第381話『呼応』
(ど、どうすれば……っ!)
ユリスの手を引き、逃げるラティア。
ちらりと後ろを振り返れば、泣きそうなのを必死に堪えるユリスの顔。そのもっと背後……そちらにはラティア達を追ってくる、亡霊レイパーとネクロマンサー種レイパーの姿がある。
ラティア達を見つけ、追ってきていたのだ。
敵の足は早くない。少しずつ、距離は開いてきている。
だが――
「ひっ……!」
「そ、そんな……っ!」
ラティア達の進路を塞ぐように、前方の物陰からふらっと、別の亡霊レイパーが現れる。
ラティアとユリスが慌てて辺りを見回すが、他に道はない。
挟み撃ちにされ、ジリジリとにじり寄ってくる亡霊達。前後、合計十体。最早逃げ場は無かった。
亡霊レイパーの一体が、手に槍を出現させる。
形がゆらぐ槍……一見すると、殺傷能力等なさそうだが、先端の刃が月の光を受けてキラリと光るその輝きには、何人をも貫くと思わせる、確かな恐ろしさがあった。
そんな槍を、亡霊レイパーは大きく振りかぶる。ラティアとユリスを、真っ直ぐ射線に捉えて。
だが――
「ユリスちゃん! 私の後ろに!」
ラティアはまだ、諦めない。彼女の左手の薬指に嵌った指輪が、光を放つ。
出でたるは、巨大な盾。護身用のアーツである。
直後、
「――っ!」
「きゃぁっ!」
亡霊レイパーが投げた槍……それを盾が防いだ際の、身の竦むような金属音が鳴り響く。
それが合図となったかのように、今までゆらゆらやって来ていた亡霊レイパー達が、勢いよく二人へと向かって迫ってきた。
剛腕や爪、剣、棍棒……絶え間なく二人に襲ってくる攻撃を、ラティアは何とか盾で捌いていく。
その顔に、余裕は無い。悲鳴を上げて蹲るユリスを守るのに精一杯だ。
そして、ラティアには分かっていた。……この亡霊レイパー達が、手加減していることに。
抵抗するラティアと、震え上がるユリスの反応を面白がって、わざとラティアが防ぎきれる程度の攻撃しかしていないことを。
十体ものレイパーに囲まれているのだから、奴らが本気で殺しにくれば、防御しか出来ないラティアとユリス程度、あっという間に圧殺されてしまうだろう。
(も、う……うで、が……っ)
徐々に速くなっていく攻撃のペース。一枚の盾だけで防ぎきるのは、限界がある。
加えて一撃一撃が重く、ラティアの腕は痺れ、もう感覚が無い。
そして――
「――っ?」
鈍い金属音と共に、ラティアの手から盾が弾き飛ばされてしまう。
無防備になったラティアとユリスに、レイパー達が牙を剥く。
我先にと、止めを刺そうと武器を振り上げ、ユリスの悲鳴が闇に轟いた。
絶体絶命……ラティアの瞳が恐怖に揺れた、その時。
一筋の稲妻が、夜空に迸った直後、辺り一帯の空気を激しく震わせるような雷のブレスが、亡霊レイパー達へと直撃する。
「きゃぁぁぁぁっ!」
「これ、はっ……!」
荒々しく、激しいスパークに視界と聴覚が刺激される中……散り散りになるレイパー。そして、ラティアはふらつく思考に鞭を打ち、ブレスが飛んできた方を見上げて――顔を明るくさせた。
そこにいたのは、
「シャロンお姉さんっ!」
「ラティア! 無事かのっ?」
夜闇の中でも目立つ、山吹色の鱗を持つ竜……シャロン・ガルディアル。
さらに――その直後、ラティアの隣に、空から降ってきた桃色ボブカットの少女が着地する。
「遅くなりましたっ! ――ユリスちゃんまでっ?」
「ミ、ミヤビさん……っ!」
やって来たのは、束音雅。手に持った剣銃両用アーツ『百花繚乱』を構えながらも、この場にユリスまでいることに驚きの声を上げた。
亡霊レイパーを見つけた後、即座に雅にULフォンでSOSを送っていたラティア。雅とシャロンはGPSを辿り、ここに来たのだ。
「二人とも、よく耐えてくれました!」
「後は儂らに任せておけ」
シャロンが地上に舞い降り、ラティアとユリスを守るように体の下に抱える。
雅とシャロンは、周りに集う亡霊レイパー達、さらにその奥で静観しているネクロマンサー種レイパーに、鋭い視線を向けて口を開く。
「よってたかって、よくも二人のことを……!」
「儂らの可愛い妹分とその友達が、世話になったのぉ……。霞すら残さずきっちり消し飛ばしてやるから、覚悟せぇ……!」
静かな怒りを言葉に乗せて吐き出す雅とシャロン。
そして――
【ミヤビ! 分かっているよね! 『あの力』を引き出すには、私達の心が一つになっていないといけない! だけど――】
「ええ! 今の私達なら、出来ます! 心で通じ合っている、私達なら!」
【行くよミヤビ!】
カレンの心の叫びに、雅の「はいっ!」という返事が、鬱屈な夜闇を吹き飛ばすように木霊する。
百花繚乱の切っ先を地面に向けるようにして両腕を広げ、足を閉じる雅。
その瞬間、
彼女の体の中から、五線譜が飛び出してきた――。
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