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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第44章 ウェストナリア学院
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第388話『軋轢』

「あぁ……師匠がすみません」


 ここは、ウェストナリア学園の構内。大学のような作りをしているウェストナリア学院、その講義棟の空き教室に、志愛達は来ていた。


 雅やミカエルと別れ、ファムに会いに来た一行。ここに来て間もなくやって来たのは、前髪が跳ねた、緑髪ロングの少女。ミカエルの弟子の、ノルン・アプリカッツァだ。


 案内されている途中、バスター署の一件を話した直後のノルンの第一声がこれである。


「一声かけて机には置いておいたんですけど、重要書類なんだし、私もちゃんと読んだか確認しておけば良かったです……」

「なに、アストラムも大人じゃ。本来なら、自分でちゃんとすべき話じゃろう。お主が責任を感じる必要も無いと思うの。……それよりパトリオーラは授業中という話じゃが、お主はいいのか?」

「ええ。その授業、私はもう単位を取っているので。……ファム、二回目の受講なんですよ」

「オ、落としたのカ。単位……」


 志愛の言葉に、ノルンは苦笑いを浮かべる。


「必修じゃ無かったのが幸いだったというか、必修じゃ無かったが故にファムも真面目に受けなかったというか……。先生も優しい人だし、テストも難しくない方なので、ファムを説得してもう一回受けさせたんです」

「……お主も苦労しとるのぉ」

「いえ、今はそんなに。前は授業出ることに、グズグズごねたりとかしていましたけど、最近は話せばすんなり言うことを聞いてくれるので。……だからこそ、変だなって思うんですけど……」

「ン? どういうことダ?」

「ええっと――」


 ノルンの言葉は、最後まで志愛に届かない。


 校内に鳴り響いたチャイムの音が、彼女の声をかき消してしまったから。


 志愛が、ノルンが何を言ったか聞き返そうになった、その時。




「待たせてごめん。皆、久しぶり。……特に、シアとシャロン」




 そう言って入ってきたのは、紫髪ウェーブの少女、ファム・パトリオーラ。


 授業が終わり、すぐに皆に会いに来てくれたのだ。


「オォ、ファム! 久しぶりだナ! サァ、こっちに座レ!」


 志愛が顔を綻ばせながら、隣の空いている椅子を引いて手招きすると、ファムは「どもども」と言ってそこに座る。


「授業お疲れ、ファム。どうだった?」

「普通につまんないって。……全く、ミヤビからあんな話を聞いて、授業なんて本当は受けている暇、無いんだけどさ」

「こら、文句言わないの。……レイパーが全滅した後のこと考えたら、勉強しておいた方が絶対いいじゃん。ラティアちゃんもそう思うよねー」

「えっと……んー?」


 そう窘めるノルンに、どこ吹く風という様子のファム。ラティアとしては、返答に困る。


 すると、


「んー、ところで、ラティアの隣にいるその猫、どったの? え? まさか飼う感じ?」

「うん。ミヤビお姉ちゃんが、キャピタリークで引き取ったの。ペグって言うんだって」

「ふーん。なんか毛の色、ノルンに似てるね。ペグー、初めまして、ファムだぞー」


 そう言いながら、ファムがゲージの中に指を入れるが――ペグはそっぽを向き、尻尾で指をペチンと叩く。


「お、おぉぅ……なんか不愛想だね。可愛くないなー、お前。このこのー」


 何としてでも懐かせてやろうと、ファムがちょっとムキになってゲージに手を突っ込み、ペグが触らせてなるものかと尻尾で叩くという謎の攻防が始まった。


 少しすると、怒ったペグがファムの指に噛み付き、ファムが涙目でゲージから手を抜いて、この戦いは終わりを迎える。


「あ、後で絶対リベンジしてやる……うぅ、いてて」

「なんじゃ、存外元気そうじゃな、お主」


 パット見た感じは、もういつものファムといった様子に、シャロンがホッとしたようにそう呟くと、ファムは頭に『?』を浮かべる。


「元気そう……って、いつもこんなもんじゃん?」

「……まぁ、それなら良い。変なことを言って悪かった」


 変に心配していたことを話すと、却って心の傷を抉りかねない気がして、シャロンはそこで身を引いた。


 だが、


「アー……ファム、あんまり無理しなくていいんだゾ」

「えー? いや、無理って何さ」

「四葉が死んだこト、まだ辛いんじゃないのカ?」


 志愛がそこまで言ったところで、場の雰囲気が凍り付く。


「……お、おいクォン。お主、ちょっとストレート過ぎやせんか?」

「いエ、シャロンさン。遠慮していたって仕方ないでしょウ?」


 恐る恐るシャロンが制止しようとするが、志愛は止まらない。


「ファム、正直に話して欲しイ。私達ハ、ファムの味方。吐き出してくれテ――」

「大丈夫だよ」


 ピシャリとそう言って志愛の言葉を遮るファム。


 それ以上何も言わないで欲しい……その気持ちが、ありありと溢れていた。


「大丈夫……大丈夫だって。心配なんていらない。大体、辛かったらなんだっていうわけ?」

「話せバ、少し楽になることもあるだろウ」

「ない。大丈夫だって」


 イライラを隠さなくなってきたファムに、ハラハラするノルン。止めに入るタイミングを見計らうシャロン。二人を止めようと口を開きかけるが、言葉が見つからず焦るラティア。


 そこら辺の雰囲気に気づかないのは、志愛だけか。


「ファムの力になりたいんダ。私、ファムよりお姉さんなんだかラ」

「……あのさぁ、その『年上アピール』ウザい。私とシアなんて、歳、大して違わないじゃん」

「いヤ、私はファムのことを想ってだナ――」

「これ、お主ら、喧嘩はよさんか! クォン、少し暴走気味じゃ! ちと落ち着け」

「ちょっとファム! シアさんに少し失礼だよ!」

「ちょ、ちょっと皆!」


 段々と声が大きくなり、揉め始める志愛達に、ラティアが青い顔で叫ぶ。


 喧嘩を止めたい、という気持ちもあるが、ラティアはもっと違うことを伝えようとしていたのだ。


 そして――




「ね、ねぇ。何だか外が変だよ? 騒がしくない……?」




 ラティアのその一言が、全員を黙らせた。

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