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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第43章 キャピタリーク
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第382話『相殺』

 雅の体から出てきた五線譜に、驚きの声を上げるシャロンにユリス、そしてラティア。


 自由自在に飛び回るその五線譜は、亡霊達を蹴散らし……雅の体に纏わりつくと同時に、彼女の体が七色に発光する。


「二人とも! 今の内に隠れていてください!」

「うん!」

「ミヤビさん! ドラゴンさんも頑張って!」


 ラティアに手を引かれ、逃げていくラティアとユリス。二人を追う者は、誰もいなかった。


 わらわらと集まってきていた亡霊レイパー達は、雅の輝きに背中を向けて逃げ出していく。


 だが、シャロンが奴らを逃がすはずが無い。


 顎門に高密度の雷のエネルギーを集中させ、ブレスにして広範囲に一気に放ち、夜闇を照らしながら亡霊レイパー達を消し飛ばしていく。


 その激しさたるや、離れて静観していたネクロマンサー種レイパーにまでスパークが届き、レイパーを怯ませる程。


 ブレスの衝撃で煙が舞い、それが誰の姿も覆い隠してしまった……その直後。


「――ッ?」


 煙の向こうから、音もなく、しかし高速で『何か』が飛んでくる。


 それは――音符。


 それが何かを認識しきる前に、ネクロマンサー種レイパーの体内に音符が吸い込まれた刹那……煙を振り切り、誰かが飛び出てきた。


 雅だ。


 その身に纏うは、桃色の燕尾服。


 まるで指揮者のような格好……音符の力を得た、あの姿。


 今までは何かのきっかけが無ければなれなかったこの姿に、雅はもう、自由に変身出来るようになったのである。


「はぁぁぁぁあっ!」


 その瞳に光を滾らせ、レイパーが何をするよりも先に、ブレードモードにした剣銃両用アーツ『百花繚乱』で、声高々に勢いよく一閃を放つ。


「ッ!」


 視認出来ぬほどの一撃がレイパーのボディに直撃。ドとソの協和音と共に轟音が鳴り響き、敵を大きく吹っ飛ばす。


 直線的に飛んでいったレイパーは背中から地面に落ちるが――まだ、攻撃は終わっていない。


 倒れたレイパーに、シャロンの尻尾が空から唸るように空気を引き裂く音を震わせながら迫る。


 強烈なテールスマッシュ……今の状態でまともにこれを喰らえば、魔導士系の見た目をした華奢なネクロマンサー種レイパーなど、ひとたまりもないだろう。


 だが……レイパーも、このままジッとやられるのを待つだけでは無かった。


 手に持っていた、T字型の杖。雅の音符の力を乗せた強力な一撃を受けても手放さなかったそれで、シャロンの尻尾を軽く受け止めた瞬間――


「っ? なにぃっ?」


 杖に圧し掛かる衝撃を受け流すように巧みに振るい、シャロンの尻尾をいなしてしまったのだ。


 そして、その直後。


「あ、あれは……っ! シャロンさん! 気を付けて!」


 T字になっている杖の両脇から、おどろおどろしい深緑色の刃が伸びてきたのを見た雅が、顔を険しくさせる。


 以前、愛理と共に戦った時に苦戦させられた、大鎌だ。


 剣を構え、ネクロマンサー種レイパーに突撃していく雅。シャロンもその巨体を生かし、上の方から圧し潰すように、敵に爪の一撃を放つ。


 しかしレイパーは、シャロンの爪をするりとした身のこなしで躱し、近寄ってきていた雅に鎌を振るう。


「きゃっ?」


 甲高い音と共に、吹っ飛ばされる雅。鎌の刃はアーツで防いだものの、衝撃までは逸らしきれなかった。


 さらに、


「な、なんじゃっ?」


 レイパーの足元に魔法陣が出現したと思ったら、敵の姿が一瞬にして消え去る。


「どこに消えたっ?」

「シャロンさんっ! 後ろです!」

「何っ? ――っ!」


 雅の声に、シャロンが振り返ろうとした刹那、背中に強烈な一撃を受け、吹っ飛ばされてしまうシャロン。


 消えたレイパーは、シャロンの背後に出現していた魔法陣から姿を現し、死角から鎌の攻撃を放ったのだ。


 シャロンが地面に激突したことによる振動で、雅の体勢も、必然、崩れる。


 そして――


【ミヤビっ! 来るよ!】

「っ?」


 揺れと、シャロンのことに気をとられた雅へと、ネクロマンサー種は鎌――否、杖の先端を向ける。


 杖全体が妖しく光を帯び、直後に雅に向けて放たれるは、シャロンの全長よりも巨大な、黒いエネルギー弾。


 闇夜の中を隠れるように、しかし確かな存在感を放ちながら、雅を消し炭にしようと迫る。


 避けられない――そう悟った雅。


 その時だ。


「っ?」


 まるで導かれるかのように、雅は掌をエネルギー弾に向け、音符を飛ばしていた。


 敵のエネルギー弾に吸い込まれる音符。しかし敵の攻撃の勢いは止まらない。


 そのまま、流れるような動作で百花繚乱の柄を曲げてライフルモードにし――自身に間一髪、直撃する直前の黒いエネルギー弾に向けて、桃色のエネルギー弾をぶつける。


 刹那。


 ドとレの()()()()が響くと共に、雅のエネルギー弾は、敵のエネルギー弾を撃ち破り、貫通し――勢いを落とさぬまま、ネクロマンサー種レイパーへと飛んでいく。


 弾け消える、黒いエネルギー弾。それに呆気にとられたレイパーの胸元へと、雅のエネルギー弾が抉るようにぶちこまれ、爆発と共に敵を大きく吹っ飛ばす。


 雅自身も最初、何が起こったのか分からなかった。何故ただのエネルギー弾が、敵の巨大なエネルギー弾を撃ち破れたのか。


 が、すぐに気が付く。


 音符の持つ、更なる力に。


 敵の体に蓄積させ、自分の攻撃の威力を上げられるということは……それは、敵の『攻撃』に対しても有効だということに。


 相手に音符を蓄積させるのと同じように、相手の放ったエネルギー弾等の攻撃に音符を注入すれば、同じようにこちらの攻撃をトリガーに、蓄積された音符が内部で炸裂するのだ。


 吹っ飛ばされ、地面に激突し、起き上がろうとするレイパーだが――上空から電気の網が被さってくる。


 空には、シャロン。腕の周りに漂うは、十二個もの小さな雷球。


 シャロンのアーツ『誘引迅雷』である。そこから電流が迸り、網を作っていた。


 網に絡めとられたレイパーは、ジタバタもがくことしか出来ない。


「タバネ! 今じゃ!」

【ミヤビ! 今だよ!】

「はい! いきますよ、シャロンさんっ!」


 ここが、敵を倒す最大の好機。


 漂っていた雷球が、ライフルモードの百花繚乱へと飛んでいき、銃身の周りで、まるでリボルバーのように高速回転し始める。


 雷球が放つ電流が、夜闇を照らすように光を放ちながら、その銃口へと吸い込まれていった。


 そして、ネクロマンサー種レイパーへ放たれるは、電流を纏った桃色のエネルギー弾。


 雅とシャロンの合体アーツによる強力な攻撃は、視認出来ぬ程の速度で向かっていき――動けない敵に命中。


 派手な爆音と放電音が響き、この場の誰もがレイパーの爆発四散を確信する。


 しかし――


【……ミヤビ、まずい!】


 最初に気が付いたのは、カレン。


 心の中から聞こえるその声に、雅は慌てて爆発の方を見つめ……すぐに、大きくその目を見開いた。


「シャロンさん! あいつ、生きています!」

「なんじゃとっ?」




 爆発の煙の中、よろよろと蠢く影。


 松葉杖のように鎌で身体を支え、肩で息をしながら……ネクロマンサー種レイパーが現れる。




 決して亡霊等ではない、はっきりとしたレイパーの姿のまま。


 ローブには、緑色の血が滲んでいる。ダメージが無い訳ではない。……が、奴は確かに、生き延びていた。


「な、なんで……!」

【……攻撃が当たる直前、バリアか何か張られたんだ! あいつ、魔法が使えるから!】

「くっ……!」


 カレンの想像は正しい。合体アーツの攻撃が回避出来ないと悟ったレイパーは、魔力を固めて小さな壁を創り出していた。最小限の防御ではあるが、攻撃の威力を弱め、倒されることを防ぐには充分だったのである。


「……ラコリタモラ、ラガリノ。メワルソケタボヘニンウ……!」


 レイパーはボソリとそう呟くと、鎌を空に掲げ、夥しい量の黒い煙を発生させる。


 同時に足元に展開する、魔法陣。


「ぐっ……逃がさぬ!」


 シャロンの尻尾が、レイパーの立っているはずの場所へと叩きつけられるが、


「……ちぃっ!」

「しまった……!」


 テールスマッシュの衝撃で、霧が全て消し飛ばされたものの、もうそこにレイパーの姿は無い。


 良いところまで追い詰めたものの、二人はネクロマンサー種レイパーに、まんまと逃げられてしまったのであった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] いい話で見事です!続きが楽しみです!
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