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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第43章 キャピタリーク
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第385話『装置』

『それじゃあ、まずは状況の整理よ』


 やることが決まったところで、立体映像のレーゼがそう切り出す。


『今、この世界には、あの巨大なレイパーが二体いる。内一体はミヤビが封印中、と……。えっと……時系列的には、どうなっているのかしら?』

「……ごちゃごちゃしていそうに思えるかもしれませんが、中身は意外とシンプルですよ。元々は、キャピタリークにいた方のレイパーが封印されていたんです。その封印が三ヶ月前に何者かの手によって解かれてしまった。だけど少し前に、私が佐渡の隣にいたあいつを封印したんです」


 タイムスリップ中に雅がやったのは、キャピタリークにいた方のラージ級ランド種レイパーの封印が解かれてしまったため、再度封印し直したというだけの話。


 今までは佐渡の方のレイパーが活動出来ており、キャピタリークの方のレイパーが封印されていた。それが今は、佐渡の方のレイパーが封印され、キャピタリークの方のレイパーが活動しているという訳だ。


『つまり、封印されているレイパーが逆になったというわけね。……それで、こいつが亡霊レイパーを、別のレイパーに変えている。ミヤビ曰く、輪廻転生させているそうだけど……』


 レーゼがそう言ったところで、厳つい風貌の男性、相模原優の父、優一が深く息を吐いてから口を開いた。


『前々から不思議に思っていた。全国各地でレイパーは撃破されているにも拘わらず、奴らの数は減る気配が無い。生殖活動をしている様子も無いのに、何故次から次へと出てくるのかと疑問だったのだが……雅君の撮ってきたこの映像を見て、納得がいった。成程、倒されたレイパーを、別のレイパーに変化させていたのか……』

『一つの大きな謎が解けましたわね。束音さん、お手柄ですわよ。話の中身は、まるで喜ばしくもありませんが……。それにしても、レイパーを輪廻転生させる力を持ったレイパーですか……。もしかして、こいつがレイパーの親玉なのかしら?』


 そう言って顔を顰めたのは、桔梗院希羅々である。


 だがその言葉に、雅は「いえ、違います」と断言する。


「こいつは確かに巨大だし、世界の地形を変えてしまう程の力があるし、輪廻転生の能力だってある。……だけど、少なくともあの場で、一番恐ろしい力があったのは――こいつでした」


 雅が見せるのは、ガルティカ遺跡の映像。


 巨大な穴から顔を覗かせる、ラージ級ランド種レイパー……その下にいる、人型の黒い怪物を、雅は指差していた。


「映像じゃ上手く伝わらないかもしれないですけど、あいつは明らかに別格でした。直接手を合わせなくても分かる。魔王の奴とか、のっぺらぼうの人工レイパーとか、今まで戦ってきた奴ら全員の誰よりも、あいつが一番ヤバいです」

『……まぁ、確かに周りのレイパーは、こいつに(かしず)いているように思えますけど……それにしてもこのレイパー、どこかで見た事があるような……』

『えっ? 希羅々ちゃん、本当なの?』

『……いえ、多分気のせい、ですわね』

『な、何よ……煮え切らないわね』


 奥歯にものが挟まったような様子の希羅々に、優が眉を顰める。実に彼女らしくないと思ったのだ。


『てかよ、こいつが親玉じゃねぇなら、こいつは一体、何なんだ? 持っている能力からしても、ただのレイパーじゃねーだろ、絶対』


 レイパーが輪廻転生する際の動画を厳しい目で見つめてそう言ったのは、セリスティア・ファルト。


 元々、佐渡の隣にいたラージ級ランド種レイパーのことを、妙なレイパーだとは思っていた。人を襲う訳でもなく、ただジッとそこにいるだけなのが、どこか異質な感じがしたのだ。


 輪廻転生させる能力を持った特殊なレイパーだと言われれば、確かに納得がいく。それだけに、それ以外のこと……つまり、レイパーが元々行う『女性殺し』をしないことの奇妙さ、不気味さが際立ってくる。


 それ故の今の質問だが、すぐに答えられるものは誰もいない。


 誰もが同じ、あるいは似たような印象や考えを持っていた。


 しかし、しばらくして、優の母親、優香が徐に口を開く。


『役目としては、ただの装置……なのかもね』

「装置?」

『ええ、レイパーを輪廻転生させるだけの装置。一応、破壊活動も可能な性能を持たせているけど、主な活動はレイパーの輪廻転生だけに絞ったもの』

「む? しかし、奴は間違いなくレイパーなのじゃろう?」


 優香の言葉に首を傾げるシャロン。レイパーを『装置』と表現したことに、今一つ納得がいかない様子だった。


『毎日、どこかしらでレイパーは誰かに倒されているはずよ。一体や二体じゃなく、結構な数が。映像では簡単に輪廻転生させているけれど、数が多ければ大変でしょう? レイパーサイドからしてみれば、このレイパーには、それだけに専念させたいんじゃないかしら?』

『成程、下手に暴れて疲弊しちまったら、誰かに倒されるかもしれねーもんな』

『まぁ最も、雅ちゃんが見た未来の映像では、こいつは大暴れしているわけだから、私の考えも的外れなのかもしれないけど。……なんで暴れ出したのかは謎ね』

『ね、ねぇ……思ったんだけどさ、本当に大丈夫なのかな? 雅ちゃんが一体封印したって言っても、もう一体は普通に動いているわけだし……世界が破滅する未来は、回避出来たのかな?』

「多分、大丈夫……だと思いたい。あいつが暴れ出す切っ掛けがあるとすれば、両方のレイパーが活動しだしたからだと思うし……」

『う、うーん……?』


 恐々と尋ねる真衣華に、雅はやや自信なさそうに答える。真衣華も若干、納得しきれない様子だ。


 すると、


『……多分、ミヤビちゃんの想像は当たらずとも遠からず、だと思う。ここ、見て』


 ミカエルが、映された画面の一つを示す。宇宙から見た地球……丁度、ランド種レイパーが海中から飛び上がる時の光景だ。


 ミカエルが『見て』と言ったのは、その飛び上がったランド種の胴体――そこに薄らと見える線である。


『これ、繋ぎ目に見えない? 多分だけど、あいつらは合体するのよ』

『あー! そうね! 道理で何か違和感があると思ったら!』


 ミカエルの指摘に、優香が、納得がいったというように声を上げる。


「違和感、ですか?」

『そうそう! こいつ、新潟県の全長くらいあるじゃない? なんか大きすぎるって思っていたのよ。佐渡の隣にいたやつは、こんなに大きくないし』

『タ、確かニ……! 言われてみるとそうでス! 一体だけじゃ暴れることは出来ないけド、二体が合体するト、強大な力を持つようになるのカ……!』


 実は、同じ違和感を覚えていた志愛も、成程というようにそう叫ぶ。


 しかし、


『シアちゃん、惜しいわね。ちょっと私の考えとは違うわ』


 ミカエルが控えめに首を横に振ると、志愛は「エッ?」と目を丸くした。


『あいつは元々一体のレイパーだったんじゃないかしら? 今までも合体するレイパーは何体かいたけど、こんな継ぎ目が出ることは無かったから。誰かが二つに分裂させて、一つは私達の世界に、もう一つはミヤビちゃん達の世界に置いたのだと思う』

『ソ、そうカ! 元々一体だったのガ、二つに分けられてしまったかラ、動けなくなってしまったんダ!』

『そういうこと。ユウカさんはさっき、このレイパーのことをただの装置だって仰っていたけど、私は少し違う考えを持っているわ。だって、人に化けるレイパーはタイムスリップして、あのレイパーを復活させようとしたわけでしょう? 本当にただの装置としてしか見ていないのなら、わざわざ過去に戻って封印を解く必要は無いと思うの』

『んー……師匠、そうなると、なんで今頃になって封印を解いたんでしょうか?』


 師匠の言葉にノルンが首を傾げてそう尋ねると、ミカエルは「詳しくは調査してみないと分からないけど」と前置きをしてから、続ける。


『輪廻転生の能力は今までも使えていたけど、段々とその能力に異常をきたしてきたのか。一つに戻ることで、新たな能力が使えるようになるのか。あいつを暴れさせることが目的か。はたまた別の理由があるのか。……ここ最近、亡霊レイパーが頻出するようになったことが、何か関係があるのかもしれないわ』

『……何にせよ、調べてみねーと駄目ってことっすよね? 佐渡の隣に浮かんでいた奴の資料、署にいくつかあったっすかねー?』

『あるぞ。定期的に報告書が作成されている。ここ数年のものは、大した報告書では無いが……全部まとめて、ミカエルさんのところに送ろう』


 伊織の言葉に優一が頷くと、ミカエルは「ありがとうございます」と礼を言う。


 すると、


『ねぇ、思ったんだけどさ、レイパーを輪廻転生させるような存在って、こいつだけなのかな? 他にもいるんじゃ……』


 話を聞いていたファムが、突然そう切り出してきた。


『もしいるなら、こいつを倒したところで、あんま変わらないんじゃない? 別のレイパーが復活させて終わりになるんじゃ……』

『……鼬ごっこになる、というわけか。確かに、そうなるとまずいな』


 顔を顰めて、愛理がそう言う。


 ただのレイパーならまだしも、ラージ級のレイパーを倒すとなると、時間と費用、そして何より、人への被害を相当に考慮しなければならない。苦労して倒したラージ級ランド種レイパーが復活させられたとなれば、何もかもが水の泡となってしまう。


 だが、ミカエルは首を横に振る。


『絶対にいない、とは言い切れないけど、私は正直、こいつだけの可能性が極めて高いと思っているわ』

『なんでそう思うの?』

『考えてもみて。自分の同胞を輪廻転生させる力を持ったレイパーなんてものがいたら、ファムちゃんならどこにいる? ユウカさんが言ったように、あいつの役目が装置だとするなら、どこに置く?』

『どこって……そりゃあ、あまり人目の付かないところ――あっ、そっか』


 ファムの言葉に、「そういうことよ」とミカエルは頷く。


 そしてミカエルは、「こいつが他のレイパーの創られた、と仮定するけど」と前置きをすると、続ける。


『普通なら、隠しておきたいはずなのよ、こんな力を持ったレイパーは。見つかって欲しくないはずだから、サイズだってもっと小さくしたいはず。二つに分裂させられたのだから、三つ四つ……いえ、もっと細かく分裂させて隠したっていいはずよ。だけどそれをしなかった。いえ、しなかったのではなく、出来なかったんじゃないかしら? 輪廻転生の力を持つには、このサイズにするので限界だったのよ』

『限界……ですか?』

『ミヤビちゃんの話を聞いて、私、凄く疑問に思ったことがあるの。レイパーが輪廻転生するっていうこの現象、レイパー達からしてみれば、最重要なことじゃない? それを為すためにこのレイパーが必要なのだとしたら、もっと厳重に隠すはずでしょう? サイズだってラージ級じゃなくて、もっと小さな個体でいい。

 ――だけど、ミヤビちゃん達の世界で、こいつは海に浮かんで、誰にでも見えるようになっていた』


 これは、レイパーからしてみれば、相当なリスクだ。


 誰も手を出さなかっただけで、誰かがラージ級ランド種レイパーを倒していたかもしれないのだから。


『これまで、レイパーを召喚する、という行為が出来るやつはいたわ。あの魔王のレイパーがその筆頭よ。ああいった能力を持つレイパーなら、他にも何体かいるかもしれない。そいつが、輪廻転生の能力を持った新たなレイパーを創る可能性は考慮すべきだけど……』

『……出来ているなら、とっくにやっていますよね、きっと』

『あ、そっか。同じ能力を持ったレイパーを創れるなら、わざわざあいつの封印なんか解かなくてもいいからか』


 ミカエルとライナの言葉に、優が手をポンっと叩いてそう納得する。


「……むぅ、そうだとしても、実際問題、奴をどうやって倒す?」

「あぁ……封印されていない方は、どこにいるか分からないもんね。……倒すのは難しくても、また封印って出来ないのかな? 封印で時間稼ぎして、その間に鍛えるとか……」

『一つの手かもしれませんね。ミヤビさん、封印に使えそうな杭は、もう無いんですか?』

「いや、持っていた三本の杭は、全部使っちゃっいましたし……」

「抜かれた杭はどうかな?」


 ラティアの言葉に、雅は少しばかり唸るが、首を横に振る。


「封印の為には、杭にエネルギーを溜める必要があります。でも、ガルティカ遺跡の装置は壊してしまったから、その手はもう使えなくて……」

【何か別のもので代用出来ないかな? コートマル鉱石とか、サルモコカイアの廃液とか】

「あぁ、そっか。その手がありました。――優香さん、コートマル鉱石とサルモコカイアの廃液って、まだ残っていますか?」

『いや、どっちもほぼ使い切っちゃったわね……』


 優香が無念そうに目を閉じ、そう呟く。


『……具体的な対策を立てるには、もう少しあのレイパーについて調べてみないといけないわね。こっちも戦力を整える必要があるわ。一旦、今後の指針としては、レイパーの調査とパワーアップ、この二つにしましょう』


 停滞してきた空気にピリオドを打つように、レーゼがそう締めるのだった。

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