし)があんな話をしてしまったからかしら?)


 深く突っ込むべきか、スルーすべきか、希羅々は悩む。


 だが、


「影喰写、酷い音がして……バキバキって、バチバチって……凄く痛がっているみたいで……」

「ちょ、ちょっと真衣華っ!」


 真衣華は、何故か止まらない。


 そこで、希羅々は気が付く。真衣華の顔から、血の気が引いていることに。


 目の焦点は合わず、唇も青くなっており、少しばかり鳥肌も立っていた。


 まるで末期の病人のような、そんな顔とさえ思えてしまう真衣華に、希羅々は事態が自分が思っているよりも遥かに悪いことを知る。


「ま、真衣華! しっかりなさい!」

「あぁ、やだ……思い出しちゃう……聞こえてきちゃう……あの嫌な音……っ」

「くっ……(わたくし)の話を聞いて!」


 頭を抱え出汁、希羅々の言葉も聞こえていない雰囲気だ。明らかに、様子がおかしい。


(まさか……レイパーの仕業っ?)


 何があったら、先程まで普通に話せていた少女が、こんなにも憔悴するのだろうか。どう考えても、レイパーに何かされたのではないかとしか思えない。


 恐らく、今朝のあの死体……あの被害者を襲ったレイパーだろう。


(あの死体には外傷が無かった。まさか、このまま真衣華を殺せるんですの? ……そ、そんな馬鹿なっ!)


 真衣華に何をしたのか分からないが、何かしたのは間違いないだろう。


 辺りを見回しても不審な生き物の影は見つからない。これでは、対処のしようもない。


「くっ……これでは……あぁ、もう!」


 とにかく、何かしなければ真衣華がマズい。


 パニックになる頭で、希羅々はULフォンを操作し――何度も操作を間違えながらも――急いで優一に電話を掛けるのであった。

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