表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第43章 キャピタリーク
502/669

第43章閑話

 雅がメリアリカ楽器店でアングレーと会った後。


 時刻は午後八時二十八分。雅達の泊まっている宿にて。


「タバネ、いつここを出発――む?」

「あ、シャロンお姉さん。しー」


 宿の中を少し散策していたシャロンが、部屋の扉を開けながら尋ねるが、直後、ラティアが人差し指を口に当ててそう注意する。


「――それで、シャロンさんと一緒に戦ったんですけど、結局――」


 見れば、雅はULフォンで通話中。ペグが、その近くで丸まって、大きな欠伸をしていた。


 雅の顔を見れば、真面目な話らしそうで、シャロンは素直にラティアの言うことを聞く。


『――成程。あのネクロマンサーのレイパーが、魔法で逃げるのを封じたい、と』

「ええ。折角追い詰めても、あの魔法を使われるとお手上げで……」


 電話の相手はミカエル。


 会話の内容は、ネクロマンサー種レイパーのことだ。


 先日、あのレイパーを追い詰めた雅とシャロン。しかし倒す直前で、魔法で瞬間移動され、逃げられてしまった。


 敵の強力な攻撃への対処等であればともかく、あの魔法だけは雅には防ぎようがない。対処法を雅なりに考えてみたものの、良い方法が思いつかなかったため、ミカエルに相談することにしたのだ。


『これでも魔法使いよ。何かしらの対策は見つけてみせるわ。任せて』

「ありがとうございます。――ところで、ファムちゃんはあれからどうですか? キャピタリークに行く前の見送りの時とか、この間の作戦会議の時は、元気そうでしたけど……」

『……そうね、元気かもしれないわ。――()()()()

「……そう、ですか」

『私の目から見ると普通そうに見えるんだけど、ノルンに言わせれば、そうじゃないみたいで……正直、自分よりもノルンの目の方が信じられるわね。私、ファムちゃんと交流するようになってまだ数ヶ月くらいだから……』

「んー……私、ファムちゃんの様子を見に行こうと思います。丁度、そっちに行かないといけない用事もありますし」


 そう言いながら、雅は壁に立てかけてある剣銃両用アーツ『百花繚乱』を見る。


 ガルティカ遺跡で無くした、アーツを収納する指輪や、エスカに渡したブレザー。ナリアでそれらを回収しなければならない。


 特に百花繚乱を裸で持ち歩くのは相当に不便だと再認識させられた。指輪だけは、何としても返してもらう必要がある。


『何にせよ、こっちに来るのであれば、その時にゆっくりお話しましょう? 久しぶりに、ミヤビちゃんの顔もちゃんと見たいし。――カレンさん? だったわね。その人の話も、少し聞かせて欲しいわ』

「嬉しいこと言ってくれるじゃないですかー。ふふ、それじゃ、また明日」


 そう言って、雅は通話を切る。


 次の目的地は、久しぶりのナリアだ。




 ***




 時は少し遡り、雅達との作戦会議が終わった直後。


 夜の十一時二十五分。オートザギア魔法学院の学生寮にて。


(む、いかんいかん、後五分で消灯時間か。早く部屋に戻らねば)


 廊下を走ることなく、しかし走っているに近い速度の早歩きで自室へと向かうのは、長身の三つ編みの少女、篠田愛理。


 今、愛理はここの学生。規則には従わねばならず、破れば罰則が適応される。今でいえば、消灯時間以降は部屋の外に出てはならないことと、夜は廊下を走ってはならないことか。本格的な授業もまだなのに、罰則を受けるのは流石に問題児が過ぎるだろう。存外に作戦会議が長引き、気が付けばこんな時間になっていたので、愛理も内心大慌てである。同じように消灯時間間際で部屋に戻る学生も、チラホラといた。


 本来なら部屋で雅達と話せば、こんな苦労はなかった。だが雅から話があると言われた時、どうにも彼女がのっぴきならない様子だったため、敢えて人気(ひとけ)の無いところで話を聞くことにしたのだ。……内容が内容だっただけに、そうして正解だったと心から愛理は思った。


 ギリギリ後一分というところで、部屋へと到着する愛理。普通に扉を開けて、中に入ると――。


「ノックくらいはすべきでしょ? 最低限のマナーじゃない」

「おぉぉっ?」


 すぐ目の前に、相部屋の女子学生がいて、愛理は跳び上がる。


 愛理の反応に、女子学生は大笑いする。まるで悪戯を成功させた子供のように。


 紫色の眼に、金髪ロングの女子学生。彼女は愛理と相部屋の学生の、スピネリア・カサブラス・オートザギア。この国の第二王女だ。


「お、王女様っ? お、お戻りになられていたのですか! これは大変失礼を……!」


 普段なら、愛理だってノックくらいしてから部屋に入る。中には王女がいるので、それくらいの気遣いは当然だ。


 しかし先日の大きな揺れがあった後から、スピネリアはずっと不在にしていたため、まさか中にいるとは思ってもみなかった愛理。雅から聞いた衝撃の話で頭の中が一杯だったこともあり、今はついうっかり忘れていたのである。


「そんな畏まらなくていいわよ、もう。……ほら、早く中に。もう消灯時間よ」

「は、はい……」


 愛理の態度に、スピネリアは小さく頬を膨らませつつ、部屋の奥へと向かう。


 そして、L字型のソファに深く腰掛けると、愛理も隣に座るよう手で促した。


 どうやら何か話がある様子。何かしただろうかと、恐る恐るソファに浅く腰掛ける愛理。


「まずは、王女として礼を言わせて欲しいわ。地震が起きた時、助けてくださってありがとう」

「あぁ、いえ……大したことは……」

「私の侍従達も、あなたの行動には驚いていたわ。地震の時の対処が的確だったって。ただの学生のように見えたけど、まさかあのような訓練をしていたなんて、私も思ってもみなかった」

「訓練なんて、大袈裟なものではありません。本当に大したことじゃないんです。日本は地震大国で……私も何度か、大きめの揺れは経験しているんです。地震の時に、テーブル等の下に身を隠すくらいなら、日本人なら誰でも出来ますよ」

「あ、あんな揺れを何度も? ……とんでもない国なのね、ニホンというのは……」


 信じられないことを聞いた、というように、スピネリアは深く息を吐く。


 しかし、コホンと咳払いしてから、少し目の色を変え、再び口を開いた。


「ところで……先程は、何を話していたの?」

「……はい?」

「実は、一時間くらい前には、私はもう戻って来ていたの。だけどシノダの姿が無くて、お礼の気持ちも早く伝えたかったから、学生寮の中を少し探していたのだけれど……そしたら人気の無いところで、あなたは不思議なことをしていた。あれは、ニホンの技術だったかしら? リッタイエイゾウとかなんとか……まぁとにかく、大勢の人と、あれこれ話をしていたわよね?」

「っ?」


 思わず、体をビクリとさせてしまう愛理。


 その動揺を加速させるように、スピネリアは前のめりになって、真っ直ぐ愛理の目を見つめてくる。


「それで? 何を話していたの? 面白い話ではないようだったけど?」

「あー、いや……」


 スピネリアの問いに、言葉を詰まらせる愛理。


 まさか、あの近くにスピネリアがいたとは、まるで気付かなかった。幸い、話の内容までは聞こえていなかったようだが、この様子では、重大な話をしていることには勘付いてしまったのだろう。


 レイパーが輪廻転生することや、ラージ級ランド種レイパーによって引き起こされる破滅の未来の話は、考えなしに人に伝えるものではない。まして、今愛理が話している相手は王族だ。まだ推測段階、不確定な部分等もある話でもあり、下手をすれば大きな混乱になってしまう。


 かと言って嘘を吐くのも憚られ、愛理は渋い顔で口元をごにょごにょとさせていた。


 そんな愛理に、不満そうな顔で、スピネリアは口を開く。


「……断片的だけど、ちょっと会話は聞いていたわ。内容はちゃんと理解出来なかったけど、世界規模で、何か大変なことが起きたのは分かった。シノダ……重要そうな話を聞かされるあなたは、一体何者なのかしら?」


 世界的な問題そうにも拘わらず、一介の学生が、王族よりも先に情報を聞かされている。これは、スピネリアからしてみればあまりにも異常なことだ。


「教えなさい。それとも、王女相手に隠し事をする気?」

「そ、それは卑怯な詰め方でしょう……」

「侍従達が何か騒いでいたわ。あなたの故郷、ニホンにいた巨大なレイパーが、突然消えてしまったそうね? それと何か関係がありそうだったけど?」

「わ、分かった! 分かりましたから!」


 グイグイ詰め寄ってくるスピネリアに、ついに両手を上げて降参の意志を示す愛理。


 これはどうにも、逃げられそうになかった。


 しかし、愛理にも意地がある。


「不透明なことが多すぎるので、今は勘弁して頂きたい! 直接話を聞いた私にも、未だ信じられない話が色々ありまして……!」

「……シノダ。あなた、確か魔法を学びにここに来たのよね?」


 五臓六腑が冷えていく錯覚すら覚えるようなスピネリアの冷たい言葉に、愛理はゴクリと生唾を飲み込む。


 よもや、「教えなければ、この学院から追い出すぞ」などと言われやしまいかと、背筋が凍り付いた。


 しかし、


「教えてくれるなら、私が魔法の手ほどきをしてあげる。どう?」

「っ!」


 スピネリアの口から出てきたのは、まさかの言葉。


「これでも、魔法大国オートザギアの王族よ。魔法の扱いなら、そこらの魔法使いより優れている自信がある。王女直々の指導よ。悪くない話だと思うけど?」


 なんと魅力的な話だろうかと、愛理は思わず口を開きかける……が。


「……いえ。もう少し状況が分かりましたら、正直にお話させて頂きます。それでお許しを」

「……仕方ないわね」


 ここで簡単に頷く程、愛理は短絡的ではない。


 パニックになる頭の中で、何がベストな選択肢かを考え、流石にまだ第三者に話をする訳にはいかないと、自分を律することが出来た。


「さ、さぁ、もう夜も遅いですし、寝ましょう! おやすみなさい!」


 そのままそさくさとベッドに逃げるように向かう愛理の背中を、スピネリアはジーっと見つめているのだった。

評価や感想、いいねやブックマーク等、よろしくお願い致します!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ