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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第44章 ウェストナリア学院
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第390話『過誤』

「もう! いい加減にしてよ!」

「ワワッ――!」


 ファムがヒステリックにそう叫ぶと同時に、勢いよく突き飛ばされる志愛。


 先程、ナリアパンサー種レイパーの一撃を受けた体が、大きな悲鳴を上げる。


「なんなのさ! いきなりやって来て人の傷抉るようなこと言って! 挙句レイパーと戦う邪魔までしてさ!」

「チ、違ウ! 私はそんなつもりジャ――」

「うるさいうるさいっ! シアなんてもう知らないっ! 先輩風吹かせて、ほんとウザい! もう帰ってよ!」

「ま、待ってよファム!」


 ノルンの制止の声も空しく、ファムは空に飛び立つと、あっという間に消えていく。最高時速二百キロを誇るシェル・リヴァーティスに追いつくには、人の足はあまりにも遅すぎた。


「ど、どうしましょうシャロンさんっ?」

「落ち着けアプリカッツァ! 儂と二人で追うぞ! パトリオーラが行きそうな場所に、案内しとくれ!」

「わ、分かりました! ……でも、シアさんは?」

「……今は、一人にしておこう。クォンにも、少し考える時間が必要じゃ」


 愕然とした顔で固まる志愛を横目に、シャロンは竜化し、ノルンを乗せて飛び立つのだった。




 ***




「――ト、いう訳なんだガ……」

『あぁ……それは志愛ちゃん、流石にマズいことしちゃいましたね……』


 講義棟の陰、人の少ないところで、志愛は雅に連絡をとっていた。


 レイパーが出現し、逃がしてしまったことを伝えるため……そして、ファムと喧嘩になってしまったことを相談するため。


 志愛の顔は焦燥しきっており、それだけ先程のファムとの喧嘩が精神的にキているのだろう。


 それが声だけでも分かったから、事の次第を説明された雅は、言葉を選ぶようにしつつ、そう言った。最も、それを聞いた志愛は、己の不覚を激しく後悔するように「アァ……」と呻き声を漏らす。


「私はたダ、ファムのことが心配だっただけだったんだけド……」

『ま、まぁ、志愛ちゃんに悪意は無かったのは分かります。……ただ、ちょっと焦り過ぎましたね。久しぶりに再会して、すぐする話では無かったと思いますよ』

「ウ……」


 その言葉に志愛は呻き、深く溜息を吐く。女性に手慣れた雅にこう言われると、自分のやらかしがどれだけのものだったのか、嫌でも分かってしまった。


『とにかく、まずはファムちゃんに謝るのが先です。今はカンカンかもしれませんけど、少し時間が経てば落ち着いてくるでしょうし、そうすれば、また話も出来るかも。志愛ちゃんに悪気が無いことは、多分ファムちゃんも分かってくれると思いますよ。そしたら、二人っきりで改めて話をしてみてはどうですか?』

「……出来るだろうカ? 私ニ……」

『なんやかんや、一緒にレイパーと戦ってきた仲じゃないですか。大丈夫! 志愛ちゃんだって相手を想ってのことだったんですから、拗れたりなんかしませんよ。ただ、次に話をする時は、少しファムちゃんの気持ちに寄り添ってあげてください』


 志愛は雅の言葉に頷くも、その顔は暗い。


 正直、上手くやれるか自信が無かった。


『そっちに着いたら、私の方からノルンちゃんに仲裁して欲しいってお願いしておきます。何とかタイミングを見て、志愛ちゃんとファムちゃんが二人で話が出来るように』

「すまなイ、助かル……。ところデ、二人はすぐにこっちには来られるカ? さっき話したレイパー、とても強くテ、正直手が欲しイ」


 ここの教員が慌ただしくレイパーの捜索を始める音が聞こえたものの、未だ見つからない模様。加えて、戦闘能力も高い。シャロンとノルンもいるが、それでも倒すのは厳しいだろう。


 敵を探すにも、倒すにも、人手は大いに越したことは無い。そう思ったが故の、志愛の言葉である。


『今、ミカエルさんが調査員の方達に事情を説明してくれて、了承を貰ったので、そっちに向かっています。ただ――ちょっと時間が掛かるというか……実は今、ガルティカ遺跡へと向かっている途中だったんですよ』

「ナ、なんだっテッ?」

『いえ、タイムスリップに使ったアーツを見せたら、向こうの調査員の方々が大興奮してしまって……どこでどんな風にエネルギーを溜めて、どこで使ったのかとか、現場で説明してもらいたいって話になってですね……』


 まさかこんな話になるとは雅もミカエルも思っていなかった。これは話が長引きそうだと、志愛とラティアには一報入れていたのだが、志愛もラティアもそれどころではなく、見ていなかったのである。


 なるべく早く向かいます、と雅は言ってくれたものの、これでは助っ人は期待できないと、志愛は頭を抱えるのだった。




 ***




 そして、ここは学園の東側。美術学科棟の屋上。


 かつて、雅と初めて会ったこの場所、そこに備え付けられているベンチは、ファムのお気に入りの昼寝スポットだ。


 そこに、ファムはいた。ベンチに仰向けで寝転がり、腕で目を覆い隠し、まるで寝ているような格好だが――無論、そんなわけもない。彼女はバッチリ、起きていた。


 志愛と喧嘩して飛び出してきて、自分がどうしたいのかも分からず、本能とシェル・リヴァーティスの赴くままにここにやって来たファム。


 来たところで、ここでやることなんて昼寝するか、遠くの景色を見るかくらいしかない。ささくれる心を抑えようと昼寝を試みるが、何時まで経っても意識は落ちず、却ってファムを苛立たせる。


 その時。


「あー! ここにいたー!」

「うぉっと?」


 突然ノルンの鋭い声が耳に飛び込んできて、ファムは派手に跳びあがる。


 見れば、空の方から一匹の竜、シャロンが飛んで来ていた。ノルンは、その背中に乗っている。


 飛び出した自分を探しに来てくれたということは、すぐに分かり、バツが悪そうにファムは唇を噛み締める。


 ノルンと、人間態となったシャロン、屋上に着陸すると、ファムの方へと駆け寄って来る。


「もぅ! 探したんだからね! ……大丈夫?」

「……ん、まぁ。……なんかごめん。レイパー探さないといけないのは分かっているんだけど……」

「なに、気にするな。どうやら先生方が総出で探しておるようじゃ。中々見つからんようじゃが……。ところで、さっきはクォンがすまんな。随分落ち込んでおったから、流石に反省しておるようじゃが……」


 儂の方からも叱っておく、とシャロンは講義棟の方を見つめながらそう続けるが、それに対し、ファムは首を横に振る。


「分かってるんだ。シアに悪気があるわけじゃないってことはさ。ただやっぱりちょっと、腹が立ったっていうか……」

「……ごめん。一番悪いの、私かも。ヨツバさんのこと、まだ引き摺っているみたいだって師匠に言っちゃって、そこからミヤビさん伝えでシアさんに話が行っちゃったから……」

「別にノルンのせいじゃない。それを言うなら、一番悪いのなんて、きっと……私。ヨツバのことを引き摺っているのなんて、本当のことだし」

「いや、そんな……ファムは何も悪くなんて――」

「悪いよ、私が一番……。こんなこと、未だ吹っ切れないこと自体、間違っているんだ」

「お主……」


 遠くの空を見つめて呟かれたファムの言葉に、シャロンは何か言おうとするも、何も言えずに口を閉じる。


(存外元気そうじゃと思っておったが……儂が間違っておったか……)


 己の見立ての甘さを悔やむように、シャロンはガリガリと頭を掻くのだった。

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