第44章閑話
さて、雅達がウェストナリア学院に滞在している頃。
二月一日金曜日、午後一時十五分。ここは、オートザギア魔法学院、その校庭。
昼休みが終わり、午後の授業の真っ最中。
愛理は先日から正式に生徒として転入し、授業を受けていた。オートザギア魔法学院は六年制の学校。愛理はここの四年生という扱いである。愛理が高校一年生ということで――中学一年生を、ここの一年生と同等として扱ったとして――四年生にされた。なお、同室のスピネリアも四年生である。
そして、今は校庭で、魔法実習の授業だ。
四年生が全員集まり、教員の指導の元、護身用の魔法の練習を行っている。
炎や水、風属性の魔法を、たどたどしく扱う生徒達。たまに魔法が暴発して大惨事になりかけ、騒ぎや笑い声が響く。
だが……その学生達の中に、愛理の姿は無い。
彼女は少し離れたところのベンチに座らされていた。
要は、見学である。
(仕方のないこととは言え、困ったな)
愛理は渋い顔で、学生達が魔法を操る姿を見つめてそう思う。
魔法の実技授業なのだから、まだ魔法が使えない愛理が見学させられるのは当然と言えば当然だ。教員を責めるわけにはいかない。
しかし、愛理がこの学院に学びに来たのは、魔法を使えるようにするため。座学の授業は普通に受けさせてもらえるが、愛理の気持ち的には、こっちの実技の授業の方を受けたいのである。
加えて、雅から聞かされたレイパーの輪廻転生、そしてラージ級ランド種レイパーの話。
雅が言っていた通り、ラージ級ランド種レイパーの片割れは封印されているが、それだっていつまでもつか分からない。何としても、早めに魔法を習得したい。
「……元々は奴を倒すためという目的だったというのに、はぁ」
愛理の脳裏に浮かぶのは、以前自分とセリスティアを完膚なきまでに叩きのめした、騎士と侍の二体のレイパー。
魔法を覚えるのは、その二体への対抗手段だったのだが……ここに来て、もっと緊急で、もっと巨大で、もっと生かしておけないレイパーが出てくるとは思ってもみなかった。
魔法習得の先行きが不透明なのに、魔法が必要となるのが早まってきてしまい、どうしても焦燥感が募ってしまう。
(見学とは言っても、何をすれば良いのか……。これでは時間の無駄だな……)
実際に魔法が使っている様子を見ることも勉強になる……と言いたいところだが、現実はそう上手くない。
学生達はほぼ全員、『攻撃魔法』に関しては素人同然だった。その技量は、当然ながらミカエルやノルンには遠く及ばない。
元々、攻撃魔法というのは、使いこなせるようになるまで、厳しい修練が必要だ。故に、ミカエルやノルンのように、魔法で戦える者は非常に稀な存在である。魔法による戦いが頻発していた大昔ならともかく、今の時代、攻撃魔法は使えなくても充分に生きていける。一応、趣味で攻撃魔法を嗜む人間もいるが……あくまでも趣味の範疇となれば、実力はお察しだろう。
オートザギアが魔法大国と言えど、ここら辺は時代の流れなのだから仕方が無い。
一方、
(それにしても、流石はオートザギアの王女だ)
愛理の視線の先には、金髪ロングの女の子――スピネリア・カサブラス・オートザギア。オートザギアの第二王女である。
そんな彼女は、汗一つ流すことなく、軽やかに、優雅に魔法を操り、近づいてくる学生達をいとも簡単にあしらっていた。
氷の球を放ち、空中に電流を迸らせて学生を遠ざけ、遠距離の攻撃は地面の土を操作して土壁を作って防ぐ。
魔法の素人の愛理でも分かる。スピネリアは、他の生徒達よりも明らかに、魔法の扱いに長けていると。
以前、彼女は愛理に「魔法の扱いなら、そこらの魔法使いより優れている自信がある」と言っていたが、その言葉に嘘は無いようだ。もしかすると、ミカエルやノルンよりも上手いのでは、と思ってしまった。
(あれなら、アーツを持っていれば、並のレイパーなら互角以上に戦えるだろうな。……一国の王女なのだから、もしかするとアーツも持たされている可能性の方が高いか?)
アーツを介してさえいれば、魔法はレイパー相手にも通じるようになる。身の安全や、王族としての責務という点を考えれば、何かしら持たされているだろうと愛理が思っていると、
「シノダ! 随分と退屈そうな顔をしているじゃない!」
スピネリアが、少し意地悪そうな顔でトコトコと愛理のところまでやってくると、そう尋ねてくる。
「……向こうの方は、よろしいんですか?」
「いいのよ。あれじゃ弱い者いじめをしているみたいで気が引けるわ。ところで――」
そこまで言うと、スピネリアは手を広げ、そこから色とりどりのシャボン玉を発生させる。
これも多分魔法なのだろう。シャボン玉を創り出す魔法等、遊び以外の用途も何も無いだろうが。
「どう? 羨ましい?」
「…………そりゃあ、まあ」
嫌味か、と言いたくなる口をグッと堪え、何とか大人の対応を心掛ける愛理。相手は王女、無礼は打ち首だぞと、自分に言い聞かせる。
「ふふ、こんなことも出来るわよ。それ!」
スピネリアがフィンガースナップをすると、シャボン玉が色とりどりに発光を始め、破裂。そしてシャボン玉の破片を凍らせ、まるでダイヤモンドダストのような景色を創り上げた。
これには愛理の口からも、感嘆の声が漏れる。
「……綺麗」
「でしょう? これ、私の得意な魔法なのよ! ところで――さっきから私のこと、ずっと見ていたでしょ? どうだった?」
随分とグイグイくるスピネリア。
かまってちゃんか、とも思ったが、愛理は素直に口を開く。
「私の知り合いに魔法使いが二人おりますが、炎、あるいは風の魔法を使っているところしか見たことがありません。本人達から、適正がその属性だからと聞きました。……しかし、スピネリア王女様は彼女達とは違う。なんというか……異なる属性の魔法を、どれも高いレベルで扱えている、そんな気がします」
愛理の言葉に、スピネリアは小さく口笛を吹く。まるで魔法が使えない人間にしては、中々良く見抜けている、そう思ったのだ。
「わたくし、氷、雷、地の魔法が使えるの。周りはトライウィザードだのなんだの言われるけれど、三つの属性に適正があるのは、それこそオートザギアの王族の者くらいよ。……ところで、こんな素晴らしい魔法使いが、直々にあなたに指導してあげようと思っているのだけれど、この間の件、まだ教えてくれる気にはならないかしら?」
それが狙いか……と、愛理は引き攣った顔になる。先日、雅達とラージ級ランド種レイパーや、レイパーの輪廻転生の件を話している現場を、この王女様に見られてしまっていた。
「駄目ったら駄目です。まだ教えられません」
「あら、残念。……仕方ない、そろそろ戻ろうかしら。まぁ、わたくしの魔法をよく見ておきなさい! 見ることも鍛錬よ! おーっほっほ!」
「あっ、王女様! 足元――」
「あいだっ!」
地面が盛り上がって出来ていた段差に躓き、ズッコケるスピネリア王女に、愛理は「遅かったか……」と溜息を吐く。
「大丈夫ですか? さぁ、お手を――」
「だ、大丈夫よっ! 平気だから!」
頬を朱に染めたスピネリアは、愛理が差し出した手を払い、逃げるようにクラスメイトの元へと戻っていく。
(全く、何をしに来たのか……。……ん?)
もしや、見学させられている自分を、元気づけに来たのだろうか。
一瞬そんな考えが浮かんだが、心の中で、愛理は小さく首を横に振る。流石に考え過ぎだろうと、そう結論付けるのだった。
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