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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第44章 ウェストナリア学院
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季節イベント『両親』

 これは、お面の騒動が終わった後の話。


 十一月十六日金曜日。午前十時三十六分。新潟県立大和撫子女子専門学校附属高校にて。


「ふぅ、やっと二限が終わりましたわね。真衣華、一緒に化粧室……あら? 何をしていますの?」


 ゆるふわ茶髪ロングの少女、桔梗院希羅々が伸びをしながら、隣の席の女子生徒に話しかける。エアリーボブの髪型の彼女は、希羅々の親友の橘真衣華だ。


 真衣華は授業が終わるや否や、ULフォンを操作し始めていた。普段はそこまでULフォンを弄らない真衣華にしては珍しい。


 声を掛けられた真衣華は、「あー、ごめんごめん」と謝ると、自分が見ていたウィンドウを可視化して、希羅々にも見えるようにする。


 そこに映っていたのは、靴や時計、ちょっと良いお菓子等の写真。要は、ギフトカタログだ。


「実はさ……そろそろ勤労感謝の日じゃん? お父さんとお母さんに、何かプレゼントでもした方がいいかなーって」


 真衣華の言葉に、頭に『?』を浮かべる希羅々。


 父の日でも母の日でもなく、まして二人の誕生日でも無い、ただの国民の休日だ。プレゼントを贈るというのは、これいかにと思ったのである。


『勤労感謝』ではあるが、それはその日が休みになることそのものがプレゼントのようなものだろう。


 希羅々の、そんな疑問を浮かべた眼に、真衣華はクスリと笑うと、口を開く。


「ほら、私達って、結構親に心配かけているじゃん? 色んな国に行ったり、魔王とか葛城(くずしろ)さんみたいな強い奴らと戦ったり……二人とも、あまり表に出さないだけで、相当心労とかあるんだろうなって」


 ついこの間、何気無くそんなことを思った真衣華。


 丁度、勤労感謝という丁度良さそうな名前の付く日があるため、そこら辺を労おうと思ったのである。


「ふぅん。そう言われると、(わたくし)もお父様辺りには、結構無茶なお願いとかもしていますわね……。お母様にも心配はかけている……かも。まぁ、感謝するに吝かではありませんか」

「あれ? 希羅々、花摘みは良いの?」


 一緒になってカタログを見始めた希羅々に、真衣華がそう尋ねると、希羅々は首を横に振る。


「元々大して行きたいわけでもありませんわ。ほら、ああいうの、女子高校生の習性みたいなものではありませんの」

「何それ。まぁいいや」

「それで、プレゼントと言っても、予算はいくらですの?」

「んー……五百円」

「すっくな」

「あ、二人合わせて五百円ねー」

「な、何が買えると言うんですか! 精々やっすいお菓子が関の山でしょう! ここのカタログに載っているもの、どれも五千円以上するではありませんの!」


 明かに見るものを間違えている。そもそも予算が五百円とはこれいかに。今時小学生でももっと持っているぞ……と、数多の突っ込み文句が浮かび上がる希羅々。あまりにも多すぎて、何から言えば良いか分から言えなかった程に。


「いやー、最近アーツのメンテ道具、ちょっと良いの買っちゃって……あはは」

「親より先に、自分にご褒美あげているではありませんか……。で? 本当にどうするんですの?」

「バイト代が入るの、月末なんだよねー。いやー、私もどうしよっかなーって頭抱えてさー、こんなん見てるのも、現実逃避ってやつ? ……そもそも、どんなの送ったら、お父さんとお母さん喜んでくれるんだろうね?」

「真衣華が分からなければ、(わたくし)が分かるわけないではありませんの……」


 何を呑気な……と、希羅々は頭痛を抑えるような仕草をする。


 最も、ふと希羅々も気が付く。……自分の両親が、何を貰ったら喜ぶか知らないことに。


(わたくし)の家、お金持ちなのですよね? なら欲しいものって大体持っているのでは?)

「……真衣華、(わたくし)のお父様とお母様が、何が欲しいかとか聞いたことありません? ほら、あなたのお父様、何か話していたりとか……」

「いや、聞いたことないけど?」


 先程の自分の言葉を忘れたのか、と言いたげな真衣華の視線に、少しイラっとしながらも、希羅々は目を閉じる。


(そういえば、誕生日なんかは花とかケーキとかを送っていますわよね、(わたくし)。ちゃんとしたプレゼントって、何を送ればよろしいのかしら?)


 意外にも、身近な人の好みは分からないものなのだと実感させられてしまった。これを機に、両親のことを考えるのも良いかもしれないと思う希羅々。


 そうして、二人のプレゼント選びが始まる。三限が始まるまで後五分といったところだが、二人は特に気にもしない。


「取り敢えず、二人で一緒に、一人ずつ考えましょう。まずは真衣華のお母様から」


 最初の議題は、真衣華の母、橘春奈のプレゼントからだ。


「まぁ、お母さんは大丈夫。多分、調理器具とかが安パイ。問題は、調理器具って意外と高いんだよねー」

「いえ、それはどうですの? 春菜さん、喫茶店の個人経営者ではありませんか。大体の調理器具は持っているのでは?」


 これではプレゼントを買っても、既に持っていたなんてこともあろう。それでは喜ばれない。

だが、


「あー、私がうっかり壊しちゃったやつとかそこそこあってさー。似たようなもの買おうかなって」

「それではお礼のプレゼントではなく、ただの弁償ではありませんの……。ええい、保留保留」


 何となく纏まらない気がして、話を次に進める希羅々。こういうのはテンポが大事である。


「んー、それじゃ、照さんは?」


 母親繋がりということで、次に上がったのは桔梗院照。希羅々の母親である。


「お母様は……そうですね、『お父様が』何でも言うことを聞く券でも渡せば、大層喜ぶでしょう」

「あー、照さん、光輝さん大好きだもんね。ていうか、光輝さん限定にしなくても、希羅々と光輝さんが言うことを聞く券の方が喜ぶんじゃないの?」

「そんなものを渡したら、(わたくし)にどんな無茶ぶりが言い渡されるか分かりませんわ! お母様の遊び相手など、お父様一人に任せておけば良いのです」


 珍しく青い顔になる希羅々。大企業の社長の妻だからか、照は少し他の人とズレた感性がある。傘で毬を回す芸をさせられたり、お笑いコンビを組まされたりと、過去の記憶を掘り起しても、変なことをさせられた記憶がわんさか出てくるのだ。


 妙なものを渡せば、自分がおもちゃにされかねない。


「あー……そうだ。案外、照さんのプレゼントは、光輝さんとお揃いの何かにすれば喜ぶんじゃない?」

「一理ありますわね。お母様は、お父様大好き人間ですし。……当のお父様本人とは、あまり会えておりませんが」

「光輝さん、殆ど仕事でしょ? 夕食とかの時だけ帰ってくると言っても、よく照さんは耐えられるよね」

「二年に一度くらい、雷が落ちますわよ。……まぁ、よく二年も我慢が続くとは思いますが。まぁ、お父様へのプレゼントを考えましょ」


 話題は次。希羅々の父、光輝へのプレゼントである。


 しかし、希羅々は苦しそうに唸り出した。


「お父様は……本当に難しいですわね。何を渡してもそれなりに喜びそうではありますが」

「光輝さんの趣味って何だっけ? 働くこと……じゃないよね?」

「まぁ、ほぼ仕事漬けではありますが、流石に趣味なんてことは……。車やドローンかしら? いえ、あまりピンときませんわね。かといって、何かコレクションしているようなものもありませんし……。お母様とお揃いにするなら、日用品辺りでしょうか?」


 だが、それはそれで難しい。桔梗院家で使っている日用品は、どれも高品質で、物持ちが良いものばかり。マグカップ等の食器類なんかは、何年も前から愛用しているものが既にあるのだ。


「ちょっとじっくり考える必要がありそうですわね。先に、真衣華のお父様の方を考えましょう。……あの人、何が好きですの? アーツ開発の部長ですし、真衣華と同じく機械弄りが好きそうだという印象しかありませんが」


 橘蓮。真衣華の父親であり、今、世の中に出回っているアーツの多くの開発には、大なり小なり彼が関わっている。


 故に、偉大な人物だという認識は希羅々にもあるのだが……その人となり等は、実はよく知らない。会うことは多くとも、個別に会話する機会なんて殆ど無かった。


「お父さんは……まぁ、普通の人? 機械弄りは、私と同じく好きだけどね。あー……そう言えばお父さん、歯車が好きって言っていたかも」

「は、歯車?」

「そっそ。二つの歯車が綺麗に噛み合って回っているのを見ると、何か興奮するんだって。私も同じだから分かるー」

(わたくし)は分かりませんわ!」


 これのどこが『普通の人』なのか。希羅々基準で言えば、充分に変人の類である。


「百均で、適当な歯車でも買ってあげようかなー。あ、それがいいかも」

「ちょ、あなた……子供へのおもちゃじゃないんですから……」

「えー? ちゃんと包装して渡せば、絶対喜ぶって」


 そう返す真衣華に、希羅々は微妙な顔になる。


 仮にそれで喜ぶのだとしても、それはそれで何だか蓮のことが残念な男性に思えてきてしまう。


 もうちょっと別のものを考えたらどうだ、と希羅々が言いかけた、その時。


「……おもちゃ。そうですわ、パーティゲームでも贈ります? 家族で楽しめそうなやつ」

「ゲーム? 家族で楽しめそうって言うと……ボードゲームとか?」

「ええ。楽しい思い出、プライスレスではありませんか。これなら、全員喜ぶでしょう?」

「いや、でもそれだと、光輝さんが遊べないんじゃない? 忙しいんだし、ボードゲームとかしている暇、無いじゃん?」

「あら、それならご心配なく。時間を作る当てはありますわ。――おっと」


 そこまで話したところで、予鈴が鳴り響く。流石にもう話は終わりだ。


「何のボードゲームにするかは、昼休みにでも考えましょう。さ、次は古文の授業ですわ」

「あー、面倒なやつね。ヤだなー」

「はいはい。ま、頑張りましょ」


 げんなりとした顔になる真衣華を適当にあしらい、自分の席に戻る希羅々。


 しかし、授業が始まると、


(さて……こちらも考えませんと)


 先生の話をちゃんと聞いている風を装いながら、希羅々はこっそり、ネットで調べものを始める。


 十一月二十三日、勤労感謝の日。その日は、パーティを開く予定になっている。――その前日の十一月二十二日は、真衣華の誕生日だから。まだ本人には知らせていない。サプライズパーティである。


 雅達も来るし、真衣華の両親に、希羅々の両親も参加する予定だ。つまり必然的に、全員の予定が押さえられているという、理想的な日。


 その日に一緒に、両親たちへの感謝を伝えて一緒に遊べば、さぞ盛り上がるだろう。


(ボードゲームを何にするか……まだ真衣華への誕生日プレゼントも決まっていませんし、やることが多いですわね)


 やれやれといった風を醸し出す希羅々の顔は、少しばかり楽しそうなものだった。

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